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実況見分!


「ケンタウロスに隙を作るために皆さんに連絡したのと同じ、声だけ転移魔法(テレポート)する魔法を使いました。声だけだと全身を移動させるよりはこちらに隙が出来にくいみたいです」


 もし何もせずにヴァージニア自身の移動や水の移動をしていたら、ケンタウロスの手にかかっていたのは確かだ。

 少しでも動こうとしたり魔法を使おうとした瞬間に詰め寄られて、彼女の体から一部が取られていただろう。


「起こりをなくしたんだね」

「起こり? 」


 ヴァージニアはヴァネッサの口から出た聞き慣れない言葉に首をかしげた。


「そうだねぇ。……動こうとする時の筋肉の動きとか気配とかかな? 」

「……予備動作でしょうか? 」


 何をするにも準備はいるので、それだろうか。


「そうだけど、違うよ」

「マシューは起こりを知ってるの? 」

「僕がジェーンさんの攻撃を避けられないのはそのせいだったんだよ。僕の動きを読まれちゃうのもこれだよ」


 ヴァージニアは病院でのジェーンとマシューのやり取りを思い出した。

 どんなにマシューが素早く動いてもジェーンは彼の行く手を遮っていた。

 これは予測ではなく、起こりによって完全にどう動くのか把握されていたのだ。

 ヴァージニアは前にジェーンから、魔法を発動するまでの時間を短くするのも大事と言われたのを思い出した。

 いや、これが頭の片隅にあったから対応出来たのかもしれない。


「マシュー、ジェーンさん相手じゃ余程の使い手じゃないと無理だ」

「ブライアンは出来てたよ……」


 マシューはジェーンとの修業を思い出したのか元気がなくなった。

 キラキラお目目の光が弱くなった。


「ブライアンとも比べるな。あいつの家は名門だぞ。子どものころから一流に囲まれてんだよ。てかあそこのパーティは皆、一般家庭出身じゃないぞ。生まれながらにエリートだ」


 彼らはそれでも鼻に掛けることなく、マシューだけでなくヴァージニアにも親しく接していたのだ。

 彼女は今までそんな経験をして来なかったので、とても胸が熱くなった。


「私はマシュー君くらいの年齢で起こりなんて知らなかったよ。そこら辺で遊び回ってたもの」


 ヴァネッサが言うと皆は自分もそうだと言った。

 この皆の励ましにより、マシューは元気を取り戻した。


「そっか。凄い人達だったんだね! 」


 マシューの両親を知っているヴァージニアからすると彼も十分凄い人である。


「ところでジニー、お水はどうしたの? ジニーは塩水しか移動出来ないでしょ? どうやってやっつけたの? 」

「ああ、海食洞に隠れたときに水分補給をしたから、その水を私の体から馬に移動させたんだよ。加減が分からなくて脱水症状になっちゃったんだけどね」


 ティモシーは暑くないこの季節で、ヴァージニアが脱水症状が起こしているのが不思議だったようで、なるほどと納得していた。


「冷や汗をかきすぎたのかとも考えてた」

「え、自分の体内の水分を? 何それすごい」


 狼人達はヴァージニアは敵にしない方がいいななどと冗談を言った。

 そんなうちに旧灯台の前に到着した。


「この入り口の鍵を壊したのはケンタウロスだな。こりゃわざと派手にやったな……」

「ガンガンと音を鳴らして叩いていましたね……」


 そのおかげでヴァージニアは身構える事が出来た。

 だが身構えすぎると怪しまれるので、あくまで追い詰められた人のふりをしていた。

 それが効いたのかケンタウロスはヴァージニアをあまり警戒していなかったようだ。

 それともどんな相手でも勝てると思っていたのだろうか。

 いずれにしろケンタウロスの慢心のおかげでヴァージニアは計画通り逃げられたのだ。


「ああ、これです。この水筒の水に声を移動させたんです」


 ヴァージニアは自身の水筒を回収した。

 蓋を開けていたので中に埃などが入り込んでいる。


(これは洗って綺麗にしても使う気になれない……)


 見る度に思い出したくないのもあるが、穢れた気がするからだ。


「それで……私は上に行って待ち構えていました」

「階段に馬の蹄の跡があるな」

「大分痩せていましたけど、健康な状態なら立派そうな馬でしたよね」


 禁術使いが自分で飼育していたとは考えにくいので、馬も何処かの牧場から盗まれたのだろう。


「きっと何頭もやられたんだ! 酷い人だね! 」


 マシューは頬を膨らませプンプンといった感じに怒っている。

 ヴァージニアもそんな風に怒りたいが、悲しみの方が大きくて怒る気になれなかった。


「それで、魔法を使って逃げて林の中で隠れていて俺達と合流した、で合ってるか? 」

「ええ、そうです」




 実況見分が終わったので、ヴァージニアとマシューは家に帰ることにした。

 他の人達はまだやることがあるそうなので、ここでお別れだ。

 ヴァネッサが二人を送るかと聞いたがマシューが断った。


「僕がいるから大丈夫だよ。ヴァネッサはお仕事に専念してね」

「うん、ありがとう。マシュー君なら危険を察知する能力もあるし、逃げるのも退治するのも大丈夫そうだから安心だね」


 二人はヴァネッサの豊かな体毛を堪能するかのように存分に抱擁して、彼らと別れ隣町に向かった。




 皆と別れてから数分後、マシューはもう飽きたのかヴァージニアに話しかけた。


「ジニー、カラーマスカラってなぁに? マラカスの間違い? 」


 カラーマスカラは二人と抱擁した後にヴァネッサが友の土産にすると言ったのだが、マシューはマラカスを持ったふりをして手を動かしている。

 エアーギターならぬエアーマラカスだ。


「マスカラは睫毛に塗る化粧品だよ。目を大きく見せるためにやるんだよ」

「ふぅん」


 マシューが興味を抱くことはなく、マスカラの話は終わった。


「氷をレンズ代わりにして火を起こすって言ってたね」


 これは狼人達がアンデッド対策をせねばと言った際にイサークが言ったのだ。

 この方法で火の魔法を使えれば苦戦しなかったかもとのことだ。


「水でも出来そうだけど、太陽がある時じゃないと無理かもね」

「それもそうだね……。ジニー、手を繋ごう。またジニーがどこかに行っちゃうかもしれないでしょ? 」


 マシューはヴァージニアの許可を得る前に彼女の手を握った。

 彼女がリゾート地に続きまた帰れなくなったので、彼は警戒しているようだ。


「うん。気を付けるね」


 ヴァージニアはマシューの手を少し冷たく感じた。

 北の地域なので彼は寒いのだろう。


「本当に気を付けてよねっ! 僕がジェーンさんとキャサリンさん達と一緒にいないといけなくなった時の気持ち分かる? 」


 マシューは夜も修業と特訓があるのだと思って怖かったらしい。

 ヴァージニアは自身がいなくて寂しいのではなかったのかとがっかりしたが、彼がやたら強調して怒っているのでどうやら再開出来た照れ隠しのようである。


「ジェーンさんのご飯美味しかった? 」

「うん、シチュー美味しかったよ! 今度レシピを聞かなきゃ! ……ハッ!」


 嬉しそうにしていたマシューの顔が強ばったので、ヴァージニアはケンタウロスの他に別の危機が迫っているのかと身構えた。


「もしかして食材の値段の違いなの……? 」

「それもあるかもねぇ……」


 食いしん坊なマシューにとっては危機的状況かもしれない。




 二人が隣町に到着すると、見覚えのある二人達が近寄って来た。

 ブライアンとアリッサだ。


「ヴァージニアとマシューじゃないか。どうしてここにいるんだ? 」

「かくかくしかじかだよ」


 この言葉で伝わるはずがないので、ヴァージニアが説明すると彼らからも話が聞けた。

 鼻の良い従魔はブラッドだったそうで、彼が異臭を嗅ぎアリッサが住民を避難や自宅待機するように言ったそうだ。


「もう退治したから大丈夫だよ。キャサリンさんがゴーッて燃やしたの」

「えー、見てみたかったなぁ。元理事長の戦闘シーン」


 マシューはアリッサに先ほどのキャサリンの戦闘シーンの物真似を見せた。


「アンデッド化したってことは、やはり避難させて正解だったな」

「アンデッドって普通の攻撃じゃダメなんだね」


 討伐隊で光と炎の魔法を得意にする人はいなかった。

 獣人の多くは炎系の魔法を使うと毛が焦げるからと嫌がるのだ。


「効きにくいってだけだから、ジェーンさんあたりだったら無属性の打撃でも問題なく倒せるんじゃないか? 」


 ジェーンはどの属性でも使えるそうなので、もしもの話である。


「そうだね。高位のアンデッドじゃなきゃいけるかも」

「うーん、さっきのケンタウロスはどのくらいかなぁ? 」

「アンデッド化したばかりだから高位ではないと思うよ」


 アンデッドに対抗手段を持っていなかった討伐隊に負傷者がいなかったのだから高位ではないだろう。

 彼らが優秀であるからとも言えるが、あまりにも緊迫していたので低位でもなさそうだ。


「元が凶悪犯だったんだろ? さらに元から半アンデッド状態だから中位ぐらいかもな」

「うん。実力がない隊だったらすぐにやられていたかも……」




 マシューはエアーマラカス強化選手になった!もちろん嘘である!

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