夏炎
大和の都ー平城京
もうすぐ夏に、なろうと言うのに、梅雨はあける気配がない。
毎日、雨ばかり降るのだ。
「はぁー。毎日、毎日、雨雨雨!あーやだやだ」
その騒ぐのは、財前だ。
気持ちは、分かるが、ただてさえ、ジメジメとしているのに、隣で騒がれるとイライラする。
「うるさいぞ!少しは、真面目に仕事をしろ」
外での、武芸の鍛練以外にも、多少の書類なとの仕事も、ある。こういう日は、そうした仕事を、していた。
その時、開いていた窓から小鳥が入って来た。
小鳥は、文を咥えていて、その文を、机に置くと再び、窓の外へと飛んで行った。
その文は、氷雨からの文だった。
今は、仕事中なので、誰にも気づかれ無いよに、そっと袖の中に文を隠した。
文には、詳しい詳細は、書けないが、助けて求める内容であり、早急に屋敷に来てほしいととあった。
こんな事は初めてなので、仕事が終わると、すぐに退庁し訪ねた。
◇◇◇◇
氷雨の屋敷は、いつもより騒がしかった。
必死に氷雨の姿を探す。
「来てくださったのですね。申し訳ありません。利成様…ずいぶんとお濡れになって!」
氷雨の無事な姿を、見つけてまずは安心した。
外は小雨が降っいたが、必死に馬を飛ばしてやって来たので濡れてしまったのは仕方が無い。
「これくらい大丈夫です。氷雨こそ助けを求めてくるとは、何があったんですか?」
屋敷を、冷静に見れば、この屋敷には見慣れない者達がいる。
だか、妖といった危険な者達でもない。
神聖な気を放つ。
その人のごみの中から声を、かけて来た者がいる。
「貴方ですか?」
そう利成に声を、掛けて来たのは、なんと茶色の毛のうさぎだった。
「え?!はい?失礼だか貴方は?」
とても驚いたが、ここは元より女神、氷雨の屋敷ないので、何がおこっても不思議ではない。
平常心と自分に言い聞かせる。
「私は、夏の神、夏炎様にお仕えする神器、神楽です。貴方が、氷雨様の言われた、主様を助けてくださる方ですか?何卒、何卒、よろしくお願いいたします」
神楽と、言ううさぎは、必死になって頼み込んでくる。
今、来たばかりで、事情すらわからないので曖昧に返事をした。
「ええ、まあ…」
取りあえず、事情を詳しく説明してもら事にした。
氷雨は濡れた、着物を着替えたなといと風邪を引くと、とても心配するので急いで部屋で違う着物に着替えた。
そして改めて、神楽様が待つ部屋に行き事情を聞いた。
夏の神は、地上に夏をもたらす存在であり、その役目を、果たす為に天界から地上に降りて来ました。
しかし、地上に降りた所を、人間に襲われ捕まってしまったのです。
夏の神様が、このまま捕らわれの身では、梅雨は空けることもありませんし、夏の季節を、迎えぬまま秋になります。
秋になれば秋の神様が、強烈な暴風をもたらし、地上は、大変な事になります。
事情は、大体わかったが、ここで利成は、1つの疑問が湧くが、それを、神楽には、聞きづらく氷雨に聞く事にした。
(人のに襲われて捕まるって……、夏の神様は戦えないのですか?!または、お供の方もいるのに、誰も誘拐を阻止できなかったのですか?)
神楽に聞こえない様に、氷雨に耳打ちする。
(ええ、神と言うっても誰も彼も戦えるわけではありませんし、
四季の神々は、特に穢れに弱い伺ってます。お供の精霊達は、神様の補佐であり、護衛ではありませんの。わたくし一人では、助けるのは無理ですし、利成様に助けを…。)
事情が、事情なので夏の神を助ける以外の選択肢は無い。
「わかりました。必ずお助けします。しかし、捕えられている場所がわからないのでどうすれば?」
神楽が、庭にいる牛車の牛の様な生き物を指差し言う。
「それてをしたら神牛は、主の居場所がわかります。
本来は、夏の神以外の者が、乗るのは、許されませんが、
特別に許可いたします。車で捕えられている場所まで案内いたします」
そうして、神の牛車に乗って、夏の神の救出に向かう事になった。
氷雨から、手紙をもらった時、嫌な予感がしたので、一応、角槻の弓と退魔の太刀を持ってきていた。
しかし、今回は氷雨が同行すると言う。
危険だから、残る様に説得したが聞いては貰えなかった。
私をお連れください。お願いいたします。それに天界に連絡を取り、いずれ助っ人が参ります。その時に、私が必要となりますから、と押しきられてしまった。
いざとなれば、自分の命に換えでも氷雨を守ると心に決めた。
私も、主様を助けに行きますと神楽もついて来た。
そうして、氷雨と神楽が、同行する事になった。
◇◇◇◇
山奥の洞窟。
赤色の髪と青い瞳、水色の着物に美しい銀の装飾品を身に着けた、少し幼さが残る顔立ちの青年が、体を縛られ、結界の張られた洞窟の中に閉じ込められていた。
この青年こそ夏の神、夏炎である。
「お主なぜこの様な真似を!!」
牢屋の外に立っている男らしき者に向かって怒鳴る。
「……都を、混乱に落とし入れるのが目的ですよ。貴方には、今はしばらくこの洞窟に居ていただきます」
そう言うと男は、獣の死体を牢屋に投げ入れた。
「うああぁぁー!!」
夏炎は、とたんに気を失った。
「神とは哀れな生き物だな。穢れを撒かれれば、意識すら保てぬとは…」
◇◇◇◇
神の牛車は、雲を呼び空を飛ぶ、不思議な乗り物だ。
そして、夏の神が幽閉されている場所へと向かう。
利成は、天界から来ると言う助っ人の事が、気になっていた。
「氷雨、天界からくる方とはどんな方なのですか?」
「日の神、天雅様の神器、ソハヤ様ですわ。日の神様が、降りてくだされば一番早いのですが、それはできませんから」
氷雨から、語られた日の神天雅様は、天界最強と賞され天界の高位の神で、その昔、神と人間が近しい関係にあった、神代の頃には、地上で数多の妖魔を倒したと言う。
また、この『角槻の弓』も、元々は日の神の武器であったらしい。
正直、氷雨の口から、男の話を、聞くのは面白く無い。
例えそれが、自分とは、比べものにならない偉大神のであっとしても。
「主様が、拐われて、途方にくれてましたが、氷雨様に助けていただけ、私は運がいい。その上、日の神、天雅様の配下とは」
「はい。天雅様には、薬師として使えております」
どうやら、氷雨の話を、聞く限り上司と部下の関係のようで、
私的な関係ではないらしく少しほっとする。
そうこうしている内に、夏の神がいる場所に着いた。
「ここですか?」
「おそらく、神牛が止まったので」
「あちらに洞窟がありますね。行って見ましょう。二人は、私の後から着いて来てください」
そうして、洞窟の中を覗く。
洞窟の入り口には、見張りの姿は無く、洞窟の中を覗けば夏炎が、閉じ込められている。
だが、結界があり洞窟の奥に、倒れている夏炎の場所までは近づけない。
結界の外から、神楽が夏炎に必死に声を掛ける。
「主様、大丈夫ですか?!主様!!」
利成は、急いで角槻の弓で、結界を破壊し夏炎の元に向かった。
「ああ、主様なんというお姿…今少しのご辛抱ですぞ。屋敷にて清めて差し上げます故」
と言ったものの、当然、うさぎの小さな体の神楽で、夏炎を連れ出す事はできない。
利成が、夏炎を、担いで外に運び出す。
なんとか、牛車の所まで辿り着くが、男に見つかってしまった。
「氷雨と神楽殿、速く夏の神様を、連れてこの場を、放れてください。この者は私が足止めいたします」
だが、男が術を使い、大きな天狗と大量の小天狗を呼び出した。
天狗は、空を飛ぶ事ができる、逃げた所で空の上での戦いでは、余計に危険にさらさせる。
牛車に氷雨が、簡単な結界を張り守り、利成は氷雨を、背に庇いながら、必死に太刀で応戦する。
だが、天狗達も強いまた多勢に無勢だ、段々と劣勢になって来た。
その時だ!!
空から一羽の烏が、現れた。
新たな敵かと構えたが、氷雨が、その烏を呼ぶ。
「ソハヤ様こちらです!」
「お待たせいました」
どうやら、この烏が、氷雨の言っていた助っ人らしい、人語を話すうさぎに続いて、人語を話す烏の登場に、神の世界の動物とは、何でも有りの地上とは、違うのだと改めて思う。
「ソハヤ様、神楽様、準備はよろしいですか!!」
氷雨が、動物達に声を掛ける。
「「いつでも」」
「参ります」
神楽の体が、光出す。
「神器錬成」
神楽そう言うと、体が光り見る見る内に、巨大な団扇に姿を、
変える。
氷雨は、その巨大な団扇を、空に向かって大きく扇ぐ。
すると雨雲、目掛けて突風が吹き雨雲が、消え太陽が姿を現した。
そして、現れた太陽の光が急に目も眩むほどの
強い光を放った瞬間、無数にいた小天狗達が、焼かれ消えてしまった。
この一連の出来事には、利成も驚く他はない。
「こ、これは一体何が起こった?!」
ソハヤと呼ばれる烏が、利成の肩に止まった。
「ぼくの主、天雅様のお力です。主様は日の神すなわち太陽の光が、届く所すべてが主様の領域です。ただあの妖気が強い大天狗だけは、倒した切れなかった見たいですね。この矢を使ってください」
そう言うと、ソハヤは自らの羽を、一枚毟った、そしてその羽は矢に姿を変えた。
先程までの天狗との戦いで力の消耗が激しが、あの天狗を倒さなければ、この場からは逃げられない。
利成は、渾身の力を、角槻の弓に込めて渡られ矢を放った!
その矢は、放つと強力な炎の力をまとい、大天狗を一撃で消し去った。
角槻の弓に渾身の力を込めたとはいえ、これ程の威力は今まで出た事が無い。
やはりあの羽から作られた矢のお陰なのだろう。
天狗を一掃し男を捕えようと探したが、逃げられていて見当たらなかった。
ふっと氷雨の方を見れば、倒れているのが目に入り、慌て氷雨の体を、抱き起こす。
「氷雨!!大丈夫ですか?!」
意識が、無いらしく返事が無い。
ソハヤとそしてうさぎの姿に戻った神楽が氷雨の状態を、教えてくれる。
「氷雨様は大丈夫です。力の使い過ぎで、寝ている様な状態です。力が戻れば目を覚ましますよ」
「詳しい事は後で説明いたします。まずは、主様と氷雨様を屋敷に運びましょう」
屋敷に着いて、夏の神と氷雨を床に運ぶ。
夏の神には神楽とお供の者達が介抱にあたっていた。
利成は、一向に目を、覚まさない氷雨のそばに着いていた。
「ソハヤ様、お教え願いたい、神器とはなんなのですか?どうして氷雨は、こんな状態に…」
「僕達、神器は、神の力の結晶なんです」
ソハヤ様の話によれば、神の力とは、造化と破壊、無から有を生む力と有を無に帰す力だそうだ。
神器は、造化の力で、命を宿し生き物の姿と言葉を話す力と
また武器に姿を変えれば、その武器はには強力な破壊の力が現れる。
ただし、神なら誰でも神器を生み出せる訳でもなく、強力な神通力を持つ神だけが、神器を生み出せると言う。
神器には、神器の意志があり、神器が使用を認めた者なら、主、以外でも使える言う。
「まあ、主様以外で、使用なんて余程の事が無い限りありませんけどね。僕達にとって主様は、絶対の存在ですから」
ただし、神器の使用は、かなりの神通力を消耗する為に、氷雨は倒れてしまったようだ。
倒れた理由は分かった。
霊力を、消耗すると疲労感に襲われることは自分にも良くある。
ならば、氷雨も回復すれば目を覚ますので、心配はいらないだろう。
今は、そっとしてあげた方がいい。
そうして、黙って氷雨の側にいると、なにやら、騒がしい足音が、こちらに近づいてくる。
「失礼する。お主が利成殿か?!」
騒がしく、部屋に入って来たのは夏の神、夏炎だ。
どうやら回復し意識を、取り戻したらしい。
「はい。お初にお目かかります。坂神利成と申します。
夏の神様におかれては、ご無事で何よりでございます」
姿勢を、ただし挨拶をする。
「この度は、某を、お助けくださり、かたじけない。この御恩を、お返したくお礼に何でもお望みを叶えましょぞ!」
そう言われたが、特に望む事は特に無い。
「いえ、特に望みはありません。夏の神様がご無事ならばそれで…」
「なんと!それでは、某の気がすまぬ。ならば、貴方の望みを、聞くで、お側をはなれませんぞ!」
そう言われ、利成も流石に困った。
そこで、外を見れば、長雨の事が思い浮かんだ。
「でしたらこの雨を、止ませていただけないでしょうか?このままでは、水害や作物等色々影響があり大変な事になりますので」
「雨を止ませるのは、某の役目故、お礼にすらならん。他の望みを言ってくだされ」
そう言われ、利成は、益困り取りあえず話を変えて、お礼の話をうやむやにする事にした。
「失礼ながら、拐った者の手掛かり等を、教えていただけないでしょうか?」
「ん?拐った者か、確か都を、混乱に落とすとか申しておったな」
その話を、聞いて今回の事が、皇家を貶めるのが目的なら、
ただ雨を止ませれば良いと言う話ではなくなってしまった。
困っていると、ソハヤが都の様子を探って来てくれる申し出てくれた。
「僕なら、地上の烏達と話が出来るので、都の様は烏達に聞けばすぐわかります」
確かに、烏は、人の生活圏にいる鳥。
そうして、集めてもらった情報によると、世情不安を煽り皇家を貶め者、怪しい御札や祈祷で利益を貪る法師が、いた事が分かった。
おそらく、夏の神を拐ったのは、その法師とその一味だろう。
◇◇◇
次の日、氷雨も無事に目を覚まし、利成は安心して都に戻った。
出仕すると、早々に春宮に人払いをしての、目通りを、願い出るた。
事前の願い通り、人払いされた部屋に通された。
「春宮様には、ご機嫌うるわしく」
「挨拶は良い、要件を話せ」
やれやれ相変わらずな方だ。
利成は、この長雨を、止ませる祈祷提案した。
「その祈祷を、私に直々やれと言うことか?!」
「はい。都の様子を調べました所、この長雨の影響で、水害や作物の不作の兆しがあり、世情不安が増しているようです。
そこで、祈祷を行い雨を止ませれば不安の払と、春宮様の名声も上がるものと」
「祈祷で、雨が止む確証があるのか?」
「ございます」
利成は、夏の神の話等は、伏せて話たが、春宮様なら自分の言う事を、信じていただけると思う。
この方は、そういうお方だ。
「よかろ。早速に祈祷の準備をさせ。都中に、それをふれて回ろう」
そうして、春宮様は祈祷を自ら行った。
利成は、祈祷が初まると、普通の烏に紛れて祈祷近くにの庭の木に止まっていた、ソハヤに合図を送る。
するとソハヤは、空に待機していた、夏の神の元に向かう。
「利成様からの合図です。夏炎様、雨雲を、払ってください」
「心得た。お任せあれ!行くぞ神楽」
こうして、大きな団扇になった神楽と夏の神の力で、雨雲が一掃され天気は晴れた。
残念ながら、法師は捕えられなかったが、祈祷は成功し再び皇家への信頼と権威は回復、利成の狙い通り、春宮の立場はさらに強固になった。
氷雨の屋敷。
「利成殿、氷雨殿、色々お世話になり申した」
「いえ、こちらこそ、ありがとうございました」
夏の神は、人間の権力争いに利用されているとわかた上で、
快くあの日、雨を止ませる事に協力してくれた。
「なんの!結局、雨を止ませるのがお礼になってしもうたが、喜んでいただけて何より。某は、役目がある故、これにて失礼する。さらばでごさる」
「皆の者、これからどんどん北上し、この日の本、全てに夏を届けに行くぞ」
「はい。主様」
そうして、夏の神一向は空に消えた。
その後、氷雨とソハヤも天界に向かう。
夏の神の一件で、人に関わらないと言う天界の決まりを破った事が天界に知れ、氷雨は天界に呼ばれてしまった。
「本当に大丈夫ですか?!氷雨」
「はい。私は、必ず戻って参ります。私を信じて待ってていただけますか…?」
「もちろんです」
そう言って氷雨を、抱きしめるが、人間である自分の身がこれ程悔しいと思ったこは無い。
しばらく、氷雨に会えなくなる。
利成は一抹の不安の中で、氷雨とわかれた。
こうして、都には夏が訪れた。