沢山のお土産!
翌日ヴァージニアとマシューは西都のお土産を沢山持ち帰った。
ちなみにコロッケはジャスティンの弟子達が用意してくれたのでマシューは買いに行かずに済んだ。
そのコロッケはギルドに行く前に自宅に寄り冷蔵庫に入れおいたので、温め直しても美味しいか確認出来る。
「あら、二人ともお帰りなさい。マシュー君、風船貰ったのねぇ。よかったわねぇ」
二人がギルドに到着するとジェーンに出迎えられた。
いつもと同じにっこり笑顔だ。
ヴァージニアはこの笑顔を見ると帰って来た感じがして、とても心が穏やかになる。
「いいでしょ! 」
「とっても素敵ね。歯もまた抜けたみたいね」
マシューはジェーンに見せるために恒例のイーをした。
「それにしてもすごい荷物ね。それは草や葉っぱかしら? 」
「うん! とうめい達にあげるんだよ! 」
庭師達から庭の手入れをした際に出た処分予定の草木を貰ってきたのだ。
本来なら植物が枯れる季節だが、ジャスティンの屋敷の庭には大きな精霊がいるので西都内の他の場所より草木が元気だったため分けてもらえた。
「とうめいちゃん達へのお土産だったのね」
マシューは風船とお土産で両手が塞がっているが、不便そうではない。
彼はいざとなったら念動力でどうにか出来るからだろう。
「こちらが、ギルドの皆さんと……これがジェーンさんのです」
「私個人に? 」
ヴァージニアはいつも世話になっているのと色々と貰っているからと答えた。
すると、ジェーンが何かを思い出したようで奥から何かを持って来た。
「はい、これ。マシュー君にあげるわ」
「わぁなんだろー? 」
マシューが魔法で袋を開けると手編みのニット帽が出てきた。
そのニット帽には緑色の大きなポンポンがついている。
「これはとうめいだね! 」
「マシュー君はやっぱり分かってくれるのね~。キャサリンに変な顔されちゃったから、分かって貰えるか不安だったけど杞憂だったみたいね」
マシューは早速ニット帽を被ってみせた。
ヴァージニアには大きなポンポンが邪魔にしか見えないが、マシューはとても嬉しそうだ。
(子どもだったら可愛いからいいか……)
ジェーンも嬉しそうなのでヴァージニアも一緒に笑顔になった。
ヴァージニア達はキャサリンにも挨拶をしようとしたが仕事で不在だったので、とうめい達にお土産を渡すために牧場に行った。
なおキャサリンへの土産は、昨日何かいるか聞いたところ頻繁に西都に行くのでいらないと言われたのでなしだ。
二人がスライムの区画に近づいて来た時、見慣れぬ物が目に入った。
「あれ? スライムのところに小屋が出来てる」
この小屋は寒さ対策だと思われる。
「ん? 」
ヴァージニアは見た事がないスライムがいるのに気付いた。
見たことない色のスライムがいるのだ。
「紫……? 」
紫のスライムは毒を持っているスライムのはずだが、グリーンとブルーのスライムと一緒にいていいのだろうか。
そうヴァージニアが思っていたら、どうやらピンクのスライムの後ろにブルースライムがいて色が紫に見えていただけのようだった。
「いやいや、ピンクの子いなかったよね」
「うん。いなかったよね! ……あれ? なんか甘い良い匂いがするよ」
マシューの嗅覚だと何かの匂いを嗅ぎ取れるようだが、ヴァージニアにはさっぱり分からない。
とうめいが何かをアピールしているが、二人には理解出来ず、新しい仲間だとでも言っているのだろうかと首を傾げた。
「お二人ともおはようございます」
悩んでいたヴァージニア達の後ろから落ち着いた男性の声がした。
彼は案内所で二人の到着を待っていたらしい。
「グリーンさんおはようございます」
「おはようございます! 初めましてのスライムがいるよ」
グリーンの話によると、ピンクの個体はベリースライムと言うらしい。
フルーツスライムとも言われるらしく、名前の通り果物を食べるスライムだそうで、グリーンスライムの亜種とのことだ。
「この個体はベリーを好んで食べるのでベリースライムと呼んでいます」
ベリースライムは別の施設にいたがそこでいじめられてしまったため、とうめいがいるこの牧場に引っ越したらしい。
ヴァージニアはスライムの世界でも珍しい者や弱い者いじめがあるのを知り悲しくなった。
「珍しい色なのでね……。ここならとうめい君がいるので安心だろうという話になったんです」
「とうめいは信頼されてるのですね」
とうめいならいじめないし、いじめを見かけたら止めるだろう。
グリーンはとうめい達にベリースライムがこの牧場に来た理由を説明し、温かく接して欲しいと伝えたそうだ。
「そうなんですよ。とうめい君は他の研究者からも一目おかれているんです」
「とうめいすごい! 」
とうめいはここぞとばかりに威張った。
マシューと同じ反応である。
違うのは周りに拍手をする盛り上げ役がいないところだろうか。
(私も今度拍手してみようかな。……しないけど)
とうめい達が盛り上がっているが、ピンクのスライムは離れた場所からとうめい達を見ていた。
何をしているのか疑問に感じているというより、変な行動をしている不気味な奴等といった感情を抱いているようだ。
「まだ上手く意思疎通が出来てないみたいですね」
「そうなんですよ。とうめい君は必死に仲良くしようしているのですけど……」
とうめい達は自分達は無害だともアピールしているそうだ。
ベリースライムは心が傷ついた状態で知らない土地に連れてこられただけで大変なのに、他のスライム達が接触してきたら嫌でしかないだろう。
とうめい達に悪気はないのが辛い。
ベリースライムがこの環境に慣れるのを待つべきかもしれない。
時間をかけるしかないのだ。
「いきなり仲良くしろだなんて無理ですよね。今まで散々嫌な思いをしてきたのでしょうから……」
「とうめい……」
とうめいでもどうしようも出来ないらしく、落ち込んで少々潰れている。
「ああそうだ。とうめい君達にお土産を持って来て下さったそうですね。そちらの袋がそうですか? 」
「そうだよ! 庭の草と葉っぱだよ! ジャスティンさんの屋敷には大きな精霊さんがいたから、きっと美味しいよ! 」
マシューは袋を持ち上げてとうめい達に見せると、グリーンスライム達が喜んだ。
「それと庭の湧き水を頂いて来ました」
ヴァージニアが水が入った容器を少し持ち上げるとブルースライム達が喜んだ。
「ベリースライムって何食べるの? ベリーかな? ごめんね。多分この中にはないよ」
「赤い小さな実ならあったんじゃないかな。甘くないと思うけど試してみようか」
これを聞いたとうめいはマシューから袋を受け取り、中から赤い実がついた枝を取り出した。
「……。……」
とうめいはせっせと赤い実を取り始め、ちまちまと一生懸命に実を集めた。
突起を何個も作って採集したのですぐに取り終えた。
「! 」
とうめいはベリースライムに集めた実を持っていった。
人間とスライム達は事の行く末を緊張の面持ちで見守った。
「……! 」
とうめいは一粒赤い実を食べて見せ、これは安全なものだとアピールした。
するとベリースライムはとうめいから一粒赤い実を受け取った。
「食べるかな? 」
マシューは興奮を抑えながら小さな声で言った。
ベリースライムは赤い実を見つめ、本当に安全か確認している。
(食べ物にまでこんなに警戒してるなんて……)
珍しい色のスライムは食べ物にまで注意せねばならない場所にいたのだとヴァージニアは察した。
もっと早くこの牧場に来たら、ここまで疑心暗鬼に陥らずに済んだだろう。
「あ! 」
ベリースライムは赤い実を食べた。
とうめいはもっと食べるかと促すと、ベリースライムは赤い実を一つずつだが全部食べた。
「美味しかった? ジャスティンさんの屋敷のやつ美味しかった? 」
マシューが質問するも、ベリースライムは無反応だった。
なので代わりにとうめいが体に丸を浮かばせて返事をした。
「名前からして甘い果物しか食べないのかと思ったけど食べてくれたね」
「ベリースライムは草も食べるんですよ。ただ果物を好むというだけです」
ベリースライムは主食が果物だそうで、グリーンは食費がかかりそうだと呟いた。
元にいた施設からベリースライム分の食費が送金されたそうだが、足りるか分からないとのことだ。
「冬には果物ないもんね」
「はい。なので本来はもっと暖かな南の地域に生息しているんですよ」
グリーンスライムも冬にも草木がある地域にしかいないが、ベリーやフルーツのスライムはより南の限られた地域にしかいないそうだ。
「あの、もしかして花しか食べないスライムもいます? 」
「お、ヴァージニアさんご明察です。その名もフラワースライムで、こちらもグリーンスライムの亜種ですね」
どちらの種も偏食のグリーンスライムが元だと考えられているそうだ。
スライムの発生方法は自然発生や別の個体から分裂だそうなので、亜種の場合は分裂したスライムだろう。
「色んなスライムがいるんだね! 皆、会ってみたいなぁ」
グリーンスライム達は草木を食べ、ブルースライムはヴァージニアから湧き水を貰いたくて彼女の足元に集合していた。
彼女がブルースライム達に水をかけると、美味しかったらしくぽよぽよと飛び跳ねていた。
とうめいは新入りと仲良くしたい!




