第二十八話 「公爵令嬢は謝罪される」
屋敷に到着してからフィリップは大事を取って休ませた。念の為、すぐに医者の手配をし、往診して貰う。私の傷は幸い浅く、完治すれば傷痕は残らないであろうと思われた。
そして、傷の手当を終えた私は、ひとまず自室へ戻った。白鳥と一対一で、きちんと話をする為に……。二階に上がれば部屋の真ん中で、白鳥が申し訳なさそうに頭を下げる。
「本当に済まなかった……。ジュリアは……。俺の腹違いの弟なんだ……」
「どうして弟さんは女性の格好を……?」
私が尋ねれば、彼は重い口を開き、語り始める。
「ジュリアは父王が、公妾ヘレネの侍女、パメラに産ませた子供なんだが……。当時、王から完全に寵愛を失っていた公妾ヘレネは、下級貴族である侍女パメラが王から寵愛を受けるようになると、侍女パメラにきつく当たって、彼女の大切にしている私物を不当に取り上げたり、色んな嫌がらせをするようになった」
「……」
どこの国でも、王の伴侶である王妃は品行方正であると民衆にアピールする為、公妾は必要以上に放蕩三昧であると、まるで悪女のように言われがちなのだが、公妾ヘレネなる人物はどうやら本当に性格が悪かったようである。私は思わず眉を顰めた。
「また公妾ヘレネは自分の息子である、第二王子ディートリヒを次期国王にさせたがっていた……。パメラが身籠った子供が男子なら、第二王子にとって、いずれ邪魔になると考えた」
「……」
女児なら成長すれば他国に嫁に出すなり、外交手段として使える。他国の正妃は無理でも、公妾や愛妾になって寵愛を受けるようにでもなれば、大いにグルーテンドルスト国の利益になる。
だが、王の血をひく男児が国内に居れば……。公には認知されていないゆえに、落胤の男児に王位継承権が無いにしても、その男児が第一王子派にでもなれば……。第二王子ディートリヒを次期国王にと望む公妾は、将来的な懸念材料になると考えたに違いない。
公妾ヘレネは侍女パメラを執拗にいじめていたようだし、第二王子ディートリヒを王位に就けたい時に、かつて自分がいじめた侍女パメラの子供が、第一王子ジークフリート側につくというのは可能性として、十分ありえると考えたのだろう。
「だから公妾ヘレネは、侍女パメラに『お腹の中にいる赤子が男なら殺す』と脅したらしく……」
「!」
「ジュリアが生まれた時、このままでは公妾ヘレネに、生まれたばかりの子供を殺されてしまいかねないと案じた侍女パメラは、表向きは生まれた子供を女児であると報告した。そしてジュリアは女として育てられたんだ」
「そんなことが……」
「俺とジュリアは母親が城の女官、侍女であり、二人とも私生児扱いという共通点もあった。また、互いの年齢も近かった為、自然と仲良くなった。ジュリアが実は女ではなく、男であるというのも幼い頃に打ち明けられた」
「……」
「腹違いとはいえ、兄として接していたつもりだったんだが、幼い頃から女物のドレスを着て、女性として育ったせいかジュリアはいつしか、俺に思いを寄せるようになっていたんだ……。あの日……」
白鳥は遠い目をして回想した。