(7)待ち合わせ
【前回】
雨音とデートをすることになった晴太。
「次は~サカエ~サカエ~。お忘れ物の無いようにお降り下さい」
車内アナウンスが聞こえる。栄駅は栄市を走る路面電車の、北の終点に当たる。周辺には昔からある住宅地が広がり、晴太の通う栄第一高校の生徒がよく利用する電停でもある。晴太達は体育祭の振替休日で休みだが、世間的には平日だ。そのせいもあって電車はかなり空いていた。
「10時30分、早く着きすぎたかな」
遅刻しないようにと早めに家を出たのがだが、少々早く出過ぎたかも知れない。待ち合わせの時間は11時。あと30分もある。
「さすがにまだ来てないよなぁ」
晴太は呟く。まあ、雨音のことだから遅刻はしないだろう。おそらく10分前ぐらいには来るのではないだろうか。
という晴太も予想に反して。
「あら、晴太君。早かったのね」
雨音は電停の屋根を支える柱に寄りかかって立っていた。
「早かったって…。傘咲さんはいつ来たの?」
「私はついさっき、30分くらい前よ」
つまり10時にはここにいたことになる。
「あれ?待ち合わせは11時であってるよね?」
「あってるわ」
「……………」
「……………」
しばし沈黙。
「えーっと、平日のこの時間だといつもより道がすいてるからね」
「……そうね。そのおかげで予想よりも早く着いてしまったわ」
その言葉を聞き晴太は胸をなで下ろす。どうやら、かける言葉としては間違えていなかったようだ。
「ところで、今日はどこに行く予定なの?」
普通こういうのは男が計画するものなのかとも思ったが、雨音が何か考えていそうな雰囲気だったので当日になるまで晴太は目的地について特に聞かなかったし、話さなかった。
「晴太君の好きなところ」
ところが雨音の答えは予想外のものだった。
「え?どういうこと?」
「少し言葉が足りなかったわね。晴太君の好きなところ、つまり、晴太君がよく行く場所に私を連れてって」
雨音はそう言った。
さて、どうしたものだろう。平静を装ってはいるが、晴太は内心頭を抱えていた。『晴太の好きなところ』とはデートをするならともとれるが、『晴太がよく行く場所』なら単純にその言葉通りの意味だろう。
むろん、あるにはある。晴太のよく行く、お気に入りの場所が。だがあまりにもデートとかそういう雰囲気とはほど遠い場所だ。
晴太はしばらく考え、そして再び雨音の顔を見ていった。
「そうだね……うん。じゃあ傘咲さんに紹介しようかな、僕のお気に入りの場所」
目的地までは歩いて行くことにした。
「ねえ晴太君」
「何?傘咲さん」
「ねえ晴太君」
「何?傘咲さん」
「ねえ晴──」
「え、ちょっと待って。どうしたの?」
3往復目に入る前に晴太はいったん止めることにした。雨音は晴太を見ずに答える。
「晴太君、私が何を求めてるか分からないの?晴太君」
「えっと……ごめん、分からない……」
晴太君は全く分からなかったので、正直に雨音に模範解答を求めた。雨音は小さくため息をついてキッと晴太を睨む。
「キッ」
「傘咲さん………?」
晴太は恐る恐る声をかける。
「どうして傘咲さんなんて呼び方するの?どうして下の名前で呼んでくれないの?」
「それはっ……その、何て呼べばいいか分からなかったっていうか…。距離感の詰め方とかよくわかんなくて……」
「私が晴太君のことを晴太君って呼んでるんだから、それは私のことも下の名前で呼んでいいっていう意思表示でしょう?」
雨音は当たり前だという風に答えた。実際、晴太自身そう思ってはいた。雨音が予想以上に距離を詰めてくるので、自分ももっと距離を詰めてもいいのではないかと。しかし晴太の性格上それは難しかったというのが正直なところだった。
「晴太君はチキンなのね」
「そうなんです……」
雨音の的を射た表現に晴太は頷くしかなかった。
読んで下さって誠にありがとうございます!
いよいよ初デートと言うことで…。
初デートってたぶんこんなんじゃないですよね。だけど筆者はデートなんてしたことがないのでこんな風に妄想しました。
やっぱりちょっと短い気がしますが、ぱぱっと読めるぐらいがいいのかなー、と思ってこの長さにしてます。
よろしければ続きもまた見に来て下さいね!