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番外編⑤

ある若き研究者の苦悩

マゴロシノキを使った魔法の杖について


マゴロシノキには三つの性質があります。一つは光の刺激によって周囲にあるものから魔力を吸収すること、もう一つは外から取り込んだ魔力を組織で増幅させること。そして三つ目に、人の想像力(おそらく何らかの信号であると思われる)に反応して魔力を生成すること。主にこの三つ目の性質を利用した魔法の杖については古くから考えられてきましたが、一つ目と二つ目の性質があるためその制御が難しく、成功に至ったものはありませんでした。


しかし今回、魔法工業でよく使用される魔鉄鋼によってその性質を制御することに成功しました。ご存じの通り、魔鉄鋼にはほとんど魔力を通さないという性質があります。つまり薄くのばした魔鉄鋼によってマゴロシノキを包めば、魔力の過剰吸収や暴発を防ぐことが出来るのではないかと考えたのです。


ところがここで一つ問題が生じます。それは魔鉄鋼がそれ自体に大量の魔力を蓄積していること。そこで私は魔力を放出しきった魔鉄鋼で同じ事が出来ないかと考えました。というのも、魔鉄鋼は魔力をほとんど通さないというその性質によって、それまで蓄積することは不可能と言思われていた魔力を蓄積しています。それならば魔力をなくした魔鉄鋼も同じ性質を持つのではないかと思ったのです。試しに試作品を作って見たところ見事に成功しました。


もうお気づきかと思いますが、魔力を放出しきった魔鉄鋼とはつまり使用済みの廃棄される魔鉄鋼です。そのためコスト面も申し分ないかと思われます。ただ、これは魔鉄鋼の廃棄物が今まで注目されてこなかった理由の一つでもあるのですが、実は魔力を失った魔鉄鋼は強度が落ちるのでそのあたりが今後の課題になるかも知れません。




大手魔法具メーカーの本社ビル、その一室で三十代前半と思われる男がとある人物から送られてきた手紙に目を通していた。男の名は猪俣徹いのまたとおる、史上最年少で開発部門の責任者となった若きリーダーである。子供の頃から周囲の誰よりも優秀であり、またそれに見合うだけの努力もしてきた。そんな自分に少なからず自信を抱いてきた猪俣だったが、今回ばかりは自分は井の中の蛙だったのだと痛感していた。


手紙の差出人は廻川水、高校一年生の女の子である。実際に会ったことはないが写真を見せてもらったことはある。まだ幼さの残る、可愛らしい少女だった。とてもじゃないが世界を変えるような大発明をするような人物には見えなかった。


猪俣は改めて手紙を見直してみる。マゴロシノキが持つ三つの性質については今から数十年前に発見された。魔鉄鋼に魔力を通さないという性質があることもかなり昔から知られている。それらの性質を利用して魔鉄鋼から大量の魔力を効率的に抽出できるようにしたのが魔法工業の基礎となるシステムなのだが、彼女はそのシステムの工程を逆にすることであえて効率を悪くし、安全性が低いという課題を克服したのだ。


言われてみれば簡単な理論だが、そのことを思いついたという功績は大きい。また、彼女は魔力を失った魔鉄鋼に関してその強度を高める研究もしており、それなりに成果も出ている。さらにはマゴロシノキの安全な加工法や魔鉄鋼の流通に至るまで、複数の分野にまたがって様々なアイディアを生み出している。


が、彼女の本当の凄さは別の所にある。猪俣は手紙の最後の行に目を通した。


『なお、安全性確保のため魔法の杖にはその機能に制限を設けるつもりです』


ここで言う安全性とは明らかに一般の、すなわち魔法弱者以外の人々に対するものだ。マゴロシノキはその名の通り魔を殺す木、下手に扱うと体内の魔力を根こそぎ奪われてしまうのだが、魔法弱者にとっては危険性が低い。それでも安全性を確保するということは、つまり彼女はこの杖を魔法が使える使えないに関わらず全ての人々に使ってもらおうと考えているのだ。だが、魔法が使える者にとってはこんな杖など必要ないはずだ。ではなぜ彼女はそんなことを考えたのか。


その理由は魔法弱者を取り巻く現状に目を向けると分かる。魔法工学の発達によって魔法具はめざましい進化を遂げた。従来では考えられなかった便利な魔法具もたくさん出回るようになった。だが、それらは全て魔力を基本にして動いている。つまり魔力に干渉することが出来ない魔法弱者は使うことが出来ないのである。この事は、世界に蔓延していた差別主義が沈静化する以前から問題視されてきた。だが未だに、完全に魔法のいらない魔法道具というものは開発されていない。そこに出てきたのが廻川水の作った魔法の杖である。この杖は魔法が使えない者でも魔法が使えるという杖だ。この技術を応用すれば、魔法を使わなくても操作できる魔法道具の開発が可能になる。


ちなみに、猪俣の会社が取引対象としているのは魔法の杖に関する権利だけ。その技術に関しては廻川水が保有している。もし彼女がその権利を手放せば、世界中でこの新しい魔法具の開発が行われることになるだろう。それはもはや、新時代の幕開けと言っても過言ではない。そう、つまり彼女は、魔法が使える者と使えない者で分けるのではなく、誰でも安全に使える魔法具を生み出したかったのではないだろうか。そういう世界を作りたいと思っていたのではないだろうか。


勝てない、猪俣は改めてそう思った。もちろん自分よりも優れた人間がいることを猪俣は知っている。しかし、何かをする前からすでに勝てないと分かるのはこれが初めてだった。


「こんな子とこれから一緒に仕事しなきゃいけないのか……」


猪俣はため息をついた。廻川水は企業からの依頼で製品開発を行うこともあるが、ほとんどの場合彼女が一から開発した製品の権利を企業に買い取ってもらうという方針をとっている。今回の場合は後者であり、猪俣は杖の製造にあたって細かい調整を行うことになっている。もちろんそれは水との話し合いによってだ。まだ若い猪俣にとって、自分の半分ほどしか生きていない人間と対等に仕事をすることなど初めての経験である。


「…………ダメだ」


猪俣は手紙を封筒にしまうと窓から夜の街を見下ろす。背の高いビルの群れがまるで森のように鬱蒼と並んでいる。今から十五年ほど前、大学進学のため地方から首都へとやって来た猪俣を圧倒したビル群である。あの頃は下から見上げていた景色も、今では同じ高さで見ている。視線の高さが上がる度に猪俣は自らの成長を感じてきたが、その成長はもしかすると見せかけだったのかも知れない。


「俺は……挫折したのだろうか」


猪俣は窓に映る自分の姿にそう問いかけた。しかし、その言葉とは裏腹に今までにない興奮を感じていた。彼女との出会いによって自分の人生は大きく変わるのではないか、もっと、このビル群よりももっと高い場所からの景色を見せてくれるのではないか。猪俣の胸は、初めて魔法工学の教科書を開いたあの頃のように高鳴っていた。


どうもありがとうございます。

ひさしぶりの投稿に興奮しています。


この先の展開とかを考えてたら遅くなってしまいました。この作品はプロット無しで書いてるので、頭を整理するためにも、自分でも最初から通して読んでみた方がいいですかね。


それから、この世界における魔法の位置づけというか、魔法工業とか魔法弱者に関してなんですけど、ちょっと小難しい感じになってますよね。だから次回にでもこの辺のことをちょっと解説しようかなぁと思ってます。本当は番外編として話の流れで解説できればよかったんですが、ちょっと解説しきれなかったので。


ではでは、

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