最終話!
最終話ですが、登場人物紹介とおまけを準備中です。
マシュー達は下山してジョーの店の前までやって来た。
そんな彼らを真っ先にオルトロスが尻尾を振りながら出迎えた。
続いてとうめいの分裂体達がぴょんぴょんと、その後にリチャードとキャサリンが迎えた。
「随分とでっかくなっちゃって」
青年マシューはハイヒールを履いたキャサリンよりも背が高くなっている。
「……ジェーン、なんだか顔がつやつやになってません? 」
リチャードに指摘されジェーンはホホホと笑った。
彼女はいつものように、とうめいで顔面をパックしたのだった。
「あら、ヴァージニアは寝てるの? 」
キャサリンが何も喋らないヴァージニアを心配して覗き込むと、ヴァージニアはマシューの肩に顔を埋めて寝息を立てていた。
「ほら、僕の背中は安心出来る場所だから」
マシューは頬を染め鼻息を荒くして得意気に言うも、キャサリンは呆れてため息を吐いた。
「いや、疲れているだけよね……。ジョーに一室借りましょう」
ヴァージニアが目を覚ますと、何やら寝心地の良いものに囲まれていた。
「ん……とうめいと、とうめいの……子どもじゃなくて、とうめいから分裂した子達か」
「! 」
ヴァージニアはとうめい達に支えられて眠っていたらしい。
すぐそこが段差になっているので、彼らは彼女が落ちないようにしていたようだ。
「ありがとう」
「! 」
ヴァージニアが目覚めたからか、分裂体達はとうめいを残してぽよぽよと彼女から離れた。
彼女が上体を起こして室内を見回すと、彼女以外はとうめい達しかいなかった。
「ここはどこだか知ってる? 」
ヴァージニアは段差を覆うかのように設置されているテーブルに腕を乗せ、下の空間に足を移動させた。
その時に彼女の靴があるのを見つけたので、ついでに履いておいた。
「……! 」
ヴァージニアの質問に答えるように、とうめいは包丁らしきものを作り出した。
「ああ、ジョーさんのお店の個室なのかな。微かに良い匂いがするし」
食欲をくすぐる良い匂いだ。
ヴァージニアの腹が鳴らなかったのは腹が減りすぎているからだろう。
「! 」
とうめい達は流石ヴァージニアだと喜んでいる。
「ジェーンさん達はどうしたの? ご飯を食べてるのかな? 」
「! 」
「そっか、食べてるのか。私も何か貰って来ようかな」
と、ヴァージニアが立ち上がろうとしたらドアが開いた。
「あら、起きてたの」
キャサリンはヴァージニアを起こして食事をさせようとしていたそうで、キャサリンが持っているトレーには汁物と小丼が乗っている。
「キャサリンさん、こんにちは……? 」
ヴァージニアはキャサリンの服装と手に持っている物が似合ってないので混乱気味だ。
これは寝起きなのもあるだろう。
「ふふ、何よ、その挨拶は。まったく……」
そんなヴァージニアを察したのか、キャサリンは笑った。
「ほら、ご飯を持って来てあげたから食べなさい」
「ありがとうございます」
「! 」
キャサリンが食事をヴァージニアの前に置くと、とうめい達は一斉に体を伸ばして覗き込んだ。
ヴァージニアもとうめい達の隙間から覗いてみると、ジェーンの退院祝いの時よりも簡素な料理が見えた。
しかしどちらも美味しそうなので、彼女はこっそり唾液を飲み込んだ。
「貴方達のはないわよ」
「……」
とうめい達はいじけてしまった。
「何よ。さっき散々撫でてあげたでしょう。私は貴方達が手汗を回収しているの知ってるのよ? 」
「……」
彼らは知らんぷりするつもりのようだ。
「大体、貴方達がヴァージニアに寄り添っていたのも、彼女から汗か涎を取ろうとしたからでしょう? 」
「……」
彼らは知らんぷり続行中である。
「心配してくれていた訳ではないのですね」
ヴァージニアは苦笑しながら、食事と向き合った。
汁物は豚肉と野菜をふんだんに使ったミソスープで、小丼は鶏肉を玉子でとじたものがご飯の上に乗っている。
どちらからも湯気が出ており、とうめい達はそれらを摂取することにしたようだ。
「ジェーンから聞いたけど、全然食べてないんでしょ? 」
「そんな状況ではありませんでしたからね……」
ヴァージニアは雷竜に乗って空に浮かぶ町まで行って妖精女王を救出し、黒幕である妖精王と対面した。
文字だけでも衝撃的なのに、彼女はこの話の中にいた。
今でも脳みそが追いつかず、夢だったのではないかと思える。
彼女はそんなことを考えながらスープを口にした。
「あったかい……」
ヴァージニアは温かさと食材の味が全身にじんわりと染み渡るのを感じた。
食べ慣れぬ料理だが、とてもホッとする味だった。
「ところでマシューは何をしているのですか? 」
マシューはいつもならヴァージニアが目覚めるのを待っているのだが、今回はそれがなかった。
親離れならぬジニー離れだろうか。
「ああ、ジョーから店の経営の極意やらを聞いているわよ」
「コロッケ専門店開店に向けてですね。……まさかジョーさんから剣術を習うのではなく経営について学ぶとは思いもしませんでした」
ヴァージニアがこう言うと、これまでにこやかだったキャサリンの表情が強ばった。
「実はね、あの子が剣術を習う世界もあったのよ。だけどねぇ……」
あまりにもキャサリンが深刻そうな顔をするので、ヴァージニアは食べる手を止めた。
「あの子の父親も剣術が得意だったそうだから、筋が良かったらしいの。魔法や体術よりもね。で、何が起きたと思う? 」
「え……」
「あの子の性格を考えてごらんなさい」
「調子に乗る……」
まさか相手の力を見誤って討伐失敗でもあったのだろうか。
いや、これはジョーがついているのだからないだろう。
「そう、調子に乗って辻斬りまがいのことをしだしたのよ」
「うえぇぇ……」
予想以上の酷さだった。
「キャサリンさんはそれをご存じだったから、マシューが剣術を習うのを止めたのですね」
「そうよ」
ヴァージニアが再びスープを口にすると、先ほどとは違う味に感じた。
彼女は少し冷めたからだと思う事にした。
「他に聞きたい事はある? 」
「……これで終わりですか? 」
「もっと食べるの? 」
キャサリンはヴァージニアが小食なのを知っているので、少し驚いた表情になった。
「いえ、食事はこれだけで十分です。私が聞きたかったのは、これで私の役目は終わりなのかです」
「ああ。……それがよく分からないのよねぇ」
キャサリンは長い腕を組んで首を傾げた。
その動作でふんわりと上品な香水の匂いが漂った。
食事の邪魔をしない香りなので、ヴァージニアは気にせず食事の残りを口に運んだ。
彼女が数度咀嚼すると、とうめい達が動き出した。
「……! 」
「とうめい、どうしたの? 」
とうめいはぼこぼこしたロープ状の物を生やしており、分裂体達も何かを生やしている。
「マシューが来るのかな? 」
「! 」
キャサリンは今のやり取りを見て、何で分かるのよと呟いた。
その呟きの数秒後、マシューがやって来た。
「ジニー、起きた? 」
「ヴァージニア久しぶりー! 」
モフモフとした毛を持つ、明るく元気いっぱいな女性がやって来た。
狼人のヴァネッサである。
彼女の仲間のグレゴリーとイサーク、ダヴィードも一緒だ。
「皆さんもいらしてたのですね」
「うん! 獣人も食べられる食事を提供してくれるって耳にしたから来てみたの」
ヴァネッサは耳をピョコリと動かしてみせた。
ちなみに彼女達はもう食事を済ませたそうだ。
「そしたらマシュー君が大きくなっててビックリしちゃった! 」
狼人達は人間と違い、鋭い嗅覚で判別出来る。
「皆は僕の事情を知ってるのに、人間の成長は早いんだなってコントしてたよ」
ヴァネッサ達はグレゴリーからマシューの正体について聞かされていたそうだ。
「面白かったでしょ? 」
ヴァネッサはウインクをしてみせ、キャサリンとヴァージニアは笑った。
グレゴリー達はというと、とうめいの分裂体を不思議そうに見ている。
「俺達の国にもいるのか? 」
「! 」
とうめいは多分いると言っている。
おそらく寒い国と乾燥している国にも、世界中にいるのだろう。
「マウンテンスライムの分裂だなんてとっても珍しいから、スライム研究者達は大慌てでしょうね」
「グリーンさんなら、とうめいだって分かっていそうですね」
「! 」
とうめいは牧場の仲間を懐かしがっているようだ。
分裂体達も体を震わせているので、同様の気持ちなのだろう。
「牧場に帰るとしたら、とうめいでいっぱいになっちゃうけど、どうなるんだろう? 」
「これだけいたら保護の対象にならなさそうよね。どうするのかしら? 様子見になるのかしらね」
ヴァージニアは柵の中にぎゅうぎゅうに押し込められているとうめい達を想像しながら食事を食べ終えた。
それを見計らってか、マシューは少し真剣な顔をしながら話し出した。
「あのさ……石ころさん達だけど、ジャムがさ、いつものように逆立ちをしたまま星と一体化しちゃったみたいなんだ。大丈夫かな? 」
「え……」
今のところは何も起きていない。
むしろ安定しているので問題ないのではないかと思いつつも、ヴァージニアは少し胃が重たくなった。
僅かなズレでも許さない状況だとしたらとても拙いのではないか。
「他のは違うのよね。んー、十二のうちの一体だけが逆さま……。そうね、もしかしたら逆柱かもしれないわね」
キャサリンによると、マシューの父親である勇者の故郷にはそのような風習があるらしい。
「へぇ、完成と同時に崩壊が始まるって考えがあるんだ……」
「ええ。だからわざと未完成にするんですって。面白い魔除け方法よね」
ジョーの方が詳しく知っているとのことで、マシューはまたジョーに話を聞きに行った。
「マシュー君、晩ご飯の味見をする気だよ。さっき横目で見てたもの」
「涎を垂らしそうだったよな」
「それであんなに嬉しそうに……」
ヴァージニアは大仕事を終えたばかりなのにいつもと変わらないマシューを見て、呆れていいのか誉めていいのか分からず眉を顰めた。
一ヶ月後、世間ではついこの間世界が滅びかけたと言うのに、しょうもないゴシップを報道していた。
ヴァージニアは誰が楽しむのだろうかと思いながら、ドラマの再放送が始まるのをテレビを見ながら待っている。
「ジニー、今日の夕飯は何が良い? 」
「私が作るからいいよ」
「僕に作らせてよ」
「いつもマシューにやって貰って悪いから、たまには私が作るよ」
最近、マシューが炊事洗濯など家事全般をするので、ヴァージニアは家にいるだけだ。
「ジニーはいてくれるだけでいいんだから、何もしなくていいんだよ」
「重いって……」
美青年が満面の笑みで言ったら、誰もが赤面するだろう。
しかしヴァージニアは毎日言われているのでそうはならない。
いや、初回から彼女は顔を青くしていた。
「重いって何が? 」
「分かってて言ってるよね。はぁ……。あ、もしかして私の料理が食べたくないの? 」
その証拠に、マシューはヴァージニアが普段作らないような料理を作っている。
「そんなことないよ。ジニーの作る、残り物をオムレツにしたりスープにぶち込むやつ好きだよ」
「ちょ……」
これらはヴァージニアは連日同じ物でもいいが、マシューは飽きるだろうと思ってやっていたのだ。
「ジニーが作る料理はどれも大好きだよ。だけど今は僕が作る料理を食べて欲しいんだ。だって今までジニーがやってくれていたでしょう? その恩返しだよ」
「そ、そっかぁ」
ヴァージニアは仕事にも行けていない。
行こうとするとマシューから十分な収入があるから働かなくていいと言われて止められてしまうのだ。
「そうだ。マシューはいつまでこの家に居候している気なの? 大きくなったんだから出て行かないといけないんだよ」
「んー。どっちかと言うと、今はジニーの方が居候だよ」
「……えっと、どういうこと? 」
「フフフ、僕ね、昨日大家さんから相場の十倍でこの家を買い取ったんだ」
マシューは目を輝かせ、さらに頬を赤くして、さらにさらに鼻の穴も膨らんでいる。
「は? なんでそんなにお金持ってるの? っていやいや! 普通、私が借りているのに他人に売らないでしょ。大家さんから連絡来てないよ? 」
「そこはさ、ホラ……」
マシューは何かもにょもにょと言っている。
おそらくお金の力か、もしかしたら魔法で何かしたのかもしれない。
「それにお金は? 」
現在、マシューは空の町の入場料で稼いでいる。
何故彼がお金を貰えるのかと言うと、彼が訪問客が体調不良にならないように術式を作ったからだ。
手始めに情報提供してくれた研究所の関係者や堅苦しい肩書きを持つ人を招待していくらかお金を得ている。
そう、いくらかで沢山は稼げていない。
「討伐報酬が残ってるわけないし……」
マシューは食いしん坊なので、とっくに食費に消えているはずだ。
「んー、なんでだろうねぇ? 」
マシューが誤魔化そうとしているのでヴァージニアは彼を睨んだが、彼は笑うだけで言う気はないようだ。
彼女は誰に聞こうかと色々な人の顔を浮かべていると、テレビから気になる言葉が聞こえて来た。
「続いてのコーナーは、最近話題になっている男性モデルについてです! 」
「ん? 」
ヴァージニアが鋭い目つきのままテレビに視線を向けると、見覚えのある黒髪の美青年がテレビに出ている。
静止画なので何かの広告だろうか。
もしそうならば男性はやたらと格好いい服を身に纏っているので、服飾ブランドのものだろう。
「ちょ、この人マシューでしょ! 」
「ええー? 似ているだけじゃないかなー? 」
番組の司会者はブランド名をジャスティンと言ったので、確実にマシューである。
「ジャスティンさんに頼んで仕事を貰ったんでしょ! 」
「頼んでないよ。お金を稼ぐ方法知らない? って聞いただけだよーあははー」
「ほぼ同じでしょうが。えー……、一回やっただけで家が買えるぐらいのお金が貰えるの? 」
それも相場の十倍だ。
いくら田舎の家だとしても、かなり高額になる。
「新人だからあんまり貰ってないよ。前借りしたんだあ。へへっ」
マシューは大変良い笑顔で言った。
「はあああ? 」
「僕だと確実に人気が出るって言うから、お願いしたらくれたよ」
「ジャスティンさん何してるの……。って、前借りってことはまだモデルするの? 」
「そうだよ。あ、ジニーは僕が仕事でいなくなっちゃうの寂しい? 」
マシューは怪しげな微笑みをする。
「いや、別に」
「即答しないでよ。あのね、空の町をお芋畑にするにはお金がかかるんだよ。魔法でなんとかなるって思っていたけど現実は甘くなかったんだよね」
マシューはお金が欲しい理由を話し出した。
ヴァージニアはそんなに欲しいなら、家を買わずにその資金にすればいいのにと思った。
「あそこで栽培するんだ……」
「天空ジャガイモのコロッケって売れそうじゃない? 」
「ちゃんと考えているんだね」
最初は物珍しさから売れるだろう。
味も良ければリピーターがつくので、良い方法である。
「育てる場所は確保出来たけど、種類はどうしようかな」
「うん。いっぱいあるもんね」
「だからね、ジニー。一緒に探しに行こうよ」
「行きません。お取り寄せすればいいんじゃないの? 」
この方法なら世界中の品種を簡単に集められる。
しかしマシューは直接現地に行き、どんな栽培をしているのか調べたいようだ。
さらにまだ知名度が低い、未知なる芋も探したいらしい。
「一人で行きなよ。マシューならすぐ行って帰って来られるんだからさ」
マシューはそれならヴァージニアが行くのも簡単だと言った。
しかし彼女は意見を変えないので彼は不機嫌になった。
「ハァ……、そもそも大人になったんだから保護者なんていらないでしょ」
「え? 今まで保護者のつもりだったの? ジニーが? 僕の方が強いのに? ふーん」
マシューのこの言い方にヴァージニアは苛立って断固拒否すると、マシューが強制的に連れて行くと言い出した。
「キャサリンさんに言いつけてやろう」
「ふん。僕はね、本当はね、キャサリンさんなんて怖くないんだ」
とマシューが言った瞬間、ヴァージニアの通信機が鳴った。
もちろんキャサリンからだ。
「マシュー、貴方いつの間にジャスティンのところでモデルやってるのよ」
キャサリンも先ほどの番組を見ていたそうだ。
「もう大人だから目立っても平気かなって」
「そう言う問題じゃないでしょう。すぐに居場所を特定されるわよ」
「まさかぁ」
マシューはやれやれといった感じで笑っていた。
キャサリンの予想通り、マシューは暫くの間、変身したままで生活せねばならなくなった。
流石に家は特定されていないが、南の地域での目撃情報が多数あるので、何も対策をしなければそのうち見つかるだろう。
「常に移動していればいいってことだよね。いい機会だからお芋を探しに行こう! 」
マシューは目を輝かせながらヴァージニアの腕を持って引っ張っている。
「えー……」
ヴァージニアはキャサリンとジェイコブからマシューの見張りをするように指示されている。
結局ヴァージニアはマシューと一緒に芋探しの旅に出ることになってしまった。
「とうめいの分裂体にも会えるから一石……何鳥? 」
「あ、力を貸してくれた大きな力を持つ方々にも挨拶に行けば? 」
ヴァージニアは言い終わってから、しまったと後悔した。
「ジニー頭良い! よし行こう! 」
ヴァージニアの巻き込まれはまだ終わらないようだ。
ながながとお付き合いくださいまして、誠にありがとうございました。




