(14)二人目の有名人
【前回】
週明けにテストをひかえ緊張感が高まる雨音と晴太。帰り際、二人は明日の八時に図書室で待ち合わせると約束し別れた。
暗転
晴太は気がつくと晴太は見知らぬ場所にいた。見知らぬ、と言うと少し語弊があるかも知れない。おそらくどこかの室内だと思われるその場所は薄暗くてよく見えなかったので、本当に見知らぬ場所であるかどうかは判断できなかった。手足はロープで縛られて身動きがとれない。晴太は首を動かし、カーテンの隙間から入ってくるかすかな光を頼りにその部屋を見渡してみた。大きめの机、椅子、ガラス戸のようなものも見える。
ヴィィィィン
「この音は……」
そこで晴太はこの部屋に流れる奇妙な音に気がついた。何かのモーター音のようなその音に晴太は聞き覚えがあった。そう思って改めて耳を澄ますと水中に泡が揺れる音が聞こえてきた。
「水槽……?もしかして……理科室!?」
「ご名答!」
突如、薄暗い部屋にはなじまない甲高い声が響く。ぱっと部屋の明かりが付いて晴太は一瞬視界を奪われた。徐々に目が慣れてくると視界の中に一人の少女が立っているのが分かり始めた。その少女は晴太を見下ろし得意げに胸を反らせる。晴太が床に座っているため見下ろされる形にはなっているが、実際に並べば晴太よりもずっと背が低いだろう事が容易に想像できるほどの低身長。何よりこの甲高い声は聞き覚えがある。
晴太が必死に思い出そうとしているとその少女が遠慮がちに尋ねてきた。
「もしかして……あちきが誰か分かってないのですか……?」
「えーと、どこかでお会いしました?」
「なぬっ!?」
目を見開くとその少女はグイッと自らの顔を晴太の方に近づけた。
「よく見てみるのです!絶対に見たことあるはずです!」
「分かったから落ち着いて!これじゃ近すぎて見えないよ!」
「むむ、それもそうですね」
そう言って顔を離す少女。晴太は改めてその少女の姿をじっくりと観察する。髪型はいわゆるお団子ってやつだろう。視力が悪いのか厚めのめがねを掛けている。制服はこの学校のものだが、上履きの色から判断するに晴太の一学年下、高校一年生だと思われる。おそらく晴太はこの少女に拉致されこの理科室に監禁されているのだろうが……。
「わからん」
「なぬっ!?」
見覚えがあることは確かなのだが、具体的に誰であるかが全く分からなかった。晴太は誰とでも気軽に会話したりはしないので、おそらく係活動か何かで言葉を交わしたことがあるとかそういったことだろうとは思ったのだが、正直全く見当が付かなかった。
「このあちきを知らない……結構有名人だと思ってたのに……ショック!」
膝から崩れ落ちる少女。
「なんか……ごめん」
「いや、いいのです……。あちきが自分を過大評価していただけなのですから……」
有名人、ということは、雨音と同じようによく表彰されてるような生徒だろう。となれば晴太が知っていなければならない理由はないが、こうも落ち込まれるとなんだかいたたまれない。
「えっとじゃあ……お名前を伺ってもよろしいでしょうか……?」
「めぐりかわすい……廻る川の水と書いて廻川水です」
「あ!廻川水って、あの!?」
名前を聞いてさすがの晴太もピンときた。廻川水、この高校でも雨音と並ぶほどの有名人だ。全国的な知名度で言えば雨音よりも圧倒的にこの廻川水の方が有名だろう。その正体はわずか15歳にして魔法工学の実力者。加えて大手企業からも依頼が来るほどの大発明家。
思えばこの理科室も、元々使っていなかったものを水の入学を機に水専用の部室に当てたものだったはずだ。
「知らなかったわけじゃないんだけど……僕、顔覚えるのとか苦手だから……」
「いや、それはいいんです。それよりも、あちきがこんなひ弱な男に負けるなんて……!不覚!」
と、悔しがる廻川。そこで晴太は改めて自分が縛られていることを思い出した。確か家に帰ろうと校舎を出
た時……急に意識がなくなって、というよりは景色が暗転したような感じだった気がする。
「廻川……廻川さん?」
「水でいいですよ」
「じゃあ水、この状況は一体どういうこと?僕はなんで縛られてるの?」
水はきょとんとして少しだけ首を傾けると、やがて人差し指をピンと立てた。
「では、順を追って話しましょう」
ありがとうございます!
数日空きまして、六日ぶりぐらいの投稿になります。
そして!
新キャラが登場しましたね!
廻川水ちゃんです。変わり者感を出したかったので一人称を『あちき』にしました。ちょっとお馬鹿な感じですがこう見えて天才なんですよ~。
あと二~三話はこの子と晴太でお送りするので、水ちゃんをよろしくお願いします。
さいごに
連載『女を愛でる男』もたまに更新するのでそちらもぜひ読んでみて下さい!