表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/13

9/22 前編

「おはよう、洋一(よういち)!」

和妻(わづま)……おはよう」

 なんか、いつものように普通に振る舞っている。

 なんか、お互いに避けている感じもした。


 だけど、俺にはやらなければいけないことがある。


「和妻やっほ、なんか今日元気ありありのアリーヴェデルチだね」

「いや(じん)……朝から帰る気まんまんじゃねーか。えっと、まんまんの──」

「おい和妻、それ以上はやばいやめろ! セクハラ!」

 陣くんとのいつものやり取りで朝が始まる。


 洋一との会話はなかった。いや、あったにはあった。……俺たちは普通の友達として接しあっていた。昨日のこと、逆行のこと、そしていじめのことを誰にも悟られないようにと。まあ、それを考えているのは俺だけで、実際には洋一はそんなこと微塵も考えてないっていう可能性だってある。


 だけどさ、それでもさ。俺にはやるべきことがある。そして、それをやらなければいけないそれ相応の理由ってもんは……まあ無いんだろうな。散々考えても、加賀梨(かがなし)洋一(よういち)を救い出す方法なんて見つからなかった。インターネットで探しても、なんかフリーダイヤルみたいな民間っぽく無いサイトが上に出たり、『スカッとするいじめ撃退エピソード!』なんていうクソつまんない記事しか出てこなかった。


 それに、対処法なんて一つに決められるわけがない。先生に言ったってスルーされるような話題だろう。ましてやあの完璧陽キャでクラスの中心の加賀梨洋一様だ。先生も一目置くような人間がいじめられているなんて考えもしない。

 だって、それが普通だから。


 だから俺は復讐する。俺を陥れ、助け、そして自分自身を堕としてまで俺を持ち上げた陽キャのゴミに……絶対に背負わせたりはしない。

 だから俺はここまでしてもずっといじめ続ける、あの四人の加害者を。復讐なんて滑稽な笑い話で吹き飛ばす。そして洋一を助け出す。

 俺は大田和也(おおたかずや)を、坂田春樹(さかたはるき)を、南蓮太郎(みなみれんたろう)を、飯野涼子(いいのりょうこ)を──絶対に許さない。


    ☆


 放課後になっても、空の色は青いままだった。……考えていなかった。まさか今日に限って授業数が少ないだなんて!


「加賀梨くん? 帰ったけど?」

 クラスの男子……名前は知らないけど、よく自販機の前で学年のやつ捕まえてジャンケンして奢らせたり奢ったりしている奴。そんな認識の彼からの、ありがたいお言葉……ありがたくない!

「…………は? おい! なんで、本当なのか!?」

「え、ちょっと近いんだけど那須離れて──」

「離れるから教えろ! いつ! どこ! 誰と!」

 洋一と放課後に会う約束をしていたものの、最後の授業で授業数が少ないと知った俺。委員会の用事が入っていたらしく、慌てて洋一に「待ってろ!」とだけ言い残して仕事をしてきた。3分で!

 なのにどうしてあいつはいなくなった! ……もしかして!

「えっと、順に説明すると……」

「悪いはやくお願いします」


「──分かったよ、教えるよ! 2分くらい前! この教室を! 大田と南と一緒に出てったよ! これでいい!?」

 もしかして、的中かよ。あー、一度でも目を離した俺がバカだったのかよ。不甲斐ない……洋一が! どうしてそこで抵抗しない! ふざけんな、俺だって少しは抵抗したのに!

「…………ありがとう。明日ジュースで返す」

「見返りとかいらんから、はやく行ってあげて?」

 自販機の前男子は、笑いながらそう言ってきた。


「……ありがとう。それじゃ」

 その厚意を噛んで咀嚼して飲み込んで、急いで洋一の場所へ走り出す。

「あ、やっぱコーラ奢りでお願い」

「てめぇ……いいよ、二本でも三本でも買ってやる、ありがとな!」

 結局買うことになったけどいいや。それだけで、あいつの危機に走れるのだから。


    ☆


「はぁ……まあ、ハズレだよな。普通は、一度見られている同じ場所でいじめたりなんかしないもんな……」

 走ってあの橋脚まで向かったが、そこには誰もいなかった。俺が一度蹴られ、洋一が──多分二度蹴られたこの場所。確かにこの街の死角の中じゃ音も周りに聞こえづらいし、リンチに好都合のスポットだろう。


 だけど、そこにいないとなると……いったいあいつらはどこに行った? 俺の2分前に出て行ったとなると、少なくともまだこの街の中。


 走っている時の熱心なコールも、洋一が答えないのであれば連絡先を知っていても意味がない。

「くそっ! 洋一は誰かの為にしか逆行の力を使わない。あいつ自身は、自分がどうなったって構わないって思ってる。……そんなの、洋一じゃなくて俺が許せない!」

 もう一度スマホを見て、気がついた。状況を変えることのできる一手が、俺の手の中にあると。


 この街の死角を、俺は調べている。洋一をリンチにするために精一杯調べあげた。

 タイムリミットは明確じゃないけど、そもそもそんなものあるかなんてわからないけど────────大丈夫。復讐のために調べたものを、今度は助けるために使う。

 俺と同じ気持ちにだけは、させたくないから。


 なら話は早い。メモアプリを立ち上げて、そこにリストアップされた場所に急ぐ。

 痛む膝を押さえて、全速力で。


    ☆


「ハズレ……! くそっ、ついてないなぁ俺!」

 3個目のポイントは、河川敷の橋の下。ポイント。見事にハズレてしまった。

 時間がない。もう太陽も痺れを切らして赤くなり始めている。

 ────ポイントは残り3つ。廃ビル、廃工場、少し大きめの公園のトイレ。


 廃ビル、廃工場と言っても心霊スポットでも何でもない。ただ少しだけ建造物の残った陽も入ってくるような場所。

 つまりは、どこにいる可能性もある。


 洋一を助けるためには、選ばなくてはならない。賭けだ。


「もう……博打しかない!」

 これが最後のチャンス。だから、走れ!


 今日は9/22。加賀梨洋一の誕生日であり、一つ前の世界の俺が自殺した日。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ