秋風
大和の都ー平城京
夏の神の騒動から、二ヶ月以上が過ぎ、季節も段々と秋に移り変わろうとしていた。
天界に戻った氷雨からの連絡も未だに無い為、不安が募るばかりだ。
そんな時だった。
屋敷の部屋に一匹の白い垂れ耳の兎が、迷い込んできた。
「こんばんは!貴方が、坂神利成様ですか?」
再び、人語を、話す動物の登場だが焦る事は無い。
部屋に入って来た時から、普通の動物では無い事はわかっていた。
「はい。あの、貴方は?」
ただ正体までは、わからなかったが…。
「初めてまして、私は、秋の神、秋風様の神器フツと申します。主、秋風様は、お兄様である
夏の神、夏炎様を、助けてくださった坂神様に大変感謝しておりまして、つきましては、お礼に宴にお招きしたいと申されまして」
夏の神様の事なら、利成も記憶に新しい。
「お招きは、大変光栄な事ですが、私は人の身、神様の宴に出るなどとんでもない事でございます」
そう断るて、兎は慌てます。
「それは、大変、困ります。ここだけの話、秋風様は、とても感受性豊かな方で、悲しい事や辛い事などが、あると、それが、
ある秋の現象として現れます」
「秋の現象ですか??」
秋の現象と言われても、利成にはよくわからない。
「はい野分け[台風]です!!坂神様が、来てくださらないと、秋風様は、とても悲しまれ、その悲しみが、この日の本に、大変、強力な野分けを巻き起こってしまいます。
ですから…どうか宴においでくださいませ。この通りお願いいたします」
そう言うと、フツは、まるで土下座の様に頭を下げる。
行かなけれ野分け起こると言う。
これは、とてつもない脅しだ。
「わかりました。喜んで参ります」
こうして、神の宴に行く事になった。
◇◇◇◇
後日、フツと秋の神の使いの者とが、迎えに来てくれた。
再び、空飛ぶ神の牛車で、秋の神がいると言う宴の場所へと向かう。
そうして、牛車が、着いた場所、何処の山の頂上の大変、庭の美しい大きな屋敷だ。
そこには、沢山の神に使える精霊達が出迎えてくれた。
そして、その精霊達の中に夏の神、夏炎姿があった。
「おお、利成殿、わざわざのお越しかたじけない。我ら、一同、せい一杯おもてなしいたす。本日は、楽しんで行ってくだされ」
「これは、夏炎様、わざわざお出迎えいただきありがとうございます」
夏炎は、利成の側に行くと、小さな声で話掛ける。
(フツから、話は、聞いていると思うが、妹は、子供っぽい性格なのだ。迷惑かも知れぬが、どうかお許しくだされ)
(迷惑などと。こちらこそ人身、故、勝手がわからぬ事もあるかと思います。ご無礼をいたしましたらお許しください)
そうして、夏炎と話していると、見た目は、14歳位の美少女が、こちらにやって来た。
「お兄様、こちらの方が、坂神利成様ですの?」
朱色の長い髪に、菊の花の髪飾り付け、青い瞳、紫や赤い着物を、重ね着した、可愛い少女だった。
「初めて、ようこそお越しくださいました。また夏炎お兄様を、助けてくださってありがとうございます」
利成は、片膝を付き、秋の神に挨拶をする。
「秋の神、秋風様には、初めてお目に掛かります。坂神利成と申します。この度はお招きいただきありがとうございます」
秋風は、やや頬を赤らめる。
「利成様は、素敵な貴公子様ですね。利成様は、おままごとは、お好き?」
利成は、思っても見ない問いに、やや戸惑う。
「ままごとでございますか?!」
利成には、姉が2人いるが、やや年が離れている上、嫁にいってしまったので、一緒に遊んだ記憶が余り無い。
「これ秋風、利成殿を、困らせててはならぬ。ままごと遊びなど利成殿がやるわけなかろう」
「あら、ご迷惑でしたか…」
秋風は、あきらかにがっかりして、しょんぼりしている。
ここで、夏炎に同調して、秋風の機嫌を損ねると、野分けが起こるのでと思い、
利成は、「迷惑など、喜んで…」と答えるしかなかった。
その返事を聞き、秋風はとても喜んだ。
そして、ままごと遊びがはじまったのである。
「旦那様、お茶が入りましたよ。どうぞ」
秋風は、そう言って利成にお茶を差し出す。
どうやら、自分の役は、秋風の旦那様の役で、夏炎は姑様で、
フツは2人の子供の役になった。
◇◇◇
上空には、一羽の巨大な烏その背には、氷雨が乗っていた。
その巨大な烏は、日の神天雅の神器ソハヤである。
そして、もう1羽、普通の大きさの白い烏が、ソハヤの背に乗っている氷雨に話かける。
「氷雨様、どうやら、坂神利成様は、四季の神が、地上に持つ屋敷に招かれて、四季の神の屋敷に、いるようです。どうしますか?」
氷雨は、少し考えてから、返事をする。
「四季の神のお屋敷が、わかるのなら、訪ねたいのですが?」
「僕、知ってますよ。では向かいましょ」
ソハヤは、答えると屋敷の方に進路を、変更し向かった。
「ありがとうございます。ソハヤ様」
もうすぐ、利成に会える。氷雨の心は、楽しみでドキドキしていた。
◇◇◇
「旦那様、よろしければ、お庭を、一緒に散歩いたしませんか?」
おままごとは、ずっと続いていた。
「あ、はい。ご一緒いたします」
遊びではあるが、秋風から旦那様と呼ばれる事には、正直慣れない。
無論、可愛少女から、そう言われれば、悪い気分にはならないが、どうも聞き慣れないのだった。
誘われるまま、庭を一緒に散歩する。
「私とお兄様の神通力によって、夏と秋の草花が、美しい咲いている庭を、楽しんでくださいな」
そう説明を、受け庭を見渡すと、確かに、夏と秋の草花が、同時に咲いている。
「これは、不思議な庭ですね」
「ふふふ。そうで御座いましょう」
その時、空から『バサッ』と物音が聞こえて来た。
「何の音でしょう?秋風様は、ここでお待ちを、様子を見て参ります」
そう言うと、利成は、警戒しつつ、音のした方へ向かって行く。
「何者?!え?ひ、さめ、氷雨どうしてここへ」
「利成様、天雅様のお取り計らってくださったので帰って来ましたわ」
それは、突然の再会だった。
氷雨との再開を、喜び、抱きしめようとしたが、そこへ秋風が、現れた。
「旦那様、大丈夫でしたか?」
「!!」
氷雨は、驚いた。
そして利成を攻める様に問いただす。
「だ、旦那様?!どういうことですの?!」
「旦那様、こちらは、どなたですか?」
まるで、修羅場の様な展開だ。
「利成様、どうやらお邪魔見たいですね。失礼します。ソハヤ様、行きましょう!」
近くには、巨大な烏がいる。
「あ、氷雨待ってください!」
利成は、慌てて氷雨の腕を、掴み引き留める。
「手を放して下さい」
氷雨は、怒っていた。
だが、秋風は、そんな空気を、ものともせずに氷雨に話掛ける。
「初めまして、私は秋の神、秋風と申します。貴方は?利成様の恋人かしら?」
そう話、掛けられて、氷雨は戸惑った。
「え、ええ…。」
氷雨は、戸惑いながらそう答えた。
「まあ、やはりそうですか。ごめんなさい。きっと誤解されましたよね?利成様は、私のおままごと遊びをしていて、旦那様の役を、やってくださっただけですわ」
「え?おままごと遊びですの?」
「ええ。貴女が、氷雨様ね。夏の神、夏炎兄様から聞いてますわ。夏炎兄様の助けてくださった恩人で、利成様の恋人だって。こうしてお会いできてうれしいですわ。氷雨様もぜひ、私の屋敷でお茶を。歓迎いたしますわ」
そう言われ、氷雨は、やっと落ち着きを取り戻し急に恥ずかしくなった。
「あ、あの、そうとは知らず大変失礼いたしました」
だが、利成は、氷雨が、焼きもちを焼いてくれたのは、実はうれしいかった。
「いえ。気にしたないで、それに氷雨が、帰って来てくれてとてもうれしいですよ」
どこか、寂しい秋だったが、氷雨に会えた事で、利成は、とても幸せな秋になった。