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嫌な奴!

 ※2020/11/16加筆修正いたしました。


「マシュー、目痛いでしょう。冷やそうね」

「うん…」


 ヴァージニアはマシューの目元に手の平をかざして、魔法で冷気を当てた。


「マシュー、ただいま」

「ジニーおかえり」


 看板娘が冷たいお茶を持って来てくれたのでお礼を言った。


「マシュー、この魔法自分で出来る?」


 子ども魔法入門に載っていたので出来ると思うが、念のため聞いてみた。


「できるけど、ジニーにしててほしい」

「うふふ」


 看板娘に笑われた。


「なんでマシューが泣いたのか聞かないといけないんだけど、このままだとマシューも聞かないといけなくなるよ?」

「やだ…。はやくかえろうよ。もうがっこうもいかない!ジニーとずっといっしょにいる!」

(学校に嫌な奴がいたのかな?どこにでも嫌な奴はいるからなぁ…)


 マシューの様子からすると相当嫌な奴だったようだ。

 しかし、この町にそんな嫌な奴そうな子どもはいただろうか。


「マシュー君はヴァージニアが大好きなのね」

「そうだよ!ぼくはジニーすきだよ!」

「あはは…」

(どうせなら同じ年ぐらいか少し年上ぐらいの人に言われたいよ…)


 ヴァージニアがそう思いながらマシューをチラリと見てみると、彼の目の腫れは少しましになってきたようだ。


「あっ!そうだ!マシュー良い物を買ってきたよ」


 ヴァージニアは魔法を止め、金平糖の瓶をマシューに渡した。


「こんぺいとーだ!いまたべていい?」


 マシューの機嫌はよくなったようで、にっこりと笑顔になった。


「何粒か食べていいから、王都のお土産だって言ってみんなに配ってきてくれる?」

「わかった!」


 そんなつもりで買ったのではなかったが、マシューを部屋から出すにはこれしか思い浮かばなかった。


(お高いのに…。ちょっとずつ食べようと思っていたのに…ううう……)


 マシューは数粒を美味しそうに食べ、金平糖を持って受け付けの方へ走って行った。


「扱いが上手いわねぇ。と、いうより貴女のいうことなら聞くみたいね」


 看板娘はにっこりと笑っている。


「そのようです。…あの、それでマシューに何があったんですか?」

「髪の毛をからかわれたみたいね。マシュー君は顔がいいから女の子達が寄ってきたのよ。それを嫉んだ男の子がからかったみたいよ」

「そうでしたか…。ですが、この町にそんな意地悪そうな子どもいましたっけ?」


 何度思い出してみても、町で出会った子ども達はいい子だったと記憶している。

 考えていると後ろから声がした。


「隣の市の坊主だろ」


 声の主はギルド長だった。

 普段はあまり見かけないのに、今日はたまたまいたらしい。


「お土産と称してマシューに菓子を配らせるとは考えたな」


 ギルド長はニヤリと笑った。

 マシューとは今日会ったばかりのはずだが、ジェイコブあたりから存在を知らされていたのだろう。


「ははは…。それで隣市の坊主ってなんですか?隣市の方が大きい学校があるのに、何故わざわざ小さな町の学校に来るんです?」

「単純に坊主の祖父さんとその学校長の仲が悪いのと、同学年に高級官僚の子息がいるらしく、その子は成績も性格もいいらしい」

「それで競合相手がいなそうなこちらに来たと…」


 部屋にいる三人ともがため息をついた。


「坊主の家もいい家柄だから見栄を張りたいんだろう」

「大きい学校の2番より、小さい学校の1番ですか…」

「2番になれるかも分からんからな。ははは!って笑っている場合じゃなかったな」

「マシュー君の学校はどうするの?さっきの話を聞く限り、もう魔法は使えるみたいね」


 ヴァージニアはしまったと思ったが、何とか顔に出さずに堪えた。


「ちょっと使えるようになったんです。うーん…。別の学校にしましょうかねぇ…」


 嫌な奴は避けるに限る、避けられるならそうしたい。


「通信制の学校もあるらしいから、調べてみてくれ」

「え、あ、はい」

(そうだよね。ギルド長は忙しいもんね。私が調べるんだよね)


 ヴァージニアは心の中でため息をついた。


「通信制ならマシュー君の願いも叶うわねぇ」

「ん?願いってなんだ?」

「ヴァージニアとずっと一緒にいたいんですって」

「ははは!よかったな!」

「あ、はい…。ははは…」


 ヴァージニアが愛想笑いをしていたら、足音が聞こえてきた。


「ジニー!こんぺいとうくばったよ!」


 マシューが得意気に瓶を見せてきた。


「ああ、ありがと…う?ちょっと!空っぽじゃないか!」


 金平糖が入っていたはずの瓶は空になっていた。

 かなりの量が入っていたはずなのに、瓶の中身はなくなっていた。


「ちょうどみんなかえってきたんだよ」

「ああ、そんな時間だものね。うん、ありがとうね」

「うん!」


 ヴァージニアはお高い金平糖を一粒も食べられなかった。

 空き瓶だけを恨めしそうに眺めた。


「あら、私達は食べられなかったわねぇ」

「あっ!」


 マシューはヴァージニアと看板娘が金平糖を食べていないのに気付いたらしい。


「ごめんなさい…」


 マシューはまた泣きそうになっている。


「あら、いいのよぉ。みんな喜んでた?」

「うん!よろこんでたよ!」

「それは、よかったね…」


 マシューの機嫌が直って何よりだとヴァージニアは必死に言い聞かせた。


(私は大人、私は大人…。金平糖を食べられなくても平気…。平気…)

「よし、じゃあマシュー帰ろうか。マシューを預かって下さってありがとうございました」

「ありがとうございました」

「気を付けてなー」


 歩いて帰るのが面倒だったので、家まで転移魔法(テレポート)した。

 家の中ではなく、ドアの前なのは防犯のために建物内には入れないように魔法が施されているからだ。

 どの建物もそうなっている。


「ただいま」

「ただいまー」


 荷物を置いて、うがいと手洗いをした。

 そして忘れずに桃のゼリーを冷蔵庫に入れた。


「もも?!」

「桃のゼリーだよ。私とマシューの分だからね」


 ヴァージニアはお弁当のゴミを捨てた。

 王都の屋外には景観重視だかでゴミ箱がないのだ。

 そこら辺にポイ捨てをすると王都に住み着いている精霊か何かが、その人の家までゴミを持って行くらしい。

 そのゴミは何処に入れられるか分からないので、きちんと持って帰るか屋内のゴミ箱に捨てた方がよい。


「はーい」

「よし、夕飯作らないと」


 ヴァージニアは着替えもせずにそのままエプロンをし、野菜を小さめに切って鍋に入れた。


「なにつくるの?」

「肉団子のスープだよ。水とスープの素を入れて煮込んで肉団子も入れればそれで完成だ」


 野菜を小さめに切ったのですぐに火が通るだろう。

 咀嚼するのも大事だが、体に食べ物を入れる方が大事だと思う。


「後は…。食パン焼けばいいか…」


 ヴァージニアはいいのだろうかと思ったが、やる気が起きない。

 これでもヴァージニア比で頑張っている方だ。


「はい、しょくパン!」

「ありがとう」


 食パンをトースターに入れて焼いた。

 今すぐかぶりつきたいほど、いい匂いがする。


(チーズとハムでも乗せるか?きゅうりもスライスしようか)


 やる気が起きないが、マシューのために用意した。

 やはり子どもはきちんと食べないといけないと思ったのだ。

 鍋を覗いたら、野菜に火が通ったようなので肉団子を入れた。

 肉団子は昨日のうちに調理済みなので温める程度でいいだろう。


(塩と胡椒で味を調えて…)

「マシュー、深いお皿を用意して」

「どれ?」

「円柱型の」

「えんちゅーがた?」


 マシューは眉間に皺を寄せ、変な顔になっている。


「…マシュー、そんな顔しちゃダメだよ。そのまま変な顔になっちゃうよ」

「はっ!わかった。もうしない!」


 美少年の顔は守られたようだ。

 ヴァージニアは自分で皿を取った。


「マシューは肉団子を何個食べる?」

「ジニーからとって」


 どうやらマシューは金平糖の事を気にしているようだ。


「んじゃ三つにしようかな」


 お昼にハンバーグ弁当も食べたのでこれでいいだろう。


「ぼくもみっつにするよ」


 やはり気にしているようだ。


「…もっと食べないと大きくなれないよ?」

「ふとっちゃう…」

「これくらいじゃ太らないから…」

(どこでそんな言葉覚えたの…)


 マシューの皿には肉団子を五つ入れておいた。


「こんなにたべてもいいの?」

「いいよ。沢山食べて」


 子どもに食べ物を我慢させるほど貧乏ではない。

 お菓子は我慢させるが。


「スプーンとフォーク並べてね」

「わかった!」




 食事が終わり、食器はマシューが洗ってくれた。

 ヴァージニアがマシューに礼と感謝を伝えるとマシューは照れていた。


「明日の朝は何にしよう…。サンドイッチでいいか…」


 でいいか、とは言ったものの食材を切るのも手間と言えば手間だ。


「明日の晩ご飯はスープが残っているから、具材を足せばいけるかな?」

「…ジニーおなかすいてるの?」


 いつになく真剣な顔をしているマシューがいた。


「え?なんで?」

「だって、もうごはんのはなししてるじゃない」

「…献立を考えていただけだから!」

「ほんとう?」

「本当だから!」


 マシューに変な心配をされてしまった。


「あ、そうだ。桃のゼリーはいつ食べる?明日の楽しみに取っておく?」

「いまたべる!」

(そりゃそうだろうね)


 二人で桃のゼリーを食べ始めた。

 マシューは夢中で食べている。


(そんなに必死ならなくても誰も取らないよ)


 マシューはいつもお行儀良く食べるのに、桃になると凄い勢いで食べるのだ。

 見ていて面白いが、喉に詰まらせやしないかとハラハラする。


「あれ?最後の食べないの?」


 何故か一口分のゼリーを残している。


「ジニーにあげる」

「…いや、いいよ。マシュー食べなよ」

「ぼく、おなかいっぱいだからジニーたべて…」

「…う、うん」

(嘘だ。まだ金平糖を気にしているんだ)


 ヴァージニアは仕方なくマシューが残した分を食べた。


「おいしかった?おなかいっぱいになった?」

「うん」


 ヴァージニアは自分の分のゼリーを食べた。

 その間ずっとマシューはヴァージニアは見ていた。


(食べにくいんだけどなぁ…。ああ、そうだ!)


 ヴァージニアは自分の分を一口分残した。


「たべないの?」

「お腹いっぱいになっちゃったからマシュー食べてくれる?」

「いいの?!」


 マシューはとても嬉しそうだ。

 やはり食べたかったようだ。


「食べていいんだよ」


 マシューは美味しそうにゼリーを頬張った。




 マシューは嫌な奴がいるのを知ったようです。

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