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マシューが怒った!


「ジェーンさん助かりました。ありがとうございます」


 ジェーンが来てくれなければ、マシューと青年は言い争いだけでは済まなかったかもしれない。

 ヴァージニアが転移魔法(テレポート)でさっさと逃げればよかったが、青年の性格を考えると尾ひれをつけて彼女を馬鹿にするに決まっているのでこれは避けたかった。


「こちらこそ、遅くなって悪かったわねぇ。受付が立て込んじゃって助けに行くのが遅くなっちゃたの」


 皆、雨が止むまで自宅待機していており、雨が上がってほぼ同時にギルドにやって来たのだろう。


「ジェーンさんが来なくても、僕がやっつけてやったのに!」


 マシューは先ほどまでジェーンの攻撃を見て喜んでいたのに、青年とのやり取りを思い出したのか頬を膨らませて怒っている。

 彼は本当にころころと表情が変わる。


「うふふ、そうねぇ。マシュー君なら本当にやってつけられたかも」

「フフンッ!そうだよ!あんな奴、僕がやっつけてやるんだ!」

「本当にやっつけられそうねぇ」


 多分なのだが、ジェーンはマシューの魔力の変化を察知したのだと思われる。

 マシューが危険な目に遭っていると思ったのか、マシューを危険だと判断したのかは不明だ。


「……あの、さっきの話に戻るのですが、ジェーンさんは陸軍元帥閣下とお知り合いなのですか?」


 ヴァージニアは話題をマシューから逸らすために、思いきって先ほど気になったことを質問してみた。


「元帥って偉い人だよね!」

「そうよ。私達に技を教えてって言ってきた子なの。筋がいいからどんどん吸収していったのよ。軍に入ったってのは聞いていたのだけど、まさかそんなに偉くなってるとは思わなかったわ」


 現陸軍元帥はジェーンの弟子らしい。

 元帥ともなればいい歳のはずだが、ジェーンは一体何歳なのだろう。


(年齢が近かったとか?だけど、そのわりには随分と小さい子みたいな扱いをしているような?)


 ジェーンは年齢を聞かれると怒るので、ヴァージニアは聞かずに謎のままにすることにした。

 命を守るためである。


「ねぇねぇ!僕にも技を教えて!さっきのやつとか!」


 マシューは目を爛爛と輝かせている。


「あら~?私は厳しいわよ~?」

「望むところだよ!」


 マシューはやる気まんまんである。

 なんなら転移魔法(テレポート)の練習時より楽しそうに見える。


(体を動かす方が好きなのかな?)


 スライムのとうめいとの遊びも暴れ回っていたので、そうなのだろう。


「いい?アッパーカットは拳をグーってやって、相手の顎を目がけて下から思いっきり殴るのよ」

(結構普通のこと言ってる……)

「こう?」


 マシューは小さい手を握り締めて拳を作った。


「最初は肘は曲げといて、こうやるのよ!」


 ジェーンがやってみせるとマシューは彼女の動きを真似した。


「えいっ」


 可愛らしいかけ声だが、十分威力がありそうだ。


「もっと力強くよ」

「ふんっ!」


 大人でもこれを食らったら、ただでは済まなそうだ。

 だが、ジェーンは不満なようだ。


「あーダメダメ、もっと全身を使って!そんなんじゃ一撃で仕留められないでしょう」


 ジェーンの技は一撃必殺の技のようだ。

 それもそのはず、ヴァージニアには攻撃が見えないほどの速さだったので、速さの分の威力も加わわるのでかなりの威力になるだろう。


「ふぅ。見るのとやってみるのじゃ全然違うんだね」


 ヴァージニア的にはマシューのアッパーカットは様になっているように見えたが、ジェーンとマシューにとってはまだまだらしい。


「そうよぉ。見てるだけでなく、実際にやってみないと身につかないのよ」

「僕、もっと練習するよ」


 家の中でやられたら物を壊されそうなので、屋外でやってもらおうとヴァージニアは心に決めた。


「毎日やるのよ。あ、そうだ。マシュー君はどの属性の魔法も使えるのよね?」


 マシューの虹色の目は全属性の魔法を扱えるのを示しているそうだ。

 ただキラキラと綺麗な目なのではない。


「そうらしいけど、僕はよく分からないんだ」

「それが何か技に関係があるのですか?」


 何か探られているのではとヴァージニアは身構えてしまう。

 ジェーンが何かするとは思えないが、万が一のためだ。


「色んな属性魔法を拳に纏わせるのも出来るのよ」


 ジェーンは彼女自身の拳に電撃を纏ってみせた。

 バチバチと言っており、見るからに危険そうだ。


「わぁ!強い静電気だ!」


 それはもはや静電気ではない。


「ふふっ、これで肩をマッサージすると効くのよ~ってそんな話じゃなかったわ」


 かなり強そうな電撃だが、大丈夫なのだろうか。

 効くどころではなく、天に旅立ってしまいそうだ。


(きっとジェーンさんだから大丈夫なんだ……)


 ジェーンの伝説はさっきの異国の王女救出だけではないようなので、常人と一緒にしてはいけない。


「ねぇ、これって痛くないの?すごい音がしてるよ?」

「そう言えば平気ねぇ?なんでかしら?」


 ジェーンは不思議そうに首を傾げる。

 その間も彼女の拳はずっとバチバチと言っている。


「それは魔力で覆った上から電撃を纏っているからです」


 ギルドの副長が少々呆れた顔をしながらやってきた。

 どうやらジェーンに顎を砕かれた青年の搬送を手配していたらしい。


「なんだか難しそうですね」

「あら?そうなの?知らなかったわ」

「はぁ、知らずにやっているだなんて、なんと恐ろしいことか……」


 やはり普通は無意識では出来ないようだ。


「練習してないの?」

「そうねぇ、自然に出来ていたわねぇ?」


 自然に出来ていた技をどうやって他人に教えていたのだろうか。

 ゴールドバーグ元帥も元帥になるだけあって天賦の才があるのだろうか。

 謎は深まるばかりだ。


「僕もやってみようっと…………むむむ」


 マシューもきっとすぐに出来ると思ったが、どうやら苦戦している。

 彼の眉間には似合わない皺が寄っている。

 終いには唇を尖らせてきた。


「はぁはぁ……。出来ないや。ねぇ、属性って何があるの?」

「……炎や雷だと危ないから水にしておけば?」


 水なら普段から接しているからイメージしやすいのではないだろうか。


「分かった。水……」


 マシューは小さく息を吐いて、目を閉じて集中しだした。


「……」


 ヴァージニア達はマシューの小さな拳を見ているが、一向に変化がない。


「はっ!」


 マシューは目を丸くして大きな声を上げた。

 何か起きたのだろうか。


「どうしたの?」

「手の平に水が!」


 マシューは手を開いて手の平を見せてきた。

 確かに彼の手の平には水滴がついている。


「いや、汗でしょ……」




 家に帰るとマシューは買ったばかりのジャガイモのレシピブックを見ていた。

 てっきり拳に水を纏わせる練習をするのだとばかり思っていたのでヴァージニアは驚いている。


(床が水浸しにならなくていいんだけどね)


 別に水浸しになってもマシューが魔法で掃除するからいいのだが、汚さないのが一番だ。

 ヴァージニアはマシューが静かにしているのもいいなと思っていた。

 しかし、すぐに静寂は終了した。


「どこにもポテチの作り方が載っていない……」


 マシューはとても深刻そうな顔をしている。

 なんなら悔しそうだ。


「ポテチはジャガイモをスライスして揚げるんだよ」


 調べればすぐに分かることなので、ヴァージニアは素直に教えてあげた。

 ずっとポテチと呟かれるのが嫌だからでもある。


「ふーん、なんだか簡単そうだね」

「簡単でも作らないよ。揚げ物は大変なんだから」


 油がはねる、熱い、周囲が油で汚れるので大変なのだ。

 後、ポテチはスライスしたジャガイモを一枚一枚水分を取るのが面倒臭い。


「僕一人で作るからさ、いいでしょ?」

「ポテチだけ作るのに油を大量に使えないよ」


 おやつだけには使えない。


「他の物も作ればいいよ。コロッケとか!」

「コロッケを作るのも嫌だよ。どれだけ調理工程があると思ってるの」


 コロッケだけ作るならいいが、他にもスープや付け合わせを作らないといけないのも面倒臭い。


「ジニーのケチ!」

「マシューが食いしん坊なの」


 ヴァージニアだって好きな物を食べたいが、現在の金銭状況では食べられていない。

 二人が稼いだお金はほとんど家賃と光熱費と食費に消えていくので余裕がないのだ。

 マシューが週3で牧場で仕事をするようになったので少し食費が浮くはずだったが、マシューが仕事をするとマシューが空腹になるので稼いだ分がそのまま消えていく。


「成長期だから仕方ないでしょ!」

「えー、食べ過ぎでしょう。マシューは私よりも沢山食べてるんだよ」


 マシューは毎食おかわりをしている。

 ヴァージニアはマシューの小さい体のどこに食べ物が入って行っているのか心配したことがあった。


「ジニーが食べる量が少ないんだよ!もういいよ!僕が勝手に作るから!ジニーにはあげないからね!」


 マシューは顔を真っ赤にして怒っている。

 そんなにも芋料理を食べたかったのだろうかとヴァージニアは首を傾げた。




 マシューは手汗をかいた!

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