(9)今日の天気は
【前回】
「この街が好きだ」そう言う雨音に、晴太はイメージと違う雨音の一面を見る。
帰り際、今度は並んで歩いていた雨音が晴太の方を見た。
「ところで晴太君」
「なに?」
「今日の天気が曇りだということに関して、何か意見はあるかしら」
晴太の心臓がドクンと脈打つ。
「これは…違うんだ、いや、違います雨音さん」
「何がどう違うのかしら?」
そう言って雨音は腕を組む。
「その……今日が初デートだということと、僕がチキンであるということを加味するとおそらくは緊張が大きくなりすぎてしまったせいかと思われます………決して、今日のデートを楽しみにしていなかったわけでは」
今日一日の行動から、デートという単語に若干違和感を受けつつ晴太は釈明した。
「……………」
「……………」
「まあいいわ」
ふっと緊張が解ける。その感じを見るに、雨音は本気で怒っていたわけではないようだ。まあ、晴太自身そうだろうとは思っていたが、真剣な表情をするときの雨音から放出されるオーラは馬鹿にならない。
「なんかごめんね、ワンダーランド見られなくて」
もとはと言えば、雨女と晴れ男が同じくらい楽しみにしている日はどんな天気になるのか調べるためのデートだ。それが、晴太が緊張していたばっかりに曇りという中途半端な天気になってしまった。
「え?ああ、そのことね。別に構わないわ、そう簡単に見られるとは思っていなかったし、それに……」
雨音は口ごもる。
「それに?」
「今日は雨が降らなかったからいいのよ」
「それはどういう……?」
「何でもないわ。じゃあ、私はバスだからここで別れるわ」
そう言うと雨音はバス停の方へと歩き出した。と、何か思いついた様に立ち止まるとくるりと振り返った。
「またね、晴太君」
「え、あ…ああ。またね」
雨が降らなかったからいい、とはどういう意味だろうか。晴太は帰りの電車の中で首をひねっていた。
「あ、おかえりお兄ちゃん」
晴太が家に帰ると夏希がリビングでテレビを見ていた。
「ただいま」
「またいつもの所に行ったの?」
「うん」
晴太は頷く。
「お母さん達、今日も遅くなるって」
「分かった」
晴太は返事をする。活発で明るい性格である夏希との会話はいつもこんな感じだった。夏希が話題を振り、晴太が答える。兄としてどうこうというのはあるが、晴太としてはその方がむしろ楽ではあった。
「そういえばさ……」
例によって夏希が話題を振る。
「なに?」
「お兄ちゃんがあそこに行くときはいつも晴れてるのに、今日は天気悪かったね。雨は降らなかったけど」
「そっそうかな…?」
晴太は今日の事を思い出して少し焦った。雨音との関係は秘密ということにしているので、当然夏希にもまだ言っていない。そのため今日も、晴太は一人で海水処理施設の所まで行ったのだと夏希は思っているはずだ。
「まあ、そんな日もあるんじゃないかな?」
「そうなんだ……?」
夏希はまだ少し不審に思っているようだったが、晴太はなんとか誤魔化した。
晴太は、部屋で夏希の言っていたことを考えてみる。
晴太の影響で天気が変わるとすれば、考えられる可能性は二つ。一つは晴太が楽しみにしている日は晴れ。もう一つは楽しみにしていないため雨か曇り。今日は晴太の緊張が勝っていたため後者になったのだと思っていた。ただ、夏希の言っていた『雨は降らなかった』という言葉が妙に晴太の心に引っかかっていた。というのも、全く同じ台詞を雨音も言っていたからだ。
「雨は降らなかった……」
晴太は呟く。
「あ……!」
と、そこで晴太は重要なことを忘れていたことに気付いた。晴太が楽しみにしていた場合その日は確実に晴れるが、そうでない場合も必ず曇るというわけではない。もしも、今日の天気が曇りだったことが偶然じゃないとすれば。
そう、あの場には雨音もいた。雨音が今日のデートを楽しみにしていた場合、確実に雨が降るはずだ。しかし雨音ほどではないが晴太もある程度今日を楽しみにしていたなら、雨でも晴れでもないがどちらかと言えば雨に近い天気、つまり曇りになることもあり得るだろう。
「だからあの時雨音は、『雨が降らなかったからいい』って言ったのか!」
雨音は自分がデートを楽しみにしていることを自覚していたはずなので、それでも曇ったということは晴太もある程度は楽しみにしてくれていたのだと気がついたのではないだろうか。偶然の可能性もあるが、雨音の言動や状況を鑑みるにそれが一番自然な気がしたのだ。
「だからあの時、ああ言ってたのか」
気づいてから晴太は急に恥ずかしくなった。と、同時に気付くのが遅すぎるのではないかとも思った。
「次に会うときにでも聞いてみようかな」
ありがとうございます。
話の展開が薄いのでちょっとつまらないかも知れないですね。
でもまあ、長い連載小説は初めてなので、取りあえずはこんな感じで出来事に対して心理描写みたいな感じでやっていこうかなぁと思っています。