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再び教会へ!


 窓から朝日が差し込み、ヴァージニアは目を覚した。

 朝食を作らねばと思い、上体を起こそうとした時だった。


「んなっ!」


 ヴァージニアは髪が引っ張られて体が起こせなかった。


「ちょっとマシュー、引っ張らないでよ…………え?!」


 てっきりマシューがヴァージニアの髪を引っ張っているのかと思い、横目で見てみると、とんでもない光景が広がっていた。


「ちょ、な、なにこれっ」


 ヴァージニアとマシューの髪の毛が絡まっていたのだ。

 いや、よく見るときれいに2人の髪が編まれているようだ。


「寝ている間にマシューが念動力(サイコキネシス)を使ったんだ……」


 ヴァージニアの顔は一気に青くなった。

 髪の毛を触ってみるとかなり細かく編み込まれていて、解くのは大変困難そうだ。


「マシュー、マシュー起きて」


 ヴァージニアはマシューのお腹を軽く叩いた。

 ぺちぺちと音がした。


「んんー……」


 マシューは少しもぞもぞと動いたが眠ったままだ。


「マシュー、起きてってば」


 続いてヴァージニアはマシューの頬を指で突いた。

 ぷにぷにしている。


「んふふ……」

「マシュー起きろってば」


 ヴァージニアは思いきって、マシューの顔を掴んだ。

 マシューの整った顔は、頬が潰れ唇がとび出ている。


「んんん……。もうたべられにゃい……んふふ」

(なんてベタな夢見てるんだ。……あっ!)


 ヴァージニアはある作戦を思いついたので、マシューの顔から手を離し、そのまま彼の耳に手を当ててこう言った。


「マシュー、コロッケ全部食べちゃうよ!」

「ふぁああっ!ひどいよ。ジニー!……いてっ!」


 やっとマシューは目覚めたようだ。

 ヴァージニアの作戦は成功した。

 最初はぼんやりしていたマシューだが、現状を確認して彼はフッと笑った。


「……ジニーったら、そんなにぼくといっしょにいたいの?」

(何故そうなる!!)

「私がやったんじゃないから。マシューがやったんでしょう?」

「……んー、そんなゆめをみたような、みてないような?」


 マシューは互いの髪が編まれている方とは逆に首を傾げた。


「いててっ、思い出すのは後でいいから、もう一度念動力(サイコキネシス)でほどいて」

「……」


 マシューは子どもに似合わない険しい顔になった。

 多分、マシューはこのままだったらヴァージニアと一緒に教会に行けると考えているのだろう。


「マシュー、いざとなったら私は髪を切って行くからね?」

「!!……わかった。やるよ」


 マシューは念動力(サイコキネシス)を使った。


「おお?」

「ほどけろー!」


 ヴァージニアは少しだけ髪を引っ張られる感じがしたが、みるみるうちに編み込まれた髪の毛が解かれていったのが分かった。


「どう?ほどけた?」

「そうだね。大丈夫みたい」


 ヴァージニアは自分の髪の毛を触って確認してみたが、どこも絡まっていないようだ。


「……ジニー、ぼくのかみもかくにんして」

「はい、なでなで」


 自分で確認出来るだろうと思ったが、ヴァージニアはマシューの頼みを聞いてあげた。


「どう?だいじょうぶ?」

「平気平気。大丈夫だよ。問題ないよ」


 いつも通り、綺麗な黒髪だ。

 サラサラでツヤツヤだ。


「ジニー、みつあみいがいの、かみがたにしてもいいかな?」

「いいんじゃない?」


 マシューは一体どんな髪型にするんだろうか。


「どんなのがいいかなぁ?」

「……ああ、決めてないのね」

「ちょうさしないと!」


 ツインテールにしたら可愛いだろうが、主に女子がする髪型だと知ったらマシューが怒りそうだからヴァージニアは黙っていようと思った。




 朝食を終えマシューをギルドに預け、ヴァージニアはコーディと合流した。

 ジェーンはすでに現地に向かったらしい。


「ジニー、ハグしないと!」

「そうだねー」


 ヴァージニアはマシューとハグをしておいた。

 マシューにはハグするブームが来ているのだろうとヴァージニアは思った。


「ははは!仲良しだな!」


 コーディは二人の様子を見て白い歯を見せて笑っている。


「そうだよ、なかよしなんだよ!」

「マシュー、コロッケばっかり食べちゃ駄目だからね」

「わかった。きょうはちがうのたべるよ」


 ヴァージニアはコロッケをねだるなと言おうと思ったのだが、マシューは太ると言われたからか違うものを食べる気になったらしい。

 だが、何となく脂っこいものを食べそうだなとヴァージニアは思った。


「じゃ、行ってくるね。ブラッドのブラッシング頑張ってね」

「ジニーもがんばってね!」

(と、言われても話を聞かれるだけだよなぁ)




 ヴァージニアはコーディをつれて転移魔法(テレポート)した。

 すでにジェーンは到着していた。

 ちなみに厨房のおじさんは欠席だ。

 流石に2日連続で厨房を空けたくないそうだ。


「さ、教会に行くわよ」


 にっこりとジェーンが笑った。

 看板娘を名乗るだけあって、いい笑顔だ。


「もう建物が直っているんだな」

「坊やが直したみたいよ」


 ジェーンの言う坊やとやらは、局長の関係者だろう。


「凄いですね」


 昨日は薄暗くてよく見えなかったが、それでもかなり損傷が激しかったのが分かった。

 だが今はどこを見ても綺麗に修復されている。


「あ、坊やがいたわね」


 教会の前に局長の関係者がいた。


(あれ?あんな髪型だったかな?)


 少なくともアシンメトリーではなかった気がする。

 彼の左側の髪が少し短くなっているのだ。


「皆さんおはようございます。それでは現場検証をいたします。……何か私の顔についていますか?」

「いえ、綺麗すぎるので治癒魔法を使ったんだと思っただけです」


 局長の関係者の左頬はやたらと綺麗だった。

 肌荒れも何もない。

 ジェーンは右利きなので拳の風圧で髪が切れ、左頬も切れたのだろう。

 もし、直撃していたら骨が折れるだけでは済まなかっただろう。


「……ええ、そうですよ」


 彼は思い出したのか、渋い顔になった。

 風圧だけで肌に傷がつくなんて怖すぎる。


「あら?治癒魔法をかけると肌が綺麗になるの?私もして貰いたいわ~」


 肌荒れも怪我と見なされるようだが、しみや皺は分からない。


「あんまりやると効きが悪くなったり依存症になるらしいから、やり過ぎない方がいいらしい」


 コーディが説明してくれたので、ヴァージニアは言わずに済んだ。


「そうよねぇ。治癒魔法で肌が綺麗になるなら皆やるわよねぇ」


 ジェーンはとても残念そうに言った。


「では、教会内で話を聞きます」


 皆は教会に入っていった。

 中には教会の長もいた。


「怪我は良くなったのですか?」

「はい。優秀な術者さんがいたので、もうどこも痛くないですよ。なんでしたら以前より快調です」

「元気になられてよかったです」


 教会の長は心身共に消耗していたようなので、無事に回復したと聞けてヴァージニアは安心した。


「えー……話を進めたいのでよろしいですか?」

「ああ、早く帰りたいから、手短に頼む」

「オホン。では始めます。まず、黒いサイクロプスですが、きちんとこの町に口伝で残されておりました」

「あのお婆さんが何か知っていたんですか」


 上手く話を聞けたのだろうとヴァージニアは思い、教会の長の顔を見た。


「はい。マギーさんによると、黒き偉大なる王ではないかとの話です。黒く気高き王などとも呼ばれていたそうですよ」

「それでですね、禁術使いが持っていた資料の中にも同じような記述が見られたのです」

「……勇者と魔王についての資料が多かったんでしたっけ?」


 また勇者と魔王である。

 ヴァージニアはうんざりしてきた。


「そうです。よくご存じですね」

「俺もジェイコブから聞いたぞ」


 コーディが言うとジェーンも頷いた。


「禁術使いは合成生物を作っていたのですが、その理由が勇者と魔王の時代にいた生き物を再現したかったかららしいですよ」

「子どもかよっ」


 コーディが吐き捨てるように言うと、局長の関係者はため息を吐いた。


「ええ、子どもの頃からの念願だったそうですよ」

「だからといって、生命を弄ぶような事をするなんて、なんと恐ろしいことでしょうか」


 教会の長は顔をやや頬を紅潮させて怒っている。

 無理もない。

 あれは酷かった。

 違う生き物の体をつなぎ合わせるなんて、恐ろしいにも程がある。


「お怒りはごもっともですが、話を進めます。口伝には角についてもありました。掻い摘まみますと、この町から動かすな。だそうです」

「動かしちゃいましたね……」


 依頼を受けただけとは言え、王都に運んだのはヴァージニアだ。

 教会の長も責任を感じているのか、少々顔色が悪い。


「ちゃんと伝わっていなかったので仕方ありませんよ。どうやら角はこの地域を守るために教会に置かれていたようです。黒いサイクロプスは勇者と魔王の時代にいたんだそうです。共に闘ったとの言葉があったので、勇者か魔王かについて闘っていたのでしょう。ですが、この地域を守るためならば勇者側でしょうね」


 ヴァージニアは昨日のマシューとマリリンの話から考えた。

 そうすると勇者と魔王自体が闘っていないのならば、彼らと共に何かと闘ったのだろうと推測出来た。


「なんで、そんなに大事な話がちゃんと伝わっていなかったのですか?」

「実は元々歌なのだそうですが、マギーさんに教えた人物がとても音痴だったそうで……」


 ヴァージニアが教会の長に質問したら、彼は気まずそうに教えてくれた。


「それでちゃんと伝わらなかったのか……」


 一同は苦笑いをするしかなかった。


「こんなに大事な話なんだから、もう紙に書いておきましょう!」

「こちらでしておきます」


 ジェーンの勢いに気圧されたのか分からないが、局長の関係者が申し出てくれた。


「角とやらはここに戻すんだろう?」

「はい。どうやら、ここ近辺の魔獣が活性化していると報告が入っていますので、すぐに教会に置き直すべきでしょう」

「依頼ならヴァージニアが受けるわよ」

「あ、はい」


 有無を言わさないジェーンの笑顔にヴァージニアは肯定するしかなかった。


「それは助かります。では連絡しますので、少々お待ちください」

(え、今行くの?ステンドグラスの虹の話はしなくていいの?)


 局長の関係者は通信魔導具でどこかに連絡しだした。


(研究所かな?)

「ええ、はい。そうです。では、すぐに向かってもらいます」

(やっぱり今すぐ行かないといけないんだ……)


 と思いつつも、ヴァージニアはお金が貰えるなら予定外でも行く。


「ヴァージニアさん、今から王都まで行って頂けますか?正確に言うと王都の前で待っていてくれとのことです」

「中に入らなくていいんですね」

「そうです」

「列に並ばなくていいなら、パッと行ってパッと戻って来られるわね」


 ジェーンはいい笑顔をしてながら言った。

 ヴァージニアは教会の外に出て、転移魔法(テレポート)で王都まで飛んだ。




 マシューはトンカツが食べたいようだ!

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