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補助魔法!


 とうめいは飛び跳ねた後、体の左右を細く伸ばした。

 それらは腕なのか耳なのか角なのか、それともただの突起物なのかは不明だ。


「ジニー、とうめいはなんて言ってるの? 」


 とうめいの翻訳はヴァージニアがするのが当たり前になっている。

 ヴァージニアはとうめいを観察して、腕にしてはいつもと形が違うのに気付いた。


「えーっと……。とうめい、それは耳でいいのかな? 」

「! 」


 正解だったようで、ヴァージニアはとうめいに拍手された。

 ヴァージニアとマシューは見慣れているが、他の人達は初見なのでざわついた。


「先端が少し尖ってますね。何かの動物でしょうか? 」


 狐や猫かと言った人もいるが、それにしては少し耳が長い。

 それに狐や猫だとしたら、いつしかの鎧熊のブラッドの真似のように頭の上に耳を付けるはずだ。


「あ……。とうめい、それってもしかしてエルフの耳かな? 」

「! 」


 またも正解だったようで、ヴァージニアはまた拍手された。

 エルフと聞いたらもう答えは分かる。


「リチャードさんが助けてくれたの? 」

「! 」


 とうめいはいつもの丸い姿に戻り、ピョンピョンと跳んで喜んだ。


「はぁ? あいつがぁ? 」


 キャサリンは思いきり機嫌が悪そうだ。

 確かに封印解除の仕事を断って牧場に行っていたら怒りたくもなるだろう。


「ソフトクリームを食べに行ったのかな? 」

「食べに行ったにしても、暗くなったら牧場は閉まっちゃうよ」


 日没していたあの時間なら確実に営業時間外のはずだ。


「その話は後でしましょう。それで、とうめいさん。リチャードさんがマシュー君の転移魔法(テレポート)に何らかの手助けをしたのですね? 」

「! 」


 リチャードなら目的地が閉ざされている空間であっても転移魔法(テレポート)を可能にしてしまうらしい。


「同じ事をキャサリンさんの魔法にすればいいのかな? 」

「補助魔法ですか。となると私と……誰かいます? 」


 ヒューバートは一同の顔を見て、最後に視線を少し下に向けてマシューを見た。


「僕? リチャードさんからちょっと習ったぐらいだよ」

「まぁマシュー君なら大丈夫だろう。それで、他にはいます? 」


 おずおずと手を上げた人が数名いたが、今の状況だと自信がないそうだ。

 誰もが消耗している。

 だからこそここから一刻も早く出たい。

 だが、上手く力が使えないので成功するか不安だ。

 ずっとこれがループしてしまう。


「いつまで閉ざされたままなのか分からないので、やるしかないでしょう。一番体力が残っているのは今なのですから」


 局長の言葉が決め手となって実行することになった。

 まずは全員がキャサリンが魔法で作った空間に避難する所からだ。


「皆さん、属性やオーラの形状が違うので、誰かが調整をしないといけません」


 これはキャサリンに負担をかけないためだと局長は補足した。


「この調整役をマシュー君、お願い出来ますか? 」


 局長は少し身を屈めてマシューと視線を合わせた。


「そんなのやったことないよ。それになんで僕なの? 」

「全属性が均等に使えるからです。……分かりました。得意ではありませんが、私もやりますから真似してみてください」


 虹色の目同士がじっと見つめ合った。


「うん! 見本があるなら出来ると思う! 」


 局長と補助魔法を使用する人達は手を繋いで輪を作った。

 そして彼らは目を閉じて深呼吸し集中し始めた。

 ヴァージニアはこの間に念のため、とうめいの体の一部を掴み、とうめいが置き去りにならないようにした。


「こっちは準備オーケーよ」

「では皆さん。発動させてください」


 この局長の声と同時に景色が切り替わった。

 ヴァージニアとマシューが何度も見たことがある空間だ。

 しかし他の人々は初めてなので驚いて呆然としていた。

 慣れているはずのヴァージニアでさえ毎回驚くので無理はないだろう。


「何とか上手くいったわね。ここも上手く保ててるし。で、次はどこに行くことにする? 」

「あの研究施設じゃいけないの? 」


 あそこならば遠くないのでキャサリンの負担も軽くなる。


「何言ってるの。あそこも森の中でしょう」

「それもそうなのですが、ならば何故、誰もそこに避難してないのでしょうか? 私達はかなり歩きましたが、どういうことか一度も施設を見ていないのです」


 他の人達も同じようで頷いていた。

 キャサリンは皆と合流するまでずっと同じ位置にいたので知らなかったのだ。


「そんなの森は森、建物は建物だからだよ。だから別々の空間なんだよ」

「ってことは研究施設にいる人達も閉じ込められてる可能性が高いですね」


 森の中よりは風雨に晒されない分安全だろうが、もし森のように施設内が荒れていたとしたら、研究用の薬品や機材などがあるので危険である。


「今研究施設に行ったら出られないってことですか? 」


 ヴァージニアが局長に聞くと、彼女は少々渋い顔をして頷いた。


「んー……では目的地を王都内にします? 」


 ヒューバートは局長の部屋にすればいいと言った。

 そこならそこそこ広さもあるので、今この場にいる全員が入れる。


「ですが、研究員の無事を確認するためにも行くべきでしょう」

「そこに行ったらまた移動するの? 研究員がいたらキャサリンさんが一度に移動させる人数増えちゃうよ。王都に助けを呼びに行く人と施設に行く人の二つに分けたら? 」


 研究施設に行く人は待機して助けを待つらしい。

 マシューの意見に皆が同意しそうになるとキャサリンが口を挟んだ。


「勝手に決めないでちょうだい。体力や魔力があったら簡単だけど今は無理よ」

「魔法を解けばいいでしょ! 」

「さっきのヴァージニアと同じこと言うんじゃないわよ! 」

「えー? ジニーと同じぃ? ウフフ」


 マシューはキャサリンに怒られたのに何故か嬉しそうだ。

 だが他の人々が気になるのはそこではない。


「魔法? 」

「えあーっと、キャサリンさんは美を追求なさっているので、体型維持の魔法をかけてらっしゃるんですよ」


 ヴァージニアは我ながら良い嘘を思いついたと思った。


「ええまぁそうね」


 本当は変身魔法だが、キャサリンは体の大きさも変えているので間違えではない。


「そういうのを公表するのって恥ずかしいでしょ。フフッごめんなさいね」

「体型維持の魔法でしたら解除してもさほど変化ないでしょう」


 マシューはフーンと言いながらも何か良くないことを言いたそうにしていた。

 おそらく体積が全然違うのに、とかだろう。


「ええっと、どこまで行きましたっけ? そうだ、どこを目的地にするのかって話でしたね。研究施設でいいですかね? 」

「そこで休憩してからならいけると思うわ。補助魔法が使える人も多分いるでしょうし」

「休憩出来るかなあ? 」


 マシューがニヤリとしながら言ったこの言葉は当たってしまった。




「ちょっ……何よこれ……」


 キャサリン以外も呆気に取られた声を出していた。

 最初に集まった時の部屋に移動したのだが、明らかに様子がおかしかった。


「壁とか天井とか床とかドアとかが変な事になってるね」


 床が壁になっていたり、天井が床になっていたりしていた。

 他の部屋も同じだろうか。


「こういう異常事態にならないように魔法がかけてあるんですけどねぇ……。あれだけの乱れには効かなかったのでしょう」

「幸い重力は元のままのようですね」


 そのおかげで天井にある椅子や机などは落ちてこない。


「怖くて廊下がどうなっているのか見られない」


 ヴァージニアは床にあるドアの横でしゃがみ込んだ。

 するとマシューも彼女の横にしゃがんだ。


「ヘヘッ廊下じゃないかもね」


 マシューが躊躇いもなく開けると、目の前に階段が現れた。

 ドアから出てすぐに上へと続く階段があるのだ。


「ここは一番上じゃないっていうのが分かったね」

「いやいや、階段があるだけかもよ」


 ヴァージニアとマシューは見なかったことにしてドアを閉めた。


「おや、確かめに行かないんですか? 」


 ヒューバートが微笑みながらやって来た。

 彼は作り笑顔ではなく本当に楽しんでいるようだ。


「何が起るか分からないので控えるべきかと思いまして」


 足元にあるのに上に続く階段なんて意味不明すぎるので触らないに限る。


「そうね。どういう状況か分からないからこの部屋で待機すべきよね」

「私もその意見に賛成ですが、研究員の安否の確認はどうします? 」

「同じ建物内だから通信機が使えるかもよ! 」

「なるほど、試してみましょう」


 局長が何人か研究員の連絡先を知っているとのことだったので、早速連絡をしたところ、多少雑音はあるものの無事に通信出来た。




 リチャードはソフトクリームとパンを食べていた!

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