解散!
もう少しで終わります。
マシューが火口から出ると、少し離れた場所にヴァージニアがいるのが見えた。
「ジニー! 」
マシューは炎竜が背中に乗れと促すので遠慮なく乗り、ヴァージニアを乗せている地竜の元に向かった。
到着まで一分もかからなかったが、彼は一秒でも早く彼女を抱きしめたかったので、もっと速く飛んでくれればいいのにと少し不満だった。
しかし彼は大切な協力者の背中を蹴って地竜の背に飛び移るなんてことはしない。
そこまで無礼でも愚かでもないため、これくらいの我慢は出来る。
「ジニー! 来てくれたんだね! 」
マシューは炎竜に乗っている間、ヴァージニアをすぐに抱きしめられるように体を冷やしておいた。
「マシューお疲れ様」
マシューは地竜の背中に移動して、皆が見守る中ヴァージニアを抱きしめた。
するといつもと同じ彼女の匂いがしたので、緊張状態だった心が安らいでいった。
だがそれと同時に彼女の体の細さを感じたため、家に帰ったら沢山ご飯を食べさようと彼は決めた。
それも生半可な量ではいけない。
彼女はお金に余裕が出来ても元が小食だからなのか、脂肪がつきにくいのか、いつまで経っても骨張ったままなのだ。
さらに彼女は血色が良い方ではないらしく、どんな日でも不健康そうに見えるので彼はどうしたらいいのか悩んでいた。
だから彼は彼女が健康で暮らせるようにと祈ったのだが、今のところ見た目に変化はない。
顔色については冬で寒いからなのかは不明だが、彼は大切な人は健康でいて欲しい、ずっとずっと元気でいて欲しいと願っている。
「そうだ、マシュー」
ヴァージニアはマシューの胸板から顔を離した。
彼が強く抱きしめたせいか、彼女の鼻の頭は赤い。
「なあに? 」
「とうめいがね……」
マシューはヴァージニアからとうめいがマウンテンスライムになった後、分裂して世界中に散ったと知らされた。
「それであちこちに……」
マシューはとうめいの身に何が起きたのか知ると、胸が張り裂けそうになった。
自分が早く気付いて対処していれば、妖精王は消えずに済んだかもしれないし、とうめいだって大変なことにならなかったかもしれない。
彼が涙を堪えていると、ここで地竜からマウンテンサイズになってからすぐに分裂するなんて普通はないと聞かされた。
進化自体がエネルギーを大量消費する行為なのに、続けて分裂するなんてあり得ないのだそうだ。
分裂の方が膨大なエネルギーを使用するので、本来なら十分に力を蓄えてからするものなのだとか。
「辛かったろうに……」
「マシュー……」
マシューはヴァージニアの顔が涙でぼやけるので拭おうとした。
その時だ。
「ん? 」
「上から何か降ってくるぞ! 」
マシューや龍達が空を見上げると、彼らに遅れてヴァージニアも空を見た。
「なんだ? 」
ちょうどマシューの真上に、何か小さな物が落ちてきている。
「ジニー、少し離れてて」
「うん」
雷竜がマシューに撃ち落とすかと聞いてきたが、彼には危険なものとは思えなかったので、手出し無用と返事した。
「身体強化だけで受け止められそうだな。だけどそうすると地竜さんに衝撃がいっちゃうのか? 」
「わしは頑丈だから気にせんでいい」
ヴァージニアはなるべく離れるために、地竜の首元に移動し鬣にしがみついた。
その直後にマシューは落下物を捕らえた。
かなりの衝撃だったが、マシューは身体能力と強化魔法のおかげで少し沈み込んだだけで済んだ。
「え? 」
マシューは腕に乗っているものをまじまじと見つめた。
初めは魔水晶だけかと思ったが、何やらその周りに薄く透明の物がくっついている。
その見覚えのある色と質感に彼の表情は明るくなった。
この他にも彼が作成した魔水晶なのも大きな決め手になった。
「……とうめい! とうめいだろ? 」
「……! 」
マシューはとうめいが懸命に突起を作って挨拶しているのを見て、涙がこぼれ落ちた。
すかさずとうめいは体を伸ばして彼の涙を摂取する。
「とうめーい! もう会えないかと思ったぁああ」
「あ、大きくなった」
とうめいはマシューの涙を摂取してスモールサイズのスライムになったようだ。
そして続けざまに涙を摂取したので、さらにミディアムサイズになっていた。
「! 」
「とうめい……よかった……」
「……! ……! 」
とうめいはジェーンが乗っている雷竜を示している。
「え? 何? どうしたの? 」
「自分の分裂体がいるって言ってるんじゃない? 」
「! 」
とうめいはそうだと合図するために突起物を作った。
「はい、この子がそうよ」
雷竜に乗っているジェーンが手を上げてとうめいの分裂体をマシューに見せた。
こちらは珍しく雲の上を飛行していた綿竜にくっついったため水分を補給出来なかったのか、スモールサイズどころか子どもの拳大にもなっていない。
ヴァージニアとマシューがとうめいは何をする気だろうかと首を傾げていると二匹が動いた。
「! 」
「! 」
とうめいととうめいの分裂体は勢いよく跳ねて、ヴァージニアの近くでくっついた。
そしてそのまま一つになった。
どうやら二匹は合体したようだ。
「! 」
とうめいの大きさはミディアムのままだが、先ほどよりツヤとハリがある。
「他の子達も同じようにつっくいたりしているのかしら? 」
「ああ。微弱な魔力の個体が減って、弱い魔力の個体が増えているからそうだと思うぞ」
地竜は探知を続けていたので、この現象を不思議に思っていたそうだ。
だが、目の前でとうめい達が合体したので謎が解けたとのことだ。
「とうめいの分裂体は合体すると、そのまま足し算されて魔力が増すんですね」
「そのようだ。後はくっつかずに単純に進化したのもいるようだな」
「とうめい凄いよ! 」
「! 」
とうめいはマシューに誉められ嬉しいのかぽよぽよと震えている。
存分に震えた後で、とうめいは体の上部をボコボコとしだした。
この行動を見てヴァージニアはまた何かとうめいに危険が迫っているのではと焦った。
しかしマシューをはじめとする皆が落ち着いていたので、どうやらこれはとうめいのジェスチャーの一種のようだ。
「ジニー、とうめいは何て言ってるの? 」
「え? なんだろう? 」
「……! ……! 」
とうめいは体の上半分に複数の突起物を作っている。
「シュークリームかな? 」
「マシューが食べたいだけでしょう。うーんとねぇ……」
ヴァージニアがとうめいをじっと見つめていると、とうめいは体の左右にもコブを作った。
彼女はとうめいが体の左右に何か作ったら、それは大体が人間の顔の左右についているものだと知っている。
「えーっと、それは耳かな? 」
「! 」
「正解みたいだね。ってことは頭のは髪の毛かな? 」
「誰だろう……。髪の毛にボリューム……アフロ? 」
ヴァージニアの周りにそんな人はいただろうかと考えを巡らせた。
もしやとうめいはミディアムサイズになったので、以前より体の表現が繊細に出来ないのではないか。
となると、癖毛の人ではないだろうか。
「……とうめい、もしかして魔力をくれた人を探しているの? 」
「! 」
とうめいはヴァージニアに飛びつき、お前なら分かってくれると思ったという風に彼女の頭を撫で回した。
おかげで彼女の髪にツヤは出たが、グシャグシャである。
ヴァージニアは手櫛で髪を整えながら、なんととうめいに説明するか悩んでいると、彼女の耳に妖精女王の悲しみを堪えた呟きが届いた。
妖精女王は雷竜に乗っている間はずっと我慢していたようなので、今のがきっかけで感情が溢れ出してしまったのだろう。
「とうめい、あのね、その人は……」
とうめいはきっと妖精王に礼が言いたいのだろうが、もう会えないと知ったらどう反応するのか。
ヴァージニアは妖精女王ととうめいを思い、はぐらかせた方がいいのか、ありのまま伝えた方が良いのか悩んだ。
「? 」
とうめいはヴァージニアが言い淀むので、クエスチョンマークを体に浮かばせている。
そしてジェーンやマシューの方も見たが、皆押し黙っている。
そんな中、雷竜が動いた。
「とうめいよ、あやつはもういないぞ」
雷竜は地竜の首元にいるとうめいに顔を近づけた。
とうめいの近くにいるヴァージニアは相変わらず迫力のある顔だなと思った。
「! 」
とうめいは何故だと問うようにピョンと跳ねて雷竜に近づいた。
「あやつはお前に魔力を分け与えて、自分のしでかした事に責任を取ったのだ」
「……? 」
とうめいには何が何だか分からない。
「まぁ、そんなんで死んだ奴らが生き返る訳でもないから、過去の悪行と比べたらカスほどの善行だ。だが、最善策はとれたのだ」
「……? 」
これもとうめいには何だか分からず、首? を傾げる。
「他の奴らはあいつを極悪人だと思っていいが、お前だけは良い奴だったと覚えといてやれ」
「! 」
これなら分かる。
とうめいにとって魔力をくれた人は良い奴であるのは間違いない。
「あら、雷竜ちゃん。何を言い出すのか不安だったけど、良いこと言うじゃない」
「フッ、我は頼まれたからな! フハハハハ! 」
雷竜が高らかに笑うと、ジェーンの通信機が鳴った。
「ハッ! きっとキャサリンさんだ! 」
マシューの動揺ぶりに龍達がざわめいた。
神であるマシューがこんなにも慌てふためくなんてと驚いているようだ。
「あら、キャサリンどうしたの? ……ええ、私もそこにいるわよ」
どうやら龍等の大きな力を持つ者達が一箇所に集中しているので、世界の魔力の流れが不安定になりつつあるそうだ。
「ってことで、今日はここで解散! 僕が後日、皆にお礼を言いに行くよ。皆、今日は本当にありがとうございました! 」
大きな力を持つ者達はキャサリンが何者なのかヒソヒソと話している!




