質より量!
別の作品にも書きましたが、先日愛犬が旅立ちました。そのショックのため、書くスピードがかなり遅くなっています。すみません。
ヴァージニアとマシューはギルドを出てスーパーマーケットに買い物に行った。
マシューのコロッケと食材を買うためだ。
しかし買い物前なのに、ヴァージニアの手にはすでに荷物がある。
そう、マリリンから貰ったマシューの服だ。
上等そうな紙袋なのですでに嵩張っており、少々買い物の邪魔になる。
「あ、魔力回復薬も買わないとだな」
「つかったの?」
「教会で結界を張っていた人にあげたんだよ」
「じゃあ、そのひとから、かえしてもらえば?」
貸したのではなくあげたので、返してもらうのも変である。
「え、返してくださーい。って言うの?やだよ。私から言い出したらケチくさいと思われるよ」
「おやすくないのに?」
マシューに値段を気にされるほど、逼迫した生活はしていないはずだとヴァージニアは思った。
「安くないけど、いいの。こちらから要求したら変でしょ」
「そうなの?」
マシューは首を傾げて不思議そうな顔をしている。
素で不思議に思っているようで、美少年ぶりを遺憾なく発揮している。
無駄にキラキラしているのだ。
「そうだよ。要求しちゃだめなの。後でちゃんとお金も入るしね」
ヴァージニアはカゴに魔力回復薬を入れた。
「そっか。おとなってたいへんだね」
「そうだよー。大人って大変なの」
子どもも子どもで面倒臭いが、大人の方が見栄を張らないといけないので、より面倒臭い。
そう思いながら、ヴァージニアは葉物野菜をいくつかカゴの中に入れた。
サラダにしたり、炒め物に使えるだろう。
「……ぼく、ちょっと、いきたいところがあるから、いってきてもいい?」
「どうぞ」
「すぐもどるね!」
マシューはそう言うと、てくてくと何処かに歩いて行ってしまった。
(なんだろ?)
そう思ったものの、献立を考えるのが大変なので、ヴァージニアは商品とにらめっこを始めた。
ヴァージニアが魚売り場に移動した頃、いつの間にかマシューが隣にいた。
心なしかマシューは嬉しそうな顔をしている。
「あれ、マシュー戻って来ていたんだね」
「まあね!」
「……ん?」
ヴァージニアがカゴを覗くと、最後に見た時と何かが違う気がした。
「マシュー、何か入れた?」
「そそそ、そんなはずないよ!」
マシューは大慌だ。
挙動不審になっている。
(マシューは嘘が下手だなぁ……)
子どもらしいと言えばそうなのだろう。
ヴァージニアが商品をずらすとマシューが来るまでなかった物が入っていた。
見覚えのあるカラフルな食べ物だ。
「金平糖?食べたいなら私にくれたのを分けるのに……」
「……ん、たべちゃった」
マシューは目を逸らして、もじもじとしながら言った。
「え?」
「おなかすいたから、たべちゃったの……」
マシューは語尾にのを付けて可愛らしさをアピールしている。
これで許してもらおうとしているのだろうか。
確かにマシューの可愛い言動に騙される人はいるだろうが、ヴァージニアは騙されない。
「……おい」
「ごめんね……」
マシューは眼を潤ませて上目遣いをしてきたので、ヴァージニアは怒りづらくなった。
「はぁ、誤魔化そうとしたのは良くないなぁ」
「ごねんね。ジニー……」
マシューは本当に悪いとは思っているようで、しょんぼりしている。
「うん、いいよ」
「あした、おかねもらったらジニーにあげるね」
「いや、いいよ。好きに使いなよ」
「いいの?」
「うん、いいよ。この間もそうだったでしょう?」
ヴァージニアは周囲の人に自分が幼い少年から金を巻き上げているように見られたら嫌なので、必死である。
「ほんとうに?」
「うん。コロッケとか好きな物を買いなよ」
前回と同じ金額ならコロッケは買えるだろう。
「いいの?ももかんかっても、いいの?」
(何度も言わなくていいってば!)
「桃の缶詰でもいいよ」
ヴァージニアは魚の切り身をカゴの中に入れた。
ムニエルかピカタにしようとヴァージニアは思った。
「もももいいなぁ」
マシューは涎を垂らしそうな顔をしている。
美少年が台無しになりそうだ。
「マシュー、ここは家じゃないんだからシャキッとしてなね」
「わかった」
マシューは素直にヴァージニアの言う通りに背筋を伸ばして、顔もいつもの美少年のものになった。
次は精肉のコーナーだ。
「あ、こっちにソーセージあるよ」
マッシューはソーセージが入った袋を指さした。
「ソーセージは双子じゃないよ」
「わっ、わかってるよ」
マシューは頬を赤くして照れている。
「豚肉にしておくか……」
ヴァージニアは豚肉をカゴに入れた。
ついでに加工肉も入れた。
「ジニー、ウインナーとソーセージっておなじ?」
「ウインナーはソーセージの一種だよ。ウインナーは腸詰めだね」
「ちょう……?」
「蝶々じゃないよ?」
「うん……」
マシューは眉間に皺を寄せている。
「……羊の腸だよ」
「!!」
マシューはでそんな恐ろしい事をするんだといった顔をしてヴァージニアを見た。
「私が思いついたんじゃないからね?」
「ひつじ……」
羊以外の動物の腸も食べ物の他に、弦楽器の弦やラケットのガット使われたりするのは黙っておこうとヴァージニアは思った。
「あ、ソーセージは大きいのもあるんだよ」
あまりにもマシューが深刻そうな顔をしていたので、ヴァージニアは話題を変えた。
「ほんとうだ!だけど、これってハムじゃないの?」
「ハムはそのままの肉を使うけど、ソーセージは刻み肉や挽肉を使ってるんだよ」
「あっ!やさいもはいってるね!」
「そうそう。野菜とかハーブとかね」
「おくぶかい……」
「うん、そうだね……」
他に買う物はなかったので、二人は精肉コーナーを後にした。
「ねぇ、ジニー。わがやにソースってあるの?」
「ないかな?」
ヴァージニアは必要と思わなかったので、使い切ってから買い足していなかった。
いつしかのハンバーグにはケチャップをかけたのだ。
「かわなきゃ!」
無駄な出費が増えるが買わないと煩そうなのと、マシューなりに頑張っているので、ヴァージニアはソースを買うことにした。
「調味料売り場に行こうか」
「ソース、ソース!」
(そんなにコロッケにソースをかけたいのか)
マシューはソースを探しに行った。
ヴァージニアはマシューが真っ直ぐ調味料売り場に行ったので驚いたが、マシューだしなと思うと驚きは消えていった。
「あったけど、たくさんあるね。ああ、ぜんぶためしてみないと……」
マシューはじぃっと陳列棚を見ている。
(恐ろしいことを言っているよ)
「いえ、1つだけですよ。マシューさん」
「あくなき、けんきゅうをしなければ……」
「駄目だからね」
「よし、このおたかいソースにしよう」
マシューはさほど大きくないのに、いい値段をしているソースを手に取った。
「駄目だからね。お安いソースにしようね」
ヴァージニアはマシューの手から高級ソースを取り上げて棚に戻した。
そしていつも買っていた廉価なソースをカゴに入れた。
「ほら、コロッケ買うんでしょ?行くよ」
「むむむ……」
マシューは不満げな顔をしつつもヴァージニアについて行った。
「はい。コロッケ売ってるよ」
「コロッケ……」
マシューは目がキラキラしている。
(揚げ物がいっぱいだ)
ヴァージニアは自宅で揚げ物はしたくないので、揚げ物が食べたい時はお総菜売り場で買う。
しかし、胃もたれするので調子がいい時にしか買わないのだ。
「ジニー、メンチカツってなに?」
「ハンバーグみたいな挽肉の塊に衣をつけて揚げた食べ物かな?」
「なんだ、コロッケじゃないのか」
確かにコロッケとメンチカツは形が似ている。
「じゃがいもは入ってないよ」
「そうなんだ。じゃあ、これは?」
マシューは小ぶりな円形のコロッケを指さした。
「それはカニクリームコロッケだね」
「クリーム?あまいの?」
「甘いと言えば甘いけど、お菓子のような甘さじゃないよ」
「じゃがいもじゃない?」
「違うよ」
「じゃあいいや」
マシューはプイッと違う方向を向いた。
(マシューはじゃがいもが好きなだけな気がしてきた)
マシューは他の揚げ物には目もくれず、じゃがいものコロッケを探した。
「はっ!」
(なんだ?)
マシューは歓喜に震えているようだ。
お目当てのコロッケを見つけたようだ。
「ジニー、これ、いっぱいはいってるよ!」
マシューは小袋を手に取った。
そしてヴァージニアの顔の前にずいっと出してきた。
「……5つも食べるの?」
「これ、2つで1つだと思う。だから、2つとはんぶんだよ」
何を言っているんだと言いたかったが、ヴァージニアは我慢した。
「……ギルドのが大きいんだよ。それが普通の大きさなんだよ」
「ぼくにとっては、ギルドのコロッケがふつうのおおきさだよ」
いや、だから何を言っているんだと言いたかったが、ヴァージニアは我慢した。
一応保護者なので、ちゃんと面倒を見ないといけない。
「コロッケパンのコロッケはそのサイズだったよね」
「うん。おいしかったけど、ものたりなかったんだ」
「へぇ……」
マシューは質より量派なのだろうかとヴァージニアは思った。
そう思っている間に、マシューはカゴにコロッケを入れた。
「よし、おかいけいだ!」
「……はぁ」
お高いソースは阻止したが、コロッケ5つ買うはめになってしまった。
コロッケばかり食べたらマシューが丸くなってしまうのではないかと、ヴァージニアは心配なのだった。
マシューはコロッケ5つを手に入れた!
亡き愛犬への想いを投稿をしました。お時間がある時に読んでくださると嬉しいです。作者名をクリックあるいはタップすると私の他の作品が見られると思います。