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中将様は憂鬱  作者: 藍
7/9

赤子

大和の都ー平城京


 

 利成は、この怪我では無理だからと泣きつかれ、兼好に頼まれて、赤子の里親候補の内情を調べる事、数日…。


 「これで、3人組目だが…。無理そうだな…。」

 

兼好が、名前をあげた3組の夫婦だが、1組目、表向きは、裕福そうに見えても、家計は、火の車であった。

 

 2組目は、養子を探している夫婦だったが、政略結婚で、夫婦仲が冷たく冷えきっていて、とても良い家庭環境とは言えなかった。まぁ、名家なので、家を絶やす訳にもいかず跡継ぎを探しているのだろう。その場合、女の子では無く、男の子を探しているのだろ。


 3組目は、子沢山で有名な名家だが、夫の浮気で他所の女に産ませた子供も多く、奥方が仕方なく引き取って面倒を見ているのだった。裕福な家なので、子沢山でも経済的には問題はないが、そんな事情では、まだ子供も増えそうだし、養子は必要ない。

当然、奥方の怒りは、半端なく、外にまで、日頃から怒りの声が聴こえてくると言う。


 財前の家。


そうして、調べたありのままを兼好に伝えた。


「一応、全部調べたが、どれも良いとは言えそうに無いな」

 兼好は、がっかりしたように。

「……ああ…。そうだな」

やれやれとした顔になりながらも、利成は財前に聞いた。

「次の候補は?」

「…………。」

「いないのか……」


「利成は、誰かいなかぁ?もう俺には無理だ」

  正直利成にも、心当たりなど無い。

  まぁ、子供の里親なんてそう簡単に見つかる訳ない無い。

 ここは、常識的に考えても、国の制度に頼るのが一番だ。


「やはり、検非違使に、届けでてだな。子は国の宝、悪いようには扱うまい。どこぞの寺で大切育てくれるだろ」


 だが、財前は納得しなかった。

「それは可哀相だ。この子には、親の分まで幸せになってもらいたいんだ。裕福で、優しい両親に囲まれて育って欲しい!」

 

まぁ、兼好の気持ちもわかるが、どうしたものか…。

 大体、日頃から兼好は、無責任すぎる。

そうして情に流され現実を良く考えず、結局手に負えなくなって、こっちに助けを求めてくる。

 

赤子の事だってそうだ。

財前家では、兼好が怪我を負い、そちらに世話が掛かる為に、赤子の世話が難しくなり、現在、利成の乳母子で、家臣の宗則夫婦が預かって面倒を見てくれていた。


宗則夫婦には、赤子が産まれており、1人も2人も子世話は、変わりないと心良く預かって良かったが、兼好には、本当に困ったものだ。


「まぁ、私は、休暇で、数日休む。休暇が終わってから良く話し合おう」


そう、言って少し考える時間をとる事にした。


 財前家から、坂神の家には、戻らずそのまま、都を出つもりなので、共をして来た家人達を坂神家に帰す。


「宗則、悪いが、もう少しだけ赤子の面倒を頼む」


「かしこまりました」

 

「まぁ、変わりと言ってはなんだが、兼好から、子守代を沢山貰つてやるから安心してくれ」


「そのような…。すでに十分頂いておりすれば、お気になさらず」



「遠慮はいらないさ。いくら有っても困る事は無いだろう。子供も生まれて何かと、物入りだし貰える物は貰っておけ」


「…正直、助かります。ありがとうございます」

 

そうして、宗則達と別れた。


◇◇◇

 

久しぶりに、氷雨と会い、話す話題は、沢山有るのに、つい、

一番気になっている、赤子の話をしてしまった。


 彼女は、神、人ではない、当然、里親に心当たり等ある筈もない。

しかし、返って来たのは以外な返事。 


「………そのお話。私のお友達が、利成様のお力になれるかもしれませんわ」


「え?本当ですか?」


「ええ。今から呼んで参りますわ。少し待ってて、くださいな」


そう言って止める間も無くスッと姿を消してしまった。


本当なら、氷雨2人のんびりとするつもりだったので、いきなりの展開について行けない。


 氷雨は、姿を消してしまったし仕方なく、

帰りを待った。

 

「ただいま戻りました。利成様、こちらが、私のお友達の産神(うぶがみ)産女(うぶめ)様ですわ」


 氷雨からです紹介されたのは、同じ女神で、可憐で美しい氷雨とは、違い、ややふくよかで、慈愛に満ちた雰囲気の女神だ。


「そなたか、赤子の引き取り手を探している者は?」


「あ、はい。初めてお目にかかります。私は、坂上利成と申します。産神うぶがみ様ですか?とうことは、べ…!」


全てをいい終わる前に、氷雨が、慌て、利成の口を塞いだ。

「それは、禁句ですわ。利成様」

そっと利成の耳元で言うが、時既に遅かった。


「そなた、今、妾を便所神と言をとしたか!!妾は、産神(うぶがみ)じゃぞ。無礼者め」

怒っりながら、目には沢山の涙が、溢れていた。


人の世では、産神と便所神は、同一視されていので、つい口にしてしまったが、さすがに、利成も、失言をしたと思い。

「大変、失礼いたしました。ご無礼お許しください」

素直に謝罪をした。


「わかればまぁ良い」

産女は、すぐに機嫌を直してくれた様だった。


そうして、利成は、赤子の詳しい話を初めた。

最初に話を少し聞いて驚いたのは、氷雨だった。

「まあ、そうだったんですか。私ったら、恥ずかしわ。誤解してましたわ…てっきり、その…利成様の子と…。それで、心が沈んでしまって…」


「え?ち、違います。とんでもない誤解です!!」

まさか、そんな誤解をされていたとは、思ってもいなかった。


「私には、貴方だけです。氷雨」

そう言って、そっと氷雨の肩に手をやり、抱き寄せる。

「利成様……」

2人は、産女の存在も忘れて、見つめ合う。


ゴホッと咳払いをしながら産女は2人に声をかけた。

「あーすまんが、妾の存在を忘れないでくれ…」



2人は、慌て産女の方を見た。


「失礼いたしました」


利成は、改めて、話しの続きをする。

「ふむ、それは気の毒な赤子じゃな。そうよな。良き里親か、ならば、藤垣常長(ふじがき つねなが)という者はどうか?夫婦共に信仰心も厚く、清き心の持ち主じゃぞ。良く、子宝祈願に詣でておるが、残念ながら、実の子には恵まれぬ運命でな」


「藤垣様ですか、確かに、雅楽の名家で財もありますし、何より政争とは無縁の家ですし。人柄も良い方と評判ですね。私とは、年が一回り以上離れて要てお付き合いはありませんが、産女様が、言われるのならばきっと良き大丈夫でしょう」


後は、どう、里子の話しを進めるかだ。

「妾が、藤垣夫婦の夢枕に立って告げるのはどうか?夫婦揃って同じ夢を見れば、きっと夢を信じて喜んで赤子を引き取ろう」


利成は、少し考えてから、産女に兼好の事も頼むことにした。


「それでしたら、財前兼好と言う男の元にもお願いいたします。元々赤子に良い里親を見つけたいと言い出したのは、その者です。兼好が、納得しない事には、話が進みませんから。兼好にも、私同様、霊力があり産神様のお告げとあれば、素直に従うでしょう」


最終的に、兼好が納得したないと、上手くいかないからだ。

「あいわかった。その男の元にも夢枕に立とう」


「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」

利成は、これで問題解決にほっとしたのも束の間、産女は、氷雨と話がしいと言う。


「しばし、氷雨と2人っきりで話がしたいのだが、良いだろうか?」


「え?あ、どうぞ。私は別室におりますので、ごゆっくり」

利成としても、氷雨と過ごしたかったが、女友達同士、色々話もあるのだろう。


産女様には、お世話になるし仕方ない。

最近、ついてない事ばかりで、利成は、なんだかとても疲れが、どっとでてきた。


赤子の里親探したに、走り回り、氷雨には、隠し子と誤解され、

散々だ。


「産女様、お話とは、なんですの?」


「氷雨、そなた、あの人間の男と付き合っておるのか?」


「えっと、それは///、ええ、」


「我々神と人は、種族が違う、生きる場所も時の流れすら、そなた、それを分かってるおるのか?」


氷雨は、少し悲しい顔をしながら答える。


「わかっているわ…でも、それでも、お慕いしています。今、こうして会えるだけで、私、幸せよ」


産女は、深くため息をつき、諦めたように言う。


「もう、何も言うまい。氷雨が、傷っか無ければ、それでいい。」


「心配してくれて、ありがとう」


そうして、産女は、帰っていった。



ーそれから、まもなく赤子は、引き取られでいった。




赤子のお披露目の宴に、利成も招かれた。


養父母となった2人に、大切に抱かれ笑っている姿が、見えたので、利成も安堵した。




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