龍達と会話!
「ジニー、星がいっぱい見えるね! 」
「多分初めて見る星もあるんだろうね」
ヴァージニアはこの島に来てから日が暮れたら星空を見ずにすぐに眠っていた。
早朝から朝露を回収せねばならなかったのでさっさと寝ていたのだ。
だが、その作業がなくても彼女には星空を見る心の余裕はなかっただろう。
「ここは暖かいから? 」
「そうだよ。いつもいる所より南だからね」
マシューはふぅんと言いながら再び空を見た。
きっと彼が両親と過ごした時に輝いていた星も数多くあるはずだ。
「けど、流石に夜は少し寒いよね」
「そうだね! ふふっ! 」
マシューはヴァージニアにぴったりとくっついてきた。
彼はまだ子どもだからなのか少し体温が高いらしく、ヴァージニアと接している部分がとても温かかった。
「どうしたの? 」
「これならあったかいでしょ? 」
マシューはヴァージニアに甘えているようだ。
彼は一週間も彼女に会えなくて寂しくて仕方なかった。
彼女に会えたらどんなことをしようか考えていたが、彼女の顔を見た瞬間全て忘れた。
「うん、あったかいよ。ありがとうね。……そう言えばどうやってあの渦から逃げたの? 」
「……さあ? 」
マシューはあのあとすぐに寝てしまい記憶がないそうだ。
(あの状況で自然に寝るってことはないだろうから、気絶したか眠らされたか……)
ヴァージニアはマシューの魔力に変化があったのではと考えた。
その変化に危険を感じたから誰かが、おそらくエミリーが眠らせたのではないか。
「皆さんは無事なんだよね? 」
ヴァージニアは彼らの実力なら全員無事だろうと思い、すっかり聞きそびれていた。
「うん。皆は残りの出土品を回収しに行ってたよ」
「無事なんだ。よかった……」
ヴァージニアは皆の無事を確認して安心したら、自分の報酬はどうなるのだろうと心配した。
彼女は皆にかなり迷惑をかけてしまっているので、捜索や救助のためにかかった費用を請求されるかもしれないと青ざめた。
(貯金は足りるかな……)
出土品捜索での収入よりも出ていくお金の方が多くなりそうだ。
ヴァージニアは赤字になるのかと思うと悲しくて仕方なかった。
マシューは暗い表情になっているヴァージニアの顔を覗き込んできた。
「ジニー大丈夫? どこか痛いの? 」
「どこも痛くないよ」
ヴァージニアは懐が痛いのは黙っておいた。
二人が洞穴に戻ると、雷竜があくびしているのが目に入った。
雷竜の牙は見えた限りは全てギザギザで尖っており、どう見ても肉食獣のような歯をしている。
ちなみに地竜の歯はどちらかというと雑食動物に近い。
「ねぇねぇ! 二人とも龍なのにどうしてそんなに違うの? 」
「そうよねぇ。雷竜ちゃんは鱗だけど、地竜ちゃんは動物みたいに毛が生えているわよね」
ヴァージニアここで雷竜の姿が子どもの頃に見た本の挿絵に似ているのに気が付いた。
おそらくジェーンの友であるため人間の目撃情報が多く、モデルにされたのだと思われる。
「人間も人それぞれ姿が違うだろう。それと同じだ」
これでなるほど、とはならない。
人間は彼らほど姿形が違っていない。
それとも龍にはかなり違って見えているのだろうか。
「えー? 」
マシューもヴァージニアと同じく納得しなかったようだ。
「他にはどんな龍がいるんですか?」
「角が沢山生えている奴がいるぞ! あやつはなんだったかな? 」
「鉄竜だ。あいつは重くて飛ぶと疲れるから飛ぶのが好きじゃないらしい」
鉄竜はどこかの山奥に住んでいるそうだ。
ヴァージニアは鉱山だろうかと考えた。
「他には全身透けている奴もいるぞ! 骨も脂肪も筋肉も内臓も血管も全てが丸見えだ! 」
「え……」
話だけでは遭遇したくない龍である。
「聞いたことあるわよ。確か水晶竜よ。昔、鱗を採りに行く依頼が来ていたわね。私のパーティじゃなくて別のところが行ったんだけどね、とても綺麗な龍だったそうよ」
水晶竜はそのパーティに剥がれた鱗を分けてくれたらしい。
「綺麗なの? 丸見えなのに? 」
「氷の彫刻やガラス細工みたいだったって言ってたわ」
ヴァージニアはこれなら少し見てみたいと思い、言い方でこんなにも印象が変わる物なのかと驚かされた。
「色んな龍がいるんですね」
「んまぁ、全ての属性や自然界に存在する物と同じ性質の龍がいると思ってくれて構わない」
「龍以外もでしょう? 」
ジェーンの言葉に二竜は頷いた。
ヴァージニアは一瞬理解出来なかったが、龍以外の大きな力を持った生き物達もいるので、彼らについて言っているのだと気付いた。
(知らなかった……。どの本にもそんなこと書いてなかった……)
秘密にしているのか、それとも知られていないから書かれていないのか。
ジェーンは知っていたようなので前者なのだろうか、それともただ面倒だから誰も書いていないのか謎である。
「ねぇねぇ、その龍達とは皆友達なの? 」
マシューはヴァージニアの疑問など関係無く、無邪気に目を輝かせている。
彼は友達に憧れているのか、それとも大きな力を持った生き物達に憧れているのか。
「友もいるが、会ったことのないのもいるし、嫌な奴もいる。人間もそんなもんだろ? 」
「そっか、そうだね。人間にも良い人悪い人、普通の人、知らない人がいるもんね」
きっと龍にも色んな性格の者がいるのだろう。
現に目の前にいる二竜を見ていれば安易に想像がつく。
「フハハハハ! 龍も人間も似たようなものだな! 」
大雑把すぎるが、深く考えすぎないのはいい事だろう。
「他に龍と人間に似ている生き物っているの? 」
「他にか? 」
「おいおい、最終的にはどれも似ている、となるんじゃないのか? 」
地竜は呆れているらしくため息をついた。
「おお! 流石我が友! よく分かっているな! 」
ヴァージニアは他にどんな生き物がいるか考えてみた。
獣人は好戦的な種族が多いが、考え方は人間と似ているらしい。
魔獣や魔物もブラッドやとうめいを見る限り人間の考えと乖離していない。
それとも彼らが人間と接しているからだろうか。
「あ、ゴーレムはどうなんですか?」
ヴァージニアは牧場にいる石ころ達を思い出した。
マシューが名前をつけたおかげか、針金のようだった足が少し太くなっており、人間の言葉を理解しているような様子を見せるようになっていた。
ただスライム達ほど反応は良くなく、凝視していないと反応が分かりにくい。
「ゴーレム? 話が通じた記憶が無いな」
地竜はゴーレムには独自の意思疎通の方法があるのではないかと言った。
「地の者が通じぬのなら我は完全に無理だな! 」
「僕もゴー達が何を言っているのか分からないよ」
ヴァージニアは皆にマシューが名付けた石ころ達の説明をした。
「マシューはとうめいだって、何を伝えようとしているのか分からないでしょう」
「! 」
とうめいはそうだと言っているらしい。
「むぅ、ちょっと分かるもん……」
「分かるのはとうめいが一生懸命ボディランゲージしてくれてるからだよ」
ヴァージニアも身振り手振りがないとさっぱり分からない。
「! 」
とうめいは再びそうだと言っているようだ。
ここで地竜は何かあったのか少し首を上げたので、ヴァージニアはどうしたのだろうかと視線を向けた。
「おお、今の今まで忘れていたが念話を教えた方がいいのか? 」
「!! 」
とうめいは弾んで教えてくれとせがんでいる。
ジョリジョリはよく分かっていないようだ。
「こう、集中して相手に言葉を伝えるんだ」
「…………? …………? 」
とうめいはやってみているらしいが、上手くいかないらしい。
なかなか上手くいかないのでとうめいは苛立ちだして、終には拗ねてしまった。
「うーん、魔力量の問題だろうか? 」
「えー……大きくなったのに無理なの? 」
地竜はもっと大きくなれば可能かもと言ったが、実際どうだか分からない。
スライムは魔物の中でも小物なので、魔力もそんなにない。
討伐依頼が出るのは異常なほど大量発生した時ぐらいだ。
(極稀に悪いスライムが出るらしいけど、極稀だからなぁ)
変異種か狂暴な種類のスライムだ。
スライムは比較的温厚なので怒らせない限り大丈夫だ。
(変異種……あ! )
ヴァージニアはあることを思い出した。
マシューと出会ってわりとすぐの出来事だ。
「あのっ! 黒いサイクロプスについて何か知りませんか? 」
ジェーンは教会でのことを思い出したのか、ああと言った。
「サイクロプスというと一つ目のデカい奴だったな。それで黒い奴か……」
地竜は目線を下に向けため息をついた。
雷竜もあまりいい表情はしていない。
(何か悪い事を聞いちゃったのかな? )
ヴァージニアは冷や汗をかいてきた。
二竜が怒りだしたらヴァージニアなんて一溜まりもないし、何よりせっかく出会えたのに悪い感情を持って別れたくない。
機嫌を損ねたことを詫びようにも繕った言葉ではすぐに見破られ余計に怒りを買うのではないか。
ヴァージニアは頭の中で同じ考えを何度もした。
「ヴァージニアよ、黒い一つ目を何処で知ったのだ? 」
雷竜は今までの喋り方が嘘だったかのようにとても静かに低い声で言った。
これが決定的となりヴァージニアはさらに萎縮してしまい喋れなくなってしまった。
「教会の地下に黒いサイクロプスの角があったのよ」
声が出せないヴァージニアの代わりにジェーンが答えた。
ジェーンはその後もヴァージニアの代わりに教会での出来事を順番に話していった。
「そうだったのか。奴は不遇な死に方をしたからな。少し気が立ってしまった。怖がらせてすまなかったな」
「大丈夫だなんて言葉を信じた我ら自身も許せぬのだ」
二竜は低く唸り、とても険しい表情になった。
それほど辛い記憶だったのだ。
ジョリジョリはとうめいが何をしているのか分からない!




