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とうめいの活躍!


 翌日、ヴァージニアとマシューは牧場に行った。

 グリーンスライムのとうめいに会いに行くのと、マシューのブラッシングの仕事のためだ。

 ほとんどの日はヴァージニアがマシューを牧場に送り迎えするだけだが、今日はヴァージニア宛ての依頼がないので牧場にいることにした。

 ヴァージニアにもたまに仕事が割り振られるが、魔法が使えなくても出来る仕事なので牧場の人達が気を利かせてくれているのだろう。


「とうめーい!」


 マシューはとうめいと抱擁をしている。

 とうめいは人間の真似なのか腕のような突起を生やしてマシューに抱きついている。


(どんどん芸達者になってる……)


 とうめいは前に足を生やす練習をしていたが、プルプルボディのせいでバランスが取れなかったようで断念していた。


「ああマシュー君、ヴァージニアさんおはようございます」

「おはようございます!」

「グリーンさんおはようございます」


 いつもはグリーンがわざわざ挨拶しに来ないので、ヴァージニアは何故来たのか不思議だった。


「何か用があるの?」


 どうやらマシューも不思議だったようだ。


「用があると言えばありますよ。今日はお礼を言いに来ました」

「お礼?」


 グリーンにお礼を言われるような事をしていないので、二人は首を傾げた。

 あるとしたら、とうめいから何か良いデータが取れたとかだろうか。


「実は昨日小屋でボヤがありましてね。その時にとうめい君が先陣を切って消してくれたんです」

「わぁ!とうめい、すごいね!偉い!」


 マシューがとうめいをより強く抱きしめると、とうめいはグニョンと変形した。


(とうめいは苦しくないのかな?)


 とヴァージニアは思ったが、よく見るととうめいは照れているようなので痛みはないようだ。

 スライムには打撃が効きにくいらしいので問題ないのだろう。


「それで、なんで僕達にお礼を言うの?」

「とうめい君が今回活躍したのと人間に協力的なのはお二人のおかげだからですよ」

「私もですか?」


 ヴァージニアはどちらもマシューのおかげだろうと思ったので首を傾げるしかない。


「ええ。とうめい君はマシュー君の顔面の体液を摂取したため他の個体よりどの項目でも数値が高いのですが、水属性の値が特に高いのです。これはヴァージニアさんに影響されたのだと思います。おそらくこのおかげで消火までの時間が短くなったと思われます」


 以前、グリーンにはヴァージニアの魔力量が少ないのに転移魔法(テレポート)が出来る理由を話していた。

 ヴァージニアは大きな力を持っているヤドカリから力を勝手に与えられているらしいのだと。


「私はマシューみたいに体液を取られてないですよ?」


 マシューは顔から出る物を全て取られたが、ヴァージニアは取られていない。


「そうですか?いつだったかお見かけした時に、とうめい君を突いていませんでしたか?」


 とうめいが突いて欲しげに腹(?)を見せてきたのでヴァージニアはご希望通り突いてあげたのだが、突くたびにプルプルするので彼女は多めに突いていた。


「え、あれだけでですか?」

「手汗だ!手汗を吸収したんだ!」


 そんなに汗をかいていただろうかとヴァージニアは首を傾げた。


「指先で突いただけなのに。…………ん?」


 ヴァージニアは何か思い出したようで、眉間に皺を寄せた。


「どうしたの?」

「思い出したんだけど、前にマシューが私の顔の上にとうめいを乗せてなかった?」


 マシューは昔グリーンスライムがフェイスパック代わりに使われていたと聞き、寝ているヴァージニアの顔にとうめいを乗せたのだ。

 あの時ヴァージニアは死ぬかと思い、必死で自身の顔からとうめいを引き剥がした。

 ヴァージニアは今思い出しても、顔が青ざめてしまう。


「そんな事もあったねぇ」


 マシューはふふっと笑っているが、笑い事ではないのでヴァージニアはジロリとマシューを睨んでおいた。

 だが、マシューは気付かず笑っている。


「その時にヴァージニアさんの汗などの体液を摂取したのでしょうね。ふむふむ」


 グリーンも笑顔でメモをとっている。

 ヴァージニアは二人が楽しそうなので、何を言っても無駄だと思い苦笑いをしておいた。


「えーっと、それで、水属性値が高いのが私のおかげでもあるのは分かりましたし、そのおかげでボヤが消せたのも分かります。けれど、人間に協力的なのはマシューのおかげじゃないですか?」


 マシューととうめいは友達だ。

 なんならとうめいはマシューを親分か何かだと思っているかもしれない。


「順を追って説明しますね。スライムは種類にもよりますが他の魔物や魔獣より水属性値が高めなので、野生でも山火事等を消したという報告はいくつかあります。しかし消したのは彼らの食糧が減ってしまうからです」


 スライム達は食べ物にならない物なら自分達の住み家でも火を消さないようだ。


「とうめいは違うの?」

「とうめい君は術の解除前にこの柵から抜け出ていたんです。とうめい君ほどの能力があれば外に出た方が沢山食糧を食べられるのですが、それでもボヤ騒ぎに紛れて逃げ出さずに小屋の消火活動をしてくれたんです」


 とうめいはその気になれば柵からいつでも出られるのに、自らの意思で留まっているようだ。


「ええー!すごい!」

「とうめいは牧場から逃げ出さないで、消火活動に向かったんですね」


 とうめいは人間が困っていると判断して行動したようだ。


「ねぇねぇ、とうめいはどうやって消したの?」

「体を広げて火に覆い被さったんですよ」


 何か魔法でも使ったのかと思ったが違ったようだ。

 まさか自身の体を使って火を消しただなんてヴァージニアは思いもしなかった。

 マシューがとうめいを顔の前に持ってくると、とうめいは熱かったと身振り手振りしてみせた。


「とうめい、大変だったんだね」


 マシューはまたとうめいをグニッと変形させた。

 ヴァージニアがとうめいを凝視してみると、とうめいはいつも通りみずみずしく焦げた跡はないし細かい傷もない。


「それがなんでジニーのおかげでもあるの?」


 ヴァージニアはそれが聞きたかった。

 彼女は結論から言ってくれればいいのにと思っている。


「ヴァージニアさんって、結構普通にとうめい君と会話していますよね」

「え?ええ、そう言えばそうですかね」


 とうめいは返答するかのように体を動かすので言葉が分かっているのだろうと思い、ヴァージニアは普通に話しかけていた。


「敵意を剥き出しにしたり下に見たりしていないですし、乳幼児に話しかけるようにもしていないですよね。そのおかげでとうめい君はマシュー君以外の人間も好意的に見ているようなんです」


 とうめいを対等に扱ったのがよかったようだ。

 確かにスライムは魔物の中でも下に見られる。

 雑魚ともいわれてしまう強くない魔物だ。

 ただし小さいスライムは、である。


「ふふっ、変な喋り方する人いるよね。最後にでちゅとか言う人」


 マシューは最後に鼻でフンッと笑った。

 もしかしたらマシューも語尾にでちゅをつける人に話しかけられたのかもしれない。


(え、そんな人いるんだ……。気持ち悪っ……)


 ヴァージニアは想像したら吐き気がしたので、もう考えないことにした。


「たったそれだけで人間を好意的に見るんですか?」

「そんなものですよ。フフッ」

「とうめい、悪い人間もいるんだからあんまり信用しちゃダメだよ」


 例えばフェイスパックにしようと乱獲する奴等だ。


「……!」


 とうめいは腕を生やし、分かったと合図してきた。


「皆にも言うんだよ!」

「……!」


 とうめいは任せろと言っているらしいく、胸(?)を叩いている。


「ミディアム種でこんなに表現豊かだなんて不思議ですねぇ。もっと調べたくなりますねぇ」

「!!」


 とうめいはグリーンの目のギラつきに怯えてマシューの服の中に隠れた。

 おかげでマシューの腹部だけぽこんと出ている。


「解剖したりしませんから安心してください」


 マシューの腹が振動している。


「ふふふ、冗談ですよ。」

「冗談だって。よかったね!」


 マシューの腹の振動が止まり、とうめいがもぞもぞと出てきた。


(騙されちゃダメだよ……)


 ヴァージニアにはグリーンの目は笑顔の奥でギラリと輝いているように見えた。

 研究対象が予想外の動きをしていたら、どの研究者もグリーンのように目をギラつかせるだろう。

 常に探究心を持っていなければ研究者とは言えないので仕方ないことなのだ。




 グリーンはとうめいを嬉しそうに観察している!

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