とうめいから指摘!
※2022/08/12 諸事情で最後の文章を削除いたしました。
とうめい達が満腹になったところで、とうめいがマシューの頭とその斜め上と彼の腰辺りを手? で示した。
(帽子と風船と……なんだろう? )
ヴァージニアがマシューの腰というか彼のズボンのポケット付近を見てみると、何やら少し膨らんでいた。
彼女は彼がコートで着ぶくれしているせいかと思ったが、それにしては膨らみすぎているし、しかも僅かながら動いているように見える。
「この帽子はねジェーンさんが作ってくれたんだよ」
「おおっ! 」
グリーンが小さく感嘆の声を上げて頬を赤くしている。
彼は伝説の人物が編んだニット帽に興味津々なようだ。
「帽子についてる緑色の丸いのはとうめいなんだって」
「! 」
とうめいは緑色のポンポンを見て、何度も飛び跳ねて大喜びしている。
グリーンはそんなとうめいの様子をメモした後、目を輝かせてマシューの帽子を眺めていた。
「あとこれは風船だよ。いいでしょ! ……実はもうしぼんじゃったから魔法で膨らませて魔法で浮かせてるんだけどね」
マシューはとうめいに風船を見せたかったらしい。
言い終わると彼は魔法を解除し、小さくなった風船をコートのポケットに入れた。
ヴァージニアはマシューがそんな工作をしているとは知らなかった。
「最後にこれはねぇ、よっと……」
マシューは風船と土産がなくなり両手が空いたので、ゴソゴソとズボンのポケットを探った。
「見て見て! 石ころさん達だよ! 」
マシューの両手には二匹ずつ手足が生えた石ころ達がいた。
これらがポケットの中で動いていたらしい。
「いつの間に……」
「裏庭から大きな精霊さんが僕を呼ぶ声がしたから行ったら、連れて行っていいって言われたんだあ」
今朝あった出来事らしい。
ヴァージニアはそう言えば一瞬マシューがいなくなっていたのを思い出した。
「そうなんだ……」
ヴァージニアが苦笑いをしていたら、グリーンが石ころの担当者に連絡を入れていた。
「名前はねジャスティンさんとこにいたから……左からジャゴとジャーとジャレとジャムだよ! 」
「やっぱりそうきたかぁ」
石ころ達はマシューから名前を貰い体を動かして喜んでいる。
飛び跳ねて喜びを表現するのはとうめい達と同じだ。
「あ、ジャムは逆立ちが好きなんだね」
ヴァージニアには石ころ達の見分けは付かないが、名付けられたばかりなのでまだ大丈夫だ。
だが入れ替わられたら誰が誰だかさっぱり分からなくなる。
グリーンには見分けが付くのか特徴をノートに記していた。
(よく見れば何となく違いが見つけられるけど、すぐに判別出来ないなあ)
ヴァージニアがこう考えているうちに、石ころ達はマシューの手の上を動き回り場所を入れ替わってしまった。
ジャムも逆立ちを止めたので誰が誰だが分からなくなった。
(それにしても、マシューのちっちゃい手の上で動き回ってるのに、よく落ちないな……)
石ころ達はたまにピョンと跳ねたりスキップのようにリズミカルに移動しているのだ。
「あ、誰か来たよ! 」
「彼が石ころさん達の研究者ですよ」
石ころの研究者はもの凄い速さで牧場を走っている。
ヴァージニアは研究者と聞くとあまり運動をしなさそうなイメージがあったが、彼は違うらしくマシューがすごいと言うほどの脚力で広い牧場を突き進んできた。
「やあ! やっと会えたねマシュー君! そして貴女がヴァージニアさんだね! 」
「そうだよ! 初めまして! 」
「よろしくお願いします」
研究者は少しも息を切らしていなかった。
それもそのはず、彼は言われなければ研究者だと分からないほど、かなり鍛え上げられた肉体をしていた。
そして体も大きいが声も大きい。
「この子達が新入りだね! 」
研究者はマシューの手の平に顔を近づけ目を爛爛と輝かせて石ころ達を見つめている。
そんな研究者に石ころ達は怯える様子はない。
「うん! 大きな精霊さんがいる庭にいたんだよ」
「なるほど! どうりで自我がはっきりしている訳だ! その精霊に影響されたんだろう! ちなみにどんな精霊だったか覚えているかな? 」
研究者は顔を上げてキラリと目と歯を輝かせた。
「女の人みたいな顔してたよ。あと全体的に緑色しててちょっと茶色もあったかな。あとね、庭と一体化してたよ」
「植物と土に関する力を持っているのかもな! 古くからある庭園にはそういう類いの精霊が見られるんだ! 」
精霊の大きさは関係はなく、庭に住み着くうちに一体化するそうだ。
「自然の森じゃいけないの? 」
確かに住むならより自然の中の方が人間の邪魔をされずにいいのに何故だろうか。
「庭にいる精霊達は人間の手で管理された庭の方が好きなんだろう! 」
ただの精霊の好みらしい。
人間も都会から田舎に移住する人、あるいはその逆と他にも様々な住環境を求める人がいるので納得出来る。
「おー、だから庭師さんが来てくれて嬉しかったんだ」
ヴァージニアはマシューの代わりに大きな精霊が屋敷に住む人がいない間に庭が荒れ放題になって困った話をした。
「一体化しているのなら自身の体が荒れているのと同じだからな! 大変だっただろう! 」
「髪の毛ボサボサになってるみたいな? それは嫌だなぁ」
「身だしなみはきちんとせねばな! 」
ここでようやく研究者が名乗った。
彼はストーンと言うらしい。
(なんて覚えやすい! )
ヴァージニアは感動した。
彼女は皆の名前もこうならいいのにと強く思っている。
「ストーンさんだね! 」
「この姓に生まれたのだから徹底的に調べようと思ってね! 」
グリーンによると、ストーンは世界各国に赴き石の調査をしてきたらしい。
山にも登るので体を鍛えているそうだ。
「強そう……! 」
マシューは羨望の眼差しをストーンに向けていた。
「む、これは戦う筋肉ではなく調べるための筋肉だよ! 」
ストーンがポーズをとると服の上からでも十分筋肉が分かった。
ブライアンほどではないがムキムキである。
「と言っていますが、調査地に厄介な生き物がいると素手で退治してしまうそうですよ」
「ストーンさんが凄いのは誰かが力を貸してくれてるからだね」
マシューは地竜に似ているけど違う力を感じるらしい。
「地竜さんが違うなら岩竜さんじゃない? 」
「おおっ、ヴァージニアさん鋭いな! うむ、まだ高校生だった頃に地元の山に登ったんだが、その時に岩竜と遭遇していたらしいんだ! だが好かれた理由は分からないんだな! 」
同日に別の人物が岩竜を目撃していたので、遭遇していたと判明したそうだ。
「地竜さんに力を貸して貰っている人は眷属を助けたって言ってたよ。ストーンさんも誰かを助けたんじゃない? 」
岩竜の眷属はどんな姿なのだろうか。
そもそも岩竜はどんな姿なのだろうか。
ブライアンの話によると地竜の眷属はトカゲに似ていたらしいが、地竜は少しもトカゲっぽくはなかった。
なので龍と眷属の姿は結びつかないのかもしれない。
「うーん、何十年も前のことだからさっぱり覚えてないんだよ! 当時の事だから石や岩の観察をしていたんだろうけどな! 」
「石ころさん達を助けたんじゃないの? 」
マシューの手の平の石ころ達はストーンをじっと見ているようで動きが止まった。
「あるいは熱心さに関心を持ったのかもしれませんよ」
「その可能性もありますな! 」
ここで話が一段落したのでストーンはマシューから石ころ達を預かり、仲間達がいる場所に向かった。
マシューがとうめい達を撫でてから行くと言ったので、ヴァージニアもそうすることにした。
「……! ……! 」
とうめいはべーリースライムにあの人間達は良い奴だと教えているのだろう。
「みんなー撫でるから並んでねー」
スライム達はぽよんぽよんとマシュー達の前にやって来た。
そんな彼らを見て、とうめいはベリースライムを突いて撫でられて来いよとでも言っているようである。
強引に二人の前に連れて行かないのは、とうめいなりに考えているのだろう。
「よしよし」
マシューは柵の隙間から手を伸ばしてスライム達を撫で始めた。
ヴァージニアも彼に倣って良い弾力を味わった。
そんな和やかな動作をして何分か経った頃、マシューが驚きの声を上げた。
「あれれ? 」
二人がスライムを撫でていたら、ある個体に異変が起きた。
ブルブルと震えたかと思った瞬間、なんとスモールサイズからミディアムサイズになったのだ。
「おおっ! まさか目の前で! おそらく先ほどの食事とお二人の手の平の汗を吸収したからでしょうね! 素晴らしいっ! 」
いつも穏やかなグリーンが鼻息を荒くして手帳にメモをしまくっていた。
グリーンは楽しくて仕方ないようだ!




