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アシモフの罠  作者: 千賀藤 隆
20/28

<19> 好奇心に駆られた

応接室は六面の壁(※ディスプレイ)を使い、京都は瀧安寺の石庭を、板縁(いたえん)に設置された重厚な会議テーブルから眺める趣向の空間になっていた。その映像の中で、いつも通りカジュアルな服装の上杉先生が庭を眺めながらお茶を飲んでいた。先生は私の顔を認めると少し驚いた表情で席を立ち、急いで近づいてくる。そして、私を席に座らせ、顔や首筋の怪我を確認し、ケイも私の横に座らせ、顔や左手、肋骨の状態を尋ねた。


  ほどなく、ネイビー・ブルーのスーツを着た接客用の青年型シンス(ヒューマノイド)と一緒に、青白い顔をした長身・細身で神経質そうな男が部屋に入り、我々には興味がないといった雰囲気で素通りして会議室の奥に席を取った。


  青年型シンスは、トレーからお茶とお菓子を会議テーブルに並べると誰に対してでもなく、サラサラの笑顔で丁寧なお辞儀を残し、静かに部屋を出てゆく。そのタイミングで瀧安寺の庭はゆっくりと輪郭が薄れ、そよ風も小鳥たちのさえずりも消えゆき、六面真っ白になった会議室にはマホガニーの重厚な会議テーブルがクッキリと取り残された。


  上杉先生は原口さんが立ったまま待っているのに気付き、「これは失敬」と軽く手を挙げて手前側、一番奥の席に着いた。私は先生の左に、ケイはその私の左に席を移動する。原口さんは、立ったまま慣れた口調で細身の男を紹介する。


  男の名は山中遙人(はると)、紹介されるまでもなく知っている。現在、世界最高峰のヒューマノイド設計者の一人で、アプリコット社のヒューマノイド関連の最高技術責任者だ。年の頃は40代後半か?山中さんは、原口さんが紹介している間も神経質にメガネ型ディスプレイの画面で何かを調べている。そして、原口さんによる参加者全員の紹介が終わると、改めて名乗ることもなく本題を切り出した。


(山中)「弊社のヒューマノイドが不可解な行動を取ったと連絡を頂きました。それについて、少し詳しく、お聞かせ願えますか?」


それを聞き、私は上杉先生に目配せをしてから説明をはじめた。


(真理)「まず、こちらの映像をご覧頂きましょう」


タブレットを操作して背後の壁、山中さんからは正面の壁に映像を映し出す。それは、円筒形の銀色のタンクが幾つも並ぶ倉庫のような建物のシーンで、現場の監視カメラが捉えた映像だ。若い男が一人、入口から入ってくる。室内をざっと見渡すと、コソコソした様子もなく目的の場所まで最短距離で歩き、そこにあるタンクの装置を調べはじめる。かなり旧式の装置だ。計器類の入ったキャビネット・ボックスの(ふた)を開け、何かを確認するように覗き込む。その後、タンクに備え付けのはしごを登り、ハンドルのような大きな回転式の取っ手がついた蓋を開けたところで、数名の警備員が入ってくる。男は取り乱すこともなく部屋の外へ連行された。


(真理)「この侵入者は、メルクーリで医師として働いているアプリコット社製のヒューマノイド、名前はフレッドです。彼はメルクーリ本社のあるカリフォルニア州ウッドサイドで、こちらの上杉先生の指揮下で働いています。一方、映像の場所は、ウッドサイドから千キロも離れたオレゴン州ポートランドにあるメルクーリの施設です。誰もフレッドにポートランドへ行けという指示を出していません」


山中さんは左手を机に乗せ、右手の人差し指と中指で唇を挟むようにして口を一文字に結んでいる。そして、リピートされている映像をしばらく見つめ続けた後に、おもむろに口を開く。


(山中)「この施設は何ですか?」


私は上杉先生へ視線を送り、先生が頷いたのを確認してから話しはじめた。


(真理)「ここは、以前はカルダシェフ財団という法人が管理していた人体の冷凍保存施設です。2049年に破産した同財団からメルクーリ社が引き受けました」


(山中)「ああ、あの有名な施設ですね」


(原口)「山中さん、こちらの水島さんは、日本人初の冷凍保存からのサバイバーです」


原口さんはケイへ視線を移し、続けて問いかけた。


(原口)「水島さんも、こちらの施設だったのですか?」


(水島)「・・と、思います。死んだ後に収容されたので覚えてませんが」


(上杉)「映像の男が物色していたタンク、あれは、まさに水島さんが51年間、お眠りになっていた装置です」


ケイは、とても驚いた表情で上杉先生に顔を向けた。先生はケイの目を見てゆっくり頷くと山中さんへ視線を戻した。


(山中)「このヒューマノイドは、何をしていたのですか?」


(真理)「分かりません。問い詰めても、はぐらかすような答えしかしません」


(山中)「はぐらかす?」


(真理)「フレッドはこう言い続けています。『好奇心に駆られた』と」


(山中)「・・・」


次に別の映像を背後の壁に流した。それは、真っ白な壁の小部屋で警備責任者のボブがフレッドに尋問している映像だ。フレッドは “Curiosity” や “Interest” という単語を使い、そこに行ったのは純粋に好奇心からであると繰り返し、一方のボブは『何が目的か?誰に命じられたのか?』と繰り返し、その議論は平行線を辿(たど)っていた。私は、途中で映像を止めた。


(山中)「・・・ありえない」


山中さんは、映像が映っていた壁を見つめ、首を左右に小さく振りながら、絞り出すように言葉を吐き出した。


(山中)「ヒューマノイドが強い好奇心を持てば人類滅亡へつながります。少なくとも、弊社製のヒューマノイド、そのAIに『好奇心』なるものは実装していません。というか、間違っても実装できない対策が何重にも施され、尚且つ、たとえ実装されても実行できない対策が何段階も施されています」


(水島)「・・・私の生前、つまり2016年以前、『好奇心を持つAI技術』を謳う研究者やスタートアップ企業が幾つもありましたが?」


(山中)「古い時代のAIはよく存じませんが、未熟な技術をベースとした発言か、無責任な倫理観によるものかと思います」


山中さんによると、古い時代にはインターネットや各種センサーのデータを継続的に収集、解析、学習し、新たな知識を獲得しようとする仕組みだけでAIの『好奇心』とも呼んだそうだが、それを『好奇心』というなら、今の時代、どのヒューマノイドにも好奇心があるとのこと。そうではなく、行動を駆り立てるもの、それが『好奇心』であり、AIやヒューマノイドがそんな好奇心を持ちはじめれば、それは人類にとって脅威となる。好奇心で新型兵器の3Dプリンタのデータを作ってばら撒き、好奇心で新型スーパーウイルスを生み出し、好奇心で人体実験を始めてしまう。映像の中のフレッドは『好奇心に駆られた』と言い放っている。


(山中)「フレッドは、何を調べていたのですか?」


(真理)「コンピュータ・フォレンジックスのツールを使って彼のシステムを解析していますが、先ほどの映像にあるようにタンク装置の構造を調べていた、という以外、関連しそうな情報は見つかっていません」


(山中)「フレッドは、どうやって冷凍保存施設のことを知ったのでしょう?」


(上杉)「私はフレッドを何年も蘇生に関する研究に従事させました。彼自身は、この場所に行ったことはなかったのですが、関連する様々な情報にアクセス可能でした」


(山中)「フレッドの過去の活動は解析されましたか?」


(真理)「医師プロウェアの過去3ヶ月に関しては、フォレンジックス・ツールとビヘイビア・アナライザーで解析しましたが、不審なインタラクションは見つかりませんでした」


(山中)「フレッドはメルクーリの所有ですか?それとも、メルクーリの被雇用者の所有物ですか?」


(真理)「被雇用者の所有です。なので、医師プロウェア以外の通常モードに関しての解析は、御社とフレッドのオーナー、両者の協力が必要です」


フレッドのオーナー、S・アニー・シャノンは、ウッドサイド近郊に暮らす40代の女性、子供はいない。AICSのプロファイル上は、幾つものボランティア活動をリーダー格で参加、推進しており、地域での信望が厚い人物となっている。私がしたインタビューでは、家族を含め、健康上の問題は特にないと答えている。


(山中)「フレッドにインストールされている医師プロウェアの開発元は?」


(真理)「医師プロウェアもアプリコット、つまり御社の製品です」


(山中)「ふむ。・・・今、フレッドはどのように?」


(真理)「(サンフランシスコ)ベイエリアのAICSの施設でシャットダウンした状態で保管しています。もちろん、一切の通信信号が侵入できない施設で。それから、本件に関しては、NSA(国家安全保障局)が介入してきました。技術が技術なので、NSAも御社に協力を要請すると思います」


(山中)「・・・分かりました。原因究明に協力させて頂きます」


山中はギロリとケイに目を移し、しばらく視線を彼の胸あたりに固定した。そして、思い出したように口を開く。


(山中)「フレッドは、なぜ、水島さん、あなたの入っていたタンクを調べていたのでしょうか?」


(水島)「・・・おそらく、私の冷凍保存から蘇生に至るプロセスを調べていたのでしょう」


(山中)「それは、なぜ?」


(上杉)「水島さんの蘇生は良好だったんですよ、記録ずくめに。生前の記憶を驚くほど維持されており、身体は足に少し障害が残る程度でほぼ支障がない。それまでの蘇生では一年以上の入院が普通だったのに、わずか2ヶ月で退院されました」


(山中)「・・・つまり、フレッドは誰かを冷凍保存しようと計画しており、その調査のために水島さんの蘇生を調べているのでしょうか?」


(上杉)「それは分かりません。先ほども申しましたように、フレッドは何年も蘇生に関する研究に従事しています。昨日までは、水島さんもモニタリングしていました。もし、フレッドに本当に『好奇心』というものがあるならば、あのタンクを調べたいと思うかもしれない」


(山中)「もし、そうならば、上杉先生に許可を取って手順を踏んで見学に行くのではないでしょうか?」


(上杉)「実は一月ほど前、フレッドから見学したいという要請がありました。でも、私はそれを却下したんです」


(山中)「却下していなければ、今回の件は気付くこともなかったんですね。しかし、管理者である上杉先生の指示に従わなかったとは・・・」


山中さんは、手のひらを額に当ててしばらく考え込んでいた。そして、肩でため息をついて話し始めた。


(山中)「正直、こういった事態は初めてです。映像を見せて頂いたのに、まだ信じられません。ヒューマノイドが好奇心に駆られて行動する?あるいは、ヒューマノイドが管理者の指示に逆らい勝手な行動をする?どちらも大きな問題です」


(上杉)「山中さん、追い打ちをかけるようですが、他にも少なくとも二体、挙動に疑問を感じるヒューマノイドがいます。一体はフレンズ社製で医師プロウェアはアボット・サイエンティフィック社、もう一体は、リ・イマジン社製でカイザー・スクリプス社の医師プロウェアがインストールされています」


(山中)「疑問、・・・と仰るのは、その二体も『好奇心に駆られた』行動を取っているんですか?」


(上杉)「なんというか、・・・『意志』、人間のような『意識』、あるいは、『自覚』というか『自我』というか?私の決定に不服を申し立て、自分の意見を通そうとするんです。そんな折に、昨日のフレッドの事件がありましてね」


(山中)「その二体とフレッドの関係は?」


(上杉)「三体とも水島さんの蘇生を担当しております」


山中さんは、再びギロリとケイをにらみ、それから私へ視線を向けた。


(山中)「至急、この目で確かめたい。明日の午前のPRISM(※真空チューブ内を超音速で走る/飛ぶ大陸間横断交通)でベイエリアの施設に伺ってよろしいでしょうか?」


(真理)「もちろんです。ディレクターのジョン・パーカーに対応させます」


(山中)「原口さん、今週の私の予定、すべてキャンセルして下さい」


(原口)「ええ!だって、今週は重要なカンファレンスが、」


(山中)「こちらの方が重要です」


(原口)「・・・分かりました、なんとかします」


上杉先生は「次の会議が迫ってますので」と言って席を立つ。山中さんも「私も、今日は準備がありますので、これで。玄関まで送らせてください」と言って立ち上がった。ケイの方を振り返り視線が合う。「かなり深刻そうに見えるが?」と聞くので、「そうね」とだけ答えた。「君もベイエリアに一緒にいくの?」と聞くので、「ケイって現状、無国籍カッコ日本だから、アメリカに入れないし」と答え、席を立つよう促した。


  ケイの背中を押すようにして会議室の扉へ向かう。扉の手前に原口さんが、外に山中さんがいた。さっきは気付かなかったが山中さんはとても背が高い。185センチはあるだろう。軽く会釈をして通り過ぎようとしたとき、上の方から声をかけられた。


(山中)「ファーガソンさんは、本城翼先生のお嬢さんと伺ってますが?」山中さんは、睨むような鋭い眼光だった。


(真理)「・・・はい、本城翼は私の父です・・・血は繋がってませんが」


山中さんは、右手で「こちらです」と言って、フロントの方向に促しながら並んで歩き始めた。


(山中)「本城先生のこと、残念です。先生との出会いがなければ、私がこの道に入ることはなかったでしょう。とても影響を受けました」思いもよらず、哀愁と優しさに満ちた言葉だった。


(真理)「・・・山中さんにとって、本城翼は、どんな人物でした?」


(山中)「偉大です。私は本城さんの足元にも及びません」


(真理)「・・・」


(山中)「あれほど明確なビジョンを掲げ、そして、それを成し遂げた。当時、まだ、30歳くらいでした。学生だった私は、本城さんの一挙手一投足に目が離せなかった」


(真理)「・・・でも、翼、・・本城は、そのビジョンが正しかったのか、多くの人を苦しめる結果になったのではと、苦しんでました」


(山中)「・・・噂で聞いたことがありましたが、・・・本当に、そうだったんですね」


(真理)「・・ええ」


フロントを通り過ぎて外に出ると、厳重な警備体制のロータリーに既に車が一台、到着していた。上杉先生は原口さんと山中さんに挨拶を済ますと、私へ振り返り、傷の手当てのインストラクションを、再度、伝え、それを終えると車にさっさと乗り込んで去ってしまった。私は、慌てて聞こえもしない後ろ姿に向かって「ありがとう御座いました」と頭を下げた。私たちの呼んだ車もやってきたので、ケイの方を向くと、ケイは遠くを見つめていた。


(真理)「何、見てるんです?」


(水島)「はやぶさ」


(真理)「はやぶさ?って何?」


(水島)「あ、ええと、ファルコン。ほら、向こうの木の上」


(真理)「あっ、本当だ。あたし、ファルコンって初めて見るかも。そっか、ファルコンは、はやぶさって言うんだ。ねぇ、野鳥、好きなの?」


(水島)「特に好きって訳じゃないけど、はやぶさって、珍しいかなと」


私たちが乗る車もロータリーに到着し、神奈川県警の二体の警護用ヒューマノイドとケイを先に乗せた。私も原口さんと山中さんにお礼を言って車に乗り込もうとしたが、ふと思い立ち、山中さんを振り返った。


(真理)「山中さんから見て、本城以外で凄いと思う設計者って誰ですか?」


(山中)「本城さん以外で凄い人?・・・そうですねぇ、やはり、フォーサイスですかねぇ」


(真理)「フォーサイス?・・・さん?」


(山中)「ええ、フレンズ社創業者のサマンサ・フォーサイスです。表舞台に全然出ることなく引退したので知名度低いですが、知る人ぞ知る、超の付く天才です」


(真理)「サマンサ?(ってことは、女?)・・・天才?」


(山中)「ご存知ないですか?本城さんとは、随分、懇意にというか・・・」


(真理)「(ムカッ)はぁ、懇意ですか?」


(山中)「・・・」


(真理)「(あっ、笑顔、笑顔)あ、あのぉ、サマンサ・フォーサイスって、どんな人ですか?」


(山中)「どんなと言われると?」


(真理)「ええと、身長とか、見た目とか」


(山中)「そうですね、小柄で大人しそうな人です」


(真理)「・・・年齢は?」


(山中)「私より、だいぶ若いです。あっ、この歳じゃあ、同年代になるのかな?初めて会った時は子供みたいでした。でも、フレンズ社の創業者ですからねぇ、今は少なくとも40は超えてるはずです」


(真理)「・・・ミ、ミドルネームのイニシャルはAですか?」


(山中)「ミドルネーム?・・・サマンサ・A・フォーサイス、ええ、たしかそうだったと思います」


(真理)「・・・サマンサ・アニー?」


(山中)「あっ、よくご存知ですね」


山中さんはネットで情報を調べているのだろう、メガネ型ディスプレイで何かを読んでいる


(山中)「フルネームは、サマンサ・アニー・フォーサイスです。彼女が事件に関係していると?」


(真理)「えっ、あっ、いえ、ただ、事件の背後には、AIの天才がいるのではと疑ってまして、その参考にと」


(山中)「あくまで、私のサマンサ像ですが」


(真理)「ええ」


(山中)「とても高潔な人です」


(真理)「・・・ありがとう御座います。参考にさせて頂きます」


そう、山中さんに頭を下げて礼を言うと、駆け足で素早く車に乗り込んだ。扉が締まり、車が動き出す。隣の席から話しかけようとするケイを片手で制して、モバイルデバイスを取り出し、耳に当てる。


(真理)「ジョン、アニー・シャノンとサマンサ・フォーサイス、この二人が同一人物か、至急、調べて!」


(ジョン)「サマンサ・フォーサイス?・・・どこかで聞いた名前だな、誰だっけ?」


(真理)「フレンズ社の創業者、翼が天才と呼んだサマンサ、それから、おそらく、・・・魔法使いの中心人物」


(ジョン)「・・・わかった。気をつけろ、この通話も傍受されてるかもしれない。それから・・・」


(真理)「・・・ん?それから?・・ジョン?・・・ジョン?」


通話は切れていた。恐る恐る振り返ると、後部座席の二体の警護用ヒューマノイドの視線が止まっていた。横のシートでは、ケイが覚悟を決めた顔をしている。その顔を見ていると、悔しさというかムカつきというか、複雑な感情が全身に熱を帯びさせた。つい減らず口が出る。


「悟ったような顔はやめて」


「えっ?ひどいなぁ、いつもの顔だよ。・・・大丈夫、きっと大丈夫さ」


「・・・」


車内のディスプレイが全面真っ白く変わる。私が動揺してるせいか、ケイの姿が頼もしく見える。


「・・・らしくない」


「えっ?らしくないって?」


「ケイは、もっと、あたしを頼ってよね」


「と言われても、・・・結構、頼ってるけどね」


しばらく高速で移動した後に車は止まった。外は見えない、モバイルデバイスのGPSも機能していないので、どこにいるのか分からない。車のデフォルトの合成音で、淡々とメッセージが伝えられる。


(機械)「こちらの指示に従って頂ければ、我々は、あなた方を決して傷づけることはありません。ファーガソン・真理さん、あなたは車内に残ってください。水島敬太さん、あなただけ、車から降りてください」


ケイと視線を合わせて互いに頷き、一応、返事をする。「わかった/了解」


車の前扉がゆっくり持ち上がる。夕日になる手前の日差しがフロントシートに差し込み、強い明暗のコントラストを描く。目の前は緑で覆われた大きな公園だった。ケイは私に視線を向け、軽く頷くと立ち上がり、振り向くことなく車を降りた。その後ろ姿は、上から降りる扉で日差しと一緒に閉ざされ、カチャリという音で、私は再び真っ白な空間に閉じ込められた。


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