百鬼夜行
大和の都ー平城京
この日、宮城では、祭りが、行われた。
祭りは、宮城の一部を都に住む民にも解放して行われる為、武官達は、警備に追われていた。
利成も、帝の側やら|宮城内の警備等、近衛として勤め追われていた。
「民の入城は、順調か?異常ないか?」
民が、入城してくる門を警備の者に声を掛ける。
「中将様、問題はございません」
「そうか。引き続き、警戒を怠るな」
警備の者と話ていると、入城している民の女達が、利成に気が付きざわめき初める。
「あれ、坂神の中将様では!?」
「まあ、ほんと素敵」
「きゃー中将様」
利成は、女達の声に笑顔をで答えてからその場を後にした。
そんな様子を、遠くから、苦々しく見ていた者達がいた。
「久しぶりに都に帰ってきたら、騒がし事ですね雲海様」
雲海様と呼ばれた者は、笠を被り顔はわからないが、袈裟姿で、手には、錫杖が握られている旅姿をしているが一目で、僧とわかる。話かけた、者も袈裟に旅姿だか、まだ15歳位少年だ。
「まあまあ、そうイライラするな。今日は、祭りじゃしな」
「先程の武官など、中将と言う高い地位にあるのに、女達にちやほやされて、ヘラヘラと…」
「ははは…そりゃお前さんのひがみじゃな。まあせっかくだ、少し祭りを見物してから、宮城に行こう。覚林いくぞ」
そう言って、雲海は人混みに消えていった、
「う、雲海様…待ってください」
雲海の後を、覚林は、必死に付いていった。
祭りは、無事に終わったが、帝からの呼び出しを受けた為、帝の部屋へと急いだ。
(なにか、問題があっただろか……)
『お役目』での呼び出しでも無いため心当たりがない。
「失礼いたします」
部屋に入ると、帝の横には、一人の僧が座っていた。
帝は、機嫌よく利成を迎えた。
「おお、利成よう参った。そちに紹介したい者がおって呼んだのだ。この者は、雲海と言って、大変強い法力僧だ。今までは、修行もかねて大和中を旅していたが、ここ最近、都では、怪異が相次いでいるため、帰京してもらった。共に力を合わせてこの都を守ってほしい」
紹介された雲海は、歳の頃は、二十路でやや背が低く、丸顔で人なっこそうな優しい印象だ。
「初めてお目にかかります。ご活躍は、色々聞いております。坂神の中将様にお会いできて光栄にございます」
「こちらこそ、その様な、お強い方が共に戦っていただければ心強い。どうぞよろしくお願いいたします」
利成は、笑顔で答えた。
「二人共、大和の為、よろしく頼むぞ」
帝に、そう言われ、二人共再び頭を下げて答えた。
帝の御前を下がり、雲海ほっとした。元々は貧しい農民の出で、帝様はもちろん、貴族様にしたって、雲の上の存在話すだけでも緊張する。
(言葉使い大丈夫じゃたよな…)
幼い頃、人の目には見えない者が見えた。親は、薄気味悪がり村の者からも意味嫌われた、偶然、村に通りかかった僧に保護された。その後厳しい修行の末、異形を倒す力を手に入れた。
この大和は、身分階級が存在する。そして差別もすくなからずあった。自分は、力のみで成り上がりってきた者、古くから、異形と戦ってきた、貴族の家の者達には、当然、心良く思われていない、帝は、力を合わせてと言われたが、無理な話しだろうと思いながら宮城を後にした。
◇◇◇
後日、帝からの『お役目』を命じられた。
都に、百鬼夜行を見たとの噂が、あったからだ。
話では、夜中に牛頭馬頭、鬼等を共に従え、骨の姿をした牛が、牛車を引いて大通りに現れたらしい。
鬼に殺されたとの被害の報告は無いが、どうやら身分の高い貴族達の住まう屋敷が、立つ場所らしく、すぐに帝のお耳に入ったらしい。
早速、夜、屋敷が、立つ周辺を歩き、百鬼夜行を探す。
ただ、どこに現れるかわからない為、複数の霊力を持つ者に、『お役目』が命じられている。
利成は、高道、財前と共に百鬼夜行を探していた。
「やれやれ。せっかくの満月が綺麗夜にお役目とはなぁ~」
財前は、ため息を付ながら百鬼夜行を探す。
「財前、真面目に探して!」
高道は、必死に探している。
複数の能力者が、『お役目』に付いている為、百鬼夜行の討伐は、早い者勝ちになる。
高道家は、長らく、『お役目』から放れ、没落仕掛かっている。手柄を上げて再び家の再興を目指す高道にとっては、他の者より先に、鬼を探して、倒し手柄としたいのだろう。
「まあ、高道、焦っても仕方ないだろう。とりあえず、感覚を研ぎ澄まして妖気を探していくぞ」
「利成、こういう時に、パッと百鬼夜行を簡単に見つける霊具は、無いのか?」
「無い。財前、高道を見習って真面目に探せ」
その時だ。利成は、強い妖気を近くから感んじた。
「妖気だ。行くぞ」
そこは、かなり大きな貴族の屋敷だ。
明らかに、高い身分の貴族の屋敷だ。
屋敷からは、あちらこちらから、悲鳴があがっている。
最初に、屋敷に着いたのは、雲海と覚林だった。
「ごめん。わしは、雲海と申す僧、怪しい者ではございません。門を開けられよ。」
だが、屋敷からの返事は、無く悲鳴だけが、聞こえて来る。
「誰も、わしらに気づかないか…さてどうしたものか…」
その時、利成達も、屋敷に到着した。
「!これは、雲海殿やはりこの妖気に気づかれて」
「ああ、じゃが門は、固く閉ざされていて、身分の高そうな貴族の屋敷だし、わしらが、勝手に踏み込む事はできなんでな…困っておった」
「なるほど、では我々が、門を開けよう。高道、頼む」
確かに、雲海殿の身分で、屋敷の者の許可無く勝手に踏み込めば、後に色々問題が、あるのかも知れない。
高道は、念力を使い、簡単に大きな門を破壊した。
「よし、行くぞ!雲海殿達もご一緒に。」
覚林は、不服そうに利成達を見る。その視線に、利成も気がつき、覚林に訪ねる。
「なにか気に入らない事でも…」
「あの…、ここに、先に来たのは我々です。だから、その、つまり…この件は我々の手柄ってことで…私が、言いたいのはそれだけです」
「はぁ…わかりました」
思ってもみない答えに、困惑しながら返事を返す。
だが今度は、高道が、不服そうに言い返した。
「待ってください。鬼をまだ退治してもいないのに、何故、先に辿り着いただけで、手柄になるんですか!?」
「おい、高道、落ち着け」
「覚林、お前も、なにバカな事は言っとるんじゃ」
利成も雲海も、止めに入るが、両者睨みあっままだ。
そんな様子をどこ吹く風なのは財前だけだった。
「まあまあ、ほれほれ、とにかく、鬼退治が、先にだろう。さっさとやろうぜ!で鬼を沢山倒し奴が、一番手柄ってことで」
財前が、茶化すように促す。
「負けませんよ」と覚林が、言えば、
高道も負け時と言い返す。
「それはこちらの台詞ですら」
と屋敷に入ったものの、百鬼夜行どころか、鬼の姿はなかった。
生きてる人を見つけ、保護をし話を聞く。
「何故、鬼が、屋敷に現れたか心当たりは?」
「それは…その……特にありません…」
「正直に、話してもらえませんか?」
高道は、更に問い詰める。
皆、一様に、心当たりが、あるようだが、答えない。
残念ながら、屋敷の主は、既に殺されてれていた。
屋敷者達の話を聞くのは、高道に任せ、利成は、一人、屋敷の庭を歩く、未だ怨念の様な物が、微かに残る。
まだ、終りでは無い気がしてた。
考え込んでいると、ガサッと物音がした。
「誰だ!!」
物音をした方を向き、声をかける。
すると少女が、逃げる様に飛び出してきた。
「ひっ、お願い、殺さないで…」
酷く怯えて、泣きながらその場にうずくまる。
そっと近くに行き声をかける。
「大丈夫だ。なにもしない。どうして、こんな所にいる。迷い込んだのか?」
少女は、少し落ちついてきた。
「無理やり連れてこられたの…」
そう答えた少女をよく見れば、古着とすら呼べない様な粗末着物、痩せこけた体、痛んだ髪、どう見ても、孤児か、地方の農村の者、貴族やおそらく使用人ですらないだろう。その上、刃物でおった傷のような物もある。
「とにかく怪我もしているし、手当てをしよう。菓子は、好きか?良かったらこれ食べるか?」
そう言って、懐から、紙に包まれた菓子を出した。
少女は、目の前に差し出された、菓子を手にとり、包み紙を開け喜んでで頬張る。
「少し話せるかな?君の名前は?、どうしてここに?」
「あたいの名前は、はな。家は貧しくて、あたいは、人買に売られここに連れてこられた…。他にも、何にか、あたいと同じ様な子供が、居たけど…みんな、殺されちまった」
「鬼に…かい?」
「この屋敷の主に…、でも、あたいは、特別なの、この屋敷で、神様の使いに会った。選ばれたんだ!神様に、そして悪い奴をやっつける力を貰った…貴族は…悪い…奴…みん…殺さ…す」
少女は、そう言い突然大きな鬼へと変貌していった。
「危ない!」
雲海は、咄嗟に破魔の札を投げた。
利成は、雲海の札のお陰で鬼へと変わった少女の攻撃を咄嗟にかわした。
だが、札で鬼は倒れなかった。再び、強い妖気が、立ち込める!
「グォォォォォォ―」
鬼が、咆哮をあげると、今度は土の中から、次々と小鬼が、現れた。
突然、鬼のの群れに囲まれた。まさに百鬼夜行だ。
「どうやらここの主は、殺人趣味をお持ちのようだな…幼い子供を拐ったり、買ったり、人の諸行ではないな」
「ああ、全くとんでもないやつじゃ。この鬼達は、恐らく殺された子供の怨念が、鬼変えたのじゃ」
利成と雲海は、背中合わせに鬼と対峙する。
二人は、小鬼を次々退治していく、だが、小鬼は一向に減る様子は無い。
「恐らく、あの少女が、小鬼を生み出しているのだろ。雲海殿、小鬼達をすべて払えるか?」
「ああ、雑魚の鬼ならば、一掃できよう。ただ呪文を唱えてる間、鬼を近づけ無いようにしてくれ」
「わかった」
利成は、退魔の太刀を使い鬼達の相手をしていく。
雲海は、呪文を唱え小鬼達を一掃した。
利成は、小鬼達が、塵となり一掃されるといつものように、角槻の弓を構えた。
「神通の鏑矢!!」
大鬼になった少女は、跡形も無く塵と消えた。
「おお、あの強い妖気を纏った大鬼を…!なんと凄い強さ!」
「いえ、全てはこの弓力、雲海殿こそあれほどの数の鬼達、一掃されるとは、気きしに勝る法力。しかし、今回の事は、なんとも後味が悪いことで…」
利成は、殺され、鬼となった子供達の事を思うととても、『お役目』で手柄など浮かれる気分にはなれない。
「まったくじゃ」
「ここの主は、亡くなったから仕方がないが、この殺人に荷担した家の者や使用人などは、厳しく問いただし、罰っせねば…」
そう言い、利成は、財前や高道の待つ部屋へ戻っていった。
後日、役人が、屋敷に調べに入った。
庭には、複数の子供の遺体が見っかった。
荷担した、家の者や使用人達は、事々く都を追放され、住人を失った屋敷は、跡形も無く取り壊された。
その跡地には、小さな供養塔が、建てられていた。
利成は、供養塔の前に菓子と花を供え手を合わせていた。
そこへ、雲海もやって来た。
「これれは、雲海殿」
「はは、ここに中将様が、供養塔を建ったと聞いて、経の一つも上げようかと参った次第」
「それは、わざわざありがとうございます。鬼となった子供達の
魂は、塵と消え何の意味も無いとわかっているのですが…」
魔物、鬼、怨霊となった魂が、成仏して天へ還る事は無い。
完全に消滅し塵となって消え行くのみだ。
「その様なこと…。ワシとて同じですじゃ。無意味とわかってて、経を上げに来たのだから」
雲海は、そう言うとお経を唱え初めた。利成は、手を合わせて、静かに黙祷していた。
雲海は、お経を唱え終わると利成は、今回の事を話す。
「雲海殿は、今回の事をどう思われる?」
「どうと言われますと?」
雲海にはちょっと解りかねた。
「これは、私の考え過ぎかも知れないが、あの少女が、鬼に変化する前に少し話をしまして、言っていたのです。神に選ばれた、神の使いとやらに力を貰ったと、それが、鬼となる力なのだとしたら…裏に黒幕が、いるのではと思いまして…それに、最初の報告の百鬼夜行と今回は違っていました」
雲海は、顎に手を当てながら考え。
「うむ。確かにその鬼になった少女の話が、本当なら可能性はありますな。だが、その神の使いとやらが鬼を生み出しているのなら、これからも鬼が、あちらこちらに現れたるやも知れんのぅ」
「そうですね」
最悪の事態にならない事を祈るしかない。
◇◇◇
月の無い闇夜、一人の少年が都を遠くの山から見ていた。
傍らには、牛頭馬頭、そして、複数の様々な鬼の姿が有った。
その中で唯一、人の少年の姿が有った。頭の高い位置で長く美しい黒髪を紙紐で結い、白い水干姿をしている。妖しく煌めく紫の瞳と美しい顔立ちの13歳位の少年。
「これから、この腐った大和の国を変えていくんだ。この僕が…」
そう言うと、闇夜に再び消えいった。