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反省せよ!


 マシューは夢の中であの自称勇者研究家と対峙していた。

 尤もその人の顔は覚えていないので、如何にも悪役な風体に改変されている。


「よくも俺様の邪魔をしてくれたな! 」

「無駄な抵抗はよせ! 」


 どうやら会話もドラマのようになっているらしい。


「くそぉ! こうなったらまだ研究中のあの技を使うしかない! 」


 自称勇者研究家が体勢を変えたので、マシューは身構えた。

 そして相手が叫ぶとマシューも続けて叫んだ。


「醜き姿の持ち主よ」

「悪しき心の持ち主よ」


 二人の言葉が重なる。


「偉大なる我の前に屈せよ」

「心を入れ替え反省せよ」




「ん? 」


 マシューは目が覚めた。

 室内はまだ暗く、周囲はとても静かだった。

 彼が顔を横に向けると、隣のベッドでヴァージニアが規則正しく寝息を立てて寝ているのが見えた。

 彼は枕元に置いていた時計で時刻を確認すると、寝てから数時間しか経過していなかった。


(……まだ日付が変わったぐらいだ)


 マシューはもう一度寝ようと目を閉じたが、先ほどの夢が気になって眠れなかった。


(あの言葉はなんだったんだろう? )


 マシューは奴が何か悪いことをしそうだと察知し、咄嗟に体が反応して口からあの言葉が出たのだ。

 だが、彼はあれが何なのか分からない。


(お父さんが言ってたのかな? )


 多分そうだろうとマシューは結論づけた。

 だが結論が出ても眠れないのは変わらない。

 なので、安らぎを得ようとヴァージニアのベッドに移動した。


(同じ匂いがする……)


 マシューはヴァージニアから自身と同じ入浴剤の匂いがしたので、声に出さないように笑った。

 どうやら彼は恋愛要素のある刑事ドラマを見て学習したらしい。


(同じ匂い同じ匂いフフフ……)


 何が良いのかはよく分からないが、登場人物達が頬を赤らめてドキッとしていたので良いことなのだろう。

 ちなみにドキッについてはその時たまたま一緒にいたマリリンから聞いた。


(あれ? だけどドキッって悪いときもなるよね。じゃあ良くないのかなぁ)


 マシューはもう一度考えてみたが、やはりよく分からなかった。

 考えすぎてエネルギーを使うと空腹になるので彼は考えるのを停止した。

 そして彼はよりヴァージニアに近づいた。


(ジニー、あったかい……)


 ヴァージニアは温かい。

 マシューは彼女が熱を出した時、とても心配で仕方なかった。

 もうそんな気持ちを味わいたくないので、彼はもう彼女が体調不良にならないように祈った。

 そのおかげなのか、彼女はその後一度も風邪を引いていない。


(よかった。このままずっと元気でいてね……)


 マシューはヴァージニアの健康を願いながら眠りについた。




 ヴァージニアとマシューはそのまま年末年始もキャサリンの別荘で過ごすことになった。

 大晦日にはジョーの店の料理が届けられマシューは大喜びしていた。

 なおジョーは家族と過ごすので届けに来たのは従業員だったため、彼の顔は見ていない。


(キャサリンさんは一人か……)


 キャサリンにはヴァージニアが知らないだけで多くの知人友人がいる。

 だが彼らはそれぞれ年末年始は家族やより親しい人達と共に過ごすようだ。


(私達がいなかったらキャサリンさんは一人だった? 余計なお世話か……)


 かく言うヴァージニアも昨年は一人だった。

 マリリンとジェイコブが彼女を夕食に誘ったのでその時は一緒だったが、その後帰宅して年越しは一人ぼっちであった。


(一族の人と一緒なんだから一人ではないか……。いつも一人だったら別に一人でも、ね。ただ特別な日だからって変だよね)


 記念日等で家族や親しい人と過ごすのは何故だろうか。


(変なの……)


 ヴァージニアは十時のおやつを食べて満腹になって昼寝を開始したマシューを見つめた。

 なおジョーが気を利かせてコロッケをメニューに入れていたので、マシューはコロッケ不足を解消されている。


(新しい本を借りてこよう)


 ヴァージニアはマシューが目覚めて彼女を探すといけないので、彼の枕元にメモを残した。

 これは気配を探れるマシューには必要ないだろうが、念のためである。

 彼女はそっとドアを閉めてキャサリンの元に向かった。


「あら、もう読み終わったの? 」


 キャサリンは休日でも何かの書類に目を通していた。


「マシューが静かだったのですぐに読めました」

「静かって、まさかあの子寝てるの? 食っちゃ寝を繰り返してたらすぐに丸くなるわよ」

「確かにちょっとぷにぷに感が増しているような気がします」

「んー……魔法の応用をさせましょうかね」


 キャサリンは何かを思いついたようだ。




「僕は気持ちよく寝ていたのに起こされてちょっぴり不機嫌だよ」


 ヴァージニアとマシューはキャサリンに屋外に連れてこられた。

 いつものように魔法で作った空間ではないようだ。


「これからマシューには魔法の応用編を学んでもらいます」


 魔法でさらにどんなことが出来るのかを学ぶようだ。


「そういうのって本で見ればいいよね」

「本で見ただけと、実際に体験するのとじゃ理解に大きな差が出来るわ。瞬時に対応しないと取り返しがつかないことになるのは様々な経験から分かっているでしょう」

「むぅ……」


 分かっているのにマシューが反抗的な返事をしたのは眠いからだ。


「ただでさえ貴方は魔力の無駄使いをしているんだもの」

「むむぅ……」


 多少はましになっているが、キャサリンに言わせるとまだまだだそうだ。


「疲れるだけでなく、その場に無駄なエネルギーが残るとどうなると思う? 」

「皆がピリピリする」


 これは警戒するの意味である。


「それとほかのエネルギーを引き寄せちゃうから危険」

「分かっているじゃない」


 キャサリンはニヤリと笑って、マシューに魔法を放った。

 マシューはすかさず防御壁を作って防いだ。


「わっ」


 マシューは魔法を防いだのだが、すぐに防御壁を解除してしまったためマシューは被弾してしまった。

 時間差の攻撃だったらしい。


「相手はあらゆる方法を使って攻撃を喰らわせようとしてくるわ。私は何をするのか言わないから自分で判断しなさいね」

「分かった! 」


 マシューはやる気が出てきたようだ。


「この調子でどんどんやっていきましょう」


 その後マシューは五感を封じられたりと様々なピンチに見舞われたが、魔法を駆使して攻撃を回避し続けた。

 最初は慌ててもすぐに対応出来るのは流石マシューである。

 だが、時間切れだ。


「……僕はお腹空いたからもうやりたくないよ」

「お昼の時間過ぎてるもんね」


 マシューの腹から音がしている。

 彼のやる気は満腹度次第だ。


「空腹時に緊急事態になるかもしれないんだから、その練習をするわよ」

「料理冷めちゃうよ。せっかく用意してくれたのに悪いよ」


 マシューの腹はずっとぐーぐーと鳴っている。


「それが彼らの仕事よ」

「そうだけど、こうして待たせている間、お昼の仕事が終わらないんだよ。キャサリンさんだって仕事がずっと終わらなかったら嫌でしょ」

「つべこべ言わない! 」


 キャサリンはまだマシューが何か言っているが気にせずに攻撃した。


「何すんのさ! キャサリンさんも少し反省した方がいいよ! 」

「も? 」


 ヴァージニアは他に誰が反省したのかと首を傾げる。


「私が何を反省するって言うのよ」

「キャサリンさんは身のまわりに世話をしてくれる人がいるのが当たり前になっちゃってるんだ! 」

「おー」


 ヴァージニアは別荘に来てから、よりそう感じるようになっていた。

 キャサリンは生まれた時から使用人に囲まれているからか、どこか偉そうなのだ。

 実際にキャサリンは数々の功績をあげているし、キャサリンと使用人とでは本家と分家という関係であるのでそんな態度になるのも仕方ない。


「ちょっとヴァージニア! 貴女、何関心してるのよ! 貴女も魔法を浴びたいの? 」

「それはご遠慮願いたいです」


 ヴァージニアはそう言いながらキャサリンから離れて屋敷に近づいた。

 彼女はこれでキャサリンが魔法を使用出来ないと思った。


「私のコントロールを舐めてるの? 」


 ヴァージニアは余計にキャサリンを怒らせてしまったらしい。

 キャサリンの目はギラリと輝き、ヴァージニアは蛇に睨まれた蛙状態になった。


「貴女も特訓よ」


 そう言ってキャサリンはヴァージニアに向かって魔法を放とうとしたが、今度はそれを見たマシューが怒った。


「ジニーに何すんだ! 」


 マシューは即座にキャサリンの周囲に防御壁を作り閉じ込めた。


「あ……」


 キャサリンの魔法はその防御壁の中で爆発したようだ。


「ちょ、……大丈夫なの? 」

「ジニーに酷い事をしようとするからだよ! 」

「いやいや、私逃げられたし……」


 キャサリンだったらすぐに魔法を放てていたはずだが、ヴァージニアが転移魔法(テレポート)を発動出来るまで待っていたようだった。


「そうよ、マシュー……。臨機応変に魔法を使えたことは評価するわ。だけど、状況を冷静に把握してから行動しましょうね? 」


 防御壁の中から今まで見たことのないほどボロボロになったキャサリンが出てきた。


「ヒィ! お化け! 」

「え、マシューはお化けなんて怖くないよね? 」

「あんた達! 覚悟なさい! 」


 二人はキャサリンからこってりと絞られたのだった。




 ヴァージニアは余計なことを言った!

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