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とうめい大活躍!


 キャサリンの足元に転がっている男達は気絶しているらしく、ピクリとも動かない。

 彼らは繭ではなくキャサリンの魔法で拘束されているので、命に関わるほどの怪我はしていないようだ。


「犯人ですか? 」

「ええそうよ。爆発時に近くにいたから、とっ捕まえてやったわ」


 ヒューバートが男達を揺すって起こした。

 最初は寝ぼけていたようだが、彼らはキャサリンを見た途端に怯えだした。


「ひぃっ! くくく来るなぁああ! ややめてくれぇええ! 」

「……この人達もキャサリンさんの恐ろしさを知ったんだね」


 マシューはフッと格好つけた笑いをした。


「うわぁああ! 助けてくれぇええ! 」

「ひぃいいいい! 」

「こんな感じで煩かったから気絶させてたのよ」


 キャサリンは再び男達を気絶させた。

 そのおかげで静かになったが、やり方が魔導師らしくなかった。


(魔法じゃないんだ……。スリーパーホールドって言うんだっけ)


 ヴァージニアはキャサリンが男らの首を腕で絞めて気絶させたのを見て顔が青ざめた。


「では彼らはこのままにしましょう。問題はとうめいさんが治療出来るかです。今この方を治せるのはとうめいさんだけですから」


 まだキャサリンも局長もヒューバートも十分に回復魔法が出来ないそうだ。

 他の人達にも回復魔法が得意な人物はいない。


「薬草は今の時期だとありませんが、それぞれ怪我の治療に役立つ植物はこの森にもあります。私が覚えているので、皆で探しましょう」


 局長とヒューバートと動ける人達は植物を探しに行った。

 その場に残ったヴァージニア達は局長達が戻るまでとうめいに食事を届ける係だ。


「とうめい沢山食べて! 」


 マシューは松ぼっくりを何個か拾ってはとうめいに渡していた。


「ねぇマシュー、念動力(サイコキネシス)はまだ出来ないの? 」

「わーそうだったー! 」


 マシューはヴァージニアに言われるまで忘れていたらしい。

 彼は松ぼっくりを念動力(サイコキネシス)で集めてとうめいに届けた。


「マシュー、松ぼっくり以外の物もあげようね」


 幸いこの森には常緑樹がある。

 より北部の森だったらないか、あっても数が少なかっただろう。


「そっか! 」


 マシューは風の魔法で葉を落として、そのままとうめいの上に乗せた。

 そのとうめいの脇で、キャサリンはとうめいに治療の指示を出していた。


「ちゃんと全部の血管繋げたの? まだじゃない。しっかりやりなさいよ」

「!! 」


 とうめいはキャサリンからあれこれ言われ、機嫌が悪くなってしまったようだ。

 ヴァージニアや他の人達の治療をした後なのに、この言われようではとうめいが気の毒である。


「とうめいは疲れているので優しくしてあげてください」

「はぁ? 疲れていたらヘマしたっていいってわけ? 」


 ヴァージニアはキャサリンの言い方にカチンと来た。

 とうめいは別にヘマなどしていない。

 今も必死で男性の怪我を治そうとしている。


「そうおっしゃるのならご自分で治療なさっては如何ですか? 元理事長殿」

「出来たらとっくにやってるわよ」


 キャサリンはずっと腕を組み、眉間に皺を寄せてイライラとしている。


「ご自分にかけている魔法を解いてその分の魔力をお使いになったらいかがでしょう? 」

「言うじゃない……。ま、魔力がほとんどない貴女には分からないでしょうけど、魔法を解いたところで、この人を治療出来るだけの魔力は戻らないのよ」


 キャサリンはヴァージニアを小馬鹿にするようにフンと笑った。


「本当ですか? 試しにやってみてください」

「ハッそんな挑発に乗ると思ってるの? なめられたものね」


 やはりキャサリンにはこの程度の煽りが効果ない。


「……ジェーンさんならご自分の事など考えずに真っ先に助けますよ」

「私はジェーンじゃないもの。するわけないでしょ」


 ジェーンの名を出すとキャサリンの反応は変わる。

 ヴァージニアはそれを知っているので、さらにジェーンの名を使った。


「そうですね。ジェーンさんは皆さんを笑顔にしますけど、キャサリンさんはその逆ですもんね」

「はいはい。怒らせてその気にさせたいんでしょ」


 ヴァージニアはキャサリンに考えを読まれ軽くあしらわれた。

 流石経験豊富なキャサリンだ。

 だが、ヴァージニアはここで引くわけにはいかない。


「ジェーンさんだったら、そもそも怪我人いませんしね」

「ええそうね。その通りよ。それが彼女と私の違いよ。彼女だったら爆発させてなかったでしょうね。分かってるわよ、そんなこと……」


 キャサリンは黙り込んだ。

 ヴァージニアは言いすぎたかと思ったが、最初にとうめいに言いすぎたのはキャサリンなので謝罪しなかった。

 その後とうめいはマシュー達が集めた葉をモリモリと食べて治療を続けた。




 局長達が戻り薬草の代わりになりそうな植物を持って来た。

 木の実や樹皮など様々だ。


「!! 」


 とうめいはそれらを摂取すると元気になり男性の治療が目に見えて速度が上がり、男性の怪我はどんどん小さくなっていった。


「グリーンスライムってこんなに凄かったんだ……」


 誰かがポツリと呟くと、別の人も知らなかったと口々に言った。

 当然マシューはとうめいが如何に凄いかを自慢した。


「とうめいさんは特に治療が優れている気がしますね」

「名前があるから? 」


 名付けられた魔獣や魔物は自我強くなる以外に能力も上昇するのだろうか。


「それもあるでしょうが、命名者の魔力量が多いからでしょうね」

「へぇー。そうだ、ジェーンさんもベリースライムに名前をつけたよ。ピンクちゃんって言うんだ」

「とても分かりやすい名前ですね。ちなみにどういった経緯で名付けたかご存じですか? 」

「この間の退院祝いだよ」


 ヴァージニアはとうめいが暮らしている牧場にいる個体にジェーンが名付けたと補足しておいた。


「昔の話じゃなくて最近の話なのか……。どうりで初耳なわけだ」


 ヒューバートがふむと納得したように頷いた。


「! 」


 人間達が話をしている間に、とうめいは男性を包み込むのを止めた。

 どうやら男性の治療を終えたらしい。

 念のためキャサリンと局長で男性に治療漏れがないかを確認した。


「問題ないわね」

「ええそのようです。とうめいさん、お疲れ様です。私達の代わりにありがとうございました」

「! 」


 とうめいは局長は良い人間だと判別したようである。


「で、あとはこの森から出るだけですね。もう異常事態に気付いて助けに来てくれてもいいのに……」

「森の外も大変なのかな? 」


 森だけが被害に遭っているとは考えにくい。

 もしかしたら風の時のように世界中に広がっているのかも知れない。


「その可能性はありますね」


 局長達が話している間に、ヴァージニアはある事を思いついたのでキャサリンにコソリと話しかけた。


「キャサリンさんの魔法で作った空間に避難するのはどうでしょうか。ここは少し寒いですので、その方が安全ではないですかね? 」

「こんなに大勢入れたくないわね」


 キャサリンはまだ不機嫌なようだ。


「……それはキャサリンさんに負担がかかるからなのか、親しい人しか入れたくないのかどちらでしょう? 」


 ヴァージニアが言うとキャサリンは両方だと言い、さらにこう続けた。


「あれだったら避難も出来るし、空間を開く場所をこの森の外に設定すればここから脱出可能よ」


 ヴァージニアはてっきり入った場所と同じ場所に出るのだと思っていたが、別の箇所に指定出来るそうだ。

 彼女の想像よりかなり便利な魔法のようだ。


「分かっているのにしないのは、体調が万全でないからですか? それとも出し惜しみですか? 」

「後者なわけないでしょう。さっきからチクチクと刺してくるわね」

「ジニーはキャサリンさんの恐ろしさを知らないから、そんな世にも恐ろしいことを言えるんだ」


 いつの間にかマシューがヒューバートと共に来ていた。


「俺を盾にして言うことか? 」


 マシューはヒューバートの脇腹付近から顔を出している。


「私ぐらいで怖いって言ってたら、この先生きていけないわよ」

「キャサリンさんより恐ろしいものって何? お芋がなくなっちゃうとか? 」

「芋かよ」


 ヴァージニアが突っ込むよりヒューバートのほうが早かった。


「ふふ、怖いものの話を置いておいて、ここから出るため案を出しましょうか」


 局長は笑顔で怒っている。


「それなんですけど、とうめいはどうやってこの森に入ったのでしょう? 」

「? 」


 とうめいは体に疑問符を浮かばせた。

 ヴァージニアがとうめいに質問してみるも、何も覚えていないとのことで収穫がなかった。


「僕がとうめい助けてーって叫んだら来てくれたよ。召喚ってやつなのかな? 」

「いいえ、違うわ。貴方がやったのは転移魔法(テレポート)よ」

「そうです。召喚は別の世界、例えば神の世界などから来てもらうんです」


 そんな大層なことが出来る人は現代にいないらしい。


「ふーん……。今は閉じ込められてるけど、この森と牧場は同じ世界だもんね。同じ建物の違う部屋にいる感じかな? 」

「まぁ、そんな感じね。同じ建物内にいるのなら館内放送で呼べるし、なんなら大声を出せば呼べるでしょ。召喚を例えると……そうね、別の建物かしら。違う建物にいる人に来て欲しかったら連絡をしないといけないけど、現代は連絡手段がないの。正確に言うとこちらが何度も接触しようと試みているみたいだけど、あちらが断っているみたいね」


 どんなに手順や交信内容を変えても、一向に返事はないらしい。

 一時期、神がいなくなったのではとの説が出たが、力を借りている人が存在しているのですぐに消えたそうだ。


「へぇ。けどさ、とうめいはどうやって鍵のかかった部屋に入ったの? 転移魔法(テレポート)で入れるものなの? 」


 鍵のかかった部屋とは今ヴァージニア達がいる森の比喩である。


「普通の建物なら入れないようになってるけど、強行突破すれば入れちゃうのよ。入った瞬間に警報ブザーが鳴るけどね」

「ここは建物じゃないから何も起きなかったの? 」


 屋外でも私有地ならば侵入者に反応して警報が鳴る場所もあるが、この森にそのような設備はない。

 しかし現在は空間が閉ざされているので、そもそも入れるのか怪しい。


「とうめいさん自身が転移魔法(テレポート)出来るなら無理に突破したと思えるのですけど……」

「! 」


 人間の話を聞いていたとうめいが何かを思い出したのかピョンと飛び跳ねた。




 とうめいは美味しい物を沢山食べた!

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