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魔水晶を作る!


 ヴァージニアとマシューは魔水晶を作る工程を見せてもらった。

 彼は自室に戻るなり早速自作することにしたようだ。

 おかげでヴァージニアはマシューの話相手から解放され読書が出来る。

 執事もマシューが不審な動きをしないと判断したのか、二人の側からいなくなった。


(いや、私は見てたほうがいいのかな? )


 マシューは執事から貰った魔水晶の欠片を並べている。

 どうやら選別しているらしい。


「これでいいかな」


 マシューは魔水晶の欠片を摘まんで魔水晶作成を開始した。


「んむむむむ……」


 マシューは眉間に皺を寄せて唸っている。

 ヴァージニアは彼ならあっという間に作ってしまうだろうと思っていたので驚いた。

 彼女が思っていたより難しい魔法のようだ。

 もしや小さいから魔力のコントロールが大変なのだろうか。


「あわわ固定固定……」


 マシューは一層目を作れたようで、ふぅと一息ついた。

 彼はそのまま休まずに作業を続けていった。




 ヴァージニアは持って来た小説を一冊読み終えた。

 元々読み途中だったので、実際に読んだのは半分ぐらいだ。


(マシューはどうなったかな? )


 マシューは唸り声を上げていないので順調のようである。

 とヴァージニアが思っていたら、彼は手を机の上に置いた。


「よしっ! 」

「出来たの? 」


 マシューはちょうど作り終えたようだ。

 ヴァージニアはどれどれと思いながら彼の手元を見てみた。


「……あれ? 」


 マシューの手元には綺麗な粒が沢山並んでいた。

 一瞬見ただけでは木の実のようにも見える。

 大きさはヴァージニアの親指ぐらいだ。


「もうこんなに沢山作ったの? 」


 マシューはあんなに唸っていたのにも関わらず、短い時間でかなりの個数を作ったようだ。

 流石と言うべきか。


「一回やったら後は簡単だったよ」

「すごいね。……サイズはこのくらいの大きさでいいの? 小さくない? 」


 目の前にある魔水晶はヒューバートの持ち物だった石と比べるとかなり小粒だ。


「これはとうめいの仲間達用だよ。だから小さくていいんだよ」

「なるほどね」


 魔水晶が大きすぎたら、とうめいのように大きくないスライム達は体の中に入れられない。


「早く牧場に行けるようにならないかなぁ」


 マシューはスライム達が喜ぶ姿を想像したのか、にこにこと笑顔だ。

 それはまるで写真集の一ページかと見間違うほどである。


「もう年末年始の特番になるから、謎の少年特集はやらないかもね」


 年末年始の特番は予め収録されているものばかりだ。

 まさかこれを放送しないで、実在するのかも分からない少年の特集をするだろうか。


「いやぁ、そういうオカルトが好きな人って結構いるでしょ? 」


 マシューは呆れたような顔をしているが、幽霊と会話出来る彼が言っているのは面白い。


「陰謀論とかね」


 ヴァージニアは勇者と魔王の話もマシューがいなければ信じていなかっただろう。

 勇者と魔王の間に子どもがいるのも、天変地異を全て魔王のせいにしているのも、ただのトンデモ説として楽しむぐらいだった。


(……マシューの役目、役割ってなんだろう? )


 マシューの両親は彼に何かを託したはずだ。

 キャサリンやリチャードは知っているようだが、ヴァージニアは教えて貰えていない。

 彼女はそろそろ教えて貰えるのではと思っているが、何をもってそろそろと思ったのかは不明だ。

 前の世界の記憶だろうか。


「あ、そうだ! オルルとトロロはこの魔水晶いるかな? 」

「フサフサな毛があるから平気でしょう」


 オルトロスには狼特有の立派な毛並みがある。

 彼らなら吹雪の中でも耐えられるだろう。

 ただ夏は暑そうなので、冷却機能のある魔水晶があるといいかもしれない。


「そっか! ちゃんとブラッシングしてもらえてるかな? 左右で間違えられてないかな? ちゃんとご飯貰えてるかな? 」

「局長さん達が面倒を見てくれてるから大丈夫だよ」


 オルトロスは人懐っこい性格のようなので、最初は怖がられてもすぐに可愛がられるだろう。


「年末年始って研究所も休みじゃない? 世話して貰えないよ」

「んーじゃあ誰かが家に連れて帰るのかもねぇ」


 ヴァージニアは休み中も誰かが世話をしに研究所にやってくると思っているので、これは冗談である。


「あんなに大きな体なのに連れて帰れるなんて凄いね! 僕も大きな家に引っ越そうかな。そうしたら一緒にいられるよね」

「あ、あれ? 」


 マシューはヴァージニアが言った冗談に気付いていない。


「ハッ! この屋敷も広いから年末年始だけでも一緒に過ごせないかな? よぉし、キャサリンさんに聞いてみよう! 」


 マシューはいつものように通信機をヴァージニアに渡した。


「自分で聞こうね。マシューが望んでるんだからさ」

「ジニーは一緒にいたくないの? 」


 マシューはオルトロスがするような子犬のような表情をしている。


「そう言うわけじゃないけど、皆さん他に仕事があるから、マシューがご飯の他にも排泄物の処理をするんだよ。途中でやっぱりやめたって出来ないからね」


 これはペットあるあるで、言い出した子どもではなく、結局母親が世話をするのだ。


「魔法ですればいいよね。はい、早くキャサリンさんに許可貰って」

「言い出しっぺがしなよ」


 ヴァージニアはマシューに通信機を押し返すも、彼もぐいっと彼女の手を押した。


「そんな法律ないよ」


 実に憎たらしい言い返しである。


「そもそもキャサリンさんが許可すると思う? 」


 キャサリンは別荘を汚されるのを嫌がるだろうし、いくらマシューが世話をすると言っても飼育場所を用意するのは彼ではない。


「聞いてみないと分からないよ。だから早く聞いて欲しいな」

「そんなに気になるなら自分ですればいいでしょう」

「ジニーがお願いした方が許可を貰える可能性が高くなると思うの」


 マシューは言い返すの必死であることに気付いていない。

 いつもなら彼が真っ先に気が付くのだが。


「ええー。私でも無理だと思うけどなぁ。そうだ。何て言ったらいいのかアドバイスしてよ」


 となればヴァージニアは時間を稼ぐだけだ。


「んもう! そんなの臨機応変にやってよ! 早くキャサリンさんに聞いてってば! 」

「何を聞くのよ」

「きゃー! 」


 マシューはキャサリンの登場に驚いて、部屋の中央から窓へ向かって一直線に駆けていった。


「年末年始はこのお屋敷でオルトロスの世話をしたいそうです」

「はい無理。却下よ、却下」

「ケチケチ~ケチケチのケチ~ケッチケチ~」


 マシューは久しぶりにケチの歌を歌い出したが、ヴァージニアには前回と同じか判別出来ない。


「何とでもいいなさい。……ところでこれは何よ」


 キャサリンはマシューの扱いに慣れたのか、苛ついた表情にはならなかった。


「スライム達用の懐炉代わりの魔水晶です」

「ああなるほどね。それでご丁寧に一つ一つチマチマと作ったってわけね」


 キャサリンによると大量生産出来る方法があるそうだ。

 だが、魔法円等を駆使するので面倒らしい。


「頑張ったのに……」

「初めてでこれだけ出来れば大した物よ。さあ、夕食の時間だから片付けなさい」

「はーい」


 マシューはティッシュに魔水晶を包もうとしたので、ヴァージニアは代わりにハンカチを渡した。




 夕食後、キャサリンは二人の部屋にやって来た。

 やはり自分の部屋には入れたくないらしい。


「どうしたの? 眠れないならお話し聞くよ」

「え、何様よ」


 キャサリンはすかさず眉間に皺を作った。


「すみません。……キャサリンさんは年末年始はジェーンさんと一緒に過ごさないのですか? 」

「彼女の孫夫婦が来るから邪魔しちゃ悪いと思ったのよ」

「ふぅん。キャサリンさんは孫と過ごさないの? いるんでしょ? 」


 マシューはずかずかとキャサリンのプライベートに侵入した。

 子ども特有のものなのか、彼の性格なのかは不明だ。


「子どもにも会ったことないのに何言ってるのよ」

「その子達にも青い炎の精霊さんは力を貸してくれてるの? 」

「多分ね」

「……遺産とかどうなるの? 」


 マシューは刑事ドラマで遺産目当ての事件を見ていたので出てきた発想だろう。


「私を殺すんじゃないわよ。……そうね、提供して欲しいと言われた時に、あちらから遺産は相続しないっていう条件を提示してきたわ。本当に私の遺伝子目当てね」


 子や孫はキャサリンに似て筋肉質なのだろうかとヴァージニアは想像した。


「ふーん。ねぇねぇ、美味しい物を食べたから心変わりしてない? 」

「は? ああオルトロスね。ないわね。それに美味しい物はいつも食べてるから」


 キャサリンはフンと笑った。


「ところでさ、コロッケが出てこないよ。なんで? 」


 マシューが突然食べ物の話をしだしたのは、これが言いたかったからだろう。


「さあ? レパートリーにないんじゃないの? 知らないわよ」

「じゃあ僕が作るからキッチンを貸して」

「厨房に空きがないから無理ね」

「さっきから無理ばっかりだ! コロッケを食べないと禁断症状が出ちゃうよ! 」


 マシューはキャサリンに抗議したが覆らなかった。

 なので彼はいじけながら風呂に向かった。




 マシューはコロッケ不足が深刻だ!

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