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(31)祭りの終りに

「君たちは高校生かね?高校生がこんな時間に外出していいと思っているのかね?」

 その言葉に思わず晴太と渚は身を固くする。が、それっぽい口調で言ってはいても、その声は口調ではごまかせないくらいに幼かった。

「水!?」

 晴太が振り返ると案の定そこにいたのは廻川水だった。

「水って…………もしかして一年の廻川さん!?」

 渚は驚いた様子で晴太と水を交互に見る。さすがにこの学校で一二を争う程の有名人である。学年が違う渚でもその名前を知っていた。

「っていうか久条くんって廻川さんと知り合いなの!?」

 そしてやはり、そんな彼女と晴太が知り合いであるということはかなり衝撃的な事実であるようだ。誰よりも晴太自身が驚いているぐらいなのだから当然である。

「実は……そうなんだよね」

 晴太は苦笑いをしながら答える。それを聞いて渚は感心したように呟いた。

「へぇ……意外な交友関係……」

「そうなんですよ!」と、なぜか水が得意げに言う。

「他にももう一人、有名人の知り合いがいて────はっ!!」

 言いかけて水は何か思い出したように目を見開いた。

「そうでした……ここに来た目的を忘れる所でした」

「目的?」

 晴太が尋ねると水は、「はい」と頷いて渚の方に向き直る。

「海守渚さん……ですか」

「あたし?」

 突然名前を呼ばれて、渚は首をかしげる。

「そう、あなたですよ」

 水は渚の目を真っ直ぐに見つめる。そしてゆっくりと口を開いた。

「単刀直入に言います。これ以上晴太先輩に近づかないでください」

「っ!?」

 渚が無言で目を見開く。

「ちょっ、水!?僕はそういうつもりじゃ……!」

「晴太先輩は黙っていてください!」

 慌てて口を挟む晴太を水が制止する。

「友達だか何だか知りませんが、晴太先輩の恋愛経験が少ないのをいいことに、彼を誑かすのはやめていただきたいのです」

(少ないというか、皆無だけどね…………って、今はそんなこと考えてる場合じゃないか)

 晴太は混乱する頭で状況を何とか整理する。どこで知ったのかは分からないが、水は今日晴太と渚が夏祭りに来ることを知っていた。そして例によって後を付けていた。だが、どうも水は晴太に対してではなく、渚に対して怒っているようだった。では、渚はどうか。

 晴太は渚の方に目を向ける。渚の目は真っ直ぐに水の目を捉えていた。そしてしばしの沈黙の後、ゆっくりと口を開く。

「っていうかさ、そもそも廻川さんは久条くんとどういう関係なの?下の名前で呼び合ってるってことは、付き合ってるの?」

「付きっ……!?付き合ってはないですよ!その……ある程度見知った仲ではありますが……」

 思わぬ問いに水はしどろもどろになる。渚は水と向き合っていた鋭い目付きのまま確認するように晴太の方に目を向ける。晴太は少々大袈裟なくらい首を縦に振った。

「じゃあ……とやかく言う筋合いはないってことだよね?」

 いきなり現れた無関係な人に勝手なことを言われムッとしたのだろう、普段ののほほんとした姿からは想像の付かない、真剣な顔で渚は言い放った。

「とやかく言う筋合いならありますよ……」

 今度は水が口を開いた。俯いているため表情は見えないが、怒りとは少し違う感情のこもった低い声だ。

「ど……どういうこと?」

急に雰囲気の変わった水を見て、渚は思わずたじろぐ。

「この人は…………」

 そこで水は一度言葉を切って、顔を上げる。

「あちきの大切な親友の彼氏なのですから!」

 雨音のことだ、と晴太はすぐに分かった。と、同時に晴太は驚いていた。水が雨音を親友と呼んだこともだが、何よりもそれほどまでに雨音のことを大切に思っているということに驚いたのだ。

「その親友って言うのは…………傘咲さんのこと?」

「……やっぱり知っていましたか」

「うん……」

 そんな晴太をよそに、二人は話を続ける。そもそも渚は雨音と水の関係を知らないはずだが、二人の間では何かが通じ合っているようだった。唯一三人全員と知り合いである晴太は完全に蚊帳の外である。

「…………明日にしましょうか。この件は改めて明日、学校で話し合うということで」

 水は通りの方を横目で見ながらそう提案した。晴太もつられてそちらを見ると、赤提灯に照らされた通りを歩く人々の中に何人か、チラチラとこちらに訝しげな視線を送る人達がいるのが分かった。喧噪から少し離れた路地裏で、険悪な雰囲気の男女が向かい合っていれば、それは不審に思われて当然だ。

「……そうだね。明日は日曜日だけど?」

 渚もその事に気付いたようで、水の提案に同意する。

「大丈夫です。学校は空いているので。特別校舎の一階に理科室があるのはご存じですか?」

「あ、そこなら知ってるよ」

「でしたらそこで、時間は……午前十時でよろしいですか?」

「うん」

「では明日、その時間にお待ちしています」

 結局晴太が口を挟めないまま話は次の日に持ち越しとなった。


 帰り際、渚は晴太のもとに寄ってきて、ニコッと笑った。

「またね」

「あ、うん。またね」

 晴太の返事を聞くと渚は満足したように頷いて歩き出した。晴太がぼんやりとその背中を見送っていると、いつの間にか水が隣に立っていた。

「なぁにが『またね♡』ですか」

「いや、なんかちょっとニュアンス違うけど……」

 晴太がそう言うと水はムスッとしたまま「まあいいですが……」と呟いた。

「それより、晴太先輩は来ないで下さいね」

「え、なんで?」

 てっきりお前も来いと言われると思っていたので、晴太は思わずそう聞き返す。

「そりゃ先輩は見るからに流されやすそうですし…………。とにかくっ!この件はあちきに一任していただきたいのです」

 そう言うと水は「それではっ!」と雑踏の中に消えていった。一人残された晴太はぼんやりとした頭で考える。色々なこと、色々な記憶が頭の中を廻る。自分に向けられた言葉の意味や行動の意味を想像する。それをもとに今後の行動を決めるのだ。

「ふう……」

 しばらくして晴太は、わざとらしく息を吐いた。何となくであり確証はないのだが、逃げてはいけない、そんな気がしたのだった


 ここまで読んで下さりありがとうございます。志賀飛介です。

 これからどうなっていくんでしょうね。まじで。

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