蛙!
ヴァージニアとマシューは鑑定魔導具を使いながら、ついでに頭に宝石がついたトカゲも探すことにした。
トカゲの大きさを聞かなかったが、遠くに見える若い男性の物陰を覗き込む様子からして小さいトカゲのようだ。
「これは…石」
「ジニー、これは?」
マシューは地面の黒い点々を指さした。
「それは…蟻だね」
ヴァージニアはだんだん飽きてきたのを感じていた。
だが、仕事なのでもっと情報を集めないといけない。
「これは…蜂か。って見りゃ分かるし……」
ヴァージニアの視線の先には蜂が音を立てながら花の近くを飛んでいた。
「ねぇジニー!みてみて!」
マシューはしゃがみ込んで植え込みの陰を見ていた。
(この喜びようは、またう○こを見つけたのかな?)
「えー、なになに~?」
そう思いつつも明るく話しかけてみた。
ヴァージニアもしゃがみ込んでマシューが見ている場所を覗き込んだ。
「これは…蛙だね」
何かのフンではなかったようだ。
それなのにマシューは大喜びしていたのは何故だろうと、ヴァージニアは首を傾げた。
「……ジニーにはカエルにみえるの?」
「うん。鑑定魔導具にもそう出てるよ。ホラ」
マシューに表示された文字を見せると、彼は眉間に皺を寄せて信じられないといった表情をした。
「えっ、カエルってぴょんぴょんってとぶんでしょ?」
「そうだね」
「ほんとうにジニーにはカエルにみえるの?」
「マシュー、まさか、また騙されたーとか言うんじゃないよねぇ?」
ヴァージニアはマシューの顔をじっと見た。
「いわないよ!」
マシューが頬を赤くして怒り出した。
どうやら本当に蛙ではないらしい。
「じゃあ、蛙じゃなかったらなんなの?」
マシューは生まれついた姿が分かるらしいので、別の姿が見えるのだろう。
「あたまに、きれいないしがついてるよ!」
「ええっ!ちょっと先に言ってよ!」
「あっ!いなくなった!」
ヴァージニアには蛙に見えた生き物は何処かへ姿を隠してしまった。
「マシューの目だけが頼りなんだから頑張ってね!」
「まかせて!」
そう言ったマシューは地面を見ながら走り出した。
「前に気を付けてねー」
「わかったー」
ヴァージニアはマシューを追いかけた。
(思ったより速い……)
ヴァージニアが頑張って追いついたら、マシューはしゃがみ込んでバッタらしき虫を捕まえた。
(さっきと姿が違う…)
「……あっ!」
マシューの手の中の生き物はバッタからトカゲに変わっていった。
トカゲの頭には綺麗に輝く宝石がついている。
「本当に頭に宝石がついている…。そうだ、さっきの人を呼んでくるからマシューはここで待っててね」
「わかった!」
ヴァージニアは転移魔法で公園の端にいる若い男性の所に行った。
「うおっ!」
「す、すみません。マシューが宝石がついているトカゲを見つけました」
「おお!助かる」
二人でマシューを見るとマシューがその場でこちらを見ているのが分かった。
「トカゲがいるから転移魔法でいけないよなぁ」
若い男性が持っているケースには2匹ほどトカゲが入っていた。
「頭の宝石って魔力持ってますもんね」
魔力の影響を受けて失敗するだろう。
なので、二人でマシューの所まで歩いて行った。
「え?姿を変えていた?少し成長した個体がいたんだろうな」
「その子達は子どもなんですか?」
「そうらしい。俺は探知魔法で探し物が得意だから生き物はよく知らないんだが、成体は人間の子どもくらいになるそうだ」
ヴァージニアがへぇと言ったらマシューの叫び声が聞こえた。
「ジニー!はやくきてー!!」
トカゲが逃げようとしているのだろうか。
「なんだ?」
「分かったー!ちょっと待っててー!」
二人はマシューの元に駆けていった。
どんどん大きくなるマシューの手元を見ても特に変わった様子はなく、トカゲは大人しくマシューの手の中に収まっている。
「マシューどうしたの?何かあったの?」
「……」
ヴァージニアがマシューの顔を見てみるとムスッとして、明らかに機嫌が悪い。
「なんだマシュー。嫉妬か?」
(嫉妬?)
「ちがうよ!おひるのじかんになっちゃうから!おなかがすいたから!」
マシューはお腹がすいたらしい。
公園内にある時計を見上げると、もうすぐで正午になる。
「そうか、そうか。分かったから、手の中のトカゲをこのケースに入れてくれ」
「わかった」
マシューが捕まえた個体は、若い男性が捕まえたトカゲ達より少し大きかった。
「どの子も頭の宝石が赤いですね」
どのトカゲの頭にもキラリと光る赤い宝石がついていた。
ついていると言うよりも、生えているだろうか。
「ああ、遺伝だったり、生育環境や食べ物で変わるとかだったかな?他の魔獣でも皮膚や毛の色が変わるのがいたから、コイツらもそうなんだろう」
「赤いとやっぱり火属性なんですかね?」
冬だったら懐炉代わりになるかもしれない。
「じゃないか?これくらい小さいとなんともないけどな」
「ぼくおなかすいた!しんじゃう!」
マシューは大袈裟に騒いでいる。
「一食ぐらい食べなくても平気だよ」
「むぅ……」
「ははっ!これ以上ここにいると、マシューの怒りを買いそうだから俺は依頼主の所に戻るよ。さっき連絡が入ったが、残り3匹らしい。マシューが捕まえたのでちょうど3匹だな!」
「すみません。いつもはこんなんじゃないんですけど…」
「いいって!じゃまたな!」
若い男性はケースを持っていない方の手を上げて振った。
若い男性の後ろ姿を見送ろうとしたら、マシューが話しかけてきた。
「ジニー!おなかすいたってば!」
「朝ご飯ちゃんと食べたでしょう?」
「せいちょうきだから!」
「えー?」
マシューがやたらと騒ぐのギルドに行った。
「あら、お帰りなさい。お昼休憩?」
「そうです」
「コロッケていしょく、ください!」
マシューは元気よく注文した。
(そのうち、いつもの!で通じるのではないだろうか)
「お!マシューか?今日もコロッケだな?すぐに作るから待ってろ!」
厨房からひょっこりと顔を出したおじさんが言った。
(すでに通じそうだね……)
「ジニーはなににするの?」
「その前にうがいと手洗いしようね」
「そっか!わすれてたよ」
ヴァージニアとマシューはうがいと手洗いを済ませた。
「私は何にしよう…」
(安いのにしよう…)
ヴァージニアは節約しなければと思った。
「ジニーなにたべるの?」
「うーん、サンドイッチにしようかな?サンドイッチくださーい!」
少なくともコロッケ定食より安い。
「……それだけでいいの?もっとたべなよ!」
「いや、いいよ。私は食いしん坊じゃないから、これくらいで平気だよ」
「ほんとうに?」
マシューの顔は真剣そうだった。
「本当だよ…。マシューは私を信じてくれないの?」
「しんじるけどさ…ジニーがちゃんとたべてるのか、ぼくはしんぱいだよ」
(実家のお母さんかよ!)
「うん。大丈夫だからね。って、ほぼ三食一緒に食べているでしょう」
「だけどジニーはおとななのに、ぼくとおなじくらいしかたべてないでしょ?」
「そう?朝はマシューがまだ寝ている時にも少し食べてるよ」
「えっ!ぼくにかくれて、おいしいものを?」
マシューは目をまん丸にして驚いている。
(何故そうなる!)
「作り途中で味見とかしてるの!」
「ふぅん……」
ヴァージニアがマシューに疑いの眼差しを向けられたところで、二人が頼んだ食事が届いた。
「コロッケだ!3こもある!」
いつもは大きなコロッケが2つだが、1つ多く皿に盛り付けられていた。
その1つはよく見ると形が少し違う。
「おうよ!1個はおまけだ。違う味だぞ」
厨房のおじさんがわざわざ顔を出してくれた。
「おじさん、ありがとう!」
「ありがとうございます」
「いただきまーす!」
「いただきます」
マシューはおまけのコロッケからかぶりついた。
ザクッといい音がした。
「どうだ旨いか?」
マシューが黙って咀嚼しているのを、おじさんはじっと見ている。
「…なんか、あまいのにしょっぱい」
マシューはコロッケの断面をじっと見つめている。
やや不満そうな顔をしている。
「かぼちゃコロッケだからな」
「これもおいしいけど、いつものが1ばんおいしいよ……」
マシューは口のまわりをテカらせながら言った。
なんだったら衣もついている。
(気を遣ってる…)
マシューはかぼちゃコロッケをもう一口食べた。
「うん。いつものほうが、ぼくはすきだよ」
「そうか、マシューはいつものがいいのか。今度からはいつものコロッケを出すからな」
「うん。ありがとう」
おじさんは厨房に戻り、マシューは残りのかぼちゃコロッケを食べ始めた。
「マシューはそのまま食べるんだね」
「?」
マシューはもぐもぐと咀嚼している。
「ソースかけないんだね」
マシューはコロッケをゴクンと飲み込んで口を開いた。
「ソース?」
「ほら、これ」
ヴァージニアはソースをマシューの目の前に置いた。
そう言えば、説明していなかったなとヴァージニアは思った。
「なにこれ?」
「揚げ物にかけるんだよ。かける?」
「かける!」
ヴァージニアはいつものコロッケにソースをかけた。
「いい匂いでしょ?」
「たべていい?」
「どうぞ」
マシューは口を大きく開けてコロッケにかぶりついた。
マシューはじゃがいものコロッケが好きなようです。