【続編②】クール美女系先輩が家に泊まっていけとお泊まりを要求してきました……
タイトルの通り「クール美女系先輩が家に泊まっていけとお泊りを要求してきました……」の続編になります。アフターストーリー的なものです。
まだ酔っぱらいません。途中に3人称あります。“秘密の関係”(笑)についてです。
頭空っぽにして楽にぼけーっと読んで頂けるとありがたいです。
前回の誘いと違い芹葉先輩からお願いされたことがある。
――それは時間になったら一緒に会社から抜け出したい(退勤)ということだ。
当然ながら俺は秘密の関係だから前回みたいにバラバラで行きましょうと進言したのだが、芹葉先輩がチャットで『( ;∀;)いっしょにいくの!』と泣いている顔文字と共にそんなことを言ってきたので反対できなかった。……だってちらりと芹葉先輩を見たら捨てられた子犬のように寂しそうな表情を湛えて、こっちをガン見してきていたのである。あんな顔されて断れるやつがいたらそれはもう人間としての心をなくした畜生以外の何者でもないだろう。
さてどうやって芹葉先輩のお願いを実行するべきか……。
ふたりで抜け出すのなんて簡単なことじゃん! と思うかもしれないが、実はかなり難しい。
何度も言っているが芹葉先輩はかなりの……どころか前例がないくらいのやり手だ。
そんな芹葉先輩だからこそほんの些細なことをするだけでも、その一挙手一投足には常に社内の人間が注目しているまである。
これは決して冗談ではなく、上層部からは“世間の趨勢と瀬能の流行先読みは連動している説”がまことしやかに囁かれているらしいのだ。
……まぁ、釣井先輩情報なので本当かどうかよく分からないが。
「――課長、少しよろしいでしょうか?」
現在時刻は18時を少しばかり過ぎたところである。
今回のお店は18時30分で予約を取ったとのことだったので、退勤準備を終えてから芹葉先輩のもとへ向かった。
「……弓削くん、どうかしましたか?」
タイピングを止めた芹葉先輩が心なしか緊張したような眼差しでこちらを見た。
表情はいつもよりややオーバー気味な鹿爪らしいものだ。……ほんと芹葉先輩はかっこよくて、可愛いという矛盾した存在である。
「明日のベンダーとの打ち合わせで事前に調査しておきたいことがありまして……」
そう口にしながら俺は袖口に隠し持っていたメモを芹葉先輩に渡す。
その内容は『このまま抜け出します。PCシャットダウンお願いします』というもの。
俺のメモを一瞥した芹葉先輩は、更に表情を深めてから油が切れたロボットのようなぎこちない動作でコクリと頷いた。……なぜだろう。もの凄い嫌な予感がするのは俺の考え過ぎ――
「PCシャットダウンした!」
――じゃなかったぁぁぁぁぁぁぁ!! しかもPCシャットダウンめちゃくちゃ早い!
見ればもう飲みに行くことが楽しみで楽しみで仕方ないといった様子で、メモの内容に元気に律儀に朗らかに返事をする芹葉先輩。
言葉に出せないからメモを見せたというのに……。くそ、こんな反応見させられたらこっちまで楽しくなってくるやん!
ここまで来たら後はノリと勢いで押し切るしかない! いくぞ!
「それでは、ベンダー対策会議をしましょう!」
「まかせて! 今日はおでんの美味しい私の……んむっもがもごっ!?」
ノリと勢いに任せたら芹葉先輩が更にノリノリになって、これから行くであろうお店のことまで喋り始めたのでとっさに手で口を塞いでしまった。……やっちまったぁぁぁ!
驚いたように目をまんまるにしてぱちくりと瞬きを2、3度繰り返す芹葉先輩。
塞ぐこと数秒、やっと喋るの止めてくれたので手を離そうとしたら……、
「…………!」手を離された瞬間に目を爛々とさせる芹葉先輩
「課長、それでは行きましょ――」再度嫌な予感を感じ即脱出を図る俺
「――すっごくおでんが……もごごごごごっ! んむっぐむむむっぷぺっふ!」どうしても今日行くお店の内容を喋りたいであろう芹葉先輩
「…………」無言で先輩の口を塞ぐ俺
俺の言葉を遮ってやたらと楽しそうにもう一度話を再開しようとしたので、また塞いでしまった。
この間、わずか10秒にも満たない超高速のやりとりだった。
これもしかして俺が手を離すと芹葉先輩は喋り出してしまうのだろうか?
今のこのヤバイ現状をどうにかしようという気持ちよりも、謎の好奇心が上回り試しに手を離してみた。
「……! おで……んむっ」一瞬手を離す
「……! すっごいおいし……もごごごっ!!」ちょっと長めに手を離す
「……! に……ん……ゅ……いっ……い……わた……すっ……たの……み!」離して塞いでを交互に繰り返す
――ヤ、ヤバイ! ありえないほど可愛いぞ!? こんな反応反則かよ!!
芹葉先輩が何を言っているのかほとんど理解できないが、反応の可愛さが言葉では言い表せないことになっていた。
一生懸命これから行くお店について伝えようとする芹葉先輩。
俺に何度口を塞がれようともあきらめない不撓不屈の精神。
最後には言い切ったことに満足したのか、片手で握りこぶしを作りながら何度も力強くコクコクと頷いていた。
あぁ、芹葉先輩がめちゃくちゃ可愛い。
ここが“会社”じゃなければこのまま頭を撫でたいまであ…………ってここ“会社”やんけ!!
自分がやらかしてしまったことにここでやっと気が付き、もの凄い勢いで辺りを見回した。
「「「「「「…………」」」」」」
「あぁ~、ラーメンと“食後の甘味”のせいで胸焼けが……」
席にいた課員は全7人。
その内6人はPCに向かって作業をしていたようで、俺と芹葉先輩のやらかしに気が付いている人はいなさそうだった。……ただみんな一様にすごい穏やかな表情を浮かべているのは何故なのか? まぁ、よく分からないがとりあえずヨシとしよう。
唯一顔を上げていた釣井先輩は虚空を見つめながらそんなことをぼやいていた。……いや、昼にチャーシュー麺大盛に油マシマシを注文した時点で胸焼け確定だと思いますが。
――とりあえず問題なさそうだったので、俺は芹葉先輩をなんとか誘導しながらふたりで会社を後にすることに成功したのだった……。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「「お先に失礼します。お疲れさまでした」」
「「「「「「「お疲れ様です」」」」」」」
芹葉と明弘のふたりがそろって退勤の挨拶を口にし、フロアから出て行ったことを見届けてから釣井が口を開いた。
「……やっと帰ったか。吐きそうだわ」
言葉とは裏腹に表情には穏やかなアルカイックスマイルが浮かんでいた。
そんな釣井に釣られるようにして、PC作業に集中していたはずの他の課員達も口々に喋り始めた。
「釣井先輩、自分もっす」
「けどぉ~課長めっちゃ可愛くないですか~? 前よりも全然話しかけやすくなりましたし~」
「確かに丸くなったって言えばいいのか、素が出てきたとでも言えばいいのか分からんけど、話しかけやすくはなったな」
「話しかけやすくなったどころか……弓削くんに遊ばれてた課長……ほんと笑い堪えるの大変だったし!」
「いやぁ~なんか微笑ましいですよね、あのふたり」
「中学生が初めて付き合ってる感ありますよねー」
「「「「「「あぁ~わかる」」」」」」
最後に全員の感想が重なり、笑いの波が起きたところで当初の疑問を釣井が口にした。
これもまた誰もが思っていることであり、その後に同意と再度の笑いの渦が起こったのは想像に難くないだろう。
「日常的にあんな空気を漂わせておいてバレてないと思ってるのが不思議でならん……見てる分には面白いからいいんだけどな。なぁ、誰かこの後一緒に飲みに――」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
小ぢんまりとした飲み屋が軒を連ねる繁華街の路地裏の一角。
そこで横を歩いていた芹葉先輩が俺の服の袖をつかんで立ち止まった。
「ここ!」
「こ、ここですか?」
芹葉先輩が指差す先には“おでん”と書かれた年季の入った暖簾が掛かる一軒の小さな飲み屋だった。
暖簾の横には同じく年季の入った赤ちょうちんがぶら下がり、店名と思われる文字に至ってはかすれていてなんて書いてあるのか読めなかった。
……何と言えばいいのか、初めて入るのはかなり勇気がいるような家庭的な雰囲気の店だ。
これ一見さんお断りって可能性ないよな?
ひとり思い悩んでいたら芹葉先輩が俺を引っ張ってどんどん店に近づいていく。
その歩みに迷いなどなく、引き戸を開けて入店していく芹葉先輩につれられるがまま俺は暖簾をくぐった。
「こんばんは」
「あらぁ~芹葉ちゃん! 待ってたわよ! いつもの奥の席とっておいたから入って入って!」
芹葉先輩と割烹着姿の女将さんと思われる女性のやりとりから察するに、常連客のそれであることは間違いなかった。
店内はカウンター席が奥まで続く細長い長方形のような間取りで、座席は全部で12席。
その内10席は既に埋まっていて、最奥の2席に俺たちが座れば丁度満席だ。……これ予約してなかったらもしかして入れなかったんじゃ。
「こ、こんばんは」
「どうも~! 芹葉ちゃん、もしかしてこの方が……」
「うん。私の……お付き合いしてる人」
「きゃぁ~! もう! 青春って感じ? ……あ、私ったら年甲斐もなく騒いじゃってごめんなさいね? 女将の桃子と申します」
そう言ってしなやかな所作で頭を下げた女将さん。
優しそうな笑みには包み込むようなあたたかみが感じられ、ひとつひとつの仕種には上品さがあった。
はじめは一見さんお断りだったら……なんて考えていたが、一瞬でこの家庭的なお店の空気に心を掴まれてしまった。
「初めまして。芹葉さんとお付き合いさせていただいております、弓削明弘と申します」
「あらあら、お若いのにしっかりしてるわね~。今日はゆっくり飲んでいってね~」
女将さんに挨拶してからカウンター席に座るお客さんと壁までの人ひとりがギリギリ通れる細い間を「すいません、後ろ通ります」と声を掛けながら、芹葉先輩に先導される形で通り抜けて着席した。
良い意味で狭い。
これは男なら誰でも体験したことがあるであろう秘密基地的な、わくわくする空間そのもだった。
「――えぇっ!? 芹葉ちゃんの“コレ”かい?」
席に着いて間もなく女将さんからおしぼりを受け取っていたら、俺の隣に座っていた白髪交じりの気の良さそうなおっちゃんが小指を立てながら話し掛けてきた。……なんというコミュ力。初対面で気さくに話し掛けられるこの社交性を見習いたい。
「うん! 芹葉ちゃんの“コレ”!」
「は、はい! 芹葉さんとお付き合いさせていただいております」
俺がどう答えるべきなのか悩んでいたら先に芹葉先輩が上機嫌に答えていた。
おっちゃんと同じように小指を立てて、おまけに俺に抱き着きながらだが……。
ふと芹葉先輩の顔を見ると、どこか誇らしげに、心から嬉しそうに、はにかんでいた。
「かぁ~っ! こりゃお祝いだぁ~! 桃ちゃん! このふたりに俺のおごりで盛り合わせ出したって!」
「ふふっ……かしこまりました。辰さんったら男前じゃない」
「辰さんありがと!」
「た、たつさん? ありがとうございます! ごちそうになります!」
女将さんも芹葉先輩も「たつさん」と呼んでいたので、俺もとりあえず便乗した。
たつさんは「いいってことよ」とサムズアップをしてから、お猪口を傾けていた。……かっこいいおっちゃんである。
「明弘くん、今日はどっちが介抱する番?」
まだお酒が入っていないというのに、心底機嫌の良さそうな芹葉先輩がしなだれかかるように腕を絡ませてきた。
こんなに楽しそうにしている芹葉先輩に介抱させるなんてありえないだろう。
「俺に任せてください」
「いいの?」
「はい。ここ芹葉さんの行きつけなんですよね?」
「うん! 桃子さんがうちのお母さんの友達だから、結構家族でくる」
な、なんですとぉぉぉ!?
これ桃子さん経由で俺の情報がまだ見ぬ芹葉先輩のご両親に伝わるってことじゃ??
よし。尚のことはハメは外せないな。
ちゃんと芹葉先輩を介抱できるように今日は控えめにしておこう。
「そうなんですね。俺のことは気にせず、芹葉さんは好きなの飲んでもらっていいですよ」
「ありがと! 私は決まってるから、明弘くんは何する? 生中? それとも……私のオススメにする?」
悪戯っ子のようにちらりと舌を出して、目配せをしながら微笑みかけてくる芹葉先輩。
その小悪魔的な仕種は初めて見るものだった。
綺麗で、可愛くて、頭も良くて、お茶目で、天然で、ちょっとぽんこつ。
これに小悪魔要素が加わった。
……最強だった。俺ごときがそんな誘惑に抗えるわけがなかった。
「芹葉さんのオススメでお願いします!」
「うん! 桃子さんいつものふたつ!」
「ふふっ……仲良しさんね。かしこまりました」
お通しと共に出された徳利。
間違いなく日本酒。
それを芹葉先輩と交互にお猪口に注ぎあってから俺たちは乾杯をしたのだった――。
お読みいただいてありがとうございました!
ポイント・ブクマ等頂けると発狂いたします!\(^o^)/
11/7追記 ⇒ このお話しの続編書きました。
タイトルは『【続編③】クール美女系先輩が家に泊まっていけとお泊りを要求してきました……』です。
もしよろしければ読んでいただけますと嬉しいです。※お知らせがありますので、必ず後書きまでお読みいただきたく思います。よろしくお願い致します!
また、いちゃラブがお好きな方がおりましたら私の別作品
『僕のクラスには校内一有名な美人だけどコミュ障な隣人がいます。』
をお読みいただけると嬉しいです。いちゃラブものです。