教わる!
※2020/11/15加筆修正いたしました。
ヴァージニアは時間差で教室に戻ろうと思い、マシューと一緒に校長室にいた。
単純にオーガストと一緒に歩きたくなかったのだ。
校長先生も意を汲んでくれているのか、退室を催促しない。
「うーん…」
「マシューどうしたの?」
マシューはいつになく険しい顔をしている。
「おなじなのになぁ…」
「マシュー君は体のまわりの色、オーラが見えるんだね」
「あれオーラっていうの?みえるよ!」
マシューは嫌な奴がいなくなったからか元気になっている。
「実は私も見えるのです。なので母親だと思ったのですよ…」
「他の血縁者とかでしょうか?」
「あのお二人は親子だと思ったのですがねぇ」
校長先生は含んだような笑みを浮かべている。
おそらく、校長先生とヴァージニアは同じ事を考えているだろう。
「オーラの色が全然違う人同士の子どものオーラの色ってどうなるんですか?」
「正確に言うと色だけではないのです。性質と言うか…漠然とした物なんですよ。例えば同じ色の布でも様々な素材があって手触りも違うでしょう?人によっては色が同じでも素材が違うのなら、違うと言うでしょうし、色が異なっても素材が同じなら、同じと言うでしょう」
生地にも絹や木綿、麻、羊毛などがあるようにオーラにも色々あるらしい。
「そうですね。色も素材も同じだったら誰もが同じと言いますけど、どちらかが違ったら人によって答えが変わるでしょうね」
「はい。それで先ほどのお二人はとても色や素材が、…いえ、性質がよく似ていたのです。マシュー君はそれも分かっていたんだね」
「うん。おなじくらいにてた!ほぼおなじ!」
マシューは得意気にしている。
「へぇ…。ちなみに私のオーラの色ってなんですか?」
「みどりだよ。ジニーのめといっしょ!」
「え?私の目の色、青だよねぇ」
ヴァージニアは朝の身支度で鏡を見て、自分の目がいつもと変わらず青いのを確認している。
「私にもオーラは緑に見えますが、目は青に見えます」
「んー。ぼくはみどりにみえるよ?」
マシューの虹色の目はヴァージニアをじっと見ている。
「もしかして、小さい頃は緑だったのではありませんか?生まれついた姿が見える人もいるのですよ」
もしそうなら変身魔法とかを見破れるのだろう。
「ああ…そういえば、生まれた時は緑だったとか言われたような?」
ヴァージニアは頑張って記憶を掘り返してみた。
「ほらー、やっぱり!」
マシューは正解したのでニコニコと嬉しそうだ。
「緑の方が珍しいのになぁ。なんで青になっちゃったんだろう?」
「ぼくには、みどりにみえるからだいじょうぶ」
(何が大丈夫なんだろう?)
ヴァージニアは首を傾げたくなった。
「魔法で変わったのかもしれませんね」
「え、魔法で目の色を変えられるんですか?」
もしそうなら、マシューの目立つ目の色も変えられるだろうか。
「得意な魔法と言うべきでしたね。その属性にあった色になったりもするそうです」
「確かに、水や氷系の魔法を使う人で目が赤い人は見たことないですね」
全属性を使える人もいるので、いなくはないが、ヴァージニアはお目にかかったことはない。
「ジニーはみずとこおりだせるの?」
「…私が人より出来るのは転移魔法だけだよ」
人より……、平均より上という意味なので、ヴァージニアより転移魔法が得意な人は山ほどいる。
「そうなの?」
「悲しいけどそうだよ」
他は初歩的な魔法しか使えないし、転移魔法も自分の他に一人分ぐらいしか運べない。
「いえいえ、そんな卑下なさらないでください。一生出来ない人もいるのですから。転移魔法の仕方は色々なやり方があるのは知っていますか?水脈、地脈、風脈、火脈、雷脈、木脈などを使っているのだそうです。多分ですが、ヴァージニアさんは水を司る精霊か神様、龍や神獣、聖獣などの力を借りて水脈を使っているのではないでしょうか。魔力が莫大にある人ならば借りなくても水脈などを自由に使えますが、そうでない人は知らぬ間に借りているのだそうです。契約して貸してもらっている場合もありますが、中には彼らの好みや気まぐれで勝手に貸してくれている場合もあるそうですよ」
校長先生の説明によると、ヴァージニアは知らぬ間に巨大な力を持つ者から力を貸してもらっていたらしい。
ヴァージニアは全然気付いていなかったので、驚くしかなかった。
「おお…」
それなら、目が青くなるかもしれないとヴァージニアは納得した。
「あ……」
ヴァージニアは顔から血の気が引いていったのが分かった。
だから、普段海に沈んでいるあの島に辿り着いたのだろう、と思いついてしまったのだ。
「どうされましたか?」
「いえ、なんでもありません」
「……私はてっきり、転移魔法に失敗して到着した先について合点がいったのかと思いました」
「なっ!!」
ヴァージニアは驚きのあまり、後ろに一歩下がった。
「そうなの?」
「なんで知っているんですか?」
ジェイコブとマリリンにしか話していないはずだ。
「そんなに警戒しないでください。そうですね、私がジェイコブの伯父だと言えば信用してくれますか?」
「ええっ?だって全然似てないじゃないですか!」
校長先生は柔らかな表情が出来る人だ。
対するジェイコブは……だ。
「オーラもちがうよっ!」
「私とあの子が似ていないのは、私はあの子の母親の姉の夫なので血が繋がっていないからでしょう。あの子がこの町に来たのも、ちょうどこの町のギルドに欠員が出たのでその穴埋めを私がお願いしたからです」
血が繋がっていないのなら、顔もオーラも違うのに納得だ。
「けついん?」
「ああ、昇進で高い等級のギルド員の定員割れをしたのですよ。誰かが亡くなったのではありませんよ」
「間接的に私がこの町に来たのも校長先生のおかげですね。マリリンはジェイコブがいるからこの町に来たんですから」
「ねぇジニー。ジェイコブとマリリンってふうふなの?」
そう言えばマシューに二人の関係を説明していなかった。
「これから夫婦になるんだよ。もう一緒に住んでいるけどね。ジェイコブがこの町に来る前から付き合っていたんだったかな?」
「そのようですよ」
「…いっしょにくらしてたら、ふうふになるの?」
マシューの頬は少し赤くなっている。
「…マシュー、何を考えてるのかな?」
「ぼくもそのうち、ジニーとふうふになるの?」
(何故、目を輝かせるんだ…)
マシューは桃やコロッケを見た時よりも目を輝かせている。
「マシューは居候だよ」
「いそ…?」
「同居人でもいいかなぁ?」
もちろん、同棲でも匿っているのでもない。
「どきょ…?」
マシューは聞き慣れない言葉に首を傾げた。
「…それでどうしますか?明日も体験入学に参加なさいますか?」
「マシューどうす――」
「しない」
ヴァージニアがどうするの?と全部言い終わる前にマシューは否定した。
「そんなに嫌なんだ」
「うん。いやだ。おなじくうきを、すいたくない」
(また、そんな言葉を覚えて…)
「そうですねぇ。マシュー君はすでに基本的な魔法を使えるようですから、学校に通わなくてもいいでしょう。ただ、義務教育ですので通信制の学校には入学してください。はい、こちらはパンフレットです」
「やった!」
マシューは嫌な奴と顔を合わせなくて済むので喜んでいる。
「ありがとうございます!」
ヴァージニアは探さなくてすんだので嬉しいようだ。
「ははは!それほど喜んでいただけるとは思いませんでしたよ」
「すみません。つい…」
「これでジニーといっしょにいられるね!」
「いやぁ、マシューには私が仕事をしている時はギルドにいてもらうよ」
「なんでぇ!」
マシューは目を潤ませて上目遣いをしてくる。
(そんなに可愛い顔しても駄目なものは駄目だからね!)
「残念ながら子どもが一緒にいると最低ランクの依頼しか受けられないんですよ。居住区での採集活動とか」
「やくそうをつむとか?」
その他の最低ランクの依頼は町の清掃など手伝いのような内容が多い。
「そうそう。お昼代にしかならないような依頼しか受けられないんだよ」
「ももとコロッケかえない…。はっ!コロッケはつくればいい!」
ヴァージニアはコロッケはなかなか大変なので作りたくないと強く思った。
「桃はどうするんです?」
「もものきをそだてる…」
マシューは決心したような顔をしている。
「桃栗三年柿八年って言うよ。マシューは3年も待てるの?」
「まてないねぇ…」
マシューはどこか遠くを見ている。
「だよねぇ…」
「ぼくはまっているしかないのか…」
「う、うん。いい子で待っていてね」
「すでに実のなるほど成長した木を買えば解決しますよ?」
「ほんとう?!」
マシューの顔は一気に明るく輝いた。
「ですけど、桃の木を植える場所はありますか?」
「ないですねぇ…」
「ですよねぇ」
校長先生はマシューをからかっているようにも見える。
「マシューはギルドで待っていてね」
「ぼくはジニーをまつしかないのか」
(そんなに深刻そうな顔をしなくても…)
マシューとヴァージニアは賢くなった!