お手伝い!
話が終わり、二人はサンドイッチの皿を持って帰って行った。
ジェイコブが少年の洋服を調達してくれる事になった。
出来れば食べ物も恵んで欲しいが、そこまで甘えてはいけないのだろう。
(あれ…?私と暮らすって決定なの?)
少年はヴァージニアに懐いている。
それとも人見知りなだけだろうか。
懐いているとしても、遺跡から一緒に出てきてからというだけな気がする。
(まあいいや、お風呂入ろう)
髪や肌は汚いままだ。
顔も洗わずに寝てしまった。
海風にさらされた髪もごわごわしている。
そうでなくても、一日以上風呂に入っていないので気持ちが悪い。
(さっさと入ってしまおう)
少年が目覚めても怖くないように、部屋の灯りを消さずに少し暗くするぐらいにした。
ヴァージニアが風呂から上がり髪を乾かしていると、少年が目を覚ました。
(少年もお風呂に入れないとか…)
少年はベッドから降り、目を擦りながらヴァージニアに近づいて来た。
少年の髪はボサボサになっている。
「おはよう」
「おはよう…ヴァージニアいいにおいする」
少年は眠たげな目でヴァージニアを見てきた。
「お風呂に入ったからね。少年もお風呂に入りな」
「おふろ……」
ヴァージニアは少年の三つ編みをほどき、髪を梳かしてあげた。
(うわぁ…面倒臭い!)
髪を梳かし終えて、脱衣所に少年を連れて行った。
「ここで服を脱いで、こっちがお風呂場ね。ここを押せばシャワーからお湯が出るから」
「?」
「…こっちがシャンプーね。これがボディソープ」
(コンディショナーはいいか…)
説明しても少年は首を傾げるだけだった。
「わかった?」
「わかんない…」
「だよねぇ…」
ヴァージニアはため息をついた。
仕方がないのでヴァージニアが少年を洗うしかないようだ。
少年の服を脱がせてお風呂に入れた。
ヴァージニアは服を着たままだ。
絶対に濡れるので後で着替えるしかない。
「お湯を頭からかけるから下向いてて」
「うん」
まずは一番大変そうな洗髪からだ。
少年の髪はヴァージニアより長いのでとても大変だった。
「ほら、自分でも洗って」
「うん」
「髪を擦るんじゃなくて地肌を洗わないと」
「?」
少年の小さな頭を洗ってやる。
「おわー!」
「ほら、自分でもやってみて」
「わかった!」
ヴァージニアはこうやって自分の負担を減らそうと考えた。
少年は素直に言うことを聞くので、教えれば覚えていくだろう。
「はい、お湯流すから目をつぶってて」
「うん!」
シャワーからお湯を出して、少年の頭についたシャンプーの泡を洗い流した。
(長いから時間かかるなぁ…)
「まだぁー?…んあーゲホッゲホッ!」
少年がむせっている。
確かに目をつぶれと言ったが、口を閉じていろとは言わなかった。
ヴァージニアは慌ててシャワーを止めた。
「大丈夫?」
咳をしている少年の顔をタオルで拭く。
「ゲホッゲホッ…くちのなかきもちわるい…」
(だろうねぇ)
ヴァージニアはシャワーからお湯を出し、自身の手の平にお湯を溜めた。
「ほら、これで口の中すすいで」
「あうぅ…」
何回かうがいをさせた。
「もう平気?まだ泡が残っているから目と口を閉じて下向いてて」
「あい…」
少年は大人しく下を向いた。
泡が全て落ちるまで少年は大人しくしていた。
「はぁ、やっと終わった…。体はまだだけど」
ヴァージニアは少年の髪をまとめてあげた。
長いので何をするのも大変だ。
下を向いたままだったので頭頂部にお団子を作った。
「これでいいか。体は自分で洗ってね」
「えー」
「えー、じゃない。これがボディーソープ、ここを押すとお湯が出る以上!」
「えー」
「はい、手を出して」
「うん」
少年の手の平にボディーソープを出した。
そこにお湯を少し出した。
「はい、泡立てる」
「る?」
「あーもう、背中は洗ってあげるから前は自分で洗ってね」
「わかった!」
「はぁ…疲れた…」
「つかれたね」
誰のせいだと思いつつ、少年の髪を魔法で乾かしているヴァージニアがいた。
服はヴァージニアのTシャツとハーフパンツを履かせた。
ヴァージニア自身も着替えた。
「少年も魔法覚えたら?日常魔法便利だよ」
「にちじょ…?」
「この魔法とか、洗濯の魔法とか、灯りの魔法とかね」
「ぼくがおぼえたらヴァージニアうれしい?」
「んまぁ…嬉しいかなぁ?」
家事をやってくれたらとても助かる。
「じゃあおぼえる!」
少年はヴァージニアに褒められるために魔法を覚える気になったらしい。
「学校行かないとね」
「がっこう?」
「友達出来るといいね」
「ともだち?」
「仲良しってことだよ」
「ぼくとヴァージニアはなかよし?」
「んー、どうかなぁ?」
仲良しというより、弟を世話しているようだ。
ヴァージニアに弟がいたらこんな感じかなと思った。
「ちがうの?」
少年はあからさまにしょんぼりしている。
わざわざ後ろを向いて訴えている。
ヴァージニアは髪を乾かす手を止めた。
「最初から親切にしてくる人を信用しちゃ駄目だよ。後は久しぶりに会った、あんまり親しくない人とかね」
「?」
少年は今まで見た事のない顔になった。
ヴァージニアが何を言ったのか分からなかったらしい。
「えーと、簡単に信用しちゃ駄目って話だよ」
「ヴァージニアはいいひとだよ!」
「それはどうも」
心が痛くなってきた。
他に少年の世話を任せられそうな人がいなさそうなので世話をしているだけだ。
少年に何かあった時にヴァージニア自身が傷つきたくないだけだ。
「はい、後ろ向いてね。まだ乾いてないから」
何故少年はこれほどまでにヴァージニアを信用しているのだろうか。
騙しているわけではないが、申し訳なくなってくる。
たまたまあの島にたどり着いて、たまたまあの遺跡に閉じ込められて…。
(本当に偶然なのかな…)
ヴァージニアは考えるのをやめた。
とんでもない事に巻き込まれているのではないかと恐怖を感じたからだ。
(偶然だよ。偶然が重なっただけ…。そう、奇跡的に偶然が重なって…)
「あちっ!」
「ああっごめん。火傷してない?」
少年の髪をかき分けて火傷をしていないか確認する。
「へいきだよ。ヴァージニアはへいき?」
「うん。平気だよ。ありがとうね」
「うん!」
少年の笑顔を見たら考えるのが馬鹿らしくなった。
「夕飯は…作る気おきないや…」
お腹は空いていない気がするが、昨日の朝から今まで一食しか食べていないので、食べた方がいいだろう。
「ぼくがつくろうか?」
「作れるの?」
「…つくれない」
「だよねぇ」
(少年よ何故言った!)
少し期待してしまったヴァージニアがいた。
「缶詰開けてそれを食べよう。食べないよりましでしょ」
「かんづめ?」
「保存食…かな?」
「ほぞ…?」
少年は目をパチパチさせている。
「えー、食べ物を加工して食べられる状態を保つの」
「かこう…?」
少年は首を傾げる。
「…見た方が早いかな」
ヴァージニアは棚から缶詰を出し、テーブルに缶詰を並べた。
少年はそれを見守った。
「…果物しかないや」
「くだもの!」
少年が嬉しそうにしているので、果物でいいかとヴァージニアは思った。
「どれがいい?白桃とみかんと黄桃と洋梨と…」
「?」
「ああ、白桃と黄桃は桃だよ」
「ももがいい!」
少年の目が輝いた。
どうやら桃が好きなようだ。
「んじゃあ期限が近い方を…白桃か。白桃を食べよう」
「やったぁ!」
(そんなに好きなのか)
少年に皿を持って来させた。
もう皿の位置を覚えたらしい。
「あ、その前に…」
乾かしたままの少年の髪の毛を結んだ。
これで髪の毛を食べてしまう危険がなくなった。
「これでいいかな?では、お待ちかねの白桃の缶詰を開けよう」
「よー!」
缶詰を開けるとシロップに沈んだ白桃が見えた。
甘い香りもふわりと漂う。
「おいしそう!はやく!はやく!」
「急かすでないぞ、少年」
(そんなに好きなんだ…)
ヴァージニアは白桃の形が崩れないように、慎重にフォークで刺して皿に移動させた。
「おおー!」
少年は色んな角度から白桃を見ている。
スプーンでシロップを掬って白桃にかけると、キラキラ光って綺麗だった。
「すごいね!」
「そうだねぇ」
少年は何にでも感動するのではないだろうか。
新鮮な気持ちになった。
ヴァージニアの分も盛り付け終わり、二人とも椅子に座った。
「よし、白桃の缶詰食べよう」
「よー!」
(私の語尾を伸ばすの好きなのかな?)
「いただきます」
「いただきます!」
二人は白桃の缶詰を食べ始めた。
缶詰には桃を半分に切った物が4切れ、桃二つ分入っていた。
皿には一切れずつ乗せた。
「んー!おいしいね!」
少年は桃にかぶりついた。
ヴァージニアは切ってあげればよかったかなと思ったが、ムシャムシャ食べる少年を見て、まぁいいかと思った。
「そうだね。おいしいね」
ヴァージニアは口をシロップまみれにして桃を食べた。
少年は鼻や頬にまでつけている。
「もうちょっとたべたい…」
少年は桃を一切れ食べ終えた。
しかし足りなかったのか気に入ったのか、ヴァージニアを上目遣いで見ながら言った。
「もう一切れ食べる?」
「ちょっとでいい…」
お腹いっぱいだけど、食べたいらしい。
「今食べた半分の量だったら食べられる?」
「うん!」
「じゃあ半分こにしよう」
「はんぶんこ!」
ヴァージニアは桃一切れををナイフで半分に切った。
少年はわくわくしながら見ている。
桃を少年の皿に乗せ、ヴァージニアの皿にも乗せた。
少年はヴァージニアの作業が終わるまで待っていた。
(ちゃんと待つんだね…)
「最後の一切れは明日の朝に食べようか」
「ほんとう?」
「本当だよ。私は残りをしまうから先に食べてていいよ」
「いいの?」
「いいですよ~」
「やった!」
少年は美味しそうに桃を食べ始めた。
(お皿に移して冷蔵庫に入れておこう)
氷の魔石が使用された箱だ。
氷室みたいな物なので冷温あるいは低温貯蔵庫と言った方がいいのかもしれない。
「ヴァージニア!しるはどうしたらいいの?」
「シロップ?…飲んでいいんじゃないの?」
「いいの?」
「うん」
少年は皿に残ったシロップを飲んだ。
とても満足そうだった。
「ぷはぁ!」
「一気飲みだねぇ」
ヴァージニアも椅子に座り桃を食べた。
少年の顔中にシロップがついている。
(顔中で食べたのかな?)
ヴァージニアが桃を切らずに出したせいだった。
「少年、私のお皿を見つめてどうしたの?」
「シロップどうするの?」
「捨てるけど…」
ヴァージニアは太るし甘いので飲みたくなかった。
「ぼくがのんであげる!」
「お腹壊すよ。お腹痛くなるよ」
「へいきだよ!」
少年が手を伸ばしてきた。
(仕方ない…)
ヴァージニアはシロップを飲み干した。
「ううっ甘い!」
甘い物は好きだが、シロップを一気に飲むのは辛かった。
「あー!」
少年は抗議の声を上げた。
「はい、食器洗うよ。少年の顔も洗うよ」
このままゆるりと続けていきます。