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8/13

9/18

 加賀梨(かがなし)洋一(よういち)と友達になってから、約一週間が過ぎた。

 長いといえば長く、短いといえばそれはほんの一瞬に過ぎない。けれど、確かにこの一週間、俺の世界は変わっていった。

 一つはクラスの奴と少しだけ話すようになったこと。特に多くなったのはもともと同じ委員会のメンバーだった奴、(じん)くん。アニメの話題が通じるということが神だ。共通の話題があることはコミュニケーションのアドバンテージになり得るんだなーって思った。


 きっかけは先週9/10の委員会集会。彼が俺の知っているラノベを集会中にこっそり捲ってたから声をかけた。最初は確かに怖かった。だけど俺は、洋一(よういち)の超ありがたい言葉を思い出した。

『過去は変えられない。だけど、未来なら変えられる』

 本当にその通り。

 だけど友達と話をしているだなんて、まるで夢を見ているような感覚だ。


 それで明日、目を覚ましたら本当の世界──つまり俺が自殺して死んだ世界に戻っていたら、これが全部病院内での夢や、神様が最後に見せてくれたお情けだったら。そう思うと確かにゾッとする。

 だけど、まあ。それでも俺は、別にいいや。もう、ここが最高の世界だって理解できてしまったから。それに、もう一度あの世界で羽ばたいてやる……なんて気持ちもすこし生まれてきた。


 だけど、まだできていないことがある。それは、俺をいじめた奴らと…………話をすることだ。もう、復讐なんてする気はさらさらない。けれど彼らとは一度、話しをしなければならないと思っている。どんなたわいもない世間話でもいい。先生の悪口でも、加賀梨(かがなし)洋一(よういち)の陽キャエピソードトップ10でもいい。奴らのことを知りたい。

 どうして俺をいじめたのか、知りたい。……いや、それは知らなくてもいいんだ。だけど彼らにも、何か俺をいじめる理由があったに違いない。そう思うようになった。


    ☆


「もうこっちの世界に来て18日も経ったのか……本当に数時間に思えてくる」

 ため息を吐きながらショッピングセンターの中を歩く。


 今日はちょっと、特別な買い物をしにやってきた。

 ショッピングセンターの空気はまだ苦手だが、俺にはここに来なければいけない理由があった。


 今日の昼飯、久しぶりに洋一とは飯を食わなかった。代わりと言ってはなんだけど、友達になった陣裕貴人(じんゆきと)くんと昼飯をともにした。彼は俺と洋一の親密な関係を勘違いしているらしく、「加賀梨君の誕生日プレゼント何にしたの?」と、そんなことを言ってきた。誕生日とかそんなの知らない俺は、彼にいつが誕生日なのかと聞いた。そして、帰ってきた日付は。

「9月22日……どんな因果だよ、全く。それにあと4日って、誕生日プレゼント何にしよっかな」

 いろいろな場所を物色し、スマホで調べて極力出費がかさまないものを選ぶ。ラノベにつぎ込む金がなくなるから金は多く出せない、貧乏だからね。

 結局、ネットの受け売りで選んでしまったのだが。

「ハンカチ……洋一に返さないといけないし、最適解だろ」


 フラフラと帰路に着く。

 土日のどっちかに洋一の誕生日会と称してなんかできたら良いなー、なんて思う。でも今日は木曜日。あと2日3日で考えるってなってもそこまでのことは出来ないだろう。


 そして足を運んだ先に、感慨深さを感じる場所があった。まあ、帰り道なんだからそこの近くを通るのは当たり前なんだけど。


 そこは、()()高架下だった。

 土台となる橋脚の隙間から、赤々とした夕日が差し込んでくる。

 始まりの場所……なんてかっこよく言いたいが、実際は俺がボコられて金取られそうになった場所だ。


 そういえばと思い出す。今日はどうしてか洋一と話さなかった。別にアイツのことだから友達も沢山いるし、別に困ってはいないんだろうけど……少し微妙な気分になる。

 別に独占欲とかじゃないんだろうけど、やっぱ彼は俺の心の柱になってくれた存在なんだ。そこは譲れない。

 だんだんとそこへ近づいていく。そうすると、誰かがそこで座り込んでいるのを発見する。



 ────加賀梨洋一、彼がそこにいた。

「なっ、洋一! 大丈夫か!!」

 走って彼のいた場所に走る。へたり込んだ彼。腕を覆う服には血が滲んでいた。

「どうした洋一、えっ……まさか殴られたとか!?」

 返事がなかった。洋一からの視線が俺の胸に突き刺さる。

「大丈夫? ……そうだこれ、ハンカチ! 腕からの血早く止めない────」

「もう止まってる」

 氷のようなヤイバが振るわれる。ハンカチを持っていた腕を掴まれる。拒絶されているような気がして、息を止めた。

「ほっ、ほら。俺も洋一にしてもらってること多いし……だから、お前のこと俺は」

「そんなこと?」

 彼の頬が緩んだ。笑顔があった。しかしそこに彼の優しさは無かった、ように思えた。

「大丈夫、自分でなんとかする」

「えっ……で、でも。じゃあ、家まで俺が」

「心配すんなって和妻。ちょっと痛かっただけだから」

 立ち上がり、走り出した洋一。彼とすれ違う。その目には、彼の凛々しい目には、どこか明確な意思があった。

「じゃあな和妻! また明日!」

「っ……お、おう!」


 どうして、ここで倒れていたんだろう。何にも分からないけれど、ひとつだけ分かったことがあった。


 加賀梨洋一は、かっこいいけど変なやつだ、という事。

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