王都怖い!
マシューは出てきません。
「!!」
ヴァージニアの手に何かが触れたが、すぐに本だと気付いて手を空間から引き抜いた。
「あ…」
ヴァージニアの手には目的の本があった。
ヴァージニアはとんでもない事をしてしまったのではないかと思い、だんだん心臓が速く動き出した。
(誰かに本を渡されたみたいだった…。誰かいるのかな。とんでもない事ついでに頭を突っ込んでみようかな…。何がいるか見えるかも…)
ヴァージニアは恐怖よりも好奇心が勝り、書架に顔を近づけてみたが鼻をぶつけただけだった。
(痛い…)
どうやら手しか入れられないようだ。
なんならもう一度手を入れてやろうと思い、手を入れようとしたが手は入れられなかった。
一人一回なのだろうか。
それとも本を返さないといけないのだろうか。
(まぁいいや。本を読もう)
ヴァージニアは人がいない奥の方の椅子に座り、本のページをめくった。
まずはさっき調べた息子の文字から見た。
次は何となくページをめくってみて、気になった文字を適当に見ようと思う。
そうしているうちに他の文字も思い出すかもしれないと思ったからだ。
しかし、何ページも見ているうちに頭の中で文字が躍り出した。
(ううっ…見慣れない文字だから、頭の中でおかしなことになってる…)
ため息をついて本を閉じようとしたときに、ある文字が目に入った。
急いでそのページを探して開き、文字の意味を読んだ。
(私達の…?私達ってマシューの両親ってこと?)
これだけではよく分からないので、他の文字も頑張って思い出そうとした。
(私達の、と息子は近くにあったと思うけど、他にも何か書いてあったな)
いずれにしろ自分達の息子を遺跡に封印するなんて変だ。
ヴァージニアはページをめくりながらそう考えていた。
(あ…。この文字見たことある。愛しい…?私達の愛しい息子…?愛しいならなんで…)
あんなところにマシューを閉じ込めたのだろうか。
あんな海の底の遺跡にたった一人にするなんて。
ヴァージニアは悲しくなり本を閉じた。
そして元の場所に戻しに行った。
借りようかと思ったが、どうやら古代文字のコーナーは閲覧のみのようだ。
本の背表紙を向けて先ほどの場所に突っ込んでみたら、誰かが本を掴む気配がしたので手を離した。
ヴァージニアの手から離れた本は吸い込まれるように消えてしまった。
書架を見ると何事もなかったかのように、それまでと同じように存在していた。
(不思議な体験をしてしまった…)
あの仕掛けに気付く人はどれくらいいるのだろうか。
そもそも中にいるのは誰なのだろうか。
(人間ではないと思う…。本好きの…魔獣とか妖精とかかな?)
考えても分かるはずないので、ヴァージニアは思考を停止した。
(そうだ、マシューに美味しい物でも買っていってあげようかな…)
その前にメイクオーバーの本を借りなければならない。
尾行者はどうなっただろうか。
まだ事務室にいるだろうか。
(まぁ…尾行なんて、さっきの体験に比べたら何ともないか)
ヴァージニアは図書の貸し出し口に移動した。
「こちらの本はお住まいの町の図書館にもあるようですよ。当館で予約せずに、そちらで予約しておきますか?」
わざわざ王都まで返しに来るのは面倒だ。
「はい。お願いします」
「かしこまりました。…ではこちらを持って1週間以内に借りに行ってください。それ以上経ちますと予約は取り消されます」
司書から予約票を渡された。
「分かりました。ありがとうございます」
司書がメイクオーバーの本を棚に乗せたら、本は消えてしまった。
多分、元の場所に戻ったのだろう。
(世の中、便利な物だらけだね)
もしかしたら、もっと便利な魔法があるのかもしれない。
よくある、親の顔が見てみたい!を叶える魔法はないのだろうか。
あったらマシューの親が分かる。
(分かったとしてどうするんだろう?多分もう死んでいそうだし…)
マシューが封印された理由も知りたいし、マシューの両親も知りたい。
ヴァージニアは考え込んでしまった。
そんな時、聞き覚えのある声がした。
「あっ!」
「?」
声がした方を見たら尾行者がいた。
ちょうど今、解放されたらしく警備員が尾行者の隣にいる。
「どうした?」
「い、いえ。何でもありません」
「そうか。二度と怪しい行動はしないでくれ。利用客に迷惑になる」
「うっ…す、すみませんでした…」
今のうちに逃げようとヴァージニアは早足でその場から逃げた。
図書館の外に出て、百貨店に行こうとした。
しかし、それは出来なかった。
「待て!気が付いていたんだろ?」
声をかけてきたのは尾行者だった。
当然ながらヴァージニアは無視をして歩き続けた。
「おい!待て!」
尾行者は大きな声を出し、ヴァージニアの肩を掴んだ。
ヴァージニアの作戦通りだ。
「きゃーっ!!こ、この人!図書館で警備員さんに事務所に連れて行かれた人だわ!」
ヴァージニアはわざとらしく悲鳴をあげた。
「なっ!」
尾行者は慌てて手を離し、一歩下がったが、ここは王都だ。
通行人は沢山いる。
その通行人達がジロジロと尾行者を見たり、ヒソヒソと何かを話し始めた。
「なっ!私は…あの…」
尾行者はたじろいでいる。
「おいお前!やはり不審者だったんだな!」
通行人の中で図書館の警備員を呼んできた人がいるらしい。
「ち、違います!誤解です!」
「嘘つけ!お前、女の子の肩を掴んで話しかけていただろう!」
「私も見たわ!」
自分も見たと言う人が大勢いた。
「今、警邏の兵に引き渡すからここで大人しくしていろ」
警備員に睨まれた尾行者は何も言い返せずに大人しくしている。
「はっ!こ、この人!図書館に入る前から私をつけていた人だわ!」
ヴァージニアが尾行に気付いたのは図書館に入ってからだが、多分その前から尾行されていたのだろう。
「なんだと?!今、確認させる」
警備員はそう言うと通信機で図書館に連絡して、図書館の出入り口の監視映像を確認させた。
「…事実のようだ。その映像と図書館内の映像も軍に提供する」
「そ、そんな…」
尾行者の顔は真っ青だ。
「わ、私、怖いので少し離れた場所にいてもいいでしょうか」
「ええ、構いませんよ」
ヴァージニアは少し離れた場所、百貨店に足を向けた。
面倒なのは嫌だし、何か言われたら道に迷ったとでも言えばいい。
(お主も悪よのぅ)
ヴァージニアは人混みに紛れて百貨店に到着した。
(食品売り場は地下か…おやつかお総菜を買おう。…あれ?私お昼ご飯まだじゃない?)
ヴァージニアは所持金の関係でマシューのおやつと自分の昼食だけ買うことにした。
「いらっしゃいませー!」
販売員の元気な声が聞こえてきた。
食べ物のいい匂いがする。
ヴァージニアは匂いを嗅いだら一気にお腹が空いてきた。
「お味見どうぞー」
店員に笑顔で渡されたので、断れずに受け取った。
どうやらハンバーグのようだ。
「お味見どうも」
食べてみたら美味しかったので、店頭に並ぶ商品を見たら弁当が値引きされていたので購入した。
(マシューのおやつはお弁当食べてからにしよう。何処か座れる場所は…)
王都の百貨店には飲食スペースはないようだ。
上の階にはあるかもしれないが、ウロウロしたくない。
ならばマシューのおやつ兼ヴァージニアのおやつを先に買って、公園かどこかでお弁当を食べよう。
きっとお洒落な公園があるはずだ。
(何がいいかなぁ。桃だったら何でも喜びそうだから、桃でいいか)
ヴァージニアは桃と心の中で唱えながらお手頃価格の菓子類を探した。
しかし、王都の百貨店にはお手頃価格の菓子はなかった。
(王都怖い…)
とりあえず、最初に目に入ったのがゼリーだったので桃のゼリーを購入した。
もちろん二つだ。
もう、目的は達成できたので百貨店から出ようと思ったとき、ある物が目に留まった。
(金平糖か…)
地元のスーパーマーケットよりずっと高級そうな金平糖が売られていた。
(やけにキラキラしているけど、きっと照明のせいだな。うん。きっとそうだ)
そう言い聞かせたが、視界の端にいるキラキラと輝く金平糖を無視出来なかった。
(痛い出費だ。今回の報酬はどうなるだろう。予定されていなかった合成生き物についても話したんだから、ちょっとおまけしてくれるかな。って教会が払うのかな?さっきの人達が払うのかな?しまった。マリリンに聞き忘れた)
ヴァージニアはお洒落な公園で弁当を食べていた。
ハンバーグとスパゲティが入っている弁当だ。
野菜もそこそこ入っているし、ハンバーグのボリュームもすごい。
(値引きされていなかったら別の物お安いのにしてたな。パンを一つだけ買って我慢すればよかった。これも痛い出費だ。…マシューはちゃんとご飯食べたかな。後でギルドから請求されるんだろうか)
あ、とヴァージニアは声を出した。
そう言えば今日の夕飯は肉団子を使おうと思っていた。
昼も夜も肉になる。
(まぁ、いいか。多分マシューはコロッケ食べているだろうし…)
色々考えているうちに昼食は終わった。
(さっきの建物に行こう。王立魔導研究所だっけ?また案内看板を見ながら行けばたどり着けるよね)
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