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別荘!


 自称勇者研究家の騒動は、いつものようにキャサリンによって処理された。

 どうやらショーの最中に魔法の暴発事故が起きて、スタッフや観客が眠ってしまったことにしたそうだ。

 なのでオルトロスやマシューの登場などは、夢の中の出来事だと錯覚させる魔法をかけたらしい。

 記憶の改竄や操作とまではいかないが、似たような魔法とのことだ。


「けどさぁ、皆が同じ夢を見るっておかしいよね。それにさぁ、そういう魔法が効きにくい人もいるよね」

「それが今の状況だね」


 マシューの存在を覚えていた人がマスコミに伝えたらしく、面白がった彼らは謎の少年を連日報道している。

 例えば悪人に立ち向かう勇敢な少年だの、正義感あふれる少年だの、挙げ句の果てには少年の正体は王侯貴族の隠し子ではないかなどだ。

 これは少年の情報が出てこないので、情報操作が出来るほど身分が高いの人物の仕業に違いない、となったからである。

 なお自称勇者研究家達は反省の色を見せているそうで、彼はオルトロスの入手方法を自供した。

 しかし提供者のアジトは蛻の殻だったそうだ。


「テレビは美味しい物だけをやってくれればいいのにね」

「そうだねぇ」


 現在ヴァージニアとマシューはマスコミを避けるためにキャサリンの別荘にいる。

 ここはジャスティンの屋敷ほどではないが、大変立派な建物だ。

 マシューはもちろんのこと、ヴァージニアも豪華な屋敷に宿泊出来て、さらに美味な食事が用意されて喜んでいる。


「どうなるんだろう? いつ家に帰れるかな? 」


 と思いつつもやはり住み慣れた家が一番だ。


「騒ぎが落ち着いたら帰れるよ」


 テレビには少年の似顔絵が出ているが、どれも遠目に見たもので顔の詳細が分からなかったためか、マシューとは似ても似つかない。

 彼の特徴的な長い三つ編みも防寒具のおかげなのか言及されていないし、もちろん虹色の目も報道されていない。


「隠れる必要ってあったのかな? だってまだ僕だって分かってないんでしょう? 」

「何かの拍子にマシュー本人を見て全てを思い出したら大変だよ」


 ヴァージニアはドラマなどで見た記憶喪失あるあるを言った。


「テレビとか写真に写らないようにすればいいんだよね。要するに、ほとぼりが冷めるまで隠れてればいいんだ」

「ジャスティンさんにも写真を出さないようにお願いしたんだって」


 ジャスティンはマシューが女装している写真を持っている。

 かなり姿が変わっているのでこの写真を見てもマシューとは結びつかないだろうが念のためだ。


「ここは大きいから外に出なくても運動が出来ていいね。身のまわりのことを全部してくれるし。ただ……」

「ただ……? ああ、コロッケを出してくれないのね」


 他の芋料理は出されているのでマシューは不機嫌ではない。

 ちょっと拗ねているぐらいだ。


「桃は出してくれたけどね。後なんかオレンジ色の懐かしい味がする果物」

「カキって言ってたね」

「そう、それそれ」


 二人は暇だ。

 キャサリンの別荘に避難してみたが、何もすることがないのでとても退屈であった。


「ねぇジニー、掃除の手伝いする? 」

「この屋敷の皆さんは魔法が使えるみたいだから必要ないと思うよ」

「だよねぇ。キャサリンさんの親戚だもんねぇ。あーあ暇だなぁ……。幽霊もいないし」


 仮に幽霊が出ても屋敷の人達は自分で解決出来る。


「精霊さんはいないの? 」

「えー青い炎の精霊さんの力で溢れているこの屋敷にいるわけないよー」


 精霊は他の者の力を感じたら近づいて来ない。


「ジャスティンさんのお屋敷の庭みたいに誰かいたりしない? 」


 立派な庭なので青い炎の精霊を気にしない精霊が住み着いていてもおかしくない。


「いないよ。燃やしちゃう精霊さんだから嫌だと思うよ」


 もしや青い炎の精霊はそれが原因で誰も近づかなくなり陰気になってしまったのではないか。

 そうだとしたら気の毒としか言えない。


「そっか。じゃあ誰かに魔法を習ってみたら? 」


 どの人もキャサリンと同じく魔力量が多い。

 従って魔法も得意だろう。


「ジニー、年末は皆忙しいんだから無理だよ。やだなぁ」

「そっかぁ。邪魔しちゃ駄目かぁ」


 ヴァージニアは読書でもしていれば暇を潰せるが、マシューだとそれが出来ないため、彼女は彼に付き合って話をしていた。

 だが彼は彼女の気遣いを理解出来ていない。

 いつも一緒なので彼と同じ事をするものだと思っているからだ。


「とうめいを呼べたらいいのにねぇ」


 とうめいがいたらヴァージニアは彼の相手をするのから解放される。

 しかしマシューととうめいが遊びだしたら屋敷が滅茶苦茶になってしまう。


「他の子達が寒くなっちゃうから無理だねぇ」

「だよねぇ。あの石って結構高いみたいだもんねぇ。僕びっくりしちゃった」


 エリートで高給のヒューバートでさえ、とうめいが石を破壊しようとしたときに焦っていた。


「小さい石なら買えるかな? とうめい達のために何かしたいよ」

「それなら品質は下がるけど火属性の魔石を買えばいいんじゃない? 」


 ただし長期間は使用出来ないので使い捨てだ。


「ねぇジニー、魔石って何処にあるの? どうやって加工してるの? 」

「もしかしてマシューは自分で採集と加工をする気? 」


 マシューは急にやる気満々になり、石を探しに行くと言って防寒具を着だした。


「実はね、庭に良さそうな石があったんだよ。きっとこの屋敷の皆の魔力の影響を受けて力を持ったんだ! 」

「ええー」


 ヴァージニアはマシューによって庭に連れ出された。




 マシューは庭に転がっている石を手に取って真剣な眼差しで見つめている。

 ヴァージニアはどの石も同じに見えるが、彼には違って見えるらしく色々と比較している。


「ジニーも探して! 」

「私には分からないよ」


 マシューは持っていた石を無言でヴァージニアに押しつけた。

 その時の彼は目つきの悪い美少年になっていた。


「分かった? これが青い炎の精霊さんの力を浴び続けた石だよ」

「ちょっとだけ温かい……かな? 」


 ヴァージニアはこの石にマシューの体温が移ったのではと思ったが、しばらく持っていても温もりを感じたので違うようだ。


「おや、お二人揃って何をなさっているのですかな? 」


 二人が怪しげな行動をしているので、キャサリンから見張るように言われたのであろう執事が話しかけてきた。


「温かい石を探してるんだよ。友達のグリーンスライム達にあげるの」

「そうでしたか。ならば石に力を付与するのはいかがでしょう? 確かマシュー君は出来ると聞いておりますが」

「……忘れてた! 」


 二人は良さげな石を持って、すぐに屋敷内に戻った。

 ヴァージニアは寒い思いをしなくて済んで安心した。


「どのくらい長持ちするのかな? 」


 マシューは執事に質問した。

 執事はこのまま二人の行動を見守るようだ。


「素材にもよりますし、術者の技量にもよります」

「この石じゃ駄目? 」


 マシューは執事に石を手渡した。


「ふむ、自然に力を付与された石ですか。これにするとなると上書きすることになります」

「なんだかあんまり良い反応じゃないから別の石の方がいいのかぁ……」


 物わかりがいいマシューである。


「ええそうです。魔力を蓄積しやすい石でないと無駄に魔力を消費するだけです」

「しにくいのがあるの? ブラシは平気だったよ」

「石は長い年月を経てここに存在しているので少々頑固なのですよ」


 執事はふふふと笑ってマシューに石を返した。


「小さい石ころさん達とあんまり意思疎通が出来ないのはそのせいかな? 」

「マシュー君が名付けた石ころさん達ですね」


 執事もキャサリンの一族の人間なので、マシューが何者で何をしたかを知っている。


「僕は石ころさん達はおっきなゴーレムになって悪い奴らと戦うんだと思ってたのに、違うみたいなんだ」

「悪人に抗えるのは武力を持っている者だけではありません。色んな方法があるのです」

「別の手段で戦うってこと? 」

「そこまでは分かりませんが、他の役目があるのでしょう」


 執事の言い方から推測すると、石ころ達にマシューが命名するのは必然だったようだ。

 ではとうめいやオルルとトロロにも役目があるのだろうか。


(とうめいはマシューが出来ない回復能力、オルルとトロロは……なんだろう? 移動……、ではなさそうだし。ただの友達? )


 オルトロスは現在王立研究所に預けられており、マシューと別れる時には子犬のように寂しがっていた。


(魔獣じゃなかったんだよね……)


 オルトロスは普通の狼をくっつけ、さらに成長促進剤のような体が大きくなる薬品で通常の個体より大型になったそうだ。

 マシューは鎧熊のブラッドのように喋るようになると思っていたらしく、これを聞いた時はショックを受けていた。

 だが、今は特に気にしていないようである。


「ジニー、聞いてた? 」

「え、何を? 」


 ヴァージニアが考え事をしているうちに、マシューは執事にとうめいが現在所持している石について説明したようだ。

 よって執事はちょっと温かい程度の石では代用にならないと理解した。


「懐炉用の石はやっぱりジェムストーンリザードのがいいんだって。同じくらい効果のあるのを作ろうとすると、魔水晶の品質が良くないといけないから高くなっちゃうってさ」


 そうしたらジェムストーンリザードの石を買った方が長期間使えて買い換えなくていい分、安く済むそうだ。


「ですが、中品質の物なら作れますよ。魔水晶の破片を核にして、地属性の魔法で周囲を覆って石を作るのです。流石にそのトカゲの石ほど大きくはなりませんがね。仮に出来ても耐久度が低いでしょう」

「人工魔水晶ですか……」


 天然なら採掘や加工に手間暇かかるが、人工ならそうでもなさそうだ。

 そんな便利な方法があるのに魔水晶がそこそこ高価なのは何故かとヴァージニアは思った。


「魔法で作るってことは、その魔法が消えないようにしなきゃだね」


 魔法で作成した物がそのまま存在し続けないといけないため、高度な技術がないといけないそうだ。


「ええ、覆って固定を何度も繰り返すので難しいですよ。この屋敷に得意な者がいますので、見せて貰いましょう」


 ヴァージニアとマシューは執事に連れられて別室に移動した。




 ヴァージニアとマシューは柿を食べた!

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