集結する!
ヴァージニア達を乗せた雷竜はゆっくりと下降していた。
ゆっくりと言っても雷竜にしてはであるが、それでも上昇時よりは大分ましになっていた。
これに加えて妖精女王の魔法もあるのでヴァージニアは体調不良にならずに済んでいる。
けれども地上にいる時と比べてしまうと辛いことに変わりない。
特にとうめいが不在なので皆は尻が痛かった。
だが幸いなことに、下降途中で綿竜の抜け毛が漂っているのをジェーンが脅威的な視力と身体能力で発見及び回収し、これをクッション代わりにしたので尻へのダメージはほぼなくなった。
快適とまではいかないが、なかなか良い空の旅だとヴァージニアは感じていた。
「これがなかったらお尻が痛くて大変だったわよね」
「歩けなくなっていたと思います」
「む、我の背に文句を言っているのか? こんなに素晴らしい凹凸なのに! 」
雷竜は振り返って不満そうにジェーン達に視線を向けた。
なお、夜なのに雷竜の顔が見えるのは、妖精女王が魔法で明るくしているおかげである。
「ほらほら、脇見運転は駄目よ」
「フン、こんなに広い空で誰かにぶつかるのか? 」
ヴァージニアは運転にツッコまないのかと心の中でツッコんだ。
「他にも龍はいるでしょう。他の飛べる生き物もいるでしょうし」
「フン、そいつが避ければいいだろ」
雷竜は首を今までとは別の方向にプイッと向け、前を見ようとしない。
「雷竜殿、空には他の方々の気配もしますから安全飛行をお願いします」
「そうよ。頼まれたんでしょう」
「そうだがなぁ、こう文句を言われてはなぁ……」
雷竜はいじけているだけのようだ。
もし雷竜が人間だったら唇を尖らせていたのだろう。
見た目は迫力満点だが、心は繊細のようである。
(なんて言ったら機嫌が良くなるんだろう。……いや、赤ちゃんじゃないんだから機嫌は自分で取れし)
ヴァージニアは疲れているのもあって考えるのを止め、ジェーンに任せる事にした。
「文句じゃなくて事実を言ったまでよ。そりゃあとっても格好いいけど、カッチカチでゴッツゴツなのよね」
「我だって脱皮したては柔らかなのだぞっ」
雷竜はまだいじけモードのようだ。
そんなことより、ヴァージニアには気になる単語があった。
「え、脱皮するのですか? 」
ヴァージニアは雷竜ほどの大きな生き物の脱皮となると大変そうだし、そもそも龍が脱皮をするなんてと驚いた。
「換毛するやつがいるんだから、脱皮するやつもいるだろ」
雷竜の脱皮は数十年に一度の頻度だそうだ。
「そう言えば、一回だけ遭遇したことがあるわね。雷竜ちゃんが白っぽくなっていたから心配したら、なんと脱皮だったのよぉ」
「ということは今も大きくなってらっしゃる……」
他の龍も大きくなっているのだろうか。
「ん? 人間は大きくならないのか? 」
「大人になったら、もう大きくならないですよ」
「そうか。……む、ジェーンは大きくなってないか? あ、痛い! 」
雷竜はジェーンにバシッと叩かれ、ふてくされた。
何故雷竜は余計なことを言うのだろうとヴァージニアは首を傾げた。
「でね、雷竜ちゃんの脱皮なんだけど、鼻の穴の脱皮がねぇ、もうおかしくって」
他の箇所は手足で取ったり、転がって取っていたそうだ。
「鼻の穴も脱皮するんですね」
「小枝で鼻の穴をほじってたのよ。うふふっ」
鼻から出て来たそれは、まるで巨大な茸のようだったそうだ。
「あの方法がよく取れるんだ。発見したときは皆に見せびらかしたぞ」
「あらあら」
「今度やってみると言っていた奴もいたぞ」
「よかったわねぇ」
「フフン! 」
雷竜は機嫌が直ったようである。
周囲が薄らと明るくなってきたのでヴァージニアが視線を下に移すと、ギリギリ地上の建物が見える高度になっていた。
ヴァージニアが何処に着陸するのだろうかと思っていると、雷竜は進路を南に変更した。
「あら、どうしたの? 」
「地上に行くより、マシューがいる所に行った方がいいだろう」
マシューが現在いるのは南の火山島で、観光地としても有名な場所だそうだ。
「近づいて平気なのかしら? 」
「もう大分落ち着いてきていますから、大丈夫だと思いますよ」
妖精女王が言うと雷竜が頷いた。
「ああ、他の奴らも集まって来ているから挨拶がてら行くのもいいだろう」
「他の奴ら……」
と言うと龍だろうか。
ヴァージニアはこれから錚々たる面々を目の当たりにするようだ。
圧倒されて気絶しかねないので、彼女は自身に大丈夫だと言い聞かせて臨むことにした。
「そうですね。皆さんにお礼を言いませんと」
妖精女王は捕らわれているときに、念話で龍達にアンデッド討伐の手助けを依頼したのだ。
「なんだと? 我には聞こえなかったぞ! 」
雷竜は自分に依頼がなかったので、またもご機嫌斜めになってしまい脇見運転している。
「地上付近にいた方々にお願いしたので……。雷竜殿はずっと上空にいらしたのでしょう? 」
「おおっ! そう言えばそうだったな! 」
ジェーンの意味ありげな笑い声がヴァージニアの耳に届いた。
彼女も雷竜のご機嫌取りに苦労しているのだろう。
「お! 見えてきたぞ! 」
雷竜がこう言うも、ヴァージニアにはまだ見えない。
しかしジェーンには見えているようで、驚きの声を漏らした。
その声を聞いたヴァージニアはジェーンでも驚くメンバーがいるのかと思い、いくら覚悟していてもソワソワしてしまった。
「はっ! ジェーンさん、地竜さんはいらっしゃいますか? 」
「地竜ちゃん? ええっと、……茶色ぽい体をしていたわよね」
ジェーンはやや前のめりになり、地竜がいるか探している。
そうしている間にヴァージニアにも火山島の近くに複数の巨躯の持ち主がいるのが見えてきた。
彼女は最初、雲だろうと思っていたが近づくにつれ龍達だと気付いた。
海の中にも集まっているようなので、おそらく海竜もいるのだろう。
「ここから近い場所に住んでいるのだから、流石にもう到着しているだろう」
「あの方じゃないでしょうか」
妖精女王が炎竜の隣にいると言うので、ヴァージニアはメラメラとしている龍を探してみたが、火の鳥など他の火属性の者達もいるようなので発見出来なかった。
「あら、龍や鳥だけじゃなくて精霊も来ているのね」
鳥とはもちろん一般の鳥ではなく、火の鳥などの巨大な鳥である。
「我はもう見つけたぞっ」
「流石ねぇ。凄いわあ」
ジェーンも発見したようで、ヴァージニアに教えた。
龍達が雷竜の接近に気付くと、場所を空けて雷竜を集団の中に入れた。
「友よ! 久しいな! 我に会えなくて寂しくなかったか? 」
「皆さん、私の頼みを聞き入れて下さってありがとうございました」
龍達は雷竜の挨拶と妖精女王の礼に返事をした。
その様子をヴァージニアはポカンとしながら見ていた。
彼女はあらゆる予想をしていたので流石に気絶はしないが、思考が追いついていない。
図鑑かと言うくらい、本当に様々な者達が集結している。
「全員来ているわけではないのね」
ジェーンは以前話していた水晶竜がいないので少々がっかりしたようだ。
「目立つのが嫌いな者もいるからな。後はその土地と一体化していたり、体が重くて飛行が苦手な者もいる」
ジャスティンの屋敷の庭にいる精霊が前者で、後者は鉄竜や岩竜だ。
ちなみに返答したのはヴァージニアが探していた地竜である。
「地竜さん、お久しぶりです」
「ヴァージニアか、元気にしていたか? ま、そいつに乗れるのだから元気なのだろう」
「そ、そうですね……」
実はヴァージニアが地竜を探していたのは地竜の背中に移動したかったからだが、それを雷竜が聞いたらまた拗ねるだろう。
彼女は視線で地竜に合図を送り、察してくれないかと願った。
「ん? ……ああ、ヴァージニア達はわしの背中に来るといい」
ヴァージニアは飛び跳ねたいほど喜んだ。
どうやら妖精女王がこっそり念話で地竜に伝えたようだ。
「むむ、別に我に乗ったままでよかろう」
「お前は二足歩行だから、長時間うつ伏せ状態だと辛いんじゃないか? 」
「そうよぉ、地竜ちゃんは雷竜ちゃんを気遣ってくれたのよぉ」
「おおっ! そうであったか! フハハハハ! 」
妖精女王とヴァージニアはジェーンに小脇に抱えられ地竜の背に移動した。
もちろん綿竜の抜け毛を持って。
「あれ? 綿竜さんはいないのですか? 」
「どうせまた風の奴に飛ばされてるんだろう」
雷竜はヴァージニア達が背中からいなくなったので、体を起こして二足歩行の状態になっていた。
「どんな龍なのかしら? こんなにモコモコした毛を持った龍がいるなんて知らなかったわ」
「大きな羊みたいな龍さんですよ」
「ああ、そう言えばニュースでイラストを見たことあるわね」
このイラストとは寒冷期に巨大な羊が自身の体毛を配って人々を助けたという伝承のものである。
王立魔導研究所の局長が各地に残されていた毛と綿竜の毛を照合したら、同一個体の毛だと判明したのだ。
「噂をしたら来たみたいだな」
地竜が指を指した方をヴァージニア達が見ると、小さな雲が接近してきていた。
「あ、雲じゃなくて綿竜さん」
「他の龍と比べたら親しみのある姿をしているわね」
確かに綿竜は他の龍と比較すると、子どもに好かれそうな可愛らしい風貌をしている。
「わー、遅れちゃいましたー! 」
「何だか小さくなってないか? よし、我が膨らませてやろう」
「わわー! やめてくださいよぉ」
綿竜は雷竜が発した静電気で膨張した。
しかし、それでもヴァージニアが前に見た時よりも小さい。
「小さくなったのは人間さん達に毛を配ったからですよっ」
綿竜は妖精女王の言葉を聞いて人間にモコモコを配ったそうだ。
「それが風に乗って私達のところに来たのね」
「綿竜さんありがとうございます」
「よく分かりませんが、役に立ったようでよかったですよ」
雷竜は友に会えて嬉しそうだ!




