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コロッケ屋さん!


「ところでマリリンは何しに来たの?」


 心配して様子を見に来てくれただけなのだろうか。


「あっ!やだ忘れてた!ジェイコブ達が帰って来たのを伝えに来たんだった」

「お!禁術の人は捕まった?」


 ヴァージニアはあんな恐ろしい術を使う人が捕まってよかったと心から思った。


「ええ、もちろん!実は早々に捕まえていたそうなんだけど、資料が多いらしくて大変だったみたい」

「禁術の資料?」

「それもあったみたいだけど、千年前の資料が大量に出てきたそうよ。中には勇者と魔王に関係するものが多かったみたい」


 また勇者と魔王が出てきた。

 もはや遠い昔すぎて、おとぎ話の中の人達のようだが現在も人気で、彼らに関する本は毎年出版されているらしい。


「その資料に魔王の性別が書いてあるのないかな?」

「まおうは、おんなのひとだってば!」


 また食い気味にマシューが訂正してきた。


「そうなの?」

「そうだよ!」


 マシューは何故魔王が女性だと言い張るのだろうか。

 もしかして、魔王がいた時代に生まれていたのだろうか。


「……それで勇者と魔王が駆け落ちしたの?」

「そう、かけおちしたんだよ!」

「駆け落ちして何処に行ったの?」

「どこかはわかんないけど、かくれていたとおもうよ」

「何処に隠れたの?」

「どっか」

「どっか、か……」

(どっかだなんて、曖昧すぎるよ)

「二人とも魔力が高かったみたいだから、誰にも魔力探知されない空間を魔法で作っていたんじゃないかしら?」


 二人の会話を笑顔で見守っていたマリリンが口を挟んだ。


「きっとそうだよ!」

「魔力が高いとなんでも出来ちゃうもんね」

「ぼくはコロッケやさんになるために、まほうをつかうよ」

「繁盛するといいねぇ」

(多少不味くても、マシューの容姿でお客が寄ってくるだろうね)


 そう、ヴァージニアは思ったが、マシューのことだから本当に美味しいコロッケを作って繁盛させそうだとすぐに考え直した。


「ジニーもいっしょにコロッケやさんしようね!」

「えー、毎日揚げ物見たくないよ」


 ヴァージニアは毎日胃もたれするのは嫌だった。


「な、なんで……ジニー……」


 マシューはショックのあまり、顔が真っ青になり震えている。


(そんなに落ち込まなくてもいいじゃないか……)

「んーと、じゃあ、キャベツの盛り付けを担当しようかな?」


 なんとか考えついた妥協案だ。


「?……コロッケだけうるんだよ?」

「定食屋じゃなくて専門店か」

「そ、せんもんてんだよ」

「じゃあ、私はジェイコブと一緒に買いに行くね」

「わりびきクーポンをよういするね!」

(クーポン……どこで知ったんだろ?)


 マシューが魔王の性別を女だと言ったり、コロッケ屋になると言ったり、忙しい日だなとヴァージニアは思った。


(ああ、そうだ。その前に真夜中にサイレンも鳴って、出動もしたんだった)

「あ、お昼ご飯食べなきゃ」

「そうだね!コロッケていしょくたべないと!」

「私が奢ろうか?」

「いいの?!」

「やったー!」


 ヴァージニアとマシューは大喜びだ。

 だが、二人が喜んだ理由は違う。

 ヴァージニアは食費が浮いたのと、マシューは単純にコロッケが食べたいだけだった。


「ギルドだよね。二人は転移魔法(テレポート)で行くんだったら、私は先に行ってるね」

「そっか、着替えないとか……ん?」


 ヴァージニアはマシューをじっと見つめた。

 見つめたのにはちゃんと理由がある。


「なぁに?そんなにみつめられたら、てれちゃうよ」


 マシューはふふふと笑顔になり、照れてもじもじしている。


「マシュー、その格好のまま図書館に行ったの?」

「そうだよ」

「それ、部屋着だからね。なんなら寝間着だよ。パジャマだよ」


 マシューが着ているのは、ちょっとくたびれた服だった。


「ふふっ!マシュー君、今度からは気を付けないとね」

「わかった。もう、へやぎけんねまきで、そとにでないよ」

「はぁ……」


 ヴァージニアがため息を吐くと、マリリンが笑いながら家から出て行った。


「ほら、急いで着替えるよ。マリリンは足が速いからもう到着しているかもよ」

「たいへんだっ」


 マシューは慌てて着替えだしたが、長い三つ編みが邪魔そうだった。


「はぁ、たいへんだなぁ」

「マシュー、パンツ一丁で休憩しないの」

「くつしたもはいてるよ」

「そうだったね。分かったから、さっさと服を着ようね」

「おう!」


 マシューは上はチェックのシャツ、下はストライプのズボンに着替えた。


(うわぁ、柄と柄だぁ……)

「マシュー、その格好でいいの?」


 ヴァージニアは流石にその格好はないだろうと思い、マシューに聞いてみた。


「いけないの?」


 マシューは瞬きをして不思議そうな顔をしている。


「よく見たら靴下も柄物じゃないか!」


 何やらジグザグ模様が入っている。

 しかもカラフルだ。


「いけないの?」

「いやぁ、別にマシューが気に入ってるのならいいよ」

「もんくがあるなら、ジニーがえらんでよ!」


 マシューは頬を膨らませて怒っている。


(えー、やだー。面倒臭ーい)

「うん。いいんじゃないかな。よし、ご飯を食べにギルドに行こう!」

「コロッケー!」




「あっ、早かったのね。二人の分は注文してあるからすぐに出てくると思うわ」

「コロッケていしょく、たのんでくれたの?」


 マシューはマリリンの元へ駆けていった。


「それがね、今日はコロッケ定食ないんだって」

「ガビーン!!」

(誰だっ!マシューにこんな古臭い言葉を教えたのはっ!)


 ヴァージニアはギルド内を睨みつけるように見てみたが、すぐにやめた。


(まぁ、ジェーンさんだよね……。いつもマシューの面倒を見てくれているし)

「コロッケ定食がないのって、出動があって用意出来なかったから?」


 ヴァージニアが席に着くとマシューも椅子に座った。


「そうなの」

「そ、そんな……。ぼくのたのしみが……。あああ……」


 マシューはヴァージニアの予想以上に落ち込んでいる。


「帰りにスーパーマーケットでコロッケを買おうか……」

「いいの?!」

「一つだけだよ」

「やったあ!」


 コロッケでこんなにも一喜一憂出来るのはマシューぐらいではないだろうか。


「はい、マシュー君には甘口よ」


 食事を運んで来てくれたのは、厨房のおじさんの奥さんだ。


「びこうをくすぐるにおいがする……」


 マシューはカレーライスをじっと見つめている。

 その間にサラダも置かれた。


「ありがとうございます。カレーは昨晩、用意していたんですって」

「マリリンが激辛で、ヴァージニアは中辛ね」


 サラダはどの辛さでも同じようだ。


「ありがとうございます」

「ではごゆっくり」

「げきからって、なぁに?」

「とっても辛いんだよ」

「そう、とーっても辛いの。でも、ギルドの激辛はまだ優しいのよ」

「ふーん?」


 マリリンに激辛の話をふると日が暮れてしまうので、ヴァージニアは無視することにした。


「冷めないうちに食べよう」

「いただきます!」

「いただきます」


 マシューはカレーライスを一口食べ、何かを考えながら咀嚼している。


「マシュー、カレーは気に入らなかったの?」

「コロッケをのせたら、もっとおいしくなるとおもう!」

「そうきたかぁ」


 ヴァージニアはマシューの笑顔見て苦笑するしかなかった。




 カレーライスとサラダを食べ終わった頃、ジェイコブがギルドにやって来た。


「マリリン、この袋を忘れていっただろう」


 マリリンはジェイコブから見覚えのある袋を受け取った。


「あ、本当だわ。持って来てくれてありがとう」

「ジェイコブお疲れ様」


 マリリンはただその袋を再利用しているだけかもしれないので、ヴァージニアは黙っていることにした。


「ああ、ありがとう。そちらも大変だったみたいだな」

「ジェーンさんのおかげで何とかなったよ」

「ぼくも、おてつだいしたよ」

「おーそうか。マシュー、頑張ったな」

「ふふふ」

「ジェーンさんがいるから俺がギルドから離れられたんだが、同日に起こるとはな。大変な思いをさせたな」

「ははは……」


 ジェーンはジェイコブと同等の力を持っているようだ。

 そりゃ強いはずだ。

 有力な常駐のギルド員が依頼で遠出する際は、同等かそれ以上の力を持った人が代わりにギルドにいないといけない。

 そうでないと有事があった際にその都市が壊滅するかもしれないからだ。


「ところでマシューは口の周りは拭かないのか?」

(本当だ。美少年が台無しだ)


 ヴァージニアはマシューの口の周りがカレーで黄色くなっているのを確認した。

 すぐに拭かせようと思ったら、それより早くマシューが動いた。


「……マシュー、口の周りを舐めないで拭きなさい」

(さらに台無しになってるよ!)


 マシューは口の周りについたカレーをベロベロと舐めていたのだ。


「はーい」


 ヴァージニアはマシューにポケットティッシュを渡して口を拭かせた。


「それじゃあ、マシュー君のお顔が綺麗になったところで……」

(袋の中身はやはり……)

「はーい!」


 マリリンはとても嬉しそうに、男児用の服を見せてきた。


「ぼくのふく?」

「そうなの。前と同じお店で買っちゃった!」

(また、可愛い服だ……)


 別にフリルやレースがついている訳ではないが、女の子でも着られそうなデザインをしている。

 案外男女兼用なんだろうか。


「ありがとう!」


 マシューはマリリンから服を受け取り嬉しそうにしている。


「どう?か……っこいいでしょう?」

(可愛いって言おうとした)

「マリリン、何度もありがとう」

「いいのよ、私が買いたかったんだもの。そう言えば、なんだか、前に行った時よりもお客さんが多かったのよね」

(さては、マシュー効果だな)


 道行く人がマシューを見ていたと思う。


「売り切れも多かったし。店員さんも首を傾げていたわ」

「だいはんじょうなんだね!ぼくも、しょうらいコロッケやさんになるから、はんじょうのひけつをきかないと!」

(その必要はないと思うよ)


 マシューがいれば集客は問題ないだろう。


「マシューはコロッケ屋になるのか?それだけの魔力があるのに勿体ない」

「こじんのじゆうだよ!」

「んまぁ、そうだがなあ……」


 ジェイコブとしてはマシューにギルド員として上級の依頼をやって欲しいのだろう。


「お、マシュー!」

「あっ、ケヴィンだ!」


 ケヴィン達がギルドの奥からやって来た。

 おそらくギルドで仮眠をとっていたのだろう。


「なんだぁ、その可愛い服は?」


 ケヴィンは眉間に皺を寄せて言った。


「え、これかわいいの?」


 ケヴィンの言葉を聞き、マシューの顔色が曇った。

 何てことを言うんだとヴァージニアは思った。


「ぐえっ」


 すかさず、ケヴィンはブライアンから肘打ちをされていた。


「そんな事はない。格好いいじゃないか」

「うん。海兵さんみたいでいいんじゃない?」


 ブライアンとエミリーがフォローしてくれた。


「うみのおとこだ!」

「そうですね。セーラーマンですよ」


 アリッサもマシューに気を遣ってくれた。


「マシューに似合ってればいいんじゃない?」


 エミリーの頭の上でスージーが言った。


「ジニー、どう?似合ってる?」

「おー、よく似合ってるよ」

「へへへっ」


 マシューは頬を赤くして笑っている。

 ヴァージニアはマシューの衣装代が浮いて良かったと思った。


「前に貰った服もよく似合っていたよ」

「……」


 ヴァージニアがこう言うと、マシューは不機嫌そうな顔になった。

 不機嫌を通り越して嫌悪のようにも見える。


「?」

「あのふくは、いやなおもいでがよみがえるから、もうきないよ」

「えっ、ああ……アイツか」


 マシューはふとっちょお坊ちゃんを思い出すのが嫌なようだ。

 ヴァージニアもあのお坊ちゃん、オーガストにはもう会いたくないと思っている。


「えー、前も同じブランドなんでしょう?」

「そんなに嫌な思い出なのか?」


 エイミーとブライアンが不思議そうな顔をしている。


「こんどあったら、ちからをこめてなぐりたい」


 マシューが怨念のこもったような声で言った。


「余程なんだなぁ」

「ブランド物なら高値で買い取ってくれるんじゃないですか?」

「そのお金で新しい服を買えばいいものね」

「……じゃあ、売ったらマリリンにお金返すね」

「いいって。マシュー君にあげたんだから、好きに使ってよ」

(柄物まみれを避けさせるために、マシューに無地の服を買おうかな)

「ありがとう。助かるよ」


 ヴァージニアは食費と日用品にお金がかかるので有り難いと思ったのだった。




 マシューはカレーにコロッケトッピングを思いついた!

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