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9/7 前編

 ゲームセンターというものが嫌いだ。仕方ないことに、この街……というか県でショッピングモールというところが少ない。田舎県だから仕方ないね。そしてそこにしかゲーセンは無い。道の片隅にゲーセンがある時代は終わったんだよ。


 なんだが、中学校や高校の知り合いとばったりという確率が高くなるのがゲームセンターなのだ。

 映画館は? と考える人もいるだろう。安心しろ、俺はアニメ映画ぐらいしか劇場に観に行かない。洋画とか邦画とかは衛星放送でやる再放送だけ観てればいい、話題に乗り遅れるなんてことはないんだから。


 『二人で遊ぶ』。その言葉が、どれだけ甘美な響きに感じたのかは、知っての通りのものだ。──正直舞い上がってたよ、加賀梨に呼ばれたということを差し引いても。

那須(なす)君! タイタツしよ!」

「えー、俺リズムゲー苦手なんだよな……」


 まあ、ゲーセンも久々だし。悪くは──無い、のかな? やっぱ、まあ。そりゃ俺だって心躍るよ……友達、と来ているんだから。


 どうして俺、こうやって過去でのうのうと遊んでるんだろう……もしかして、これって現実じゃなくてただの夢!? それでも、ここを現実と仮定して考える。

 逆行して分かったことはたくさんある。だけど、逆行のことが分からない。隣でにへらと笑ってる加賀梨(かがなし)を見ても、こいつに復讐しようとしていたなんて、なんか半分くらいそうは思えない。それでも、俺が復讐のために逆行を起こしたとしたら……この感情の変化を一週間前の俺が知ったら笑われて蹴飛ばされるだろう。そんなの嘘だ! って。

 だけど、一つだけ確信できることがある。それは根本的に、歴史が変わっているということだ。

 俺が加賀梨と友達になった日。その日からいじめはぱったりとなくなり、その代わりに陽キャのダル絡みが始まった。

 分からない。本当に分からない。頭の中で繰り返した。


 渋々架台の前に立ってゲームスタート。隣の奴が楽しいなら、それでいいのかな。だけどそんなんで、復讐できるのかな……。

 だけど、一つだけ言わせて欲しい。


 ────加賀梨、なんでそんなにタイタツ上手いの? なんか手の動きイカれてない? ヤバない? 死なない? ギュインギュインとか通り越してもう次元断裂させるレベルの速さだよ!?

「那須君、ゲーム中によそ見できるなんて凄いね!」

「いやお前もよそ見しながらなんでそんな高得点出せる!?」

 「慣れかな」、と加賀梨は言った。「そんなもんなのか?」、と俺は言った。


 ちなみに俺は、最後の最後でフルコンを逃した。泣いた。


    ☆


 ゲームセンターの代名詞といえば、半分の人はこう答えるであろう。

 UFOキャッチャーである、と。


 目と目が逢う、瞬間欲しいと気付いた。「あなたは今どんな気持ちでいるの?」。戻れない金入れると、分かっているけど。少しだけこのままそこを動かないで。

「加賀梨、ちょっと俺そこのUFOキャッチャーやってくるわ」

「んー? 見てやろっか?」

「まあ、好きにすれば」

 欲しかったものはぬいぐるみ。小さなドラゴンのぬいぐるみ。名前はドラケン。ちょっと前に爆発ヒットしたアニメのマスコットキャラ。超可愛い。

 もう迷うことはなかった。

 百円をベット、ボタンを押す。

 狙いを外す。アームが空をきる。


 次も迷うことはなかった。

 もう一度チャレンジ、ボタンを押す。今度はアームが引っかかる。だけど寸前でぬいぐるみが離れる。

 Ah~揺れるアーム、Ah~こいつほしい。もうやけになって千円入れてやろうかな。

「貸してみ?」

 加賀梨が勝手に割り込んでくる。


「とったよ」

「いやお前何もんだよ」

 十数秒でちょちょいのちょい。お前噂に聞くギャルゲ主人公か? 

「なんで、凄いね、どうしてこんな洗練された動きなの?」

「いやー、優子がUFOキャッチャーが好きだったから……。ああ、中二のときに優子って言う彼女がいてね」

 ……ふーん、彼女か。彼女、彼女、彼女…………。彼女ねぇ、彼女だよなぁ、彼女って小指のやつだよなー。アイエエエ! カノジョ!? マアソウダヨナコイツヨウキャダシ!

「爆発四散しろ」

「いや元カノって奴! 交際は……ほんの少しだし、そっから彼女とか作らなくなったし。もともと、彼女だった幼馴染みがこういうところでお金たくさん使うから……だから練習した」

 甘酸っぺ、ないやこいつ復讐してやろか? その惚気ストーリーマジで頭にくる。持たざる者が隣にいるのによく彼女の話題出せるよな、こっちの気持ち考えろよ!

「だけど、加賀梨みたいなやつに彼女がいないわけないよなー。確かにお前見た感じそういう感じの奴じゃなかったけど、なんか女絡みでトラブルとかあったからなのか?」

「特にはないよ。だけど……もう彼女じゃいられなくなったんだ」

「引っ越したとか」

 彼は返答を渋るように引っ張った。

「────心の距離が、離れちゃった。告白は優子からだったけど、フったのは俺から、というかなんというか……」

「未練? そんなもんあっても、俺はどっちでもいいと思うけどな。まあ俺には彼女とか分からんけど……お前がいいならそれでいいんじゃね?」

 火を吐くドラゴンのぬいぐるみ。それをもぎゅりながら歩いていく。

「まあ俺は、こんなこと言える立場じゃないけどな」


 加賀梨曰く、今度はカラオケに行くらしい。アクティブすぎる、さす陽キャ。


    ☆


 カラオケ、楽しい。

「いつか! かならずー!」

「hoo! 那須君ノってるねー! ガンガン行こーう!」

 最高な時間だね、歌って良いわまじ。

「ガンガン行くぜエェェェェェエ!」

「那須君サイコー! ミュージシャン!」

 こんなとこ……カラオケなんて一人で来ないし、今日こうやって加賀梨と遊んだ選択は間違ってなかったのだろう。

「来て正解だったでしょ?」

 うん、良かった!


    ☆


 ベンチに座ってポテチを食う。

「ふーゔ、歌った歌った!」

「めっちゃ歌ったねー。さすが那須君、歌もうまかったよ!」

 コンビニでお菓子買って公園で食べる。


 ────なんか俺、リア充満喫してないか?

「いやいや、そんなことないよ。それに加賀梨だって上手だったし……なんでもできるみたいに思えてきちゃう」

「何でもなんて……そんなことはないよ」

 夕日の見える公園は、子供たちの声で賑わっていた。もうそろそろ午後5時を知らせる鐘が鳴る。それが鳴る頃にはもう帰ろう。名残惜しい……そう思うけど。


「なんかさ、不思議なんだ」

「ん? 何が?」

 俺は、自分に起こったことを話そうと、そう思った。きっと、いや確実に。加賀梨に逆行のことを言っても、夢とかなんかで一蹴されてしまう。だけどこんな──こんな、幸せを享受できているのは、俺の力じゃないんだ。俺が勝ち取った力じゃない。俺が加賀梨と友達になろうとした、そうじゃないのに。

 俺はあたかも普通に、何も見てこなかったかのように彼と接している。


 ────本当は加賀梨は、俺のいじめに関与していないのではないか。そうとさえ今は思っている。

 だけどそれは、彼の行動があったからであり、決して俺が頑張った産物でもなんでもない。

 貰った力で幸福を享受して、それで目を背けることなんてできない。

 だから、言うしかないのだ。言わなければ、いけないはずなのだ。

「なあ、加賀梨」

 横に座る彼は首を傾げて俺を窺う。

「あのな、実は俺──」


「すいませーん! そのボール、とってくれませんかー!」

 言葉を遮るように、子供たちの声が響いた。ボールを、とってくれないかという声が、俺に向けて。

 目を疑った、耳を疑った。目の前の光景が、目の前の光景が────揺れる、震える、息が止まる、氷る、殴られる、思い出す、巡る、狂う。


 そして最後に、俺に幸せを与えた何者かを、俺は疑った。

「サッカー、ボール…………っ!」

 痛い。痛い。

「おい那須君! いったいどうし──落ち着け! いったい何」

 あああああああああああああああああ!

 痛い、痛い、痛い、痛い……何か、握れる……ストラップ──無い。あれが、拠り所だったのに。いつしか、それは変わっていて。

「那須君! 聞こえてる!? 那須君!」

 聞こえている、反応が、反応が、反応……しなければ。また、消えていく。

 ──友達が、消えていく。俺の前から、消えていく。足が動かなくて、痛くて、痛くて。なのに、誰も気づいてくれなくて。


 怪我をして、動かなくて、それでも動かないといけなくて、誰にも理解なんて、できない。誰も、俺を思わない。誰も俺のことを、大切だなんて思ってない。


 それを、一番大切なもので知ったから。


 だから俺は、一番大切なものと共に、ぽっきりと折れた。

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