③ー『彼岸』
築20年、木造2階建、6畳の小さなアパート。
夏は暑くて冬は寒い。
おまけによく虫が出る。
それでもーーーー
完璧な彼女を手に入れれば、自分も彼女と同じになれるんじゃないか。
そう、思ったんだ。
自分も、彼女みたいに。
「……身長165センチ、体重52キロ。
スリーサイズは上から75-62-85。
得意な教科は英語と国語。数学が少し苦手なのは僕とおんなじだね。今度一緒に勉強しようか。そうしないとお父さんと約束した新しいスマホ買ってもらえなくなっちゃうもんね。
最近韓流アイドルにハマっていて、今度お母さんとライブに行くんだよね。僕と行こうよ、きっと楽しいよ。
好きなものがあるのはいいことだけど、夜はちゃんと寝なきゃダメだよ。この間も深夜まで友達と電話してたね。せっかく綺麗な肌が荒れちゃうよ。いつも使ってる780円の洗顔フォームじゃなくて、僕がもっと良いやつを買ってあげる。化粧水も、駅前のドラッグストアじゃなくてもっと良いやつを使わなきゃ。
綺麗な髪だよね。やっぱり一本の枝毛もない。絹みたいだ。本物の絹なんて触ったことないんだけどね。
それに良い匂いだ。君が使ってる柔軟剤やシャンプーや香水を買ってみたんだけど、やっぱり同じにはならなかったよ。やっぱり、君の匂いは君にしか出せないんだね。あぁ、良い匂いだ。
おまけに肌も真っ白だ。
全然汚くなんてないよ。君の体はいつも綺麗だし、いつまでも触っていたくなる。全部全部綺麗だ。右太ももの内側にある少し大きなホクロがコンプレックスなんだよね。大丈夫だよ、僕は全部愛してあげるから。
あぁそうだ、もうすぐ生理だよね。2日目が多い日で大変だから、いつも使ってるメーカーのを買っておいたんだ。女の子への気遣いって大事だもんね。
……僕、思ったんだよ。
こんな僕でも、君のことを考えている間は生きているって実感を得られるんだ。パッとしない人生だったけど、今こうして君といる時間が何よりも幸せだから、生まれてきてよかったって思ってるんだ。
君と一緒にいれば、僕も完璧になれるんだ。
だから、そんなに泣かないでよ。
君を悲しませるやつなんてもういないんだから」
自分は、「完璧」になれたんだ。
ここが、僕と彼女の楽園なんだ。