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中将様は憂鬱  作者: 藍
9/9

秋風

大和の都ー平城京


夏の神の騒動から、二ヶ月以上が過ぎ、季節も段々と秋に移り変わろうとしていた。


天界に戻った氷雨(ひさめ)からの連絡も未だに無い為、不安が募るばかりだ。


そんな時だった。


屋敷の部屋に一匹の白い垂れ耳の兎が、迷い込んできた。


「こんばんは!貴方が、坂神利成様ですか?」


再び、人語を、話す動物の登場だが焦る事は無い。


部屋に入って来た時から、普通の動物では無い事はわかっていた。


「はい。あの、貴方は?」


ただ正体までは、わからなかったが…。


「初めてまして、私は、秋の神(あき かみ)秋風(しゅうふう)様の神器フツと申します。主、秋風様は、お兄様である

夏の神、夏炎(かえん)様を、助けてくださった坂神様に大変感謝しておりまして、つきましては、お礼に宴にお招きしたいと申されまして」


夏の神様の事なら、利成も記憶に新しい。


「お招きは、大変光栄な事ですが、私は人の身、神様の宴に出るなどとんでもない事でございます」


そう断るて、兎は慌てます。


「それは、大変、困ります。ここだけの話、秋風様は、とても感受性豊かな方で、悲しい事や辛い事などが、あると、それが、

ある秋の現象として現れます」


「秋の現象ですか??」


秋の現象と言われても、利成にはよくわからない。


「はい野分け(のわ)[台風]です!!坂神様が、来てくださらないと、秋風様は、とても悲しまれ、その悲しみが、この日の本に、大変、強力な野分けを巻き起こってしまいます。

ですから…どうか宴においでくださいませ。この通りお願いいたします」


そう言うと、フツは、まるで土下座の様に頭を下げる。


行かなけれ野分け起こると言う。


これは、とてつもない脅しだ。


「わかりました。喜んで参ります」


こうして、神の宴に行く事になった。



◇◇◇◇


後日、フツと秋の神の使いの者とが、迎えに来てくれた。


再び、空飛ぶ神の牛車で、秋の神がいると言う宴の場所へと向かう。


そうして、牛車が、着いた場所、何処の山の頂上の大変、庭の美しい大きな屋敷だ。


そこには、沢山の神に使える精霊達が出迎えてくれた。


そして、その精霊達の中に夏の神、夏炎(かえん)姿があった。


「おお、利成殿、わざわざのお越しかたじけない。我ら、一同、せい一杯おもてなしいたす。本日は、楽しんで行ってくだされ」


「これは、夏炎様、わざわざお出迎えいただきありがとうございます」


夏炎は、利成の側に行くと、小さな声で話掛ける。


(フツから、話は、聞いていると思うが、妹は、子供っぽい性格なのだ。迷惑かも知れぬが、どうかお許しくだされ)


(迷惑などと。こちらこそ人身、故、勝手がわからぬ事もあるかと思います。ご無礼をいたしましたらお許しください)


そうして、夏炎と話していると、見た目は、14歳位の美少女が、こちらにやって来た。


「お兄様、こちらの方が、坂神利成様ですの?」


朱色の長い髪に、菊の花の髪飾り付け、青い瞳、紫や赤い着物を、重ね着した、可愛い少女だった。


「初めて、ようこそお越しくださいました。また夏炎お兄様を、助けてくださってありがとうございます」


利成は、片膝を付き、秋の神に挨拶をする。


「秋の神、秋風様には、初めてお目に掛かります。坂神利成と申します。この度はお招きいただきありがとうございます」


秋風は、やや頬を赤らめる。


「利成様は、素敵な貴公子様ですね。利成様は、おままごとは、お好き?」


利成は、思っても見ない問いに、やや戸惑う。


「ままごとでございますか?!」


利成には、姉が2人いるが、やや年が離れている上、嫁にいってしまったので、一緒に遊んだ記憶が余り無い。


「これ秋風、利成殿を、困らせててはならぬ。ままごと遊びなど利成殿がやるわけなかろう」


「あら、ご迷惑でしたか…」


秋風は、あきらかにがっかりして、しょんぼりしている。


ここで、夏炎に同調して、秋風の機嫌を損ねると、野分けが起こるのでと思い、


利成は、「迷惑など、喜んで…」と答えるしかなかった。


その返事を聞き、秋風はとても喜んだ。


そして、ままごと遊びがはじまったのである。



「旦那様、お茶が入りましたよ。どうぞ」


秋風は、そう言って利成にお茶を差し出す。


どうやら、自分の役は、秋風の旦那様の役で、夏炎は姑様で、

フツは2人の子供の役になった。


◇◇◇


上空には、一羽の巨大な(カラス)その背には、氷雨(ひさめ)が乗っていた。


その巨大な烏は、日の神(ひ かみ)天雅(てんが)神器(しんき)ソハヤである。


そして、もう1羽、普通の大きさの白い烏が、ソハヤの背に乗っている氷雨に話かける。


「氷雨様、どうやら、坂神利成様は、四季の神が、地上に持つ屋敷に招かれて、四季の神の屋敷に、いるようです。どうしますか?」


氷雨は、少し考えてから、返事をする。


「四季の神のお屋敷が、わかるのなら、訪ねたいのですが?」


「僕、知ってますよ。では向かいましょ」


ソハヤは、答えると屋敷の方に進路を、変更し向かった。


「ありがとうございます。ソハヤ様」


もうすぐ、利成に会える。氷雨の心は、楽しみでドキドキしていた。



◇◇◇


「旦那様、よろしければ、お庭を、一緒に散歩いたしませんか?」


おままごとは、ずっと続いていた。


「あ、はい。ご一緒いたします」


遊びではあるが、秋風から旦那様と呼ばれる事には、正直慣れない。


無論、可愛少女から、そう言われれば、悪い気分にはならないが、どうも聞き慣れないのだった。



誘われるまま、庭を一緒に散歩する。



「私とお兄様の神通力によって、夏と秋の草花が、美しい咲いている庭を、楽しんでくださいな」


そう説明を、受け庭を見渡すと、確かに、夏と秋の草花が、同時に咲いている。


「これは、不思議な庭ですね」


「ふふふ。そうで御座いましょう」


その時、空から『バサッ』と物音が聞こえて来た。


「何の音でしょう?秋風様は、ここでお待ちを、様子を見て参ります」



そう言うと、利成は、警戒しつつ、音のした方へ向かって行く。


「何者?!え?ひ、さめ、氷雨どうしてここへ」


「利成様、天雅様のお取り計らってくださったので帰って来ましたわ」


それは、突然の再会だった。


氷雨との再開を、喜び、抱きしめようとしたが、そこへ秋風が、現れた。


「旦那様、大丈夫でしたか?」

「!!」

氷雨は、驚いた。


そして利成を攻める様に問いただす。


「だ、旦那様?!どういうことですの?!」


「旦那様、こちらは、どなたですか?」


まるで、修羅場の様な展開だ。


「利成様、どうやらお邪魔見たいですね。失礼します。ソハヤ様、行きましょう!」


近くには、巨大な烏がいる。


「あ、氷雨待ってください!」


利成は、慌てて氷雨の腕を、掴み引き留める。


「手を放して下さい」


氷雨は、怒っていた。


だが、秋風は、そんな空気を、ものともせずに氷雨に話掛ける。


「初めまして、私は秋の神、秋風と申します。貴方は?利成様の恋人かしら?」


そう話、掛けられて、氷雨は戸惑った。


「え、ええ…。」


氷雨は、戸惑いながらそう答えた。


「まあ、やはりそうですか。ごめんなさい。きっと誤解されましたよね?利成様は、私のおままごと遊びをしていて、旦那様の役を、やってくださっただけですわ」


「え?おままごと遊びですの?」


「ええ。貴女が、氷雨様ね。夏の神、夏炎兄様から聞いてますわ。夏炎兄様の助けてくださった恩人で、利成様の恋人だって。こうしてお会いできてうれしいですわ。氷雨様もぜひ、私の屋敷でお茶を。歓迎いたしますわ」


そう言われ、氷雨は、やっと落ち着きを取り戻し急に恥ずかしくなった。


「あ、あの、そうとは知らず大変失礼いたしました」


だが、利成は、氷雨が、焼きもちを焼いてくれたのは、実はうれしいかった。


「いえ。気にしたないで、それに氷雨が、帰って来てくれてとてもうれしいですよ」


どこか、寂しい秋だったが、氷雨に会えた事で、利成は、とても幸せな秋になった。

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