生霊
大和の国の都ー平城京
ある貴族の屋敷。
一人の若い公達が、屋敷の庭の池の辺りを散策していた。
池からスッと大きな手伸び、公達池に引き込みそのまま公達は、姿を消した。
その様子を見て使用人が、悲鳴をあげた。
ここは、宮城。
若い公達が、屋敷の池に引きずり込まれ、溺死した事が、噂になっていた。
早速、事が帝のお耳にも入り『お役目』として利成に調べる様に命が下った。
財前が、珍しく真面目に話しかけてきた。
「今回のお前に来た『お役目』だか、じつは友が、犠牲者なんだ。だから、何でも力になるから、困った事があったら遠慮なくいってくれ」
「わかった。それは助かる」
だが、この『お役目』が、利成と財前に思わぬ災難をもたらすとは、この時は想像もしなかった。
◇◇◇
ー 財前家の屋敷の池。
利成に下った『お役目』だが、自分でもなにかせずには居られない。
自宅の池に怪異が、起こるとは思わないが、財前は、池の回りを歩く事にした。
「…………………」予想通り何も起こらない。
財前はため息をつき。池の近くに歩く手頃な庭石の上に座る。
その日の夜だった。
突然、夜る寝ていると赤子の泣き声が、聞こえる。
金縛りにあったかのように体が動かない。
そして女の姿が、枕辺に。
「兼好様……どうか…」
「「うぁぁぁ――――ゆ、夢……」」
気がつけ夜明け近く、どうやら悪夢を見てたらしい。
だか、確かに夜、赤子の声は、聞こえたような気がした。
財前は、友の次は自分が、狙われているのかと思った。
ただ、一人で、怪異に立ち向かうには、心もと無い、利成に助けを借りることにした。
夜、利成と財前は部屋にいる。財前は、事前に結界を部屋にはり怪異が、おこるのを待っていた。
すると、確かに、赤子の泣き声が、聞こえてきた。
「兼好。このまま、結界を維持してくれ。私は、外の様子を見てくる」
しばらくして、利成が、一人の赤子を抱いた、老女を連れて戻って来た。
「こちらの方が、お前に話があるそうだ」
そう言って少し飽きれた様子だ。
老女は、恐る恐る話す。
「私は、六条の屋敷に使えておりました者でございます。姫様が、亡くなられ、その遺児を託したいと、屋敷の前をうろうろしておりまして、昼間だとお屋敷の方に門前払いされてしまいますので、夜なんとか、財前様にお会いできたないかと屋敷の前をうろうろしておりました」
財前は、青ざめる。六条の姫に心当たりが、あるからだ。
その六条の姫は、早くに親を無くし、僅かな使用人とひっそりと暮らしていた美しい姫だった。
その噂を聞き、せっせと文を送り通っていた。
「ちょ…。その赤子は、俺の子じゃないぞ!!」
「ほー」
利成は、財前の第一声を飽きれながら聞いた。
「しかし、姫様に一番熱心に文を送り通ってこられたのは、財前様で……」
「兼好、素直に認めろ」
二人は、信じてなくれない。
その上、怪異や『お役目』どこいった状態だ。
「六条の姫様もなくなり、お身内親戚の方々もおりません。私も新しい奉公先に行かねばなりませぬので、どうぞよろしくこの赤子の姫様をよろしくお願いいたします」
そう言うと赤子を財前に渡し、去って行った。
後には、赤子を抱きぼーぜんとする財前が、残された。
利成は、扇子をだし、軽く咳払いをして、にこにこ笑顔で
「では、これで怪異??も解決だな…。私は、『お役目』もあり、何かと忙しい身、これで帰るとしよう」
面倒な事に巻き込まれる前に、さっさと帰ることにした。
「ま、待てってくれ利成。全然なにも解決してない。俺の話しを聞いてくれ!頼むから帰らないでくれ―!」
利成の袖を掴み、放さない。
「放せ。私は帰る。こうなったのも自業自得だろ。頑張って赤子を育てろ。御両親にとっても初孫だ。きっと喜ばれるだろう」
「いや、初孫はすでに兄上の所で産まれてるし。両親は、怒る!俺は、勘当されちまう!俺に子育てとか無理、と言ううか本当に俺の子じゃない。この子は、亡くなった友人天木時任の子だ!!本当なんだ。とにかく俺の話しを聞いてくれ~助けてくれ~」
ここで、『お役目』の犠牲者の名前が、出てくるとは思わなかったが、財前の日頃のおこないを、考えれば嘘の可能性もある。
だから、利成は、振り払って屋敷を早々に後にした。
「と、利成待ってくれ~」
部屋で騒いでいると何事かと心配した母親や使用人が、部屋へ様子を見に入ってきた。
「兼好さん、夜になんの騒ぎですの。その赤子は……?」
もはや財前は、死刑宣告でもされたかのようだ。
「もしや、兼好さん、あなたがの子などと言いませんわよね~?はっきりとおしゃい!」
明らかに、財前の母親は、ひきつった笑顔だ。
「違います。この赤子は、友人の子で、事情が、あり預かっていまして、明日には親元に、はい…」
「そうですが…。安心しましたわ。ならば今夜は、使用人に子守りを頼むといたしましょう。貴方では、赤子の世話は、無理でしょうから…」
どうやら、母上は話しを信じくれたようだ。
ー翌日、仕度を整え、赤子と共に先日、亡くなった友人の奥方の元へと迎ったが、亡き夫の子である証拠が無いと、奥方には冷たく追い返された。
よく考えれば、奥方は、六条の姫の事を快くは、思ってないだろうし、追い返されたのは当然であった。
仕方なく屋敷に赤子を連れて帰った。
その日の夜だった。再び怪異が、財前を襲っのだった。
「兼好、鬼に襲われたと聞いたが、大丈夫だったか?」
財前は、体に包帯を巻きボロボロになっていた。
「と、利成、助けに来てくれたか……グスン」
財前の以外とのんきな様子にやや飽きれた。
「た、助けと言うかただの見舞いだ。元気そうでなにより…」
「ああ。結界で咄嗟に身を守ったからな…それより俺を襲った鬼は、亡くなった時任の奥方だ。もしかしたら、六条の姫や時任を襲ったのも奥方かも知れない…」
「なぜ奥方だとわかる?」
財前は、自信を持って答えた。
「俺は、一度会った女の声や香りは必ず覚えている。絶対間違えない。あれは奥方だ!」
「そ、そうか………。ならば今夜もお前を襲って来るかも知れないな待ち伏せして退治だな」
今度は、その奥方になにをやって恨まれたんだ?と思いながら夜を待った。
夜、予想通り、奥方が、鬼となって財前の元にやって来た。
財前は部屋に結界を張り家の者達には、絶対部屋に近づくなと言ってある。
部屋の外からは、なにやら恐ろしい物音や声が聞こえる。
「なぁ、利成、奥方は、生きているのに鬼となってこうして俺達を襲って来るが、退治したら元に戻るのか?」
財前が、神妙な顔で言う。
「あー、残念だが、多分助からない…角槻の弓は、魔を消滅させる力を持つ…鬼となった時点で助からない…。これ以上放置すれば、奥方の気に入らない事が起こる度に犠牲者が、増えるだろう。」
「そうか…」
亡くなった、六条の姫も奥方も利成は、気の毒に思う。
そもそも、天木時任さえもう少し、ちゃんとしていれば、今回いの様な事は起きなかった。
そして、根拠は、無いが、今回のも誰が、奥方に鬼になる呪術を
かけたのではないだろうか?根拠は無いがそう思った。
そして夜、鬼となった奥方が、現れた。
「来たか!」
「許さない~どこだ~」
赤子を探し回り庭をウロウロしていた。
「こちらだ!」
「誰だ!?」
睨む様に振り向いた。
「生憎と鬼に名乗る名前はない。目を覚ませ、赤子を殺してもお前の気持ちは晴れることはない」
「うるさい!赤子をだせ。邪魔をするならお前から殺す!!」
そう言って襲いかってくる!どう言っても聞き入れそうにはなかった。
利成は、仕方なく角槻の弓構える。
「神通の鏑矢!」
矢は、鬼となった奥方の胸に命中した。すると奥方の姿はスッと消えてしまった。
同じ時、天木家では奥方は、寝所で横になっていたが、突然胸を押さえ苦しみ、そのまま息を引き取った。
残された赤子の引取先が、見つからず、怪我をした財前に変わり里親探しに利成が、走り回るのはめになった。