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ジャガイモが好きな理由!


「えー、そこまで怒るの?」


 好物なのは分かるが、マシューはムキになって怒っているようにしか見えなかった。

 後に引けなくなったからだろうとヴァージニアは思っていた。


「そうだよ!僕はそこまで怒ってるんだからね!」


 今のマシューに擬態語をつけるとしたらプンプンだろうか。


「あっそう。じゃあご自由にどうぞ。そうだ、後片付けはちゃんとしてね。油が飛ぶからコンロと壁と、後は床も汚れるだろうから掃除してね」

「えっ」


 マシューはヴァージニアがあっさりと態度を変えてポテチを作る許可を出したので、目をパチパチとさせて驚いた。


「なぁに?作っていいって言ったんだよ?」

「僕は怒ってるんだからねっ!」


 ポテチを作れる許可が出たのに、マシューは怒り直している。

 怒ってるアピールとでも言えばいいのだろうか。


「何回も言わなくても分かったよ。……そんなにジャガイモ料理が食べたいんだね」


 ただの子どもの意地には見えなかった。

 引っ込みがつかなくなったようにも見えなかった。

 子どもだからと言ってもマシューは賢い子だ。

 闇雲に怒っているのではなく、何か理由があるのだろう。


「うん」


 マシューが俯いたので、ヴァージニアは彼の顔が見えるようにしゃがみこんだ。


「マシューはジャガイモが好きだよね」

「うん」

「私と会う前にも食べていたの?例えばお父さんとお母さんと一緒に……」

「うん」


 ジャガイモは痩せた土地でも育つ。

 恐らく千年前の荒廃していた時代にも重宝されていた食べ物なのだろう。


「どんなの食べてたの?」

「茹でただけのやつ……」


 いくらマシューの両親でも料理を作る余裕はなかったのだろう。

 それほど危機的状況だったと、どの歴史書にも書いてある。


「そっか。今の時代の料理と全然違うんだね」

「うん」

「コロッケを食べてびっくりしたんだね」


 ヴァージニアの頭にはマシューが初めてコロッケを食べたときの様子が浮かんでいた。


「うん……。ポテトサラダも美味しかったし、他のも美味しかった……」

「美味しかったか。そっか。もっと食べたかったんだね」

「うん。味を覚えて、作り方を覚えて、お父さんとお母さんに食べさせたいんだ」

「マシュー……」


 残酷な話だが、マシューの両親はもう死んでいるだろう。

 千年も前の人達なので、生きているはずがない。

 いくら膨大な魔力を持った人物でも無理なものは無理だ。


「いい子にしてたら、また会えるって言ってた……」


 マシューの目には涙がたまっていた。


「うん……」


 ヴァージニアはどうしてそんな確証のない約束をしたのだと文句を言いたかった。


「いつ会えるのかな?」

「……」


 この質問には誰も答えられない。


「僕が悪い子だから会いに来てくれないのかな?」

「そんな事ないよ」


 こう思うに決まっている。

 自分を責めるに決まっている。

 分かりきったことだ。

 だからこそ文句を言いたい。


「うぐっ、ジニーに迷惑かけてるから会いに来てくれないのかな?」

「子どもは、というか人間は皆誰かしらに迷惑をかけているものだよ」


 ジェーンのように数々の輝かしい伝説がある人物でもギルドの副長に迷惑をかけていた。


「会いたい……、お父さんとお母さんに会いたいよぉ……うぅっ……」


 マシューの目からボロボロと涙が零れた。

 ずっと我慢していたのだろう。

 ヴァージニアはどう励まそうか思案しながら立ち上がった。


「マシュー……。きっとまだ何か事情があって会いに来られないだけなんだよ。もしかしたらマシューに会いに来るために準備をしているかもしれないしさ。会えたときのために沢山のジャガイモ料理を覚えて待っていようよ」


 ヴァージニアは励ましになるか分からないがマシューの肩に手を置いた。


「うぐぅ、わがった。ぞうずる」


 マシューはヴァージニアに抱きついてきた。

 いつかのように顔面から出る物を拭いているらしい。


(嘘を吐いてしまった。かなりまずいよ。どうしよう)


 ヴァージニアが嘘を吐いたのは、一瞬だけマシューの魔力があまり良くない雰囲気を出していたからだ。

 青年との時とはまた違った雰囲気だった。

 暴走なのか、天秤が一方に傾いたのか、全く別のものになろうとしたのかは分からない。

 だがとても危険だろうというのは分かる。


(マシューの両親探しをする?けど、今まで数え切れないくらいの人が探してきて発見出来なかったのに、私ごときが探せるかなぁ……)


 素人から玄人まで、凡才から秀才や天才、様々な業種の人間達がマシューの両親を千年間探してきた。

 だが誰もマシューの両親を見つけていない。

 見つけたと言い張る人もいるが、本物だという証拠は何一つもない。

 見るからに怪しげな物は偽物だとされているが、真贋が分からぬものは山ほどある。


(一つずつあたっていく訳にはいかないけど、それしか方法がないかも……。手始めに博物館にでも行く?)


 史料と言えば博物館だが、大きな博物館は王都にある。

 ヴァージニアは局長達と遭遇したくないので行きたくない。


(学園都市にも博物館はあるか……。展示されていない収蔵品もきっとあるよね。多くの人目につく物より、そっちの方が重要だったりするかも?寺院だと何年かに一度しか見られないやつあるし……。ああ、あれは信仰上の理由かな?)


 ヴァージニアには研究員や学芸員に親しい知り合いはいない。

 なので展示品しか見られないだろう。


(うーん、牧場の研究所や学園都市の研究所に知っている人はいるけど、知っているだけだしなぁ……)


 配達の依頼者だった人の顔を覚えているだけだ。

 名前もスライム研究家のグリーンしか覚えていない。

 牧場には他にも研究者がいるが、ヴァージニアには顔と名前が一致させられない。


「……おっと」


 ヴァージニアが悩みに悩んでいたら、マシューが寄りかかってきたので彼女は一歩下がって踏ん張った。

 彼女がどうしたのかと思っていたら、彼からすーすーと寝息が聞こえてきた。


「えー?」


 マシューは器用に立ったまま寝たようだ。

 ヴァージニアは仕方ないのでマシューをベッドに運んで寝かせた。


転移魔法(テレポート)出来てよかった……)


 マシューは出会った時よりも重くなっているので抱きかかえて運ぶのは大変だっただろう。

 出来なければ彼をズルズルと引きずり、ヴァージニアが腰痛になっていた。


(服も買い足さないとかなぁ……はぁ……)


 近いうちに靴も買い直さないといけなくなる。


(下着類だし冬服もか……。仕事増やさないと……)


 いつだったかマシューがコロッケ屋を繁盛させてヴァージニアを楽にさせると言っていたが、まだまだ先のようなので、それまで節約生活を継続していかないといけない。


(あれ?さっきは両親のために料理を覚えてって言ってたよね。もしかして、お店を開けば噂を聞きつけた両親が会いに来てくれると思ってたんじゃ……)


 だとしたら、すぐにでも開店したがるはずだ。

 ヴァージニアはもっとマシューの話を聞いてあげればと後悔した。




 マシューが目覚めると、寝室にまで何かの食べ物のいい匂いが漂っていた。

 彼は目を擦りながら、匂いがする方へ歩いて行った。


「ああマシュー。ちょうど起こしに行こうと思ってたんだ」

「美味しそうな匂いだね。何の匂い?」

「これだよ」


 ヴァージニアはテーブルにお皿を置いた。

 マシューが覗き込むとお皿には十字に切れ込みが入ったジャガイモが丸ごと乗っていた。

 どうやら熱いようで湯気が出ており、ジャガイモの中央にはバターが溶けている。


「牧場でバターを貰ったのを思い出したから作ってみたんだ」

「ヨダレが止まらない……」


 マシューはよだれをゴクリと飲み込んだ。

 バターが溶ける匂いとジャガイモの匂いが鼻をくすぐってくるからだ。


「じゃがバターって言うんだよ。さあ、冷めないうちに食べちゃおうね」

「うん!」


 マシューはフォークの側面でジャガイモを切り、四分の一の大きさにかぶりついた。


「ん~っ!!」


 マシューは口に入れて咀嚼するかしないかで歓喜の声を上げた。

 そしていつものようにマシューは口の周りに食べ物をくっつけている。

 バターのせいで口がテカテカと光っているのだ。


「美味しい?」

「シンプルなのに美味しいね!」


 マシューは残りのじゃがバターを嬉しそうに頬張った。

 勢いがいいので、これだけで満足してしまいそうだ。

 なのでヴァージニアはマシューの前にスッと色とりどりの野菜が入った皿を出した。


「マリネも食べてね」

「酸っぱいやつだ」


 マシューはパプリカをフォークで刺してテカテカに光っている口に入れた。

 先ほどと違い勢いはないし嬉しそうでもない。


「美味しいね」

「……無理に言ってない?」

「ジャガイモが美味しすぎるんだよ」


 マシューは何故かフッと息を吐き格好つけて言った。

 妙に様になっているのは彼の顔が良いせいだろうか。


「そっか……」


 ヴァージニアは食べるだけいいかと思う事にした。

 それにマシューは食べ終わったら口を拭くようにもなったので、少しお行儀が良くなったので成長しているのだろう。




 ヴァージニアは服を着替えた!

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