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お迎え!

 ※2020/11/13加筆修正いたしました。


 案内看板のおかげで無事に王立魔導研究所に到着した。

 夕方まではまだ時間があるようだが、他に行く場所もないのでこちらで待機させてもらおうと思う。

 確か受付のスペースに椅子があったはずなので、そこで座って待っていようとヴァージニアは思った。


「どのようなご用件でしょうか」


 中に入ってすぐに受付係に聞かれた。

 勝手に座って待つのは出来ないらしい。

 早速予定が崩れてしまい、ヴァージニアは焦った。


「先ほども来たのですが…えーっと、調査の結果を持ち帰らないといけないそうなんです。まだ結果が出るまで時間がかかると思うので、こちらで待たせていただくわけにはまいりませんでしょうか?」

「何の調査か伺ってもよろしいでしょうか?」

「魔獣の角です」

「かしこまりました。責任者に確認をとりますので、少々お待ちください」


 ヴァージニアは椅子に座った。


(責任者ってさっきの女の人かな?)


 あの女性は一段と立派な格好をしていたので責任者なのだろう、そうヴァージニアは考えた。


「連絡がとれました。すぐに別の者が迎えに来るそうですので、もう少々お待ちください」

「分かりました。ありがとうございます」


 またあの部屋に見張りつきで閉じ込められるのだろうか。

 そう思うと迎えに来てくれなくていいのにと思った。


(ずっとここで、何もせずにぼっとしていたい)

「お待たせいたしました!」

「!」


 駆け足でやって来たのは、最初にあの部屋に案内した研究員だった。


「今は別件で少々立て込んでおりまして、私が局長の代わりにまいりました」

「局長?」

「はい。…あれ、先ほどお話しされましたよね?」


 隊長ならばそう言うだろう。

 ヴァージニアはもう一人会話した人物がいた。


「…おかっぱの女性ですか?」

「ええ、そうですよ。それではご案内いたします」

(局長だったのか…。局長さんより綺麗な虹色の目をしているマシュー…。いや、何気に年功序列なのかもしれない。もっと魔力が高い人はいるでしょう。うん)


 笑顔で案内されたのは、先ほどとは違う部屋だった。

 この部屋は魔法が使えそうだ。

 別に魔法を使うわけではないが、あんな部屋はやめて欲しかった。


「こちらでお待ちください。紅茶とコーヒーどちらがお好みでしょうか」

「紅茶でお願いします」

「かしこまりました」


 ヴァージニアはさっきと全然違う対応だと思った。

 どんな心変わりがあったのだろうか。


(まあ、いいけどさ!)


 部屋は窓があるので中から廊下が見える。

 そう、最初に案内された部屋は窓がなかったのだ。

 そんな中、怖い顔の隊長と二人きりで会話をしたのだから、誰か褒めてほしい。


「お待たせしました。紅茶とお茶請けです」

「ありがとうございます」


 ヴァージニアは念のため、毒や薬が入っていないか魔法で確かめてみようとした。


「…何も入っておりませんよ」


 睨まれはしなかったが、何やってんだコイツといった風に見られた。


「ああ、そうでしたか」


 一応解毒の魔法をすぐに使用出来るようにしておこうと準備しておき、紅茶を一口飲んだ。


「良い香り!美味しい紅茶ですね」


 ヴァージニアはお茶請けの焼き菓子も食べた。

 つい先ほど、弁当を食べたばかりだったが美味なので何個でも食べられそうだった。

 王立ともなると研究所でもこんなに美味しい紅茶とお菓子が飲食出来るらしい。

 さっきは出来なかったが。


「気に入っていただけてよかったです」

「疑ってしまいすみませんでした」

「いえ、そういう方は少なからずいらっしゃるそうです。私は初めてでしたので驚いてしまいました」

「そうでしたか」


 そうでしたかも何も、ヴァージニアはギルドの先輩方から教えてもらったのだった。


「…立て込んでいるとは何かあったのでしょうか?」

「申し訳ございませんが、守秘義務がございますのでお話出来ません」

「局長自ら対応なさるのですから大事なのですね」

「お答え出来ません」


 何を聞いても答えてくれなさそうなので、ヴァージニアは質問をやめて紅茶とお菓子を楽しんだ。


「どちらのブランドですか?」


 これなら答えてくれるだろうと思った。


「これは王室御用達なんですよ。その中でもかなり高級なんですよ」


 研究員はよだれを垂らしそうだった。


「…もっと重要なお客様用じゃないんですか?」


 王立ともなると王族や貴族が来るのが当たり前なので、その人達のために用意しているのではないだろうか。


「いえ、どなたにもお出ししておりますよ。それにそういうお偉い方々は食べ飽きておいででしょう」

「それもそうですね…」


 ヴァージニアと研究員は苦笑いをした。

 身分が高い人は毎日、毎食、美味しい物を食べまくっているのだろうとヴァージニアは想像した。


(このお菓子こっそり持って帰れないかな?)

「…ああ、私に構わず他のお仕事をなさってください」

「…この部屋でお客様の対応をするのが仕事でございます」

「そうでしたか」


 接客は若い研究員にさせるようだ。

 ヴァージニアの場合は見張りなのではないかと疑ってしまう。

 どちらにしろ美味しいお菓子をこっそり持って帰れなくなった。

 正直に言えばお持ち帰り用に包んで貰えるだろうか。

 なので、思い切って言おうとした。


「あの、この――」

「お待たせいたしました」


 局長が来てしまった。


「早めに来てしまいすみません」

「いえ、大丈夫ですよ。すでに結果は出ておりますから」

「そうでしたか。わざわざ局長さんが報告してくださるなんて、申し訳なく思います」

(局長自ら報告してくれなくてもいいのでは?私が暇だとでも思っているの?帰ったら夕飯作らねばならないんだぞ!)

「いえ、仕事ですからお気になさらないでください。ではこちらが、調査結果です」


 局長は紙を机の上に置いた。


「結論から言うと、角は魔獣ではなくサイクロプスのものでした」

「サイクロプスって一つ目の巨人でしたっけ?魔獣じゃないんですね」


 ヴァージニアは絵で見ただけだが、それだけでなかなか怖い姿をしていると思った。


「サイクロプスは魔獣ではなく神族とされています。どうやら今回見つかった角は突然変異した個体の角のようです。色は黒でした。塗装されたり経年劣化して変色したわけでもありませんでした」


 局長は笑顔だが、目の奥は笑っていない。

 ヴァージニアは元々こういう作りの顔なのだろうかとも思ったが、違うだろうと勝手に結論づけた。


「そんなに珍しいのなら記録が残されていてもおかしくないですよね」

「はい。こちらでも調べてみましたが、黒いサイクロプスの記録はありませんでした」

「そうでしたか。もしかしたら、その土地だけに伝わる昔話があるかもしれませんよね。お年寄りに聞いたら分かるかもしれませんね」

「ええ、その可能性は高いですね。こちらの手紙に今言った事と同じ内容が書かれていますので、是非とも報告書と一緒に教会の責任者に渡してください」

(だから!先に言えっての!)


 人を試すような言い方をするのは局長の癖なのだろうか。


「分かりました。角は持って帰らなくていいんですよね」

「サイクロプスの角はこちらで保管する手筈になっていますので、大丈夫ですよ」


 局長と研究者に研究所の入り口まで見送られた。


「では、報告書と手紙をよろしくお願いいたします」

「ええ、お任せ下さい」

「またいつでもいらして下さい」

「はい、ご縁がある事を祈ります」

(出来れば二度と来たくない。局長さんの笑顔も怖いしさ)


 ヴァージニアは王都の出口に歩いて向かった。

 王都の敷地内は転移魔法(テレポート)は使えないのだ。

 何でも許可されている人は出来るらしいが、そんな人は王族や高位貴族、高官ぐらいだろう。


「では、身分証の提示をお願いいたします」


 ヴァージニアが来た時とは兵士が交代していた。

 何時間も経過しているので当たり前である。


「どうぞ」

「はい、通っていいですよ」

「どうも」


 ヴァージニアは王都から出て、門から少し離れた場所で転移魔法(テレポート)をして依頼主の元に向かった。




「突然変異した黒いサイクロプスですか…。聞いたことないですね」


 教会の責任者をはじめ、他の人達も知らないようだった。


「あっ!あのおばあちゃんなら知っているんじゃないですか?名前、なんだったかなぁ?」

「マギーおばあちゃん?」

「そう!その人!」

「マギーさんは別の町の病院で入院してますよ。もう100歳過ぎてらっしゃいますからねぇ」


 ヴァージニアは依頼を達成したのですぐにギルドに帰りたかった。

 話し合うのは後にしてして欲しい。


「あの、ヴァージニアさんその病院まで私を送って頂けないでしょうか。もちろんお代は別にお支払いします」

「ええ、構いませんよ。往復ですか?片道ですか?」


 すぐに帰りたかったが、お金が貰えるなら別である。


「時間が時間なので、往復をお願いしてもよろしいでしょうか」

「もちろん大丈夫です」


 ヴァージニアは馬車代プラスお気持ち程度の代金を貰い、責任者の手を取った。


「それでは転移魔法(テレポート)!」


 相手を驚かせないように唱えてみた。




「おお!本当に病院の前につきましたね」

「ええ、そういう魔法ですので」


 それもそうですね、と責任者は言った。

 病院の中に入り、病棟へ移動した。

 責任者が手続きをして、マギーおばあさんの病室に行った。


(あれ?なんで病室までついて来ちゃったんだろ?まあ、いっか。時間を潰すのも大変だし)


 病室に入るとベッドにはマギーおばあさんが寝ており、椅子にはマギーおばあさんより若いおばあさんが座っていた。

 多分娘さんかお嫁さんだろうとヴァージニアは推測した。


「まあ!わざわざお見舞いに来て下さったのですか?」

「はい、実はマギーさんにお尋ねしたい事がございまして…。こちらの方は転移魔法(テレポート)で私をここまで運んで下さった方です。こちらの方はマギーさんの娘さんです」


 ヴァージニアはお辞儀だけした。


「それで…母に聞きたい事とはなんでしょうか?」

「実は教会の倉庫で、サイクロプスの角が見つかったのです。それも黒い…突然変異したものだったそうです。記録には何も残っていないので、もしかたら口伝えなどで伝わっているのではないかとなりまして、町で一番ご長寿のマギーさんならば何かご存じかと思いまして…」


 責任者はチラリとマギーおばあさんを見たが、彼女はぐぅぐぅ眠っていた。


「そうでしたか…。サイクロプスって一つ目の巨人ですよね?うーん…私は何も聞いていないですね。兄弟にも聞いてみましょうか?」

「是非ともお願いいたします。ちなみにマギーさんご本人には…」

「この通り、最近は起きている時間よりも寝ている時間の方が多いのです」

「では起きている時に、黒いサイクロプスの話を聞いて頂けますか?」

「分かりました」




 用が済んだので、責任者を教会まで送った。

 そしてヴァージニアは漸くギルドに飛んでいった。


「依頼達成しました。こちらが、その証明書です」

「はい。お疲れ様でした。こちらが報酬となります」


 看板娘ではなく、若い男性が受付をしていた。

 ヴァージニアは代金を確認した。

 どうやらあの部屋での隊長と局長からの尋問まがいの分は上乗せされていないようだ。


(当たり前かぁ…。依頼したのは教会だもんね。研究所からは出ないよね…。まあ、臨時収入があったからいいとしよう)

「あの…マシューは…少年を預けたんですが、何処にいますか?」


 ここで待っているとヴァージニアは思っていたが、姿は見当たらない。

 いつもいる看板娘がいないのも変だ。


「ああ、彼なら奥の部屋にいますよ。呼んで来ますか?」

「いえ、自分で行きます。ありがとうございます」

(お昼寝でもしているのかな?)


 ヴァージニアは奥の部屋に進んで行った。

 寝ているかもしれないので静かに歩き、静かにドアをノックした。


「すみませーん。マシューを迎えに来ました」


 ヴァージニアは小声で言った。


「はぁい!」


 看板娘の大きな声が聞こえてきた。

 どうやらマシューは寝ていないらしい。

 では何故だろうと思っていたらドアが開いた瞬間に衝撃があった。


「うおうっ!」


 マシューが走って来てヴァージニアに抱きついてきたようだ。


「マシューどうしたの?」

「うー」


 マシューはヴァージニアの鳩尾あたりで唸っている。

 そんなに寂しかったのだろうか。

 だが、何か違うとヴァージニアは思った。

 マシューなら、ちゃんと待っていられたと得意気にするはずだ。


「何があったんですか?」

「それがねぇ…」

「やだ!あいつきらい!あいつのはなししないで!」


 マシューはヴァージニアから顔を離して大きな声で言った。

 その時のマシューの顔にヴァージニアはぎょっとした。


「え?どうしたのその顔?!」


 マシューの目元が真っ赤に腫れ上がっていたのだ。


(美少年が台無しだ…)




 マシューは嫌な奴に出会ったようです。

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