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番外編①

サァー


雨が降っている。予報では晴だったが、ふたを開けてみると体育祭そのものを中止にせざるを得ないほどの大雨。その老人は長く伸びたひげを触りながら雨が降るのを眺めていた。


「校長!」


後ろから男の声が聞こえた。『校長』と呼ばれたその老人は声のした方に目を向ける。そこには60歳前後と見られる薄毛の男がいた。


「これはこれは市長さん、ようこそおいで下さいました」

「止めて下さいよ校長、年齢的には僕の方が30近く下なんですから!それに、坂木先生は何年経っても僕の先生ですよ」


校長、坂木史郎サカギシロウの前で恐縮するこの男こそ、去年から新たにこの街の市長となった治田幸二オサダコウジだ。と、同時に今から40年ほど前、まだ坂木が教鞭を執っていた頃の教え子でもある。


「しかしお前も何というか……寂しくなったのう」


視線を上の方に向ける坂木。


「って、どこ見てるんですか先生……!」


慌てて頭を隠す治田。いつものやりとりだ。


「それにしてもすごい雨ですね」


挨拶が済んだところで治田が話題を今日の体育祭に変える。


「そうじゃな」

「予報では晴だったのに。傘咲さんも残念でしたね、あんなに素晴らしい魔法を見せてくれたのにこんな天気で……」


その言葉に坂木の眉がぴくりと動く。


「本当にそう思うか?」

「と、言いますと?」

「あれを見て何か気付かんか?」


そう言われて治田は腕を組み考え込む。しかしいっこうに答えが出ない。


「はあ…お前という奴は…。普通はあり得ない魔法構成になっておったろう」

「魔法構成………あっ!そういえば!」


治田は声を上げる。


「傘咲さん、雨が降ることを前提にした魔法構成になってましたね!」

「やっと分かったか」


坂木は若干あきれ顔でそう言った。


「と、いうことは……彼女は雨が降ることを知っていた?専門家ですら予想できなかったのに?」


治田の言葉に坂木は頷く。天候を変える魔法というのもあるにはある。しかし天候のように大きなものを操るには、それだけ高度な技術と莫大な魔力が必要となる。いくら魔法が得意でも高校生にそれが出来るとは思えない。となると、雨が降ることを知っていた事になるが………。雨音はそれをどうやって知ったのか。


「傘咲雨音……不思議な子じゃ」


坂木は呟く。90歳にもなるとだんだん楽しみも減ってきて坂木自身そろそろ引退も考えていたところだったが、雨音のような才能ある若者を目にすると『まだ負けていられない』という思いがむくむくと湧き上がってきて胸が熱くなるのだった。


「わしも、まだまだ引退はできんのう」


その言葉に治田は「当然ですよ!」と驚いたように言った。


「先生にはまだまだ頑張ってもらわないと!」

「お前なぁ……90の老人をまだこき使う気か?」


坂木がそう言うと治田はにやにやと笑って答えた。


「そりゃあ、僕らが学生の頃はさんざん先生にこき使われましたから。これからは僕らが先生をこき使う番です」

「全くお前は……いつまで経っても調子に乗りおってからに……」


そう言いつつ坂木の心は晴れやかだった。卒業から何十年もたった今でも、こうして会いに来てくれる教え子がいる。何かあると相談しに来たり、こき使うと言いつつ自分を頼ってくれたりする教え子がいる。彼らの存在がもう老い先長くない坂木の生きる活力になっていた。


「わしはとんだ幸せ者じゃな」


坂木は誰にも聞こえないようにそう呟いた。


どうしても本編に組み込めなかった内容や会話などを番外編として物語の合間に書いていきたいと思います。

初回は校長と市長の会話。


年を取ると体にガタが来て思うように生活できなくなってくる。そうなると『自分は必要のない人間なんじゃないか』なんて思えてくる。そんな時、自分を頼ってくれる人や会いに来てくれるの存在が心の支えになるのかも知れないですね。


え?本編よりいい話じゃないかって?

それは言わないで下さい。。。

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