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番外編⑦

「いやぁ~、負けちゃったね~」


空港に夏希の元気な声が響く。


「みんなごめん……。私がもっと頑張っていれば……」


そう俯くのはチームメイトの原田桜子はらたさくらこだ。


「だから、桜のせいじゃないって!あたしも負けたんだから、お互い様よ!」


同じくチームメイトの中央寺ちゅうおうじアスカが若干怒り気味に慰める。三人が所属しているのはエクストリームチャンバラ部、刃の部分が柔らかい素材で出来たおもちゃの刀や長刀なぎなたを使ってたたき合う競技だ。相手の体に当てれば勝ちという単純なルールで、他のスポーツ同様、魔法の使用が認められているため大変見応えのあるスポーツだ。まだ誕生して数年という歴史の浅いスポーツだが、年々競技人口を増やし、今年ついに中学校の全国大会が開かれた。地方予選を勝ち抜いた夏希たち栄東さかえひがし中学エクチャン部も首都で行われたその大会に出場したのだが、結果は残念ながら一回戦敗退だった。


「相手のチーム、強かったもんね」

「そんなこと言って、夏希は勝ったじゃない」


アスカに言われて夏希は「たまたまだよ~」と謙遜する。試合は一チーム三人の団体戦で、先に二勝した方が勝ちというルールなのだが、夏希が接戦の末勝利した相手校の一番手は結局、その後は無敗のまま優勝してしまった。


「夏希ちゃんすごかったよねー、みんな夏希ちゃんの試合に注目してたよ!」


桜子がそう言うとアスカも頷いた。


「強豪校のスカウトっぽい人に話しかけられてたし」

「あー、あれね」


夏希ははずかしそうに苦笑いをする。


「高校はどうするつもりかって聞かれたから、地元の高校で部活を続けるつもりって言っといたよ」

「え!それって!」

「正気なの!?」


桜子とアスカは揃って声を上げる。当然だ。もし『まだ考えていない』とでも言っていれば、『じゃあうちの高校に興味はないか』という流れになったはずだ。つまり夏希は、強豪校の推薦を蹴ったことになる。


「まあ、高校でもこのメンバーでやりたいし。それに、藤堂とうどうさんにも言われたんだ、次は勝つって。おんなじ高校に入っちゃったら仲間になっちゃうもん」


藤堂とは夏希が下した神楽崎かぐらざき高校の主将である。神楽崎高校は小中高一貫の私立校なので、夏希に話しかけていたスカウトとは神楽崎の関係者だったのだろう。


「それってさぁ、全国に行くのが前提みたいになってるけど、あたし達にかかるプレッシャーのこととか考えてないでしょ……」


アスカが呆れるが、夏希はまるで気にしていないように言った。


「大丈夫だよ!みんな強いから!それよりさ、せっかくだからお土産買っていこうよ!」


言い終わらぬうちに夏希はお土産売り場へと走り出した。


「ちょっと!走ったら危ないでしょ!」

「元気だねぇ、夏希ちゃん」

「全く……元気すぎるわ。あたし達も行きましょう」




アスカと桜子がお土産売り場に行くと、夏希がキーホルダーと何やらトゲトゲした物を手にウンウンと唸っていた。


「何見てるの?夏希ちゃん」


桜子が尋ねる。すると夏希は手に持っていたものを二人に見せた。


「これ、お兄ちゃんにあげたいんだけど、どっちがいいかなぁ。ベン・ザ・ゴリラといがぐり消しゴム」


一つは便座に座るゴリラのキーホルダー、もう一つはその名の通りいがぐり型のトゲトゲした消しゴム。


「…………」

「…………」

「お兄ちゃん、どっちが欲しいかなぁ?」

「いやいや、どっちも欲しがらないでしょ!」


アスカが目をむく。だが夏希は不満げだ。


「ええー?そうかなー?」

「夏希ちゃんのお兄さんって変わったものが好きなのー?確か修学旅行の時も変わったものをお土産にしてたけど」

「あー、あの時もなんか妙なもの買ってたわね。あれ、お兄さんの趣味だったの?」

「うーん、お兄ちゃんの趣味っていうか、あたしの趣味っていうか……」


首を捻る夏希。アスカも桜子も夏希に兄がいることは知っているが、実際に会ったことはない。ただ話に聞く限り、夏希は兄にとても懐いているようだった。


「どんな人なんだろ-?」

「今得た情報だけで判断するなら、変な趣味の人ってところね」

「はいそこ-、人のお兄ちゃんを変な趣味の人とか言わなーい。うちのお兄ちゃんはねえ、とっても優しいんだから!」


ムッとする夏希に桜子が尋ねる。


「そうなのー?」

「そうだよ!あたしが何かあげるといつも、『夏希は面白いものを見つけてくるね』って笑ってくれるもん」


そう嬉しそうに言う夏希を見て、アスカと桜子は顔を見合わせた。


(なるほど、よく分かったわ。夏希のお兄さんは、『変な趣味の人』じゃなくて、『変な趣味の人も受け入れてくれる心の広い人』だったのね)

(なるほど~)


アスカの耳打ちに桜子はニコニコと頷いた。


「なになに?何て言ったの?」

「何でもない。それより、どっちにするか決まったの?」

「あ!そうだった!二人はどっちがいいと思う?」


アスカと桜子は再び顔を見合わせる。そして互いに頷き合うとそれぞれ答えた。


「いがぐり」

「私もいがぐりがいいと思うなぁ~」


便座に座るゴリラは貰ってもしょうがないが、消しゴムならば一応使い道があると考えたのだ。まあ、いがぐり型の消しゴムなので、トゲトゲしていて使いにくいことこの上ないが。


「そうかぁ、じゃあお兄ちゃんへのお土産はこれにしよっと」


夏希は足下に置いていたカゴにいがぐりを入れると、もう片方の手に持っているゴリラを見て少し考える。


「…………これはあたしのにしよう」

「結局そっちも買うのね……」


アスカのあきれ顔を横目に、夏希は嬉しそうにゴリラをカゴに入れると、「他のも見てくるね」と店の奥へ向かった。しばらくその背中を眺めていたが、やがてアスカがぽつりと呟いた。


「あれを受け入れてくれるお兄さんって、一体何者なのかしら」

「会ってみたいね~」




「ねーねー二人ともー!面白いもの見つけたよーっ!」

空港に夏希の元気な声が響く。

ありがとうございます。


晴太くんが監禁されている間、夏希ちゃんは部活の大会で首都に行っていたわけですが、その帰りですね。

部活名はエクストリームチャンバラ部。これは僕が考えたスポーツじゃなくて、もともとあるチャンバラっていうスポーツをもとにした、というか、そのまんま魔法を追加しただけのやつですね。だからエクストリームを付けてみたわけなんですが。


ところで、なんていうかこの三人、番外編で終わらせるにはもったいないぐらいキャラが立ってるんですよね。

久条夏希くじょうなつきは元気はつらつとした天才型。原田桜子はらたさくらこはむっちりしていて性格はおっとりしてるけど、意外としっかりしているタイプ。中央寺ちゅうおうじアスカは真面目でちょっとツンデレなみんなのまとめ役。ってな感じで。


個人的にこの三人組は気に入ってるんで、また番外編かどっかで出てくるかも知れません。


では、ちょっとお腹の具合が悪いので今日はこの辺で。。。

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