後天的盲障碍者の独白
僕たちは二人並んでいる。僕たちには彼女はいないんだ。
なぜなら、目の前には誰もいないから。
僕たちが見えるこの白い世界で唯一感じられるのは、手をつないでいるこの人間だけさ。
でも僕たちのこの世界に人間がいるはずないんだ。だって僕自身が人間であると認めていないんだから。この世界に、たとえ僕と同じ形を持っていてもそれは人間じゃない。僕が人間じゃないんだから、そいつだって人間じゃないはずさ。だって、この白い世界に影はないんだもの。影がないものは、形として成り立ってないんだから物じゃないよね。影がないから、動物でもないよね。動物じゃないなら人間でもないよね。ほら、人間じゃない。
だったら、この手をつないでいる人は誰なんだろう。誰?......なんで僕は誰?って考えた?だってだって、僕自身を僕が人間と認めてないなら、この人というかこの形は人間のはずないんだよ。だって影が見えないんだもの。でも、僕はこの形の手をつないでいるね。手があるってことは、少なくとも動物だよね。しかも、この暖かい懐かしい感じは.......。この手のぬくもりを僕は知っている。でも、そんなはずないんだ。だってこの手の持ち主は、とうに溶けてなくなったんだから。この白い世界に......。
確信したよ。そして思い出した。この手の持ち主は人間だ。
僕は、この白い世界に入る前にいろいろ冒険をしたんだ。それといろんな街に行ったよ。いろんな町で長い間過ごして、それからこの白い世界に連れてこられたんだ。そうだ。そうだよ。
この人間は、この女性は僕の......僕の......お母さんなんだ。でもちょっと待って、ぼくのお母さんは、僕が生まれるときに亡くなったはずだ。だから、ぼくはお母さんの手を知るはずがないんだ。だって、形を見なかったから。あの時は看護婦さん経由で一時的に医療カプセルの中に入れられたからお母さんのことを覚えているはずないんだ。だけど、そうか、お母さんが一緒にいてくれたんだね。お母さんがついてくれるなら、ぼくもいい加減この環境に甘えてたらお母さんに笑われちゃうね。おかあさんが一緒にいてくれるなら、ぼくは安心して行けるよ。ありがとう、お母さん。
〇〇×□年、碌々中学校のいじめにより目に過度の障害を負って、心神喪失状態に陥っていた14歳の若い少年が、14か月振りに覚醒したとのことです。また、この少年は覚醒後、亡くなったお母さんに出会って目が覚めたとおっしゃっており、私たちもこの少年のように、愛する人と昏睡中に出会えるかどうかをいづれまたの機会に検証したいと思います。
碌々中学校新聞部
最後までお読みいただき感謝申し上げます。
エリーゼのためにをリピートで聞きながら、半分眠くなりながら考えました。
思いついたまま書いただけなので、説明不足過多です。気が向いたら、類似品を書こうかと。
短い小説ではありますが、読んでいただきありがとうございました。