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11/13

9/21

「だったら、俺が洋一に聞きたいことがあるんだ!」

 時計の針は午前0時を指している。日付が変わり、命日にもなっていたはずの日が刻一刻と近づいてくる。それが怖くて、俺は彼からの返答がすぐに欲しくなっていた。


「夜遅いけど……いいかな?」

『ん……なに、和妻?』

 俺は決心して声を上げる。呼吸をを整え、拝み、祈り、意を決して、言う。


「お前は覚えてるか、俺が一度死んだことを」

『っ、なに言ってるの和妻──』

「俺は一度……いや、九月二十二日に死んだんだ。学校の屋上から飛び降りて、頭からべちゃっと行った」

 電話越しでも、彼が困惑していることがわかる。だけど、ただ困っているのか、それとも怒っているのかまでは分からない。

「それを俺は覚えている。……洋一も、覚えているよな。だって、お前がこの世界を逆行させて────」

『もういいよ、和妻にはもう全部言う。俺が和妻の自殺を見て、死んだ和妻を見てこの世界を逆行させた。紛れもない事実だよ』

 遮るような洋一の声は、俺と同じで意を決したような感じがした。


『全部言うよ。だから電話、きらないでね』


    ☆


『まずは、逆行の能力のことについて話そうかな』


 逆行。ある一定の時間まで、自分の記憶を保持しながら全ての事象、行動を無かったことにして時間を逆行させる能力。


 同一世界線を遡るので新たな未来の枝は生えない、つまり彼が見た未来は絶対に無かったことにされる。

『まあ、同じような未来になることはあるんだよ。俺がなにも動かなければ、同じ未来が永遠に続くことになるんだ』


 発動条件は、取り返しのつかない過ちで彼の心が異常に揺さぶられた時。

『ってことになってる』

「なんかさっきからその能力のこと、まるで他人事みたいに言うんだな」

『そこは……実際に能力を使った時のことを話すときに、一緒に話すから』


「それに、俺が記憶残ってるってことは……俺が死んだときに逆行が発動したからってことか?」

『それはわからない。和妻がなんで記憶があるのか……俺もにわかには信じがたいんだよ。これまでの逆行の記憶で、記憶を持っていた人はいなかったからさ』


 その次は、加賀梨洋一の過去のことだ。


『最初にこの能力を使ったのは……確か9歳くらいだったかな』

 小学校三年生の時、家の前の公園でサッカーをしていた洋一と他の友達たち。彼の蹴ったボールが公園の外に出た。それを取りに行った洋一の友達が、轢かれて死んだ。


 それを見て洋一は、初めて『逆行』の力を使う。

『最初から知っていたんだよ、俺にこの能力があるって。なんか、脳に書かれていたみたいにくっきりとその能力のことを理解できたんだよ。文じゃなくて、こう……心で』


 最初は戸惑うが、なんとか友達を事故から守った洋一。

 次に能力を使ったのは、そこから五年後の中学二年生の、洋一がいちばん変化してしまった日。


『死んだんだよ、俺の彼女だった三峰(みつみね)優子(ゆうこ)が……集団いじめで』

 ……分かっていた、そう感じた。


『好きだったんだ、優子のこと。大好きだった、だから壊れちゃったんだよ……俺』


 戻せたのは良かったんだ。だけど、彼女を救うにはまだ力が足りなかった。


 二度目の逆行でも、優子は自殺した。

『そりゃ崩壊するよ、どうしてそんなに追い込まれているかなんて知らなかったんだから。そしてそれが、俺の欲から来ているだなんて、全く考えてなかった』

 彼は優子と関わらない道を取った。そのことが功を奏したのか、優子は二年生が終わるまで生きていた。


 優子はいじめられて、そのせいで殺されていた。そしてその原因が、加賀梨洋一という存在だった。


『だけどね、そこだけじゃ終わらなかった。別の人が自殺したんだ。もちろん、いじめられて』


 彼はクラス全員と友達になり、虐めによる被害を消そうと逆行ループに奔走して、7回ほどで誰も死なずに三年生を迎えることができた。


 中学三年生、自分の弱さを少しでも隠してクラスメイトと親交を深めていく内に、洋一は陽キャぶるようになる。

『楽だったんだよね、ノリのいいやつってのが、周りの一番で生きていくのに』

 このクラスではいじめは起きなかった。彼は受験勉強もまともにしていなかったため、偏差値を落とし少し遠くの高校に通うことに。

「そこが今の高校ってことか。まあお前、学校内じゃ頭いい方だよな」

『……うん。だけど、優子と離れるためっていうこともあるかな。あいつ、頭いいから』

 いつもの精神状況なら、ここで彼女イジリをしているところだったけど、だけど今は流石に無理だ。


 高校一年生、この学校でもいじめは横行していた。

 洋一は積極的にクラスの中心に立ってみんなを先導していたが、いかんせん高校は中学とはまた違ったいじめがあるのだと理解できなかった。


 そして9/22の誕生日前、彼はこのクラス初めてのいじめの被害者である俺を知り、接触するも拒絶される。

「あん時は悪かったな、かっとなって酷いこと言って」

『いいよ、今はこうして優しくなったんだし』

 和妻は学校から飛び降りて自殺。彼は和妻を生かすために、二年前の『逆行』を使う。


 しかし、洋一から接触する前に俺が接触。

『それで……なんか変だなって思ったんだよ。だからちょっと馴れ馴れしくしちゃった』

「それがありがたかったんだけどね」


 だから、この世界では俺に優しくする。洋一はそう言ってくれた。


 だけど、それで今の洋一は……どうなる? 今の洋一は、どこか塞ぎ込んで、ムキになっているのではないか? そう思うと、次に言うことは明白だった。


    ☆


「それで……誰か助けて、それだけやってお前が傷ついていたら、元も子もないじゃねーか!」

 俺の言葉を聞いて、洋一は苛立っているように大声で怒鳴り返してきた。

『分かったんだよ、もう! 俺が嫌われれば、他の人に危害を出すなんて考える奴がいなくなるって!』

 ふざけるなよ、洋一。お前が、俺を救ってくれたお前が傷ついていたら、俺の心がおかしくなる。


『だからいいんだよ。和妻はもう友達も自分で作れる、自分で逃げることができる。俺なんかもういらないだろ?』

 だからこいつの言い分が、頭にくる。とってもとっても苛ついてくる。


 だから爆発してしまった。俺の、洋一への心の爆弾が。


「自分のことも大切にできない奴が、俺のことを助けようだなんて……よく言えたもんだな、加賀梨洋一!」


 衝動的に電話を切ってしまった。

 そのまま布団へと飛び込んで唇を噛む。

「寝れるわけ……ないだろ!」

 沢山の人が洋一に救われて、その最後に背負うだけ背負わせている。そんなの、絶対にダメなんだ。ダメなはずなんだ。ダメに決まっている。


 そう思って、9/21が終わっていった。明日の学校で、洋一と話をつけるために。

「やってやる、洋一に見せてやる。俺の……真髄、那須和妻の力を!」



 洋一の誕生日、そして俺の命日まで……残り一日。

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