不意に
雛が依頼人にお茶を出す。
依頼人は優しそうな年輩の男性だ。男性は周りをキョロキョロしながら不安そうに縁を見る。
それを見た縁は口角をあげ口を開く。
「安心してください。私たちは貴方に危害は加えません。では、内容に入っていきましょう」
縁は紙を少し見てどんな事を聞くか考える。
直球で行くか。
「依頼内容は覚《サトリ》らしき妖怪の退治でよろしいですか」
「はい」
依頼人の肯定を聞き紙にペンを走らせる。チラッと縁は依頼人を見ると一瞬笑みを消した。
「出会った時、どんなでしたか?」
「山を散策していると毛むくじゃらの猿みたいな化け物に出会ったんです。
一瞬、怖いと思ったらその、化け物が、お前怖いと思っただろう。と言ったんです。恐ろしくなった私は急いで家に帰って化け物の事を調べると覚だと分かりました」
縁は、重要なポイントだけメモをし、口元を紙で隠し笑みを消す。そして後ろにいる雛に分かるように紙に書いた暗号を見せた。
「分かりました。では、行きましょうか」
「今から...ですか?」
「えぇ、早く退治しないと怖くて夜も寝れないでしょう」
男性の威を衝くように言う縁。雛と糾に合図をし、ドアを開ける。
ドアの向こうには男性が散策していた山が広がる。
「では、案内をお願いします」
「は、はい...」
驚いている男性と糾を他所に縁と雛はずんずんと進む。
何かいる気配はあるけどな...てか、覚って大して強くないし。誰でも毛むくじゃらの猿みたいな化け物に会ったら怖いと思うだろ。
縁はバカらしくなる。苦笑いを浮かべながら辺りの気を感じ取る。雛は一瞬身震いをし、首にかけていたヘッドフォンをする。
「いた...」
「っ......」
男性が指す方向には毛むくじゃらの猿みたいな化け物...覚がいた。
覚は縁を見ながら口に弧を描き言う。
「お前、怖いと思った、」
「なわけないじゃん」
しかし、それは縁に遮られる。縁はいつの間にか手に持っていた鉄扇を人間で言う鳩尾に投げつける。
雛は、相変わらず荒々しいと思い男性と糾は、えぇーと驚いていた。
しかし、一番驚いているのは覚である。人の心を読み取るとされている覚は縁に否定され、しかも鉄扇を投げられたんだ。
「な、何すんだ...」
「アンタ覚じゃないだろ?」
不意に糾が口を開いた。