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ヴァージニアへの依頼!


 ジェーンが退院してから一週間が経過した。

 リチャードは近隣地域で美食探しをしているらしく、一日おきにギルドに顔を出している。

 その際、彼は必ずキャサリンがいないのを確認してから来ていた。

 そしてその後、マシューが涎を垂らしそうになりながら彼の話を聞くのが定番となりつつある。

 こんな日々を過ごすマシューは今もリチャードの話を思い出しているようで、ブツブツと何かを言っていた。


「旬の食材かぁ」


 マシューはコロッケのアイディアを考えているようで、ダイニングテーブルに置かれている紙にはコロッケらしき絵が描かれている。


「そろそろ作ってみようかな? 頭の中でなら何度も作っているから上手くいくはず……。魔法で掃除をすればジニーに嫌な顔されないし……」


 マシューはこう言いながらヴァージニアの顔をチラチラと見ていた。


「じゃあ明日挑戦してみようか」

「いいの? じゃあお芋の市場に行かなきゃ! 」

「ちょ、初めから食材にこだわる気なの? 町のお店で買えるのでいいでしょう」


 冗談だったらしく、マシューはやれやれという仕草をした。


(うざ……)


 とヴァージニアは思ったが、声には出さず笑顔で流した。




 翌日、ギルドに行くとキャサリンが待ち構えていた

 なので当然リチャードはいない。

 マシューは食べ物の話が聞けなくて残念そうだ。


「なぁに? その残念そうな顔は」

「これは生まれつきの顔だよ」


 マシューはため息交じりで答えた。


「嘘おっしゃい。いつもの貴方の眉毛は垂れ下がってないでしょう! 」


 前置きはさておき、キャサリンから仕事の依頼が入った。

 しかもマシューではなくヴァージニアだそうだ。

 キャサリンが詳しい話をすると言うので、三人は奥の部屋に移動した。


「何かを転移魔法(テレポート)するの? 僕も出来るから一緒に行っていい? 」

「話は最後まで聞きなさい。ヴァージニアに頼みたいのは封印解除よ」


 どうやら重要な物が複数封印されたらしく、その封印解除が出来る人が集められているそうだ。

 ちなみにヴァージニア以外はエリート達だとか。


(何それ行きたくない……)

「……私にそんなことが出来るんですか? 」

「そんなことって。貴女、やったでしょうに……」


 マシューが封印されていた場所くらい強固な封印を解除出来るなら問題ないそうだ。

 むしろそのレベルが封印解除可能なら大歓迎とのことだ。


「特に何も意識してやってないので、出来るかどうか分かりませんよ」

「貴女の場合はただ手で触れればいいだけよ。ヤドカリの力のおかげね」


 確かにヴァージニアはマシューがいた建物で変わった事はしておらず、手で触れただけだった。


「ヤドカリさんにそんな力が……」

「ヤドカリさんすごい! ジニーもすごい! 」


 頬を赤くしたマシューはキャサリンからヴァージニアのボディガードに指名された。

 これを聞いたマシューは大喜びだ。


「ジニーを守るんだね! 任せておいてよ! 」


 マシューは鼻息が荒くなっている。

 当然ながら鼻の穴も大きくなっているので美少年度が下がっている。

 これは由々しき事態だ。


「って言うのは建前で、貴方が一人だと何をやらかすか心配だからよ。ジェーンとジェイコブも忙しいでしょうから、貴方が一人でお留守番出来るか見ていられないでしょ」


 マシューはなぁんだと言って、いつもの顔に戻った。


「ってことは泊まりですね。いつからですか? 」

「今すぐよ」


 ヴァージニア達は急いで家に帰り、急いで泊まりの準備をした。

 一応弁当も用意したのは作り置きが無駄になるのを防ぐためだ。

 マシューはすぐに腹ペコになるので、おやつにちょうどいいだろう。


(魔力の使い方を覚えたはずなのに、なんですぐにお腹空いちゃうんだろ? )


 ヴァージニアは成長期だからだと自身を納得させた。




 三人はキャサリンの空間魔法で目的地まで移動した。

 ここは王都の外れにある研究施設だそうだ。

 周囲は木々に覆われて他に建物はなさそうである。


「見るからに怪しい……。さては悪い奴の隠れ家だね」

「はぁ……んな訳ないでしょう」


 キャサリンによると王都内だと地価が高いのでこの場所にあるだけらしい。


「冗談だよ。それにしてもそこそこ強そうな人がいっぱいだね」


 ヴァージニアには建物しか見えないが、マシューは魔力を察知しているので見えるも同然のようだ。


「まぁ、封印解除が出来るほど優秀な人達だもの。ヴァージニアほど特殊な例なんてほとんどないのよ」

「ジニーすごい! 」


 マシューはまた目をキラキラさせている。

 しかしヴァージニア本人は特殊と言われて苦笑いをした。

 彼女はどうせなら全体的に能力が高かったらよかったのにと思ったのだ。


「喜んでいいのでしょうかね……」


 ヴァージニアは複雑な気持ちになったが、自身の力が必要とされているのは良いことだと思い、その気持ちを振り払った。


「はぁ、本当はリチャードに頼みたかったのに……。あっの野郎ぉ……」


 ヴァージニアはリチャードの代わりらしい。

 彼女が今さっき振り払った物がすぐに戻って来た。


「リチャードさんは美味しい物がないと駄目だよ」

「王都の飲食店なんて全て行ってるでしょうから釣れないわね。まったく……」


 ブツブツ言うキャサリンの背中を見ながらヴァージニアとマシューは研究施設に入った。




 とある一室に到着すると十人くらいの魔導師らしき人達がいた。

 この部屋は会議室のようで机と椅子が並べられており、正面にはスクリーンがある。

 そのスクリーンに向かって座っている人達が一斉にヴァージニア達に顔を向けたので、ヴァージニアの心臓は跳ね上がってしまった。


(なんでこんな奴がとか思われてないよね……)


 ヴァージニアはドキドキしながら席に着きマシューも彼女の隣に座り、キャサリンはスクリーンの前まで歩いて行った。


「これで全員かしら? 」


 キャサリンの言葉に誰かがまだだと言った。

 どうやら王立研究所から追加で来る人がいるらしい。


(うーん、研究所って王都の方かな? 学園都市の方かな? まぁ、王都に近いから王都なんだろうけど……)


 ヴァージニアは嫌な予感がし、唾を飲み込んだ。

 キャサリンは眉間に皺を寄せた。


「む、この気配は……」


 マシューも眉間に皺を寄せて険しい顔になっている。


「失礼いたします。急に参加が決まったもので遅くなってしまいました」


 ヴァージニアの嫌な予感は的中し、研究所の局長の秘書であるヒューバートが登場した。

 遅刻したのに笑顔なのは彼の習慣だからだろうか。


「ジニー、あいつ……」

「目を合せちゃ駄目だよ」


 ヴァージニアとマシューはコソコソと話をした。


(あ、マシューを隠さないと……。髪を解いて変装させればいいかな……ってあれ? )


 ヴァージニアの隣にいたはずのマシューがいつの間にか消えていた。

 彼の魔力も消えている。


(え……)


 ヴァージニアが焦ってキャサリンを見ると、キャサリンは小さく頷いた。

 おそらくキャサリンがマシューだけ魔法で作った空間に移動させたのだろう。


「おや? 」


 ヒューバートはヴァージニアを見つけて隣にやって来た。

 ヴァージニアが何でだよと心の中で舌打ちをしていると、彼が話しかけてきた。


「ヴァージニアさんも参加なさるんですか? 」


 ヴァージニアにはヒューバートが何故お前ごときがと言っているように感じた。

 彼の純粋な質問か単純に会話の入り口として聞いただけとも考えられるので、完全に彼女の被害妄想である。


「ええ、まぁ……」


 ヒューバートはヴァージニアが封印解除出来るのを知らないはずだ。

 彼女は黙っておくべきと判断したので、適当に話を作った。


「キャサリンさんのお手伝いです。移動に魔力を使いたくないそうなので……」

「おおなるほど」


 ヒューバートは納得したようだ。

 ヴァージニアがまだ彼と話をしないといけないのかと思っていたら、キャサリンから指示が書かれた紙が回って来た。

 指示書には地図が書かれており、いくつかの印がついている。

 この場所に行き、封印解除をすればいいのだろう。


「封印した犯人は粗方捕まえたけど、まだ潜伏中の者もいるわ。建物の近くにはいないようだから森の奥にはある程度戦闘も出来る人が行ってちょうだい」

「お言葉ですが、この中で元理事長より戦闘に長けた人はいないのでは? 」


 口を挟んだのはもちろんヒューバートだ。

 彼の言い方だとからかっているように聞こえるので、室内の空気が悪くなった。


「貴方は確か戦闘もそこそこ出来たわよね。貴方が行ってちょうだい」


 ヒューバートはマシューに返り討ちにされたが、戦いも出来るらしい。


「お断りいたします。私は普段事務仕事をしておりますので、専門の方にお任せしたいです」

「遅れてきたくせに拒否するのね」


 キャサリンは鼻で笑った。

 会議室内の空気が悪くなる一方だ。


「急に決まったものですので、遅刻はどうかお許しください」

「だいたい後から来る人って超がつくほど優秀な人じゃないの? まぁいいわ。では他に行ってくれる人」


 この空気を打破すべく、何人かが気を利かせて挙手した。

 どの人が行くか決まらなかったので、その人達で班を作って行く事になったのだが、またヒューバートがしゃしゃり出た。


「互いの特性を知らない初対面でチームを作るのって余計に危険ではないですかね」


 その通りなのでヴァージニアは黙っておいた。


「いい案があるわ。やはりヒューバート、貴方が行ってちょうだい。もう一人来るそうだけど、貴方と知り合いみたいじゃない」

「ええ。知り合いというか上司ですね」


 どうやら局長も来ているらしい。




 ヒューバートは知り合いを見つけたので暇つぶしに話しかけた!

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