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友達、というものが久しぶりに出来た。まあ、彼と心から信頼しあえているわけではないから、彼と友達と言えるかは分からない。少なくとも俺はまだ、復讐のことが頭にちらつく。不快感は幾分か緩和された。しかしまだ俺は加賀梨洋一のことが苦手だ。嫌い、という感情は……多分ない。毒されたみたいで本当に反吐が出る。
「ねえ那須君聞いてるの?」
教室、雑音、窓辺にて。うるさい男が隣にいる。そのことがこの俺にはまったくもって理解することができない。
いや、だってさ。友達0人陰キャのこの俺に、どうしてこの陽キャはそれほどまでに気にかけるのか。理解不能。
朝からこんな感じ。もういじめっ子グループさえ近づけないくらいにべったりとついてくる。いや怖い、なに考えてんのこいつは。
「なんだよ加賀梨……」
「だから趣味教えてって言ってるじゃん!」
趣味……か、それはなぁ。
アニメ、マンガ、ラノベ! なんて言えるかよ、オタク趣味とか絶対引かれるよマジで。だけどこれぐらいしかもう残ってないし……それにバイクとかなんかかっこいい全く知らない趣味を言って、加賀梨がバイク好きだったらお話しについていけない。絶対変だ、嘘ついているって思われる。
「んー、趣味とかって無いの……?」
「いや、まあ。あるにはあるけどさぁ──」
「だったら、誰にも言わないから、ね?」
はぁぁあ。疲れるよこいつといると。──もし引かれるほどのことを言ったら離れてくれるかな……。なら少しだけやってみる価値もあるか?
オタク趣味、大暴露。してみてもいいだろ? 別にこいつと友達になりたいわけじゃ無いし。
「アニメ」
「ふーん、何が好きなの?」
「とりあえずピカカ系全般、10年前ぐらいの異能バトル全盛期ボーイミーツガール、ループもの、復讐もの、冒険もの、最近の転生もの……まあ全部好き」
……流石にやりすぎた、か?
「んで、那須君は結局何て作品が好きなの……? ってか、さっきの作品名とは違うよね? えっと、ちょっと声早くて聞こえ辛かったけど」
ぐさっときますね加賀梨さん。オタクは早口、是非も無いネ! そんなもんなんだよ! もう全部曝け出す!
「ん……まあ、ちょっと前のだと『黒の黎明』かな。一クールで綺麗に纏まってて、それでいて制作会社もチョーズナックだから作画良いし……あとセリフ回しがかっこいい。特に12話のアズナーの咆哮のシーンマジ神、三峰七海様の演技が神すぎる。他のキャラも声優も世界観も申し分ないし、作画も音楽もかなり高水準で見なきゃ損だって思ってる。確かに一期だけで理解できるお話しじゃないからやっぱ原作マンガ読まなきゃ9話のマリエの解説が理解しづらいし所々小さな矛盾があるけど、俺にとっちゃ最高の一作だよマジで────」
「ん? ああ、続けていーよ?」
──もしかしてさ、俺最悪のオタクムーブかましてませんかね? いやだって目の前の陽キャが黒の黎明見ているわけないし、話題わからないなら絶対楽しくないだろうし……。独りよがりに自分の言いたいことだけ言ってる俺って、もしかして友達いなくて当然のクソ人間なのでは!?
「いや、あの……ついて来れないよね、ごめん」
「いやいや、那須君の話聞いてるだけでも楽しいよ。えっと……黒のモルゲンデルング、だっけ?」
「モルゲンデメルング。意味は……ネタバレになるからやめる。アニメと無縁の奴にも、流石にネタバレは俺がしたくないから」
なんか違和感あるけど、加賀梨って全肯定マンなのか? 本当に悪意ってのを感じない、全くもって。あり得ない。
逆行。他の人間は皆歴史と同じ道を辿っている。だけどこいつは完全に行動が変化している。俺が復讐のために運命をねじ曲げた……? 逆行したことによる影響は、まだどれほどかはわからない。だが、俺を除いて一番大きな影響を受けているのは、間違いなく目の前の陽キャだ。
「もしもーし、那須君? 聞いてるの?」
「ああ、聞いてる聞いてる……ってか話してたの俺じゃん」
つらいつらい、加賀梨と話ししてると調子狂う……いや話ししてないか、一方的に言ってるだけか。
「で、もうそろそろ俺は帰るけど。那須君どうする? 一人でちゃんと帰れる?」
殴られた鼻頭や、制服で隠されている体のあざがなんかうずく。昨日奴ら四人組に殴られた痛みがまだ残っている。
心配するのも無理はないと思うけど、まあ────
「子供扱いすんな! このゴミ陽キャ!」
「あっ、帰るの? じゃあまた明日ね、那須くーん!」
うるさいうるさいうるさいうるさーい! だまれー!
☆
次の日、俺は思い知らされることとなる。加賀梨が持つ狂気の行動力と、異常なまでの俺への執着を。
「那須君、黒のモルゲンデルングよかったよ!」
「いや、黒の黎明だし……は?」
奴は学校に来て早々に俺の机に飛び込んできた。どうやら話したいことがあるらしい。
「え、加賀梨お前観たの……?」
「うん、家帰って配信サービスで。ちょっと寝る時間は遅くなっちゃったけど……面白かった!」
おいおいマジかよ。まさか13話観てくるとは思わないよ。そして怖いよ、執着ヤバいよ。俺狙われてんの!?
「特に良かったところは……8話かな、主人公のシュウ君が身体張って魔法受け止めるところ。あんまりアニメとか見ないけどかっこいいなーっておもった。えっと、声とかは分かんないや」
「声優は……まあ最近はナレーションとかもやってる蕪木優さん。聞いたことあるんじゃない?」
「名前は知らないけど、確かにバライティーの再現Vで聞いたことある……いや、やっぱ分かんない!」
「それで良いと思うよ。俺だって最初は声優なんて考えて見てなかったし。それよりさ、12話どうだったのさ!」
オタク談義に花が咲く。思ったより快感だ。インターネットでの交流もあまりやんないから、こうやって興奮を共有できる人間との会話が最高に楽しすぎる。
「もうほんと最高。黒のモルゲンデルング最高ー」
「いやモルゲンデメルングだから……まあ、気に入ってくれて何より」
今日の休み時間はほとんど黒の黎明の話題だった。
「なーんか、お前ともっと話したくなったよ……不本意ながら」
「ならさ、LINE交換しとこうぜ? 那須君、クラスライン入ってたっけ?」
クラスライン。……一学期の最初の最初に入ったけど、クラスメイトと個人でLINE交換した一人とはビジネス的なやりとりしかしない委員会の人だし、交換してないようなもの。
つまり、俺の高校初めての相手が、加賀梨洋一ということになる。
「──あ、いた。『那須』、でいいんだよね?」
「うん、苗字だけ書いてる」
これで友達なれたから。そう言って今日もまた放課後に。
「友達、復讐……」
葛藤、そう呼べばかっこよくなるのかもしれない。とぼとぼと歩く帰り道でそう考える。
「逆行……した意味、なんなんだろう」
俺は何をしたいのだろう。……復讐なんて、もう考えるのもバカバカしくなってしまう。それほどまでに、アイツに毒されている。クソ、クソっ!
石を蹴ろうとした足を止める。────俺は逆行で、どう変わる? 俺の世界は、どう変われるんだ? こんなことも、石を蹴ることもできない俺に、復讐なんて本当に。
「俺に、何ができるってんだよ」
────そこで、俺は重大なことに気づいた。
9月4日、9月5日。この2日間、俺はアイツらにいじめられていない。
そんな、逆行による大きな影響に。




