クククッ!
ヴァージニアとマシューは、ギルドからの帰りスーパーマーケットと文房具店に寄った。
当初スーパーマーケットで食料品だけ買う予定だったが、マシューが文房具店に行きたいと言ったので行き先を増やしたのだ。
「何が欲しいの? 」
「僕ね、プレゼントのブラシを入れる袋が欲しいんだ」
二人は文房具店内を歩き、ブラシが入りそうな袋を探した。
なお、とうめいは店の前の草陰に隠しておいたので、今頃草を食んでいるだろう。
「あ、これ良さそう! 」
マシューはシンプルな透明のラッピング袋を手に取った。
彼は値段を見て決めたようだ。
「リボンも買う? 」
ヴァージニアがリボンを指さして聞くと、マシューは隣のラッピングタイを見てこっちがいいと言った。
やはり彼は値段を見ているらしい。
彼は袋とタイをカゴに入れた。
「メッセージカードも買う? 」
「ノートを切って作るからいいよ」
それは子どもらしいと言えばそうだが少々見栄えが良くないので、ヴァージニアはメッセージカードをカゴに入れた。
「綺麗な色のペンもあるけど買う? 」
「鉛筆で書くからいいよ」
それはなんだか味気ないので、ヴァージニアは六色入ったカラーペンをカゴに入れた。
彼女はこれらを買い、二人は家に帰った。
マシューは家に帰ると、早速ブラシを袋に入れていった。
ヴァージニアはブラシの違いが分からないが、マシューにはどのブラシがどの狼人専用なのか分かるらしく、メッセージカードに彼らの名前を書いて袋に入れてラッピングタイを捻っていた。
(付与した属性で分かるのかな? )
ヴァージニアはシチューの付け合わせを作りながら横目で見ていた。
するととうめいがマシューの様子を見て、彼の動作を真似しだした。
そして何故だかとうめいは自身の体を原型が分からなくなるほど捻った。
「とうめい、捻りすぎだよ」
「! 」
とうめいが体を戻す時に勢いがついて回転してしまい、制御不能になり一瞬宙に浮かんだ。
その後、とうめいは予期せぬ出来事にショックを受けたようで潰れた球体になってしまった。
(こんな形のパンがあるよね……)
そんなとうめいをよそに、マシューは明るい声と表情で出来たと言った。
「見て見て! 」
マシューは四人分のラッピングを終えたようだ。
メッセージカードにはそれぞれの名前が書いてある。
ヴァージニアは彼の字を同じ年齢の子が書く字より綺麗だと感心した。
「あれ、このシールどうしたの? 」
ヴァージニアはメッセージカードに可愛いシールが貼られているのに気が付いた。
マシューはジェーンに貰ったと答えた。
またもジェーンから何か貰ってしまったようだ。
(マフラーも頂いたから今度菓子折を持っていこう……)
他にもお菓子や食べ物も貰っているのでヴァージニアはジェーンに感謝しきりだ。
「ところで、どうやって皆さんに届けるの? 」
「えっ、ずっとあの町にいるんじゃないの? 」
ヴァージニアが違うとマシューに伝えると、彼は目を見開き固まっていた。
狼人達は北の国境付近にいるのは確かだが、範囲が広いので当てずっぽうは出来ないだろう。
「コーディさんに聞いてみよう……。ジニー、聞いてみて」
「え、あ……連絡先を知らないかも……」
なのでコーディはギルド経由で転移魔法の依頼をしたのだ。
ここでヴァージニアは、ケンタウロスに追われている時にコーディ達に連絡する手段は、水に声だけ転移魔法させるしか選択肢がなかったのだと気付き苦笑した。
「ははは……」
「もう、ジニーったら笑ってないで一応調べてみてよっ」
ヴァージニアは通信機をいじってみたが、コーディの名前は見つからなかった。
マシューは目を細めてヴァージニアをじとりと見た。
「そうだ、ギルドに聞いてみよう! 」
マシューはヴァージニアが止める間もなくギルドに連絡してしまい、受付の男性にコーディの連絡先を教えてとお願いした。
すると、運良くその場にコーディがいたらしく、彼から直接狼人達が何処にいるのか聞けたそうだ。
「お兄さんありがとう! ……ジニー、地図見せて! 」
ヴァージニアがマシューに地図を渡すと、彼は指でつんつんと地図を操作した。
とうめいも真似して地図をつんつんしたので、画面がおかしくなりヴァージニアが元に戻した。
ヴァージニアはこれ以上マシューの邪魔をしたら、とうめいが怒られてしまうので食べ物で気を逸らす作戦に出た。
「とうめい、野菜の皮をあげるからこっちにおいで」
「! 」
とうめいは先ほど文房具店の前で草を食べたのに、まだ食欲旺盛のようでヴァージニアについて行った。
「はい、人参の皮だよ」
ヴァージニアがとうめいに野菜くずを与えているうちに、マシューは地図で場所を確認出来たようで頷いている。
「よし、今から行こう! 」
「連絡してからにしようねー」
と話していたら、ヴァネッサからヴァージニアの通信機に連絡が来た。
コーディが彼らに連絡してくれたのだろう。
ちなみにヴァネッサとヴァージニアは、同じ部屋に泊まった時に連絡先を交換していたのだが、ヴァージニアは色々あったせいですっかり忘れていた。
ヴァネッサは明日の朝なら大丈夫だと言ったので、ヴァージニア達は明朝行く事にした。
翌朝、ヴァージニアとマシューはヴァネッサ達がいる町に転移魔法した。
ヴァージニアとマシューは、とうめいがいるので別々だ。
到着するなりとうめいはブルブルと震えた。
どうやら寒いようだ。
「とうめい、僕のマフラー貸してあげるね」
「! 」
スライムがマフラーをする珍妙な光景に、ヴァージニアは戸惑った。
「? 」
どうやらとうめいはマフラーの恩恵を身に感じなかったらしい。
スライムは首がないからなのか、人間とは体の構造が異なるからなのかは不明だ。
とうめいはマシューにマフラーを返し、マシューは返されたマフラーを首に巻いた。
「とうめい、平気なの? 」
「もう慣れたんじゃない? 」
とうめいは体に丸を浮かび上がらせヴァージニアが正解だとアピールした。
「スライムって凄いね」
二人が感心していると、狼人達四人が匂いか気配を嗅ぎつけてやって来た。
皆は相変わらずもふもふとしており、マシューがブラシを贈りたいと思うのも頷ける。
「数日ぶりだな。ヴァージニアはあの後で熱が出たそうだが、もう大丈夫なのか? 」
ヴァージニアがジェーンお手製の薬で治ったと言うと、グレゴリーは顔をしかめた。
どうやら彼は味と匂いを知っているらしくグルルと唸った。
「ジェーンさんが作ったのではなく、彼女に作り方を聞いた人に薬を貰ったんだ。効果は抜群だったが、二度と飲みたくない味だったな……」
「キャサリンさんもジニーが薬を飲んでいる時に変な顔してたよ」
キャサリンはジェーンと同じパーティにいたので、複数回飲んだらしい。
とうめいも薬に触れたのを思い出し、全身を震わせて怒り出した。
「わ、これって怒ってるんだよね? スライムってこんな風に怒るんだ」
「白くないスライムなんて久しぶりだな」
ヴァネッサによると、北の国にいるスライムはどれも白っぽいらしく手触りも少し硬いそうだ。
とうめいは白いスライムが気になったのか、怒るのをやめて狼人達に近寄っていった。
「今更だけど、このスライムは二人の友達なの? 」
「そうだよ! とうめいって言うの! 」
ダヴィードが安易な、と言ってマシューのネーミングセンスに顔をしかめていた。
「えーい、触っちゃお-。わ、すごい。プルッと弾力がある! 白いのと全然違う!!」
「どれどれ……。本当だ。いつまでも触っていられる」
「!! 」
とうめいは狼人達に揉みくちゃにされたが、特に嫌がっていないのでヴァージニア達は見ていた。
だが、マシューが四人にブラシを渡すタイミングを逃してもじもじしているので、彼女は四人に声をかけた。
「あのー、マシューが皆さんにブラシを渡したいそうなんで、一度手を止めていただけますか? 」
「ああすまない。そうだったな」
狼人達はマシューから渡されるのが普通のブラシだと思って油断しているようだ。
人間の子どもが狼人を初めて見て感動したので、小遣いで買ったブラシをプレゼントするのだろうと。
しかし彼らはマシューからブラシを受け取ると、人間でいう笑顔の表情から真剣な顔に変化した。
一同は急いでガサガサと袋を開けてブラシを手に取った。
「もしや、属性付与されているのか? 一度会っただけで判別したのか? 」
「そうだよ。見れば分かるからねっ」
マシューはグレゴリーの驚いたような言い方に、いつもの得意気な顔になった。
「これを一人でやったんだろ? やっぱり凄い子だったんだな」
イサークは言い終わると手の甲の毛を梳かした。
すると毛が輝いたのでイサークが他の皆に見せると、皆は目を丸くして驚き自身らも服から出ている毛の部分をブラッシングしだした。
「え、すげ……」
「やだっ……これ以上モテたら困っちゃうなぁ~」
ヴァネッサが言うと冗談に聞こえないなぁとヴァージニアは思っていた。
「フフッ、これを狼人さん達の国で売ったら儲かるかなぁ? 」
「なっ、マシューそんなこと考えてたの? 」
ヴァージニアは仲良くなった狼人達へのプレゼントだろうと思っていたが、マシューは彼らをブラシの広告にしようとしていたようだ。
商魂たくましい。
「すごく売れるよ。こんなに高性能だもん。すぐに偽物が出回るかも」
「ぇえー? 僕より上手く出来る人いるのぉ? 」
マシューはわざとらしく言ったので、ヴァージニアは少し顔が引きつった。
「イサークの雪属性も付与出来てるんだろ? いないだろうな」
マシューはクククッと悪い顔をして笑った。
ヴァージニアはそんな彼を見てため息を吐いた。
マシューは怪しい笑みを浮かべた!




