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お坊ちゃん!

 マシューは戦闘体勢になった!


 お坊ちゃんは見るからに良さそうな服を着て、髪の毛も撫で付けられている。

 どう見ても小さな町の入学体験に来る格好ではない。


「おい!きいているのか?なんで、きょうもきたんだ!」

(なんだとぉ?このクソガキめ!マシュー、言い返せ!)


 ヴァージニアはお坊ちゃんを心の中で睨みつけた。

 本当は現実でも睨んでやりたかったが、ここは大人の対応をした。


「うるせい、このぼんぼんが!」

(よしっ!よく言った!)


 ヴァージニアは心の中で両手を握りしめた。


「んなっ!なんだと!だれにむかって、くちをきいているんだ!」

(偉いのはお前のじいさんだろ!)

「この、すっとこどっこい!おうちにかえって、ママのおっぱいすってな!」

(おーし、よくやった!だが、ママらしき人は隣にいるぞ!)


 最初は使用人かと思ったが、よく見るとお坊ちゃんと似ているので母親だろう。

 その母親はおろおろとするだけで、お坊ちゃんの暴言を止めない。


「なんだと!おまえのかぞくが、どうなってもいいのか?!」


 お坊ちゃんがお金持ちが言いそうなセリフを言った。

 ヴァージニアは予想通りすぎて笑いそうになってしまった。


「うるさい!そんなおどしはきかないぞ!」

(おおっ!)


 マシューがビシッと言えたのでヴァージニアは驚いた。


「おどしじゃないぞっ!ぼくがいえば、おまえのかぞくなんてっ!」


 お坊ちゃんはじいさんが家族をどうするのかは知らないらしい。

 今まではそう言えば相手が謝ってきたのだろう。


「なんだ!いってみろ!なんにもしらないくせに!」

「う、うるさい!びんぼうにんのぶんざいで、ぼくにはむかうな!」

「こころがまずしいよりマシだ!」

(お、言うではないか)


 子どもが言える台詞ではないだろう。


「いみのわからないことをいうな!」

「ちょっとはかんがえてみろ!」


 ヴァージニアはマシューがこんなに言い返せるとは思わなかったので、ただただ驚くばかりだ。


「うるさい!おんなみたいに、かみのけのばして!きもちわるいんだよ!」

「おうとには、おとこのひとでも、かみのけがながいひとはいるんだよ!このものしらず!せけんしらず!」


 マシューはやはり頭がいいんだなぁと、ヴァージニアは感心した。


「きのうは、おんなみたいなふくもきてただろ!」

「ん?セーラーカラーの事?海軍の制服もセーラーカラーでしょう?というか海軍の制服が先だよね」


 服については話していなかったので、思わずヴァージニアは口を挟んだ。


「うみのおとこのふくだぞ!」


 マシューはちょっと嬉しそうだ。


「なっ!おとながくちだしするな!」


 ヴァージニアは大人からは子どもと言われ、子どもからは大人と言われる微妙な年頃だ。


「さっき、僕が言えばとか言って大人に手を貸してもらおうとした癖に何言ってんの?随分と都合いいんだね」

「うるさい!ぶす!でぶ!びんぼうにん!」


 ヴァージニアは普通体型だが、どちらかと言うとやせ気味である。

 よってヴァージニアがデブならば世界の半分以上の人間がデブである。


「ジニーをわるくいうな!おまえのほうがでぶだろ!」

「ぼくのどこがでぶなんだ!」

(痩せてはないよね…)


 お坊ちゃんはぽっちゃりだった。

 彼の頬はぷっくりとしていて、つついたら気持ちよさそうだ。

 まぁ、憎たらし子どもの頬などつつきたくはないのだが。


 それにしても母親らしき人は、ずっとおろおろとしているだけで少しも注意しようとせず、とても頼りない。

 皆が見守る中、マシューとぽっちゃりお坊ちゃんはずっと睨み合っており、そのうち殴り合いにでもなったらどうしようかとヴァージニアは考えていた。

 ヴァージニアは体重がある相手に分がありそうなので、殴り合いになったらすぐに止めようと決心した。


「何の騒ぎですか?」


 ヴァージニアが色々考えていたら、校門にいた先生よりも年を取った男性がやって来た。


「こいつが、ぼくにしつれいなことをいったんだ!」

「なんだと?おまえが、さきにいってきたんだろ!」

「分かりました。二人とも落ち着いてください。話は別の部屋で聞きますから、私について来て下さい」

(あらら…)




 先生について行くと、校長室に着いた。

 どうやらと言うか、やはりと言うか、この先生は校長先生のようだ。


「では、それぞれの意見を聞きましょう」


 ぽっちゃりお坊ちゃんは何も言われていないのに椅子に座った。

 やはり母親らしき人は何も言わずに立っているだけだ。


「オーガスト君、私は座っていいなんて一言も言っていませんよ?」

(お坊ちゃんって、そんな名前なんだ…)

「なんだ?かわいいこどもを、たたせておくきか?」


 ぽっちゃりお坊ちゃんのオーガストは、憎たらしいような威張っているような…そんな顔をして言った。


「可愛い子どもはそんな事を言いませんし、そんな口の利き方もしませんよ。さあ早く立ちなさい。この部屋の持ち主は私です」


 もう少し言い返すのかと思ったが、オーガストは大人しく言うことを聞いた。

 納得したのではなく、言い返せないと判断したのだろう。

 実際にオーガストはムスッとした腹立たしい顔をしている。


「はい。それではまず、マシュー君から話を聞きましょう」

「おいまて!なんでぼくからじゃないんだ!」

「どちらから聞くのかは私の自由ですよね?」


 校長先生はにっこりと笑った。

 どこかの局長も同じような笑顔の使い手だったなとヴァージニアは思い出した。

 ある程度、上の立場になると身につくものなのだろうか。


「はい。せんせい。きのうからずっと、わるくちをいわれてこまっています。きのうは、どうしたらいいのかわからなくて、かなしくてないてしまいました」


 マシューは冷静に話した。


「おまえが、おんなみたいにかみのけをのばしているから、へんだっておしえてやったんだろ!かんしゃしろ!」

(なんだコイツ)

「オーガスト君は他の髪の毛が長い男の人にも同じように言うのかな?」

「もちろんいうね!」


 オーガストは何故か威張っている。


「本当に?」

「あたりまえだろ!なんどもいわすな!」

「そうですか。では、そもそも変だと思った理由は何かな?」


 校長先生の笑顔は揺るがない。

 ヴァージニアは自分だったら、ちょっと魔法で悪戯してやるのにと思っていた。


「だってへんだろ!おとこがかみをのばすのって!」

「何処が変なのですか?伸ばすか伸ばさないかは、その人の自由ですよね。君が変だと思ったからやめさせるのって、とても乱暴なんですよ?」

「ぼくはえらいんだからいいんだ!」


 オーガストはふんぞり返っている。


「オーガスト君は偉いんですか?」

「そうだ!ぼくはえらいんだ!」

(偉いのはじいさんだろ!)


 ヴァージニアは心の中で悪態をついた。

 本当は転移魔法(テレポート)を応用してオーガストの体を壁や地面に埋めてやりたかった。

 これは大人でも驚くので子どもなら尚更だろう。


「偉かったら何をしてもいいのですか?この学校だと私が一番偉いのですけど、気に入らないからと言って皆さんに酷い言葉を使ったりはしませんよ?」

「ふんっ!だったらなんだ!」

「では、たった今私はオーガスト君を気に入らなくなりました。悪口を言ってもいいですか?」

「いいわけないだろ!」


 もちろんオーガストは怒っている。


「何故です?偉いと悪口を言ってもいいのでしょう?」


 校長先生は相変わらず笑顔のままなのだが、それが余計に怖い。


「おとながこどもにいうなんて、いけないんだぞ!」

「誰が決めたんですか?ああ、誰でもいいですが、その決まりはなくなりました」

「かってなこというな!」

「そうですね。勝手ですよねぇ」


 校長先生は笑顔から、困ったような表情になった。


「そうだ!かってなことをいっちゃいけないんだ!」

「オーガスト君、分かっているじゃないですか。オーガスト君がマシュー君に言った言葉は、とても自分勝手な言葉なのですよ」

「じぶんかって……」

「自分の好き嫌いを他の人に押しつけるような言葉は言ってはいけないのです」

「……」


 ずっと口答えをしていたオーガストは少し考えるようにした。

 咎めてくれる大人がいてくれないから、今の性格になったと考えてもいいのだろう。


「マシュー君、君も随分な言い方をしていましたね。言われたから言い返したのですか?」

「やられっぱなしは、よくないとおもいました。なのであいてに、ひとあわふかせてやろうとおもいました」

(一泡?ギルドで覚えたのかな?)

「そうですか。上手くいきましたか?」

「うーん。ふかいなきもちが、ふえただけでした」


 マシューはしょぼんとしている。 


「ええ。そうですね。それが分かったなら、もうやっては駄目だよ?」

「わかりました」


 マシューはペコリとお辞儀をした。


「では、オーガスト君のお母さんとマシュー君の保護者の方――」

「こいつはおかあさんじゃない!ただのめしつかいだ!」

(え?)

「はい…。私は使用人でございます……」


 ヴァージニアは母親かと思っていたが違っていたらしい。

 他人のそら似なのだろうか。


「えー!からだのまわりのいろ、おなじなのに?」


 マシューはとても驚いたようで、目を大きく開けている。

 どうやらマシューは体のまわりの色、すなわちオーラが見えるようだ。

 魔力が高い人には見えるらしいと聞いたので、マシューもそうなのだろう。


「いえ…そんな……。坊ちゃまと同じだなんて恐れ多い……」


 使用人は俯きながら消え入りそうな声で話した。


「そうだ!おそれおおいんだ!」

「…校長先生、何をおっしゃろうとしたのですか?」


 オーガストがまた騒ぎ出したので、ヴァージニアは話を戻そうと思った。

 オーガストを無視したとも言える。


「ええ、これからはお子さんをきちんと導いてあげてくださいと言おうとしました。きちんと叱って、褒めて、励まして、慰めてあげてください」


 校長先生はにっこりと微笑んだ。


「はい。分かりました」

「…ええ、分かりました」

「では教室に戻っていただいていいですよ」


 その後使用人は何度もお辞儀をしながらオーガストと共に校長室を出て行った。

 対するオーガストは威張るようにふんぞり返りながら歩いて行った。




 マシューは喧嘩を覚えました!

 校長先生のマシューとオーガストに対しての喋り方を少し変えてみたのですが、書いた自分でもあまり違いが分からないです。

 マシューへはもう少し上の年齢の子に話しているようにしてみたのですけど…、難しいですねぇ。

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